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  憲法・国防

                       

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説明: 説明: 説明: 説明: ber117

 

■日本再建のための新憲法――ほそかわ私案

2006.1.11

 

<目次>

はじめに

1.新憲法案全文

2.説明〜昭和憲法及び他の改正案との対比

 

説明: 説明: 説明: 説明: ber117

 

はじめに

 

憲法改正の時は熟しつつあります。すでに自由民主党、政治家個人、読売新聞社、学者、日本会議、日本青年会議所等から、さまざまな改正案が出されています。

私も、国民の一人として、わが国・日本のあるべき憲法を求め、条文の具体案を提示してみたいと思います。

わが国最初の憲法である大日本帝国憲法の制定の際には、さまざまな私擬憲法が出されました。日本人自らの手で新憲法を作り上げようという気運こそ、新しい憲法に魂を吹き込むものとなると思います。新憲法の憲法の実現を目指し、明治の先祖・先人にならって、全国・各方面から澎湃と憲法改正案が湧き上がることを期待したいと思います。

この私案が同胞諸氏の問題関心の高揚に役立つことができれば幸いです。

 

■追記

2012.3.2

 下記の憲法改正私案は、「新しい憲法をつくる国民会議」(岸信介氏創設)主催の「新しい憲法をつくる研究会」平成23年11月1日月例会にて、憲法学者の高乗正臣氏(憲法学会理事長、平成国際大学・同大学院教授)により、民間人の案の一つとして紹介されました。

http://www.sin-kenpou.com/workshop/w23-1101b.html

 

説明: 説明: 説明: 説明: ber117

 

1.新憲法案全文

 

勅語

 

私は、日本国憲法の改正が、憲法第九十六条により、国会が各議院の総議員の三分の二以上の賛成で議決して発議され、国民投票において過半数を得て承認されたことをよろこび、ここにこれを公布する。

 

日付、御名御璽

国務大臣の副署

 

前文

 
 我々日本国民は古来、四季の恵みあふれる豊かな自然の中で、人と人、人と自然の調和を尊びながら、独自の文明を築いてきた。多様な価値の共存を認め、伝統を尊重しながら、天皇と国民が一体となって国の繁栄に努めてきた。我々は、このような日本の伝統・文化・国柄に基づき、さらなる発展を目指したいと願う。
 わが国は、明治以来、立憲君主制の国民参政主義国家である。統治権は、天皇を国民統合の象徴とする国民に存する。ここに国民とは、過去・現在・将来にわたるすべての国民を意味する。国政は国民の信託に基づき、国民の代表が担い、その成果は国民が受ける。国民は自由と権利を享受するとともに、その責任と義務を自覚し、家族を尊重し、社会の一員として公共の利益に尽くす。また、国民は、国を愛し、世界の平和を願うとともに、諸国諸民族の共存共栄、地球環境の保守、物心調和の人類文化の創造に資する国際責任を果たす決意である。
 我々日本国民は、わが国の伝統と大日本帝国憲法及び日本国憲法の歴史的意義を踏まえ、新たな国づくりのために国の根本規範として、この憲法を制定する。

 

第一章 天皇

 

(天皇)
第一条 天皇は日本国の元首であり、日本国の象徴及び日本国民統合の象徴である。

(天皇の地位と継承)
第二条 天皇の地位は、統治権の存する日本国民の総意に基づく。
2 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
3 皇位の継承に際しては、元号を定める
4 天皇の元首及び象徴としての尊厳は守られなければならない。

(天皇の権能)
第三条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、皇室典範の定めるところにより、その国事に関する行為を世嗣の資格を有する者に委任することができる。
3 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負う。

(天皇の任命権)
第四条 わが国は、統治権を立法権、行政権、司法権に分立し、天皇は三権の長を任命する。
2 天皇は、国会の指名に基づいて、衆議院及び参議院の議長並びに内閣総理大臣を任命し、また内閣の指名に基づいて、最高裁判所長官及び憲法裁判所長官を任命する。

(天皇の国事行為)
第五条 天皇は、統治権の象徴的な行使として、次に掲げる国事に関する行為を行う。
一 伝統にく祭祀及び儀礼を行い、国民の安寧と世界の平和を祈ること。
二 憲法及び皇室典範の改正、並びに法律及び政令を公布すること。
三 国会を召集すること。
四 第百条第1項による決定に基づいて衆議院を解散すること。
五 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
六 国務大臣及び法律の定めるその他の公務員の任免を認証すること。
七 内閣の指名と国会の承認に基づいて、全権委任状並びに大使及び公使の信任状に親署し、並びにこれを授与すること。
八 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
九 栄典を授与すること。
十 文化、芸術、自然環境保守の奨励助長を行なうこと。
十一 元号の制定を公布すること。
十二 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
十三 外国の大使及び公使を接受すること。

(天皇の準国事行為)
第六条 前条に規定する国事行為の他、天皇が、元首として対外的に日本国を代表し、または日本国及び日本国民の統合を象徴するために必要な一切の行為は、国事行為に準ずるものとする。

(摂政)
第七条 天皇が成年に達しない場合、もしくは皇室典範の定めるところにより、摂政を置くことができる。摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
2 第三条の規定は、摂政について準用する。

(皇室への財産の譲渡等の制限)
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、法律で定める場合を除き、国会の議決に基づかなければならない。

 

第二章 統治権

 

(統治権)

第九条 この憲法は、日本国の統治権の行使によって、制定されるものである。

2 日本国の統治権は、国民の共同体に発し、古代より歴代天皇に継承されてきたものである。大日本帝国憲法においては、天皇が統治権を総攬するとし、日本国憲法においては、これを主権と称して国民に存するものとされた。
3 この憲法においては、前項の由来と経緯を踏まえ、統治権は、天皇と、天皇を統合の象徴とする国民が共有するものとする。
4 統治権は、必要に応じて主権と称する。主権とは、この憲法に定める統治権は、国内的には最高の権力であり、対外的には独立であり、また国政についての最高の決定権であることを意味する。

(日本国民)
第十条 日本国民とは、日本国籍を有する者をいう。国民には、過去及び将来においてその地位にある者、並びにそれに準ずる地位にあった者を含む。
2 国民のうち、天皇及び皇族に関しては、この憲法の第一章及び皇室典範に定める。
3 天皇及び皇族以外の国民に関する要件は、法律でこれを定める。

(統治権の行使)
第十一条 国民は、以下の各号の方法によって、統治権を行使する。
一 国会議員、地方公共団体の首長及びその議会の議員の選挙

二 推薦制によって選任される参議院議員の国民審査投票
三 憲法改正のための国民投票
四 最高裁判所及び憲法裁判所の裁判官の国民審査投票
五 地方自治体における住民投票

第三章 国旗・国歌

 

(国旗及び国歌)
第十二条 日本国の国旗は「日の丸」である。
2 日本国の国歌は「君が代」である。

 

第四章 安全保障

 

(国際平和の希求、侵攻戦争の否定)
第十三条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国際紛争を解決する手段としては、戦争その他の武力の行使又は武力による威嚇を永久に行わないこととする。
2 前項の目的を達するため、我が国は国際条約を遵守し、国際紛争を平和的手段によって解決するよう努める。

(自衛権、国防の義務と権利の制限)
第十四条 日本国民は、国家の平和と独立、国民の生命と財産、自国の伝統と文化を守るため、自衛権が自然権であることを確認する。
2 わが国は、自衛権の一部である集団的自衛権を保有し、平和を維持するため、国際的な相互集団安全保障制度に参加することができる。
3 日本国民は、統治権を共有する者として、国防の義務を負う。また、国家防衛と治安維持のために、必要最低限度において、自由と権利の制限を受ける場合がある。

(国軍)
第十五条 外国からの武力攻撃やテロリズムから我が国を防衛し、国家の平和及び独立並びに国民の生命及び財産を保守するため、国軍を保持する。
2 国軍は、自衛のために必要な限度での活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動並びに我が国の基本的な公共の秩序の維持のための活動を行うことができる。
3 国軍による活動は、我が国の法令並びに国際法規及び国際慣例を遵守して行わなければならない。
4 国軍の組織及び運営に関する事項は、法律で定める。

(国軍の統制)
第十六条 国軍の最高指揮権は、内閣総理大臣に属する。
2 内閣総理大臣は、国家安全保障会議を組織し、これを統括する。国家安全保障会議については、法律で定める。
3 前条第2項に定める国軍の活動については、第十九条に規定される非常事態宣言が発せられている場合を除いては、国会の承認を必要とし、動員には、外国の侵攻を受けた場合またはその危険が切迫した場合の他は、国会の事前の承認を必要とする。
4 前3項に定めるもののほか、国軍の統制に関し必要な事項は、法律で定める。

(軍人の地位) 
第十七条 現役の軍人は、内閣総理大臣及びその他の国務大臣になることができない。
2 軍人については、軍隊の規律を保ち、その任務を遂行するに必要な限度において、第五章の規定の適用を排除することができる。

(軍事裁判所)
第十八条 軍人は、軍事上の犯罪について、軍事裁判所の管轄に服する。
2 軍事裁判所は、最高裁判所の統括管理に服せず、内閣総理大臣がこれを統括管理する。
3 軍事裁判所の組織、訴訟手続については、法律でこれを定める。

 (非常事態宣言)
第十九条 我が国が外国から武力攻撃を受け、またはその危険が切迫している場合、及び内乱・騒擾、大規模自然災害等の非常事態が生じた場合、内閣総理大臣は国会の事前又は事後の承認のもとに、政令により、地域及び期間を決め、非常事態宣言を発し、必要によって緊急命令を発することができる。
2 内閣総理大臣は、非常事態において、国軍の出動を命じ、法律に定めるところにより、非常事態が解消されるまで一定の権利の制限を行うことができる。
3 非常事態における行政事務は、法律の定めるところにより、必要やむを得ない範囲のものに限り、国軍によつて行なわれる。
4 非常事態にかかる地域については、やむを得ない事情のある場合に限り、公共の利益のため、住民の居住、移転、集会、表現等の自由と、財産等の権利に関し、この憲法の規定にかかわらず、政令で、これらの規定と異なる定めをすることができる。
5 緊急を要する租税その他の公課、政府専売品の価格又は通貨に関する措置を必要とするときは、内閣は、国会の事前の承認なくして政令で緊急の措置を行うことができる。
6 前4頃、5項に規定するもののほか、非常事態宣言に関し必要な事項は、法律で定める。

(非常事態宣言の承認と解除)
第二十条 内閣総理大臣は、非常事態宣言並びに緊急命令を発したときは、すみやかに国会に付議して、その承認を得なければならない。
2 非常事態宣言の発令後、国会の承認を得られなかった時、また非常事態が終了したと認められた時は、内閣総理大臣は、すみやかに非常事態解除宣言を発しなければならない。

第五章 国民の権利と義務

 

(重要な基本的権利の享有)
第ニ十一条 すべての国民は、人格を有する者として尊重される。
2 この憲法は、国民に対し、国民が自らまた相互に人格を形成し、成長させ、発展させることができるように、自由及び権利を保障する。
3 この憲法が国民に保障する重要な基本的権利は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。

(国民の義務)
第ニ十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、保持しなければならない。国民は、これを濫用してはならないのであって、自他の人格を認め合い、互いの自由と権利を尊重しなければならない。
2 国民は自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しなければならない。自由の享受、権利の行使には、公共の利益の実現のために努力する責任を負う。

(個人の尊重等)
第ニ十三条 すべて国民は、家族・社会・国家の一員である個人として尊重される。
2 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の利益に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
3 前2項の権利は、公共の利益の実現のために、法律をもって制限される場合がある。ただし、第十九条に定める非常事態においては、この限りではない。

(遵法の義務)
第二十四条 国民は、憲法その他の法令を遵守しなければならない。

(法の下の平等)
第二十五条 すべての国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。
2 前項に関し、天皇及び皇族については、この憲法の第一章及び皇室典範に定めるところによる。
3 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
4 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。ただし、法律で定める年金その他の経済的利益の付与は、この限りではない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受けるものの一代に限り、その効力を有する。

(公務員の本質、公務就任の要件、権利および責務、給与)
第二十六条 すべて公務員は、国民全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
2 公務員のうち、国会議員、地方公共団体の首長及びその議会の議員、またはそれ以外の公務員のうち管理職に就任する者は、日本国民であることを要件とする。
3 公務員は、その職務の性質に応じて、必要な最小限度の権利の制約又は責務の加重を受けることを妨げない。
4 公務員の給与は、民間人の給与に比べ、著しく高額になってはならず、適正を欠いてはならない。また、公務員退職者が、過去の地位を利用して、公的機関において、不当に高い給与を得てはならない。

(公務員の選定及び罷免の権利、普通選挙の保障、秘密投票の保障)
第二十七条 国会議員、地方公共団体の首長及びその議会の議員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 前1項の公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
3 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

(請願権)
第二十八条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令または規則の制定、改正もしくはその廃止その他の事項について、平穏に請願する権利を有する。
2 何人も、前項に規定された請願を行ったことを理由として、いかなる差別も受けることがなく、また、いかなる不利益も被ることがない。

(公務員への賠償請求権)
第二十九条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国または地方公共団体に、その賠償を求めることができる。

(奴隷的拘束と苦役の禁止)
第三十条 何人も、国または地方公共団体によって、いかなる奴隷的拘束も受けない。また、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

(思想及び良心の自由)
第三十一条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

(信教の自由)
第三十二条 信教の自由は、公共の利益に反しない限り、これを保障する。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制されない。
3 政府及び公共団体は、特定の宗教または宗派を布教、宣伝、援助または促進するような宗教的活動をしてはならない。ただし、冠婚葬祭、慰霊、建築及びこれに類する社会的儀礼の範囲内にある場合を除く。
4 政府及び公共団体は、特定の宗教または宗派を弾圧してはならない。
5 いかなる宗教団体も、政府から特権を受け、または政治上の権力を行使して、その特定の宗教または宗派の信仰を、国民に強制してはならない。
6 政府及び公共団体は、特定の宗教または宗派の布教、宣伝、援助または促進になるような教育をしてはならない。ただし、宗教・宗派の違いを超えた宗教的情操を養う教育を妨げるものではない。

(表現の自由)
第三十三条 集会、結社及び言論、出版その他の表現の自由は、最大限尊重されなければならない。但し、国民は、他人の自由と権利を尊重し、また公共の利益に反しないように努める責務を負う。
2 政府は、個人の名誉の保護、青少年の保護、もしくは国防、治安その他公益上の必要のため、法律の定めるところにより、これに制限を加えることができる。
3 検閲は、してはならない。ただし、義務教育における教科書の検定は、これに当たらない。
4 通信の秘密は、侵してはならない。ただし、国家の安全保障及び公益上、重要な情報に関しては、法律の定めるところにより、漏洩を防止することができる。

(人格権)
第三十四条 国民は、その人格、名誉及び信用を尊重される権利を有する。
2 何人も、自己の私事について、みだりに干渉されない権利を有する。

(居住移転・外国移住の自由、国外追放の禁止、国民救出の義務)
第三十五条 何人も、公共の利益に反しない限り、居住、移転の自由を有する。
2 何人も、外国に移住する自由を侵されない。
3 国民は、正当な理由なくして、国籍を奪われ、外国に追放され、または犯罪人として外国政府に引き渡されない。
4 国民が外国政府または外国人によって、拉致または不当な監禁をされた場合、政府は、その国民の救出に努めなければならない。

 

(職業選択及び営業の自由)
第三十六条 何人も、公共の利益に反しない限り、職業選択及び営業の自由を有する。

(学問の自由)
第三十七条 学問の自由は、これを保障する。
2 前項の規定に関し、国公立の大学または研究機関に勤める者は、公務員として、第二十九条1項の規定に服する。

(情報に関する権利と義務)
第三十八条 国民は、法律の定めるところにより、政府及びその機関の有する情報の開示を求める権利を有する。ただし、国防、外交、公安上の機密情報及び企業、個人の秘密に関わる情報及びその公開が公共の利益を害するおそれがあるとして法律で定める情報については、政府及びその機関は、これを保護する義務を負う。
2 個人の秘密に関わる情報は、保護されなければならない。ただし、国防と治安を害する場合、犯罪捜査、税務調査その他法律で定める場合を除く。
3 国民は、開示によって知り得た情報を、公共の利益に反しないように、またはその実現のために用いなければならない責務を負う。

(家庭の運営と保護)
第三十九条 家庭は、社会を構成する自然かつ最も基本的な単位である。何人も、各自、その属する家庭の運営に責任を負う。
2 親は、子に対する扶養および教育の義務を負う。子は親に対する孝養に努めるものとする。
3 政府は、家庭を尊重し、家族・母性・子供を保護するものとする。

(婚姻に関する基本原則)
第四十条 男女は互いの長所を認め合い、互いの短所を補い合って、社会の維持及び発展を担う。健常な成年国民は、家族を形成し、子孫を生み育て、教育を施し、生命と文化の継承に努めるものとする。
2 国の行政・立法機関は、次代を担う国民の育成のために、男女の結婚を奨励し、夫婦の子育てを支援する責務を負う。
3 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の信頼と協力により、維持されなければならない。
4 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、人格の尊厳、両性の権利の平等、家庭の保護に立脚して、制定されなければならない。

(教育の目標)
第四十一条 教育は、この憲法の理念に則り、わが国の伝統と歴史を尊重し、真理と正義を愛し、世界の平和と地球環境の保守を志し、自主的で責任感をもつ創造的な国民を育成することを目標とする。
2 前項の目標に向けて、政府は、学校教育を行い、国民の子どもの人格を形成し、将来、国家及び社会を担う人材を育成する責務を負う。
3 政府は、学校教育が常に政治的中立を保つように努めなければならない。
4 政府は、家庭教育、学校教育及び社会教育が連携して、前1項の目標を実現できるように努めなければならない。

(教育に関する権利及び義務)
第四十二条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に教育を受けさせる義務を負う。公的機関による義務教育は、法律の定めるところにより、これを無償とする。

(生存権)
第四十三条 すべて国民は、人格を有する者として、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 政府は、各人の人格の尊重の上に立って、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
3 前2項に関連して、心身に障害を持つ者、高齢者、妊産婦、三歳までの子供を持つ家庭、単親家庭に対しては、国政の上で、特段の配慮を与えるものとする。

(健康を求める権利と責務)
第四十四条 国民は、自ら及び相互に、健康の維持・増進に努めなければならない。
2 政府は、国民が精神的、身体的、社会的に健康な生活が出来るよう支援するものとする。

(環境に関する権利及び責務)
第四十五条 国民は、良好な自然環境を享受する権利を有するとともに、良好な自然環境を守り、かつ将来の世代にそれを引き継いでいく責務を負う。
2 政府及び企業は、かえがえのない地球及び国土の自然環境を保守しつつ、持続可能な開発の実現に努めなければならない。

(勤労に関する権利)
第四十六条 すべて国民は、勤労の権利を有する。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律で定める。
3 児童は、酷使してはならない。

(勤労に関する義務)
第四十七条 成年に達した健康な国民は、社会、経済及び文化の発展に協力するため、自己の能力を発揮して勤労する義務を負う。
2 子育て、介護その他の家事労働は、家庭の保護及び社会の安寧のために、尊重されなければならない。

(勤労者の権利)
第四十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障する。

(社会貢献の責務)
第四十九条 国民は、第四十一条に定める教育に応え、社会貢献に努めなければならない。

(日本文化の尊重)
第五十条 国民は、わが国の伝統、文化および国柄を尊重しなければならない。
2 国は、歴史的、文化的および芸術的な財産の保護および育成を奨励しなければならない。

(財産権)
第五十一条 財産権は、これを保障する。
2 財産権の内容は、公共の利益に適合するように、法律で定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。
4 わが国の国土は、自然の恵みとして享受する公共の財産である。国民は、第四十五条1項の定めにより、個人の財産としての土地利用と、国民全体の財産としての土地利用との調和に配慮しなければならない。

(納税の義務)
第五十ニ条 国民は、公共の利益の実現のため、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
2 国民は、税金が有効に利用されるように求める権利を有する。国は、国民の付託に応え、税金を有効かつ適正に使うよう努めねばならない。

(適正手続の保障)
第五十三条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、若しくはその他の刑罰を科せられ、またはその他のいかなる不利益も受けることはない。

(遡及処罰等の禁止)
第五十四条 何人も、実行の時に適法であった行為または既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。また、同一の犯罪については、重ねて刑事上の責任を問われない。

(裁判を受ける権利)
第五十五条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。

(人身の自由)
第五十六条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、裁判官が発し、かつ、理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
2 何人も、正当な理由なく、かつ、その理由を直ちに告げられることなく、抑留され、または拘禁されない。
3 抑留され、または拘禁された者は、直ちに弁護人に依頼する権利並びに拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。

(住居等の不可侵)
第五十七条 何人も、あらかじめ正当な理由に基づいて発し、かつ、捜索する場所及び押収する物を明示する令状によらなければ、その住居、身体または書類その他の所持品について、刑事手続のための侵入、捜索又は押収を受けない。ただし、前条第1項の規定により逮捕される場合は、この限りでない。
2 前項本文の規定による捜索又は押収は、裁判官が発する各別の令状によって行う。

(拷問等の禁止)
第五十八条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対に禁止する。

(刑事被告人の権利)
第五十九条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所のすみやかな公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人を罪人として扱うことは、許されない。
3 被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる権利及び公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
4 被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、政府がこれを付する。

(刑事事件における自白等)
第六十条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 拷問、脅迫その他の強制による自白又は不当に長く抑留され、若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされない。

 

(刑事補償を求める権利)

第六十一条 何人も、抑留または拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、政府にその補償を求めることができる。

(犯罪被害者の救済)
第六十ニ条 生命または身体を害する犯罪行為による被害者またはその遺族は、その人格権を尊重されねばならない。また、法律の定めるところにより、政府から救済を受けることができる。

第六章 国会

 

(立法権)
第六十三条 立法権は、国会に属する。

(両議院)
第六十四条 国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。

(国会議員および選挙人の資格)
第六十五条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産または収入によつて差別してはならない。

(両議院議員の国民代表性)
第六十六条 国会議員は、全国民の代表者であり、日本国及び国民の利益を念頭においてその職務を行わなければならない。

(衆議院の組織)
第六十七条 衆議院は、地域別の小選挙区によって選出された議員で組織する。
2 衆議院の議員の定数は、法律で定める。

(衆議院の任期)
第六十八条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
2 衆議院の任期は、総選挙を行うに適しない緊急の事態が発生した場合においては、同院の議決により緊急の事態の継続中、これを延長することができる。

(
参議院の組織)
第六十九条 参議院は、広域別に比例代表制により選挙される議員及び推鷹制により選任される議員で組織する。
2 広域別に選挙される議員の定数は、衆議院議員の定員の五分の三以上とし、法律で定める。
3 現職の内閣総理大臣及び両議院の議長、及びそれらの経験者で構成する参議院議員推薦会議は、法律の定めるところにより、学識経験者の中から、参議院議員を推薦によつて選任する。
4 推薦制による議員の定数は、広域別に選挙される議員の定数の三分の一以下とし、法律で定める。

(参議院の任期)
第七十条 参議院議員の任期は、六年とする。

2 三年ごとに、議員の半数を改選する。

3 推薦制によって選任される議員は、就任後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に、国民審査に付されるものとする。

(両議院の役割)
第七十一条 条約案および国家予算案は、衆議院が先議権を持つ。これらは衆議院による決議後、参議院で否決された場合、衆議院による再決議により法案は成立する。但し、再決議は国会休会期間中を除き六十日を経なければならない。
2 参議院は、国家決算案及び複数年にわたって継続して国費を支出する予算案に関して、先議権及び優先議決権を有する。

(選挙に関する事項の法定)
第七十ニ条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

(両院議員兼務の禁止)
第七十三条 何人も、同時に両議院の議員たることはできない。

(国会議員の就任宣誓)
第七十四条 国会議員は、その就任に際し、次の宣誓を行わなければならない。
 「私は、憲法及び法律を尊重擁護し、何人からも職務に関して約束もしくは贈与を受けず、つねに全力を尽くし、日本国及び国民の利益の増進に努めることを誓う。」
2 宣誓を行うことを拒否し、または条件付の宣誓を行う者は、国会議員の地位を放棄したものとみなす。

(国会議員の欠格事由)
第七十五条 国会議員は、次に掲げる事由により、その地位を失う。
一 直接間接に、公有財産を購入または賃借すること。
二 直接間接に、国の統治機関と、土木請負契約、物品納入契約またはその他法律が禁ずる契約を結ぶこと。
三 国の統治機関と契約関係にある営利企業の役員または法律顧問となること。
四 政府またはその機関を相手とする訴訟事件において、訴訟代理人または弁護人となること。
五 第三者の利益を図るために、国の統治機関の事務の負担となるべき交渉をなし、または交渉をなさしめること。
六 正当な理由なくして、会期中三分の一以上欠席すること。

(国会議員の歳費)
第七十六条 国会議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。

(議員の不逮捕特権)
第七十七条 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

(議員の発言及び表決についての免責)
第七十八条 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論または表決について、院外で責任を問われない。

(通常会)
第七十九条 国会の通常会は、年に一回、これを召集する。
2 通常会の会期は、法律で定める。

(臨時会)
第八十条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。
2 前項の場合の他、いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があったときは、内閣は、臨時会の召集を決定しなければならない。

(衆議院の解散、特別会及び参議院の緊急集会)
第八十一条 衆議院の解散は、内閣を代表する内閣総理大臣が決定する。
2 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に、国会の特別会を召集しなければならない。
3 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
4 前項ただし書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであって、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失う。
5 第二十条に定める非常事態宣言の承認に関しては、前3項及び前4項の規定を準用する。

(資格争訟の審査)
第八十ニ条 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。
2 議員の議席を剥奪するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

(表決及び定足数)
第八十三条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2 両議員の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

(会議及び会議録の公開等)
第八十四条 両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、かつ一般に頒布しなければならない。
3 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。

(役員の選任並びに議院規則及び懲罰)
第八十五条 両議院は、その議長を指名し、その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定めることができる。
3 両議員は、前2項による手続及び規則に反して院内の秩序を乱し、あるいは刑事裁判にて有罪が確定した議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

(法律案の議決)
第八十六条 法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを妨げない。
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

(予算案の議決)
第八十七条 予算案は、国会で議決されたとき、予算となる。
2 予算は、先に衆議院に提出しなければならない。
3 予算について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

(条約承認案の議決)
第八十八条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第三項の規定を準用する。

(国会の国政調査権)
第八十九条 両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言、資料並びに記録の提出を要求することができる。

(閣僚の議院出席の権利と義務)
第九十条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院のいずれかに議席を有すると有しないとかかわらず、いつでも議案について発言するため議院に出席することができる。

2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、答弁または説明のため議院から出席を求められたときは、職務の遂行上やむをえない事情がある場合を除き、出席しなければならない。

 

(弾劾裁判所)
第九十一条 国会は、罷免の訴追を受けた司法裁判所の裁判官並びに憲法裁判所の裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。

(政党)
第九十ニ条 政党は、国民の政治的意思の形成に協力することを役割とし、議会政治の発展に努めなければならない。
2 政党の組織及び運営については、党員の自由と平等が尊重されねばならない。
3 政党は、国政選挙に際し、施政の基本方針を国民に明示しなければならない。
4 政党の要件は、法律でこれを定める。

第七章 内閣

 

(行政権)
第九十三条 行政権は、この憲法に特別の定めのある場合を除き、内閣に属する。

(内閣の組織及び国会に対する責任)
第九十四条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣で組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、現役の軍人であってはならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。

(内閣総理大臣の指名)
第九十五条 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。
2 国会は、他のすべての案件に先立って、前項の指名を行わなければならない。
3 衆議院と参議院とが異なった指名をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が指名をしないときは、衆議院の指名を国会の指名とする。

(内閣総理大臣の資格)
第九十六条 内閣総理大臣は、出生によって日本国民たる者で、年齢満四十歳に達した者のうちから指名しなければならない。

(国務大臣の任命及び罷免)
第九十七条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

(内閣総理副大臣の任命)
第九十八条 内閣総理大臣は、内閣の成立と同時に、国務大臣のうちから、内閣総理副大臣を任命しなければならない。
2 内閣総理副大臣は、内閣総理大臣に事故のあるとき、または内閣総理大臣が欠けたときに、臨時に内閣総理大臣の職務を代行する。

(内閣総理大臣正副の代務者)
第九十九条 内閣総理大臣及び内閣総理副大臣にともに事故あるとき、または内閣総理大臣及び内閣総理副大臣がともに欠けたときは、以下の順位に従って、すみやかに代務者がその職務権限のすべてを代行する。
一 内閣官房長官
二 外務大臣
三 財務大臣
四 総務大臣
2 前項に定める代務者が代行を行えず、または政府が機能しない事態が生じた場合は、以下の順位に従って特別代務者が代行する。
一 東京都知事
二 大阪府知事
三 愛知県知事

3 前2項の第四位以下は、人口の多い府県の順に、その知事とする。
4 代務者または特別代務者は、その置くべき事由がやんだときは、すみやかにその職を退くものとする。

 

(内閣の衆議院解散権、内閣不信任決議の効果)
第百条 内閣は、衆議院を解散することができる。
2 解散の目的は、内閣の信任または重要法律案の可否について、国民の意思を問うためとする。
3 内閣は、衆議院で不信任の決議案が可決され、または信任の決議案が否決されたときは、十日以内に衆議院が解散しない限り、総辞職をしなければならない。

(内閣総理大臣の欠缼等と内閣総辞職)
第百一条 内閣総理大臣が欠けたとき、または衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

(総辞職後の内閣)
第百二条 第百一条3項及び前条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで、引き続き憲法の定める職務を行う。
2 前項の場合、内閣は、衆議院を解散することができない。

(内閣総理大臣の職務)
第百三条 内閣総理大臣は、行政各部を統括し、国務を総理する。
2 内閣総理大臣は、内閣を代表して法律案その他の議案を国会に提出し、一般国務および外交関係について国会に報告する。
3 内閣総理大臣は、第十六条に従って、国軍を指揮する。
4 内閣総理大臣は、第十九条に従って、非常事態に対処する。

(内閣の職務)
第百四条 内閣は、第三条2項に基づき、天皇の国事行為に関して助言と承認を行い、その責任を負う。
2 内閣は、一般の行政事務の他に、次の事務を行う。
一 法律を誠実に執行し、行政事務を統括管理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。ただし、立法後、予算審議権など国会の権限に関するもの、その他政治的に重要なものは、事前に、時宜によっては事後に国会の承認を経ることを必要とする。
四 国家安全保障を実行すること。
五 法律の定める基準に従い、公務員に関する事務を掌理すること。
六 国会の召集を決定すること。 
七 予算案及び決算案を作成し、国会に提出すること。
八 法律案並びに憲法改正発議案を作成し、国会に提出すること。 
九 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
十 最高裁判所並びに憲法裁判所の長たる裁判官を指名すること。また、長たる裁判官以外の裁判官を任命すること。
十一 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
十二 栄典の授与を決定すること。

 

(法律及び政令への署名)

第百五条 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。

 

(国務大臣の特権)

第百六条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。ただし、このために、訴追の権利が害されることはない。訴追には、逮捕を含むものとする。

 

第八章 司法

 

(司法権と裁判所)
第百七条 すべて司法権は、憲法裁判所、最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特例の裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、この憲法の定める場合を除いては、終審として裁判を行うことができない。ただし、前審として、法律で特殊な人、又は事件を管轄する行政裁判所を設置することを妨げない。
3 軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、軍事裁判所を設置する。軍事裁判所は、内閣総理大臣が統括管理する。

 

(憲法裁判所の違憲立法審査権)
第百八条 憲法裁判所は、一切の条約、法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する唯一の裁判所である。

(憲法裁判所の権限)
第百九条 憲法裁判所は、次の事項を管轄する。
一 条約、法律、命令、規則又は処分について、内閣またはそれぞれの在籍議員の三分の一以上の衆議院議員若しくは参議院議員の申し立てがあった場合に、法律の定めるところにより、憲法に適合するかしないかを審判すること。
二 具体的訴訟事件で、最高裁判所若しくは下級裁判所または行政裁判所が求める事項について、法律の定めるところにより、憲法に適合するかしないかを審判すること。
三 具体的訴訟事件の当事者が最高裁判所の憲法判断に異議がある場合に、法律の定めるところにより、その異議の申し立てについて、審判すること。

(憲法裁判所の判決の効力)
第百十条 憲法裁判所が、条約、法律、命令、規則または処分について、憲法に適合しないと決定した場合には、その決定は、法律で定める場合を除き、それ以降、あらゆる国及び地方公共団体の機関を拘束する。
2 憲法裁判所の判決は、法律の定める場合を除き、その判決の公布の翌日から効力を生ずる。

(憲法裁判所の裁判官)
第百十一条 憲法裁判所は、その長たる裁判官及び八人のその他の裁判官で構成する。
2 憲法裁判所の長たる裁判官は、内閣が指名する。長たる裁判官以外の裁判官は、参議院の指名に基づいて内閣が任命する。
3 憲法裁判所の裁判官は、任期を八年とし、再任を妨げない。ただし、法律の定める年齢に達した時は退官する。
4 憲法裁判所の裁判官は、国会議員、国務大臣、司法裁判所の裁判官、その他の公務員職を兼ねることはできない。

(上告裁判所としての最高裁判所)
第百十二条 最高裁判所は、憲法裁判所の管轄以外の事項につき、裁判を行う終審裁判所とする。

(最高裁判所の裁判官)
第百十三条 最高裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成する。
2 最高裁判所の長たる裁判官は、内閣が指名する。長たる裁判官以外の裁判官は、参議院の指名に基づいて内閣が任命する。
3 最高裁判所の裁判官は、任期を五年とし、再任を妨げない。ただし、法律の定める年齢に達した時は退官する。

(下級裁判所の裁判官)
第百十四条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任を妨げない。ただし、法律の定める年齢に達した時には退官する。

(裁判官の国民審査)
第百十五条 憲法裁判所の裁判官及び最高裁判所の裁判官は、国民審査を受ける。
2 これらの裁判官は、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際、また再任の場合は再任後初めて行われる同選挙の際に、国民審査に付されるものとし、その後も同様とする。
3 前項の場合において、有効投票の過半数が裁判官の罷免を求めるときは、その裁判官は、罷免される。
4 裁判官の国民審査において、当該裁判所は、各裁判官が重要な訴訟事件に行った判決について、国民に情報を提供し、国民の判断に供しなければならない。
5 国民審査に関する事項は、法律でこれを定める。

(憲法裁判所及び最高裁判所の規則制定権)
第百十六条 憲法裁判所及び最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、前項に規定する規則に従わなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

 

(裁判官の独立、身分保障)
第百十七条 すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。
2 すべて裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。
3 すべて裁判官はひとしく、法律の定めるところにより、国庫から相当額の報酬を受ける。この給与は、前項に定める裁判官の独立と身分保障に基づき、個別の裁判官について減額することができない。

 

(裁判の公開)
第百十八条 裁判の対審および判決は、公開の法廷でこれを行う。
2 裁判所が、次に掲げる理由により、裁判の公開が適当でないと、裁判官の全員一致で決定した場合は、対審を公開せずに行うことができる。
一 国家の安全保障を脅かすおそれのあるとき。
二 公共の秩序を害するおそれのあるとき。
三 善良の風俗を害するおそれのあるとき。
四 当事者の私生活上の利益を害するおそれのあるとき。

第九章 財政

 

(財政の基本原則)
第百十九条 国の財政は、国会の議決にいて、内閣がこれを処理する。

(租税法律主義)
第百二十条 国の行政府及び立法府は、租税を新たに課し、または現行の租税を変更する際は、法律、または法律の定める条件によらなければならない。

(国費の支出及び国の債務負担)
第百二十一条 内閣は、国費を支出し、又は債務を負担する際には、国会の議決に基づくことを必要とする。

(予算、公会計)
第百二十二条 内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない。
2 内閣は予算作成に際し、前年度決算を前提にその審議を経なければならない。
3 公会計は複式簿記とする。一般会計と特別会計は連結する。
4 内閣は、国会において議員が提出した法律案が可決されたときは、その法律の執行に必要な費用を補正予算案、または次の会計年度の予算案に計上しなければならない。

(予算不成立の場合の処理)
第百二十三条 当該会計年度開始前に前項の議決がなかったときは、内閣は、法律の定めるところにより、同項の議決を経るまでの間、必要な支出をすることができる。
2 前項の規定による支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。 
3 第十九条に定める非常事態宣言が発せられたとき、国会召集の不能または余裕のない場合は、内閣の責任支出を認め、事後に国会の承認を求めるものとする。

(継続費)
第百二十四条 内閣は、特別に複数年にわたって継続して国費を支出する必要のあるときは、年限を定め、継続費として国会の議決を経なければならない。

(予備費)
第百二十五条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決にいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を経なければならない。

(皇室財産)
第百二十六条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算案に計上して、国会の議決を経なければならない。

(公の財産の用途制限)
第百二十七条 公金その他の公の財産は、社会的儀礼の範囲内にある場合を除き、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のために支出し、またはその利用に供してはならない。
2 公金その他の公の財産は、国若しくは公共団体の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対して支出し、またはその利用に供してはならない。

 

(決算検査、会計検査院)
第百二十八条 国のすべての収入及び支出の決算は、会計検査院がこれを検査する。
2 内閣は、次の年度に、前項に規定する会計検査院による決算検査と併せ、国のすべての収入及び支出の決算を国会に提出し、その承認を得なければならない。
3 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。

(財政状況の報告)
第百二十九条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少なくとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

第十章 地方自治

 

(地方自治の本旨)
第百三十条 地方自治は、国家の統治権のうちの行政権の一部を、内閣の統括管理のもと、各地域に住む国民の意思と責任において行使するものである。

(地方公共団体の組織及び役割)
第百三十一条 地方自治を行うため、地域ごとに地方公共団体を組織する。
2 地方公共団体は、地域における行政を実施する役割及びそれらに係る責任を担う。
3 地方公共団体は、国の行政府及び立法府と協同して、その地域に住む国民の福祉の増進に努めるものとする。
4 地方公共団体の運営、組織及び種類に関する事項は、法律でこれを定める。

(各地域に住む国民の権利及び義務)
第百三十二条 国民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公正に分任する義務を負う。
2 国民は、その属する地方自治体の運営に参画するよう努めるものとする。

(地方議会、首長・議員の直接選挙)
第百三十三条 地方自治体には、法律の定めるところにより、その意思決定機関として議会を設置する。
2 地方自治体の首長及びその議会の議員は、日本国民である当該地方自治体の住民が、直接選挙する。

(地方公務員の欠格事由)
第百三十四条 地方公共団体の首長及びその議会の議員の欠格事由については、第七十五条の規定を準用する。この場合において、同条中「国会議員」とあるのは、「地方公共団体の首長及びその議会の議員」と読み替えるものとする。

(地方公共団体の権能)
第百三十五条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
2 地方公共団体は、自らの権能を行使するために、条例により租税を課すことができる。また、その財政は健全に維持及び運営されなければならない。

(特別法の住民投票)
第百三十六条 特定の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民である国民の投票において、有効投票の過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

(非常事態下における地方自治)
第百三十七条 第十七条に規定される非常事態が宣言された場合、法律の定めるところにより、地方公共団体は、その権限を停止し、内閣の直接の指揮の下に入るものとする。

第十一章 改正

 

(改正の手続)

第百三十八条 この憲法の改正は、衆議院または参議院の議員若しくは内閣の発議により、審議される。

2 国会において、各議院の総議員の過半数の賛成によって改正案が可決された場合、内閣は国民に改正を提案して、その承認を受けなければならない。この承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の際に行われる国民投票において、有効投票の過半数の賛成を必要とする。

3 非常事態宣言が発令されている間は、この憲法は改正することができない

 

(改正の公布)

第百三十九条 憲法改正について前条の承認を得たときは、第七条及び同一号の規定に従い、天皇は、直ちに改正された憲法を公布する。

 

第十二章 最高法規

 

(最高法規)

第百四十条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅、条約及び国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。

 

第十三章 補則

 

(憲法施行期日、準備手続)

第百四十一条 この憲法は、公布の日から起算して三箇月を経過した日から、これを施行する。

2 この憲法を施行するために必要な法律の制定及び国会召集の手続並びにこの憲法を施行するために必要な準備手続は、前項の期日よりも前に、これを行うことができる。

 

(経過規定―公務員の地位)

第百四十ニ条 この憲法施行の際、現に在職する国務大臣、国会議員及び裁判官並びにその他の公務員で、その地位に相応する地位がこの憲法で認められている者は、法律で特別の定めをした場合を除いては、この憲法施行のため、当然にはその地位を失うことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選挙または任命されたときは、当然その地位を失う。

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2.説明〜昭和憲法及び他の改正案との対比

 

 新憲法のほそかわ私案について、昭和憲法及び他の改正案と対比しつつ説明を行いたい。

なお、日本国憲法及び新憲法に関する私の基本的な考えは、以下の拙稿に記してある。この憲法改正案の前提として、ご一読いただければ幸いである。

 「日本国憲法は亡国憲法ー改正せねば国が滅ぶ

新憲法へ――改正の時は今

 

勅語と前文

 

(1)勅語
 

新憲法が制定される場合、天皇は日本国の象徴および日本国民統合の象徴として、日本国憲法(以下、昭和憲法ともいう)の規定に従い、新しい憲法を公布する役目をになう。昭和憲法第九十六条2項に次のように規定されている。
 「憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。」
 前項の承認とは、国民投票の結果を言う。
 日本国憲法の場合は、次のような昭和天皇の勅語が付されていた。
 「朕は、日本国民の総意にいて、新日本建設の礎が定まるに至つたことを、深くよろこび、枢密顧問の諮詢及び帝国憲法第七十三条による帝国議会の議決を経た帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる」
 そして日付と御名御璽が記され、当時の国務大臣の副署がされている。
 新憲法の公布に当たっても、今上天皇から勅語を賜ることとなろう。勅語の内容は、新憲法と昭和憲法との関係および制定の過程を明確にするものとなるだろう。この度の主語は、「朕」ではなく、「私」が用いられることと思う。まことに僭越だが、たとえば以下のようなお言葉を頂くことになろうかと思う。

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◆ほそかわ案
 私は、日本国憲法の改正が、憲法第九十六条により、国会が各議院の総議員の三分の二以上の賛成で議決して発議され、国民投票において過半数を得て承認されたことをよろこび、ここにこれを公布する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 最後に、日付と御名御璽を賜り、国務大臣の副署が必要となろう。

(2)前文

 憲法は、一国の基本法である。国の根本を定めるものである。それゆえ、憲法に前文を設けるとすれば、その国の成り立ちや歴史・伝統・文化を記し、その中に憲法制定の寄って立つ法源を明らかにし、国の理念・目標を提示するものでなければならない。
 自由民主党の新憲法案は、次のような前文を提示している。(平成17年10月28日発表)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●自民党案

 

 日本国民は、自らの意思と決意に基づき、主権者として、ここに新しい憲法を制定する。
 象徴天皇制は、これを維持する。また、国民主権と民主主義、自由主義と基本的人権の尊重及び平和主義と国際協調主義の基本原則は、不変の価値として継承する。
 日本国民は、帰属する国や社会を愛情と責任感をもって自ら支え守る責務を共有し、自由かつ公正で活力ある社会の発展と国民福祉の充実を図り、教育の振興と文化の創造及び地方自治の発展を重視する。
 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願い、他国とともにその実現のため、協力し合う。国際社会において、価値観の多様性を認めつつ、圧政や人種侵害を根絶させるため、不断の努力を行う。
 日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならずかけがえのない地球環境を守るため、力を尽くす。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

GHQが起草した昭和憲法の前文と違い、日本人が自ら日本語で起稿した文章である。ここには日本人自身の意思が表されている。しかし、問題は内容である。実は、原案では、前文は以下のような文章だった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●自民党原案

 日本国民はアジアの東、太平洋と日本海の波洗う美しい島々に、天皇を国民統合の象徴として戴(いただ)き、和を尊び、多様な思想や生活信条をおおらかに認め合いつつ、独自の伝統と文化を作り伝え多くの試練を乗り越えて発展してきた。
 日本国は国民が主権を持つ民主主義国家であり、国政は国民の信任に基づき国民の代表が担当し、その成果は国民が受ける。
 日本国は自由、民主、人権、平和、国際協調を国の基本として堅持し、国を愛する国民の努力によって国の独立を守る。
 日本国民は正義と秩序による国際平和を誠実に願い、他国と共にその実現の為(ため)協力し合う。国際社会に於(お)いて圧制や人種の不法な侵害を絶滅させる為の不断の努力を行う。
 日本国民は自由と共に公正で活力ある社会の発展と国民福祉の充実をはかり教育の振興と文化の創造と地方自治の発展を重視する。自然との共生を信条に豊かな地球環境を護(まも)るため力を尽くす。
 日本国民は大日本帝国憲法及び日本国憲法の果たした歴史的意味を深く認識し現在の国民とその子孫が世界の諸国民と共に更に正義と平和と繁栄の時代を内外に創(つく)ることを願い、日本国の根本規範として自ら日本国民の名に於いて、この憲法を制定する。
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発表されたのは、原案を大きく変更したものであることがわかる。原案にあった日本の伝統・文化・歴史に関する記述は削除された。「国を愛する」とか「独立」の文言が消え、明治憲法・昭和憲法との関係が明示されなくなっている。憲法の前文に記すべき重要な要素がいくつも抜き去られている。一体、この変更は、何ゆえ。現在の自民党が「経済優先的な保守」が多数を占め、「伝統尊重的な保守」が大きく後退していることの表れだろう。(註)自民党の憲法改正案には多くを期待できないことが、この前文を一読すればわかる。

なお、自民党案では、主語が「日本国民」で一貫しているが、「我々」「わが国日本」というような二人称複数を用いたほうがよいと思う。
 自民党案以外にも、新憲法の前文には、いろいろな案が出されている。そのうち、私は、日本会議の「新憲法の大綱」(平成13年版)と、参議院議員の山谷えり子氏、日本青年会議所(JC)のものに注目している。

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●日本会議案
 我々日本国人は古来、人と人の和を尊び、多様な価値の共存を認め、自然との共生のうちに、伝統を尊重しながら海外文明を摂取・同化することにより、独自の文化を築き、天皇と国民が一体となって国家を発展させてきた。
 我々は、このような我が国固有の国体に基づき、民意を国政の基礎に置く明治以来の立憲主義の精神と歴史を継承発展させ、国民の自由と権利を尊重するとともに国家の一員としての責任を自覚して新たな国づくりへ進むことを期し、併せて世界の平和と諸国民の共存互恵の実現に資する国際責任を果たすために、この憲法を制定する。

●山谷案
 四季のめぐり、恵みあふれる大八州(おおやしま)、豊葦原瑞穂(とよあしはらのみずほ)の国に生まれ育ったわたくしたち日本国民は、睦(むつ)み和らぎ、徳を高め、勤め励んで、平和の国、文化の国、道義の国として歩んできました。
 美しい日本の国柄を誇り、喜びとして、これからも正直、親切、勤勉、節度、品位、調和(大和)、献身、進取の気性をもって、諸国民との協和の中で輝く自由と民主主義の国として歩みます。
 長い歴史と伝統、家族の絆の中で、豊かに育まれたわたくしたちは、一人一人に与えられた賜物(たまもの)に感謝し、法にしたがい、国を富ませ、心を世界に開いた政治、経済、外交を展開し、尊い生甲斐を互いに尊重する社会をつくります。
 人類の恒久平和、自然との共生に心を一つにして国際社会の中で名誉ある国づくりにつとめます。
 愛と一致と希望の中で、力をつくし、誠をつくし、明き清き理想に向かって進んでいくことを誓います。

●JC案
 日本国民は、四方を個性ある海に囲まれた、四季の移り変わりの美しい日本国のもとで、自然の恵みに感謝し、祖先を敬い、家族を大切にし、人の和を尊重する精神をもって豊かな社会を築き上げてきた。
 われらは、この悠久の歴史と伝統、誇りある精神を受け継ぎ発展させる。
 われらは、議会制民主主義を手段として国民の英知を結集し、基本的人権が尊重され、かつ、自律した個人の幸福と社会の利益とが豊かに調和する国家の実現を目指す。
 われらは、世界の人々の多様性を尊重するとともに、国際社会における責任を自覚し、恒久平和の実現、人道支援および地球環境保全のために、率先して行動する。
 日本国民は、国家の主権者として、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。
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 これら三つの案は、自民党案と異なり、日本の伝統・文化・歴史をよく盛り込んでいる。これらに比べると、自民党案の原案からの後退が一層、明らかになるだろう。

 

三案ともそれぞれ立派な案だと思うが、共通点を確認するとともに、相違点を突き合わせてみると次のようになる。
 共通点は、わが国の歴史・伝統に触れ、和や自然との共生について述べていること。地球環境保全、平和、諸国民との共存互恵または協和などを盛り込んでいること。主語に「我々」「わたくしたち」「われら」と二人称複数が使われていることなどである。
 相違点は、統治権の根源、天皇、政体、自由、権利または人権、民主主義、家族、国際的な責任、人道支援、明治憲法・昭和憲法との関係等を入れるか否かである。

 個々については、日本会議の案は、三案の中では、憲法典に付す法律的な文章として、完成度が高い。細かい点では、海外の文明とわが国の文化という対比となっており、日本文明の自立性が表現されていない。国家・社会の基礎である家族に触れていない。明治以来の立憲主義を言いながら、昭和憲法との関係が明記されていない。
 山谷氏の案は、日本語としてとても美しい。しかし、文学的な表現が多く、法律的な文章としては重要な要素を多く欠いている。国柄のとらえ方では、天皇が明記されていない。統治権の根源、政体、先行憲法との関係が明記されていない。権利・人権に触れていない。道徳的・倫理的な言葉が多く、憲法より国民憲章か教育基本法にこそふさわしいと感じられる部分がある。
 日本青年会議所の案は、意欲的な内容だが、天皇を明記せず、政体についても書いていない。基本的人権を書いて自由に触れていない。明治憲法・昭和憲法との関係が盛られていない。新憲法を制定するという文言もない。そのため、憲法典に付す文章としての重要な要素をいくつか欠いている。
 以上紹介した三つの案はこのようにどれも一長一短があるものの、いずれの案を元にしても、欠けているものを補うならば、充実した前文になると思う。

 

 次に、私の新憲法の前文についての考えを記したい。
 憲法の前文には、日本の伝統・文化・歴史、基本的な国柄と現在の政体、法源、国家と国民の関係、日本と国際社会の関係、先行憲法との関係を、明確に記す必要があると思う。

 日本の伝統・文化・歴史については、その特徴を簡潔に記し、また基本的な国柄を明らかにしたい。古来、日本人は、四季に恵まれた豊かな自然の中で、すべてのものにいのちを感じ、大自然との調和を心がけて生活してきた。他国の文化が入ってくると、固有の文化と共存させ、また争いを避け、人との調和を保つ心を持ってきた。
 家庭にあっては、親子一体・夫婦一体・家族一体の生き方を心がけ、祖先から子孫への生命のつながりを重んじてきた。こうした家庭をもとに、皇室を中心として一大家族のような社会を構成し、歩んできたところに日本国の特徴がある。
 私たちには、こうした伝統を受け継ぎ、またこれを発展させて健全な社会を作り、世界の平和に貢献していきたいと思う。

 続いて、国のかたちについて述べる必要があると思う。まずデモクラシーについて述べておくと、デモクラシーは一般に「民主主義」と訳されてきたが、この訳語は国民主権・人民主権との混同を招きやすい。デモクラシーとは本来、民衆が政治に参加する制度のことであり、民衆参政制と訳すべきものである。私は、憲法においては、「国民参政主義」という訳語を用いたいと思う。

わが国の政体は、明治憲法においては、立憲君主制の下でデモクラシーを採用していた。統治権は天皇に存した。昭和憲法においては、統治権は主権とされ、主権在民とされた。また、天皇を日本国及び国民統合の象徴とした。君主制か共和制か、主権者である国民に、天皇を含むか否かが明快でなかった。
 新憲法では、これらの点を明らかにする必要がある。私は、わが国は、立憲君主制のデモクラシーを採用した国家と規定することが適当であると思う。これは、昭和憲法下の政府見解でもある。文章上は、「立憲君主制の国民参政主義国家」であると表現したい。

 次に、前文及び憲法の全体において、主権という概念を用いることについては検討を要すると思う。立憲君主制のデモクラシー国家には、君主主権、議会主権、国民主権の三種があるとされる。このうち、昭和憲法下のわが国は、天皇を含む国民が主権を有するものであり、「象徴天皇制国民主権」というべき特殊な政体である。しかし、私は、わが国の統治権の淵源と歴史を振り返るならば、「君民共有主権」、より正確には「統治権の君民共有制」と呼ぶのが適当と思う。

 主権という概念の核は、統治権である。そこで、憲法においては、主に統治権という用語を使うのが適当と考える。明治憲法は、主権という概念を使わず、統治権と称した。統治権は、天皇が有した。昭和憲法においては、主権と言い換えられ、国民に存するとされた。
 主権とは、最高権力を意味する言葉であり、統治権の最高性を形容するものである。それとともに、西欧の歴史では、専制君主の絶対的な権力を、人民が闘争によって奪取したという例があり、主権は専制性と闘争性を含む概念である。
 これに対し、統治は、明治憲法において、わが国の伝統に基づき、「知らす」の意味であるとされた。天皇がこの国を「知らす」ことを、統治という漢語に置き換えて表現したのである。「知らす」には、人民を私物化して支配するのでなく、人民を「大御宝(おおみたから)」と呼んでその安寧を願って仁政を行うという意味がある。

 こうしたわが国の国柄と伝統にのっとるとき、主権という概念は不適当であり、統治権を用いるのがふさわしい。ただし、国際社会においては、独立国家間の外交・防衛等の文脈で、主権という概念も使用しなければならない。そこで、憲法においては、主に統治権を用い、補助的に主権も用いるのがよいと思う。
 

わが国は、立憲君主制の国民参政主義国家と規定するのが適当と先に書いたが、昭和憲法において、統治権は天皇から、天皇を含む国民に移っている。天皇の専有から君民の共有となった。
 新憲法においては、この点をより明確に、わが国の統治権は、天皇を含む国民に存すると明記すべきと思う。具体的には、天皇を統合の象徴とする国民に存すると表現する。この国民には、現在の世代だけではなく、過去及び将来の世代を含む。つまり祖先から現在の我々、さらに子孫までを含む歴史的な総国民である。そのことについても明らかにすべきと思う。

 国家と国民の関係については、わが国の国政は、代表制のデモクラシーをとる。国政は国民の信託に基づき、国民の代表が担い、その成果は国民が受ける。国民は自由と権利を享受するとともに、その責任を自覚し、家族を尊重し、社会の一員として公共の利益に尽くす。また、我々は、国を愛し、国際社会におけるわが国の責任を担うことを記したいと思う。

 日本と国際社会の関係については、わが国は国際社会の一員として、世界の平和を願い、諸国諸民族の共存共栄、地球環境の保全、物心調和の人類文化の創造に資する国際責任を果たす決意であることを述べたい。

 先行憲法との関係については、明治憲法・昭和憲法との連続性が記されねばならない。また、また改正は昭和憲法の改正規定にのっとって正当に行われたことを銘記する必要があり、この点は、先に書いた天皇の勅語に含むのが良いと思う。
 以上の考えにく私案を次に記す。

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◆ほそかわ案
 我々日本国民は古来、四季の恵みあふれる豊かな自然の中で、人と人、人と自然の調和を尊びながら、独自の文明を築いてきた。多様な価値の共存を認め、伝統を尊重しながら、天皇と国民が一体となって国の繁栄に努めてきた。我々は、このような日本の伝統・文化・国柄に基づき、さらなる発展を目指したいと願う。

 わが国は、明治以来、立憲君主制の国民参政主義国家である。統治権は、天皇を国民統合の象徴とする国民に存する。ここに国民とは、過去・現在・将来にわたるすべての国民を意味する。国政は国民の信託に基づき、国民の代表が担い、その成果は国民が受ける。国民は自由と権利を享受するとともに、その責任と義務を自覚し、家族を尊重し、社会の一員として公共の利益に尽くす。また、国民は、国を愛し、世界の平和を願うとともに、諸国諸民族の共存共栄、地球環境の保守、物心調和の人類文化の創造に資する国際責任を果たす決意である。

 我々日本国民は、わが国の伝統と大日本帝国憲法及び日本国憲法の歴史的意義を踏まえ、新たな国づくりのために国の根本規範として、この憲法を制定する。
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第一章 天皇

 

わが国の憲法は、明治憲法・昭和憲法とも、天皇に関する条項で始まった。これは、わが国の伝統・文化・国柄を踏まえたことであって、新しい憲法においても第一章は、天皇に関する章とすべきである。
 自民党の憲法改正案も、第一章を「天皇」としている。その内容は、昭和憲法と、ほとんど変わりがない。昭和憲法を内容的に修正しているのは、第六条2項の3号「衆議院を解散すること。」に、第何条何項の決定に基づいてと補ったこと、第七条4項の「国会議員の総選挙の施行」を「衆議院の総選挙及び参議院の通常選挙の施行」に改めたこと、第八条の皇室財産の譲渡等に関し、「法律で定める場合を除き」と補っただけである。あとは、条文の順序や位置を一部整理したり、仮名遣いを現代かなに直したりしたのみである。のみで、内容的な改正ではない。天皇に関する規定は、基本的にこれまでどおりとしたいということだろう。

 では、昭和憲法の天皇に関する規定がほぼ完璧なものなのか。そうとは言えない。昭和憲法は日本を占領したGHQが起草し、GHQの管理の下で、日本国は主権を失っており、マッカーサーの意思に従わざるを得なかった。しかし、昭和27年4月28日に独立を回復すると、さまざまな憲法改正案が発表された。日本人自身の手で自国の憲法をつくり直そうという意思の表れである。
 当時出た改正案の一つに、自由党憲法調査会が出した「日本国憲法改正要綱」(昭和29年11月)がある。自由党とは、日本民主党と合併して、現在の自由民主党となった政党である。自民党の前身の一つである。自由党は、天皇の条項に関して、次のような案を出していた。
 第一は、「天皇は日本国の元首であって、国民の総意により国を代表するものとする。」と規定する。第二は、「天皇の行う行為に左の諸件を加える。」として数項目追加する。第三は、「皇室財産の規定は法律に譲る。」とし、第四は「憲法改正の発議に天皇の認証を要するものとする。」と規定するというものである。
 これらの修正点は、昭和憲法の規定には、改正すべき箇所があるという判断に立つものである。独立を回復して間もないころの日本の保守は、自主憲法制定に意欲を燃やしていたことがわかる。これに比べ、約50年たった現在の自民党は、徹底的な見直しには消極的であり、過去の同党における議論を十分踏まえているとは言えない。

 さて、私は、天皇の条項について、検討すべき点が5点あると思う。それに沿って以下述べていきたい。

(1)象徴にして元首

 

検討点の第一は、天皇の根本的な地位についてである。昭和憲法は、現代か遣いに直すと、以下のように定めていた。

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●昭和憲法

第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。

第二条 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 天皇が日本国の象徴及び日本国民統合の象徴であることは、このとおりでよいと思う。課題は、日本国の元首をどうするかである。元首は、対外的に国家を代表する存在である。欧州の多くの君主国の憲法では、国王は単なる象徴ではなく、元首であることが明記されている。昭和憲法では、これがはっきりしていない。この点を新憲法では、明確にする必要がある。
 天皇は日本国の象徴であり、日本国を対外的に代表して、外交上の国事行為を多く行っている。昭和憲法には天皇を元首とする規定はないが、天皇をわが国の元首とするのは政府の公式見解であり、また最も有力な学説である。天皇が諸外国をご訪問される場合、訪問国で礼砲の数等、元首としての儀礼を受けている。それゆえ、憲法に天皇を元首と明記することは、実態を表すものとなる。

天皇を元首と規定しても、それは天皇が政治にかかわることにはならない。天皇の国事に関するすべての行為は、内閣の助言と承認を必要とし、その行為の責任は、内閣が負うからである。それゆえ、新憲法には、天皇を元首と規定すべきである。

 天皇を元首とする改正案は存在する。以下の三つの案では、そのように規定している。最初の愛知案とは、愛知和男氏(元環境庁長官・元防衛庁長官)の案(改訂第4版)である。

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●愛知案

@天皇は、日本国の元首である。
A天皇は、対外的に日本国及び日本国民を代表するとともに、日本国の伝統、文化、及び国民統合の象徴である。

●日本会議案
 天皇は日本国の元首であり、日本国の永続性及び日本国民統合の象徴である。

●JC案
 天皇は、日本国の元首であり、日本国民統合の象徴である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 
 私もこのように、元首であり象徴であるという規定とする必要があると思う。

次に、天皇の条項について検討すべき点の第二は、元号についてである。元号は、皇室制度と結びついたわが国の重要な伝統文化である。これを憲法に規定しておきたい。発想は、木村睦男氏(元参議院議長)・愛知和男氏による。
 検討点の第三は、天皇の尊厳の遵守についてである。私は、天皇の元首及び象徴としての尊厳は守られるべきことを規定すべきであると思う。天皇の尊厳が損なわれることは、即ち日本国及び日本国民の名誉や誇りが損なわれることである。日本国及び日本国民の名誉や誇りを守るために、天皇の尊厳は守られなければならない。
 ここで、検討点の第一から第三をひとまとめにした私案を、以下に記す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◆ほそかわ案

(天皇)
第一条 天皇は日本国の元首であり、日本国の象徴及び日本国民統合の象徴である。

(天皇の地位と継承)
第二条 天皇の地位は、統治権の存する日本国民の総意に基づく。
2 皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
3 皇位の継承に際しては、元号を定める
4 天皇の元首及び象徴としての尊厳は守られなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第二条の統治権については、第二章で具体的に述べるが、ここでは「主権」の意味と理解しておいていただいて構わない。

(2)権能


 第四の検討点は、天皇の権能についてである。昭和憲法は、天皇は憲法に定める国事行為のみを行い、国政に関する権能を持たないとしている。そのうえで、内閣の助言と承認、及び内閣の責任が、第三条と第四条4項・5項に分かれて書かれている。これらは一括して一条にしたほうがわかりやすいと思う。すなわち、以下のようにある。

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◆ほそかわ案

(天皇の権能)
第三条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない。
2 天皇は、皇室典範の定めるところにより、その国事に関する行為を世嗣の資格を有する者に委任することができる。
3 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第2項の内容は、木村睦男氏・愛知和男氏の案による。誰に委任するかを明示するものである。「世嗣(せいし)」とは、「お世継ぎ」であり、皇位継承の有資格者、直接的には皇太子を意味する。

(3)任命権


 第五の検討点は、天皇の任命権についてである。現行憲法においては、天皇は、国会の指名に基づいて内閣総理大臣を任命し、内閣の指名に基づいて最高裁判所の長たる裁判官を任命すると規定している。それはそのままで良いのだが、これに衆議院議長、参議院議長の任命を加えるべきだと思う。
 わが国の統治権は、天皇を統合の象徴とする国民に存する。国民に発する国家権力は、引き続き三権分立制を取るのがよく、立法権、行政権、司法権の三権による相互牽制を行う。この仕組みを踏まえれば、昭和憲法において「国権の最高機関」とされてきた国会の長が、国会において選任されるだけとなっていたのは、おかしい。私は両院議長もまた天皇が任命するとすべきと思う。これにより、天皇が任命権者として任命するのは、三権の長となる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◆ほそかわ案

(天皇の任命権)
第四条 わが国は、統治権を立法権、行政権、司法権に分立し、天皇は三権の長を任命する。
2 天皇は、国会の指名に基づいて、衆議院及び参議院の議長並びに内閣総理大臣を任命し、また内閣の指名に基づいて、最高裁判所長官及び憲法裁判所長官を任命する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 
 憲法裁判所については、第八章「司法」で説明する。ここでは、司法権の長という意味で列記している。

 

(4)国事行為

 

検討すべき点の第六は、天皇の国事行為についてである。昭和憲法の規定のほか、いくつか追加する必要があると思う。

・憲法・法律等の公布には、皇室典範を加える
 皇室典範は、一般の法律とは違うので、別に明記する。
・文化、芸術、自然環境保守の奨励助長を行なうこと。
 文化・芸術は、元総理大臣・中曽根康弘氏の案による。これに自然環境の保守を加える。
・元号の制定を公布すること。
 皇室制度と結びついた元号に関して明記する。
・儀礼については、伝統にく祭祀を行うことを加える。
 昭和憲法では、単に「儀礼」と書かれている。これでは漠然としている。わが国及び皇室に伝わる伝統に基づく祭祀及び儀礼を行い、国民の安寧と世界の平和を祈ることを、天皇の国事行為として明記する。また、この項目の位置は、他の国事行為より前に置く。

また、天皇の国事行為とは、統治権の象徴的な行使であることを明記したい。象徴的な行使とは、日本国及び日本国民統合の象徴である天皇が、その立場において統治権を行使するという意味である。天皇の国事行為とは、そのような行為にほかならない。
 次に、以上を反映した私案を記す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◆ほそかわ案

(天皇の国事行為)
第五条 天皇は、統治権の象徴的な行使として、次に掲げる国事に関する行為を行う。
一 伝統にく祭祀及び儀礼を行い、国民の安寧と世界の平和を祈ること。
二 憲法及び皇室典範の改正、並びに法律及び政令を公布すること。
三 国会を召集すること。
四 第百条第1項による決定に基づいて衆議院を解散すること。
五 衆議院議員の総選挙及び参議院議員の通常選挙の施行を公示すること。
六 国務大臣及び法律の定めるその他の公務員の任免を認証すること。
七 内閣の指名と国会の承認に基づいて、全権委任状並びに大使及び公使の信任状に親署し、並びにこれを授与すること。
八 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
九 栄典を授与すること。
十 文化、芸術、自然環境保守の奨励助長を行なうこと。
十一 元号の制定を公布すること。
十二 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
十三 外国の大使及び公使を接受すること。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 
 次に、前条に定めた以外に、天皇が、元首として対外的に日本国を代表し、日本国の伝統、文化、国民統合を象徴するために行う行為については、準国事行為とする規定を設けておきたい。

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◆ほそかわ案

(天皇の準国事行為)
第六条 前条に規定する国事行為の他、天皇が、元首として対外的に日本国を代表し、または日本国及び日本国民の統合を象徴するために必要な一切の行為は、国事行為に準ずるものとする。
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(5)摂政・皇室財産


 摂政と皇室財産に関する規定は、昭和憲法の規定を一部修正するのみでよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◆ほそかわ案

(摂政)
第七条 天皇が成年に達しない場合、もしくは皇室典範の定めるところにより、摂政を置くことができる。摂政は、天皇の名で、その国事に関する行為を行う。
2 第三条の規定は、摂政について準用する。

(皇室への財産の譲渡等の制限)
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、法律で定める場合を除き、国会の議決に基づかなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第三条とは、(天皇の権能)の条のことである。

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第二章 統治権

 

昭和憲法では、第一章「天皇」の次に、第二章「戦争の放棄」を定めている。その次が、第三章「国民の権利と義務」である。
 天皇と国民の間に「戦争の放棄」が入るのは、異常である。いかにも日本が再び米国及び世界の脅威とならないように弱体化させようという米国の意思が露骨に示された構成であった。そのため、天皇と国民の記述が断絶しており、明治憲法における天皇の統治大権と、国民主権の関係についての説明もなかった。あまり指摘されないようだが、重大な問題点である。

 私は、新憲法では、第一章「天皇」に続いて、第二章に「統治権」の章を設け、以下のようなことを記すべきと思う。
 主権という概念はわが国には適当ではないので、主権の概念の核である統治権を主に用いる。統治権は、国家権力の核をなすものであり、憲法典の法源でもある。そして、統治権の歴史と現在の保有形態を記載する。統治権と主権の関係を規定する。(註)
 国民とは、単に現世代だけでなく、過去及び将来の世代を含むと定義する。憲法の条文中の国民には、広義と狭義があることを規定する。広義では、天皇・皇族を含む。狭義では、含まない。この点を明らかにする。

 天皇・皇族については、第一章及び皇室典範に定めることを確認する。それ以外の国民の要件について、法律で定めることを記載する。
 また、国民は、統治権を具体的にどのように行使するのかを定める。
 以下、私の案を記す。

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◆ほそかわ案

 

(統治権)

第九条 この憲法は、日本国の統治権の行使によって、制定されるものである。

2 日本国の統治権は、国民の共同体に発し、古代より歴代天皇に継承されてきたものである。大日本帝国憲法においては、天皇が統治権を総攬するとし、日本国憲法においては、これを主権と称して国民に存するものとされた。
3 この憲法においては、前項の由来と経緯を踏まえ、統治権は、天皇と、天皇を統合の象徴とする国民が共有するものとする。
4 統治権は、必要に応じて主権と称する。主権とは、この憲法に定める統治権は、国内的には最高の権力であり、対外的には独立であり、また国政についての最高の決定権であることを意味する。

(日本国民)
第十条 日本国民とは、日本国籍を有する者をいう。国民には、過去及び将来においてその地位にある者、並びにそれに準ずる地位にあった者を含む。
2 国民のうち、天皇及び皇族に関しては、この憲法の第一章及び皇室典範に定める。
3 天皇及び皇族以外の国民に関する要件は、法律でこれを定める。

(統治権の行使)
第十一条 国民は、以下の各号の方法によって、統治権を行使する。
一 国会議員、地方公共団体の首長及びその議会の議員の選挙

二 推薦制によって選任される参議院議員の国民審査投票
三 憲法改正のための国民投票
四 最高裁判所及び憲法裁判所の裁判官の国民審査投票
五 地方自治体における住民投票
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

第二号については、第七十条に定めるものである。

ここで「国」「政府」等の用語の定義を行っておきたい。昭和憲法では、「国」という用語が多く使われていたが、憲法上その定義がされておらず、あいまいな状態だった。

日本では、「政府」は、主に内閣及び行政の官僚機構のことを指す。これに対し、一般に「国」と言う場合は、行政府と立法府を指す。「政府」の中に、国会は含まない。また、国会、内閣及び行政機構、裁判所を合わせた国家機関をまとめて言う用語も必要である。
 そこで、私は、次のように使用することを提案する。

1.「内閣及び行政の官僚機構」を言う場合は、「政府」と言う。英訳は、government
2.行政府と立法府の意味で一般に「国」と言う場合は、「国の行政・立法機関」と言う。英訳は、administrative and legislative organs of the State
3.国会、内閣及び行政機構、裁判所を合わせた国家機関をまとめて言う場合は、「国の統治機関」と言う。英訳は、sovereign organs of the State

 

本章の規定の基礎となる統治権の根源と歴史については、以下の拙稿をご参照のこと。

「新憲法へ――改正の時は今」の第9章〜第11

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第三章 国旗・国歌

 

ここで私はもう一つ新しい章を設けて、国旗・国歌について、憲法に規定したいと思う。提案者は、愛知和男氏である。国旗・国歌は一旦法律に定めた以上、簡単に改正できる法律ではなく、憲法に規定したほうがよいと考える。

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◆ほそかわ案

(国旗及び国歌)
第十二条 日本国の国旗は「日の丸」である。
2 日本国の国歌は「君が代」である。
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第四章 安全保障

 

(1)安全保障

 

昭和憲法の最大の問題点は、第九条にある。今回の憲法改正においても、焦点の第一となる。条文は以下のとおりである。

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●昭和憲法

 

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

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 私はこの条項は全面的に書き改める必要があると考える。理由は、別に詳しく書いたものがあるので、それをご参照願いたい。
 「国防は自然権であり堤防のようなもの
 「国防を考えるなら憲法改正は必須」  

 最初に自民党の改正案(第1次案)を見てみよう。

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●自民党案

第二章 安全保障

(安全保障と平和主義)
第九条 日本国民は、諸国民の公正と信義に対する信頼に基づき恒久の国際平和を実現するという平和主義の理念を崇高なものと認め、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求する平和国家としての実績に係る国際的な信頼にこたえるため、この理念を将来にわたり堅持する。
2 前項の理念を踏まえ、国際紛争を解決する手段としては、戦争その他の武力の行使又は武力による威嚇を永久に行わないこととする。
3 日本国民は、第一項の理念に基づき、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動に主体的かつ積極的に寄与するよう努めるものとする。
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 章の題名が、「安全保障」となっている。これは適当なものであって、独立主権国家が憲法に設けるべき章は、「戦争の放棄」ではなく、国家安全保障である。自民党案の条文は、昭和憲法第九条1項のみを、詳しく書き改めたものである。第2項については、新たに一つの条を立てている。これは後に見ることにして、まず昭和憲法第九条の第1項に当たる部分について、私見を述べたい。
 「諸国民の公正と信義に対する信頼」という文言は、昭和憲法の前文の文言に基づいている。そして、「諸国民の公正と信義に対する信頼に基づき恒久の国際平和を実現するという平和主義の理念」と続く。これは、当初、日本を非武装化しようとしたGHQの意思を想起させ、占領政策の影響から抜け出られていない。また、ここまで言葉を費やして書く必要はない。もっと簡潔に、日本国民の国際平和への願いを表現できる。
 続く、第2項は昭和憲法の第1項と趣旨は変わらない。3項は新たな内容であるが、「国際的に協調して行われる活動」に、集団的自衛権の行使を含むのかどうかが不明である。

 昭和憲法の第九条2項では、戦力不保持・交戦権否認を定めていた。その規定が侵略戦争についてのみなのか、自衛戦争まで含むのか、自衛隊は「戦力」に当たるのか、自衛戦争の場合の「交戦権」は保持するのか等について、スコラ論議のような議論が何十年もの間、続けられてきた。
 この点、自民党案は、「自衛軍」を保持するとしている。内容は以下の通りである。

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●自民党案

(自衛軍)
第九条の二 侵略から我が国を防衛し、国家の平和及び独立並びに国民の安全を確保するため、自衛軍を保持する。
2 自衛軍は、自衛のために必要な限度での活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動並びに我が国の基本的な公共の秩序の維持のための活動を行うことができる。
3 自衛軍による活動は、我が国の法令並びに国際法規及び国際慣例を遵守して行わなければならない。
4 自衛軍の組織及び運営に関する事項は、法律で定める。

(自衛軍の統制)
第九条の三 自衛軍は、内閣総理大臣の指揮監督に服する。
2 前条第二項に定める自衛軍の活動については、事前に、時宜によっては事後に、法律の定めるところにより、国会の承認を受けなければならない。
3 前二項に定めるもののほか、自衛軍の統制に関し必要な事項は、法律で定める。
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 国際社会とわが国の安全保障の現実を踏まえ、昭和憲法第九条の欠陥を是正するものとして、私はこの条文案を評価できる。ただし、自民党案は「自衛軍」を持つとするが、私は、日本国が主権独立国家である以上、保持すべきものは「国軍」だと思う。また、国防だけでなく国際平和維持活動をも担う集団は、軍隊であり、その持つ力は戦力である。「自衛軍」が単に自国の防衛だけでなく、「国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動」を行うというのは、国際社会では通用しない言葉の綾だと思う。こういう下手なレトリックは、やめにしたい。

自民党案の最大の欠陥は、国防の義務を定めていないことである。これは独立主権国家としても、またデモクラシー国家としても、憲法上、致命的な欠陥である。そのほかにもいくつかの不備がある。

総じて自民党案は、昭和憲法の第九条の解釈を拡大し、なし崩しにしてきた現状を追認し、自衛隊を自衛軍と呼び換えた程度の内容である。


 私は、これに対し、新憲法の安全保障の章には、以下のような要素を盛り込む必要があると考える。

 国際平和の希求/侵攻戦争の否定/平和的解決への努力/個別的集団的自衛権の保有と行使/国民の国防の義務と権利の一時的制限/国軍の保持/国際平和維持のための協力/最高指揮権の所在/軍の活動への国会の承認/軍人の政治への不介入/軍人の権利の制限/軍事裁判所

 以下、私案を示す。

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◆ほそかわ案

(国際平和の希求、侵攻戦争の否定)
第十三条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国際紛争を解決する手段としては、戦争その他の武力の行使又は武力による威嚇を永久に行わないこととする。
2 前項の目的を達するため、我が国は国際条約を遵守し、国際紛争を平和的手段によって解決するよう努める。

(自衛権、国防の義務と権利の制限)
第十四条 日本国民は、国家の平和と独立、国民の生命と財産、自国の伝統と文化を守るため、自衛権が自然権であることを確認する。
2 わが国は、自衛権の一部である集団的自衛権を保有し、平和を維持するため、国際的な相互集団安全保障制度に参加することができる。
3 日本国民は、統治権を共有する者として、国防の義務を負う。また、国家防衛と治安維持のために、必要最低限度において、自由と権利の制限を受ける場合がある。
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 第3項の国防の義務については、フランス革命の1789年人権宣言を思い起こしたい。同宣言は、第12条に「人及び市民の権利の保障は、公の武力を必要とする」とし、強力な武力の存在を前提としている。国防力が前提になければ、個人の基本的な権利は保障し得ないわけである。また、人権宣言には、自分たちの権利を保障するのは、他ならぬ自分たち自身であり、国防は、自分たちの権利を守るための当然の義務だという考えが表されている。国民が互いの生命・財産、自由と権利を共同で守る。これが、近代西洋におけるデモクラシーなのである。

 次に、同じく第3項の必要最低限度における自由と権利の制限についていうと、デモクラシーとは、国家が個人の自由を無制限に認めることではない。国家が個人の権利を制限する時には、法律によらなければなければできないとする政治制度のことである。現実的には、国防や治安維持等の公益の実現をめざして国家が機能するためには、個人の自由と権利が制限されることがあり得る。
 問題はその決め方であり、その手続きが法律で明らかにされ、無法な権利の制限や独裁を防ぐという仕組みが、立憲デモクラシーである。これは、如何なる場合にも一切の権利の制限を否定する、ということとは違う。内乱によって政府が機能しなくなり、または戦争によって国家が滅んだら、国民個人を保護するものはなくなってしまう。
 他国の侵攻を受けた場合や、国内の治安が大乱れた場合のような非常時には、国民全体のために個々人の自由と権利の制限が行われる場合があることを、憲法に規定しておく必要がある。

さて、国軍については、なぜ保持するかという目的と、国軍の役割を明記したい。国軍の最高指揮権は、内閣総理大臣に帰属するとともに、国家安全保障会議を組織し、その下で国防及び国際協力活動を行うとすることが望ましいと思う。

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◆ほそかわ案

(国軍)
第十五条 外国からの武力攻撃やテロリズムから我が国を防衛し、国家の平和及び独立並びに国民の生命及び財産を保守するため、国軍を保持する。
2 国軍は、自衛のために必要な限度での活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動並びに我が国の基本的な公共の秩序の維持のための活動を行うことができる。
3 国軍による活動は、我が国の法令並びに国際法規及び国際慣例を遵守して行わなければならない。
4 国軍の組織及び運営に関する事項は、法律で定める。

(国軍の統制)
第十六条 国軍の最高指揮権は、内閣総理大臣に属する。
2 内閣総理大臣は、国家安全保障会議を組織し、これを統括する。国家安全保障会議については、法律で定める。
3 前条第2項に定める国軍の活動については、第十九条に規定される非常事態宣言が発せられている場合を除いては、国会の承認を必要とし、動員には、外国の侵攻を受けた場合またはその危険が切迫した場合の他は、国会の事前の承認を必要とする。
4 前3項に定めるもののほか、国軍の統制に関し必要な事項は、法律で定める。
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 非常事態宣言については、この安全保障の章の後半に定める。

 
 次に、国軍を保持するに当たり、軍人の地位について、憲法に定めて置く必要がある。以下に私案を記す。

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◆ほそかわ案

(軍人の地位) 
第十七条 現役の軍人は、内閣総理大臣及びその他の国務大臣になることができない。
2 軍人については、軍隊の規律を保ち、その任務を遂行するに必要な限度において、第五章の規定の適用を排除することができる。

(軍事裁判所)
第十八条 軍人は、軍事上の犯罪について、軍事裁判所の管轄に服する。
2 軍事裁判所は、最高裁判所の統括管理に服せず、内閣総理大臣がこれを統括管理する。
3 軍事裁判所の組織、訴訟手続については、法律でこれを定める。
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 私案第十七条の1項は、軍人の政治への不介入を定めるものである。戦前、軍部大臣現役武官制がわが国の政治をおかしくした。これに対し、昭和憲法では「文民統制」という訳語で、シビリアン・コントロールが規定されたが、「文民」は「武官」または「軍人」と対になるべき言葉である。官僚をいうなら「文官」「武官」とすべきものである。「文官」という言葉を避けるのなら、「軍人」と「非軍人」という対にしたほうがわかりやすいと思う。
 「軍人は政治に介入すべからず」という明治天皇のご遺訓を、新国軍の軍人・武官は肝に銘じなければならない。

 

(2)非常事態宣言

 

昭和憲法には、非常事態条項がない。戦争、大規模災害、経済恐慌等が起こったとき、対応が出来ない。新しい憲法には、万が一のための非常事態条項を設ける必要がある。自民党の改正案には、この条項がない。国家の危機管理上、大きな欠陥である。
 日本会議による「新憲法の大綱」(平成13年版)は、この条項に関し、以下のような要綱を示している。

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●日本会議案

(1)我が国が外国から武力攻撃を受け、またはその危険が切迫している場合、及び内乱・騒擾、大規模自然災害等の非常事態が生じた場合、内閣は国会の事前又は事後の承認のもとに、政令により、非常事態宣言を発することができる。非常事態においては、国軍の出動を命じ、法律に定めるところにより、非常事態が解消されるまで一定の権利の制限を行うことができる。事後の承認が得られなかった時、また非常事態が終了したと認められた時は、政府は解除宣言を発しなければならない。
(2)右の非常事態及び経済恐慌その他の緊急やむを得ざる事態において、国会が閉会中のときには、内閣は緊急命令と緊急財政処分の命令を制定することができる。緊急命令と緊急財産処分の命令は、すみやかに国会の事後承認を得るものとする。事後承認が得られなかった時、また緊急やむを得ざる事態が終了したと認められた時は、政府は失効宣言を発しなければならない。
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 また、日本青年会議所の条文案は、以下のようである。

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●JC案

(緊急事態宣言)
第七十一条 内閣総理大臣は、国の安全または国民の生命もしくは財産に重大な影響を及ぼすおそれのある緊急事態が発生したときには、緊急事態宣言を発することができる。
A 前項の場合には、内閣総理大臣は、法律に基づいて、軍隊およびすべての行政機関を統制することができる。
B 内閣総理大臣は、緊急事態の宣言を発したときは、二十日以内に国会に付議して、その承認を得なければならない。
C 緊急事態宣言が発せられている間は、国会を解散してはならない。
D 国会が緊急事態宣言を承認しなかったとき、または緊急事態宣言の必要性がなくなったときは、内閣総理大臣は、すみやかに緊急事態宣言を解除しなければならない。
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 日本会議、JCとも、基本的には同じ趣旨のことを表している。その内容を理解する人は、こうした非常事態条項が昭和憲法になかったことに、疑問を感じるだろう。なぜなかったか。昭和憲法が占領下において制定されたことに、理由がある。我が国には主権がなく、実質的な主権はマッカーサーの手の内にあった。もし占領下の日本に非常事態が生じた場合は、マッカーサーが対応する立場にあった。非常大権が占領者にあるという支配構造のもとでは、憲法に非常事態条項を規定する必要がなかったのである。

 では、占領が終了し、わが国が独立を回復した後はどうだったのか。もしわが国に内乱が起こったり、他国の侵攻を受けたり、首都が機能麻痺に陥る大地震が発生したような場合は、どういう対応がなされるだろうか。憲法には、何も規定はない。日本国政府は、何もしないか、超法規的な判断で対応するしかないわけである。
 もし憲法を停止しなければならない事態が生じたならば、どうなるか。現状では、日米安保体制によって、アメリカ軍が再び日本を統治する以外にないだろう。つまり、アメリカ大統領が日本を統治することになるわけである。これでは、日本は自主独立国とは言えない。私が、日本は、現在なお根本的には、アメリカを宗主国とする従属国、また同じく保護国とする被保護国といういわば半植民地の地位にとどまっている、と考える所以の一つである。

 一家でも、会社でも、国家でも、万が一の時に、誰が指示してどう行動するかの備えや訓練をしていなければ、大混乱に陥るだろう。憲法に非常事態条項を設け、その下に備えと訓練を行うこと。それは、国民が自らの生命と財産を守り、自国の主権と独立を守るために必須のことである。そして、わが国が、敗戦後、失った主権を全面的に回復するには、憲法に、先に書いた安全保障条項だけでなく、同時に非常事態条項を盛り込むことは、不可欠の課題である。自民党の憲法改正案は、こうした認識に欠けるところがある。
 非常事態条項に関する私案は、以下のとおりである。

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◆ほそかわ案

(非常事態宣言)
第十九条 我が国が外国から武力攻撃を受け、またはその危険が切迫している場合、及び内乱・騒擾、大規模自然災害等の非常事態が生じた場合、内閣総理大臣は国会の事前又は事後の承認のもとに、政令により、地域及び期間を決め、非常事態宣言を発し、必要によって緊急命令を発することができる。
2 内閣総理大臣は、非常事態において、国軍の出動を命じ、法律に定めるところにより、非常事態が解消されるまで一定の権利の制限を行うことができる。
3 非常事態における行政事務は、法律の定めるところにより、必要やむを得ない範囲のものに限り、国軍によつて行なわれる。
4 非常事態にかかる地域については、やむを得ない事情のある場合に限り、公共の利益のため、住民の居住、移転、集会、表現等の自由と、財産等の権利に関し、この憲法の規定にかかわらず、政令で、これらの規定と異なる定めをすることができる。
5 緊急を要する租税その他の公課、政府専売品の価格又は通貨に関する措置を必要とするときは、内閣は、国会の事前の承認なくして政令で緊急の措置を行うことができる。
6 前4頃、5項に規定するもののほか、非常事態宣言に関し必要な事項は、法律で定める。

(非常事態宣言の承認と解除)
第二十条 内閣総理大臣は、非常事態宣言並びに緊急命令を発したときは、すみやかに国会に付議して、その承認を得なければならない。
2 非常事態宣言の発令後、国会の承認を得られなかった時、また非常事態が終了したと認められた時は、内閣総理大臣は、すみやかに非常事態解除宣言を発しなければならない。
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 私は、内閣総理大臣が職務を遂行できないときに関して、憲法に代務者を規定しておくべきと思う。昭和憲法には、これもなかった。非常事態にかかわらず、平時においても国家最高指導者の代務者の代行の順位を、定めておかねばならない。また、特に中央政府が大地震、テロ等で機能しない状態になった場合も想定し、下位の代務者は地方にも選定しておく必要があると思う。条項としては、第七章「内閣」に定めるが、以下のようなものである。

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◆ほそかわ案

(内閣総理大臣の代務者)
第九十九条 内閣総理大臣及び内閣総理副大臣にともに事故あるとき、または内閣総理大臣及び内閣総理副大臣がともに欠けたときは、以下の順位に従って、すみやかに代務者がその職務権限のすべてを代行する。
一 内閣官房長官
二 外務大臣
三 財務大臣
四 総務大臣
2 前項に定める代務者が代行を行えず、または政府が機能しない事態が生じた場合は、以下の順位に従って特別代務者が代行する。
一 東京都知事
二 大阪府知事
三 愛知県知事

3 前2項の第四位以下は、人口の多い府県の順に、その知事とする。
4 代務者または特別代務者は、その置くべき事由がやんだときは、すみやかにその職を退くものとする。
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 以上が私案である。内閣総理副大臣は、新内閣が組閣されたとき、首相が指名することとする。この点は、第九十八条に定める。ページの頭へ

 

 

第五章 国民の権利と義務

 

(1)権利と義務

 

昭和憲法は、第三章に「国民の権利と義務」を置いている。非常に長い章であり、課題も多いので、内容ごとに検討していきたい。
 まず、いわゆる「基本的人権」についてである。昭和憲法は、「国民の権利と義務」の第十一条と「最高法規」の第九十七条に以下のように定めていた。

●昭和憲法

第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。

第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪え、現在及び将来の国民に対し侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
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 ここには、憲法が日本国民に保障する「基本的人権」は、一方で、人間が生まれながらに有する天賦の権利だという思想と、「人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果」だという思想とが示されている。このことは「人権」の概念のはらむ矛盾を示してもいる。
 天賦生得の権利という面をより明確にしようとするのが、JCの案である。

●JC案

(基本的人権の総則)
第十四条 国民は、生まれながらにして、すべての基本的人権を享有し、人間として尊重される。基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である。
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 この案では、「国民は、生まれながらにして、すべての基本的人権を享有し、人間として尊重される。」としている。しかし、「人権」とは、人類の歴史上、きわめて新しい概念であり、現在の地球において、人権の尊重とは異なる価値観をもった国々が多数ある。東アジアの中国、北朝鮮は、その代表格であろう。
 「人権」は、決して普遍的な価値ではなく、近代西洋に発達した思想であるが、なぜ人間は生まれながらに人間としての権利を持つと考えるのか、その根拠は必ずしも明確ではない。
 わが国では、明治憲法において、「臣民」の権利として、はじめて近代西洋的な権利の概念が定められた。その権利は、天皇が国民に与えたものであった。すなわち、闘争によって人民が君主から勝ち取ったのではなく、恩賜によって君主から人民に授けられたものである。このようなわが国の独自性の検討なしに、「人権」の概念を用いることは、安易だと思う。

 「人権」とは、「人間」の「権利」であるが、「人間」とは何か、その人間の基本的な「権利」とは、何かを掘り下げて検討する必要がある。
 すべての人間は、人間として尊重されなければならないと私は考える。それは、人間には、人格があるからである。ものでもなく、動物でもなく、人間は人間として、成長する。その核となるのが、人間としての資格であるところの人格である。人格を有するからこそ、人間は尊重されねばならない。そして、自由及び権利は、その人格の形成・成長・発展のために、必要な条件として保障されねばならないと私は考える。自由や権利そのものが、目標ではない。人格の向上・完成がめざすべき目標なのである。また、人格とは、家族・地域・社会における具体的な人間関係の中で形成され、成長・発展するものである。自他が相互的・共同的に向上を促し、助けるものが人格である。
 私は、人格という概念を欠いたまま、自由及び権利を追求し、それを憲法で保障することは、自由と権利を目的化し、ひいては利己的個人主義を助長するおそれがあると考える。
 要するに、すべて人は、人格を有する者として尊重されねばならず、また人格の形成・成長・発展ができるように、自由及び権利が保障されねばならない。保障する主体は、国家(国の統治機関)である。

 さて、わが国の憲法が保障するのは、日本国民としての権利であって、人間一般の権利ではあり得ない。なぜならば、この憲法は、日本国の憲法であって、世界国家の憲法ではないからである。
 国際連合の「世界人権宣言」は「宣言」であって、憲法ではない。憲法の場合は、政府がその規定に反する行為を行ったときは、その責任が問われる。しかし、国際連合は、「宣言」を発することにより理想目標を示しているにすぎない。
 国際連合の加盟国は、「宣言」の理念に基づきつつ、自国の憲法により、国民に対して、その権利を保障する。国民は、その権利に伴う義務を負う。「世界人権宣言」は、直接、各国の国民個人に義務を課すものではない。加盟国に対しても、勧告はしても罰則は与えない。
 このような現状を踏まえるとき、日本国の憲法が国民に保障するものは、人間一般の権利ではなく、日本国民としての権利である。また、その権利は、「基本的人権」という抽象的な権利ではなく、「国民としての重要な基本的権利」として定めるべきであると思う。
 以上のような考えに基づいて、私案を次に示す。

 

 

◆ほそかわ案

(重要な基本的権利の享有)
第ニ十一条 すべての国民は、人格を有する者として尊重される。
2 この憲法は、国民に対し、国民が自らまた相互に人格を形成し、成長させ、発展させることができるように、自由及び権利を保障する。
3 この憲法が国民に保障する重要な基本的権利は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与えられる。
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 私は、国民には将来、その地位にある者を含み、また人間は人格を持つものとして尊重されねばならないと考えるので、胎児に対しても将来の国民としての地位と人格を求める。その観点から、胎児の人口中絶・堕胎に反対することを申し添えたい。

 

先述したように、自由と権利は、人格の形成・成長・向上のための条件として、保障されるべきものである。自己だけではなく、他者にも人格があり、互いにその人格を尊重し合わねばならない。そのような人格的な人間関係にあるがゆえに個人の自由には責任が、権利には義務が伴う。新しい憲法には、このことを明確に規定すべきだと思う。
 この点に関し、自民党の改正案を見てみよう。

●自民党案

(国民の責務)
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、保持しなければならない。国民は、これを濫用してはならないのであって、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う。
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 この改正案が、昭和憲法の規定(第十二条)と異なる点は、3点ある。第一は、「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、」という文言が加筆されていること。第二は、「公共の福祉」という言葉を、「公益及び公の秩序」に変えていること。第三は、国民は自由及び権利を「常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。」となっていたのを、「常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う。」と変えていることである。

 これについて私見を述べると、第一の点については、異論ない。第二の点については、「公共の利益」という言葉を使用するのがよいと思う。利益のなかには、国家的社会的な秩序も含まれる。また、相互の人格の向上も含まれる。
 第三の点については、自由と権利の「濫用」を禁止するのは、自他の人格を認めるがゆえに、他者の自由と権利を尊重する態度の表れである。「公共の利益」に「反しないように」というのは、「他者に危害を与えない限り」という原則に立った表現としたい。また、「公共の利益」については、それに反しないようにするという消極的な態度では足りない。人格的な個人が自由を享受し、権利を行使するに当たっては、「公共の利益」の実現のために努力する責任を負うという積極的な規定にするのがよいと思う。

 私が思うに、個人の自由は、他者の自由を尊重しつつ享受されるのでなければならない。他者の自由を侵害したり抑圧することは、避けねばならない。これは、人間は社会的存在であり、共同的に生活する存在である以上、当然のことである。そこに各自の自由の追求・拡大は、社会的責任を伴う。
 また、個人の権利については、権利と義務のバランスがデモクラシーの基礎であることが重要である。デモクラシーとは、「民衆が政治権力に参加する制度」である。権利と義務は表裏の関係にあり、義務の範囲が権利の制限にもつながる。日本以外の国では、憲法に国法の遵守、国防の義務等が明記されている場合が多い。これらは、非常に重要な規定である。後に具体的に述べることにする。
 ここで述べたいこととしては、国民の権利を保障しているのは国家であるから、その国家が保護されなければ、誰も国民の権利を保護できないという事実である。この事実を理解していないと、国民の権利は宙に浮いた観念に過ぎないものとなる。その国家を保護するものは、その国民以外にはない。それゆえ、国民は自分の権利を守るためには、自ら国家を守らなければならない。これは、デモクラシーを採用している国においては、当然のことである。そこに、国防の義務が、国民にとって当然の義務として発生する。外国権力から自国のデモクラシーを守ることができなければ、自主独立のデモクラシー国家とはいえない。

 そもそもデモクラシーとは、国家が国民の権利を保障するかたわら、国民はその国家を守る責任と義務があることによってのみ成り立つ政体である。デモクラシーは、国民が国家に何を成すべきかで成り立ち、維持される。つまり、国民が国家に対して責任を負うことなくしては成り立たない。この責任は、国家のためではなく、国民相互のためである。それがデモクラシーである。そしてこの本質は、君主制のもとでも共和制のもとでも同じである。
 明治以来、立憲君主制を取っているわが国もまた、上記のような国家と国民の関係を持ったデモクラシーを政体としている。新しい憲法には、この点をおさえた上で、日本国民の権利と義務について定め直す必要があると思う。

 

次に、個人と社会、自由と責任、権利と義務に関する条項は、「個人の尊重」に関する条項と併せて、検討する必要があると思う。ここでも自民党の案を見てみよう。

●自民党案

(個人の尊重等)
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
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 昭和憲法の条文との違いは、「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」と言い換えたのみである。
 私は、「すべて国民は、個人として尊重される。」という一文は、狭く解釈されるおそれがあり、言葉を補う必要があると思う。狭くとは、この条文だけを取り出して、条文にある「個人」を、共同体や伝統・歴史から切り離された抽象的な個人と解釈する仕方である。この解釈と、「人権」を擬似普遍的なものとみなす思想とが結びつくと、憲法が利己的個人主義を助長するという、昭和憲法の下での愚かな過去を繰り返すことになる。
 人間は、各人が「個人」であり、個人は社会の最小単位ではある。しかし、同時にその「個人」とは、親から生まれ、先祖を持ち、また男女のどちらかであり、異性と結びつき、子供を生み育てなければ、生命を継承できないものである。国民個々に生命の継承ができなければ、国家もまた存続しない。
 このことを明確にするため、私は「個人」について、「家族・社会・国家の一員である個人」と加筆したいと思う。人間の持つ個人性と社会性という二重の性格を強調する表現である。

 個人の権利については、「最大の尊重を必要とする」と同時に、社会の秩序を維持し、公共の利益を増進するために、政令または法律をもって制限し得る旨も規定しておく必要がある。デモクラシーとは、個人の自由と権利を無制限に認める制度のことではない。それらに制限を加えるときは、法によらなければできないという制度である。
 近代西洋式のデモクラシーを異文明の文化要素として外から摂取し、デモクラシーの思考や制度が未成熟なまま、主権在民となったわが国では、こういう基本的なことを憲法の要所要所に書き込んでおく必要があると思う。
 少子化とともに劣子化も進みつつある。わが国の将来を見据えて、私は日本の再建のために、このことを提案するものである。
 また、条項に飛び飛びに書いてあって、専門家がつなぎ合わさなければ、ひとまとまりの意味を成さないような規定の仕方はよくない。権利と義務というような重要な事柄に関しては、一つの条項に集約して規定すべきと思う。

 以上、検討してきたことをもとに、私案を記す。

◆ほそかわ案

(国民の義務)
第ニ十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、保持しなければならない。国民は、これを濫用してはならないのであって、自他の人格を認め合い、互いの自由と権利を尊重しなければならない。
2 国民は自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しなければならない。自由の享受、権利の行使には、公共の利益の実現のために努力する責任を負う。

(個人の尊重等)
第ニ十三条 すべて国民は、家族・社会・国家の一員である個人として尊重される。
2 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の利益に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
3 前2項の権利は、公共の利益の実現のために、法律をもって制限される場合がある。ただし、第十九条に定める非常事態においては、この限りではない。
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(2)遵法の義務

 

昭和憲法は、権利と義務のバランスがとれていなかった。国民の義務として定めているのは、教育・納税・勤労の三つのみである。しかし、自分の子供に教育を受けさせるのは親として当然のことであり、むしろ政府に対して子供が教育を受ける機会の保障を求めることは、権利であるという面がある。勤労もまた、義務よりも権利の面を強く持ち、政府に対して雇用の機会の実現を求めることは、労働者の権利である。また、勤労しない者が、罰せられるわけではない。何かの事情により勤労していない者も、社会保障の対象となる。
 このように考えると、昭和憲法において、純粋に義務といえるのは、納税だけである。これは、憲法が保障する権利の大きさに比べ、バランスを欠いている。しかも、税金だけ納めていれば、あらゆる権利を保障されるというのは、デモクラシーの原則を逸脱している。

 私は、新しい憲法においては、権利に相当する国民の義務として、国防の義務と遵法の義務を定める必要があると思う。国防の義務については、第四章「安全保障」に書いた。遵法の義務については、憲法及び法律を遵守するのは、法治国家の国民として当然の態度である。わが国の統治権は、日本国民の共同体に発する。国民の意思を合成して正当な手続きを踏んで制定された法を無視したり、法に違反したりすることは、国民の共同体に対する背反である。その共同体の決め事に従わない者は、法律に従って罰せられる。国民は、自らの権利によって法を定めるとともに、その法を守る義務を負う。この点を踏まえ、憲法には、統治権すなわち主権について定めると同時に、遵法の義務も定めるべきものと思う。教育においても、国民の子供に対し、統治権を保有及び行使する者としての自覚を養うとともに、遵法の精神を積極的に教える必要があると思う。
 昭和憲法は、この点にも弱点があった。改善を行わないと、自分の自由と権利には敏感だが、政治や社会問題に関心が低く、選挙には行かず、法や道徳に無頓着で、社会貢献の意識も薄いというような、成年になりながらも社会人としては未成熟な国民を、生み出し続けることになると思う。

私は、端的に以下のような条文を提案する。

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◆ほそかわ案

(遵法の義務)
第二十四条 国民は、憲法その他の法令を遵守しなければならない。
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 昭和憲法では、第九十九条に「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」として、憲法遵守義務を定めていた。しかし本来は、国民全体が憲法その他の法令を守る遵法の義務を負うものである。昭和憲法は、GHQが作った憲法を天皇・国務大臣・公務員等に守らせるという意味合いがあったのだろうが、新憲法は日本人自身の手で制定するものであり、それを定める国民みなが遵守すると定めるべきである。また、この条項を設ければ、昭和憲法の第九十九条のような条項は必要ない。

 

(3)法の下の平等


 いわゆる「法の下の平等」に関する条項に関し、自民党案は、昭和憲法の表記を現代文に直しただけである。

●自民党案

(法の下の平等)
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受けるものの一代に限り、その効力を有する。
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 私は、天皇及び皇族に関して、本条の「法の下の平等」との関係に誤解のないように、項目を補ったほうがよいと思う。また、栄典については、年金等については「特権」には含まれないことを加筆するとよいと思う。

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◆ほそかわ案

(法の下の平等)
第二十五条 すべての国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的または社会的関係において、差別されない。
2 前項に関し、天皇及び皇族については、この憲法の第一章及び皇室典範に定めるところによる。
3 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
4 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。ただし、法律で定める年金その他の経済的利益の付与は、この限りではない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受けるものの一代に限り、その効力を有する。
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(4)公務員の選定・罷免

 

公務員の選定・罷免は、国民の重要な権利である。公務員とは、一般に政府または地方公共団体の公務に従事する者をいう。そのうち昭和憲法で選定・罷免の対象となっていたのは、実際のところ国会議員、地方公共団体の首長及びその議会の議員が主である。最高裁判所裁判官は、選定権はないが国民審査によって罷免は行い得る。それ以外の事務職員まで、すべて選挙で選任等をするわけではない。新しい憲法では、国民が選定・罷免する公務員の範囲を明確にする必要があると思う。

 次に、政府または地方公共団体の公務員のうち、重要な役職に就任する者は、日本国民であることを要件とすると定めたい。私は、国会議員、地方公共団体の首長及びその議会の議員と、それ以外の公務員のうち管理職に就く者は、日本国籍保有者に限るとすべきと思う。これは、国家機密の保持や安全保障の必要による。
 次に、公務員の権利及び責務については、その職務の性質に応じて、必要な最小限度の権利の制約または責務の加重を受ける場合があることを明記すべきと思う。それが嫌な人は、公務員にならなければよいのである。国民の税金で雇っている以上、国民はこの点について、意思を表すべきである。
 また、公務員の給与について、昭和憲法では裁判官の報酬についてのみ定めがあるが、公務員一般については言及がない。わが国は、「官僚天国」「天下り天国」と言われる。「官僚栄えて国滅ぶ」となっては、デモクラシーの腐敗形態である愚民政治の極みとなろう。私は、憲法に公務員の給与について、原則的なことを規定すべきだと思う。

◆ほそかわ案

(公務員の本質、公務就任の要件、権利および責務、給与)
第二十六条 すべて公務員は、国民全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
2 公務員のうち、国会議員、地方公共団体の首長及びその議会の議員、またはそれ以外の公務員のうち管理職に就任する者は、日本国民であることを要件とする。
3 公務員は、その職務の性質に応じて、必要な最小限度の権利の制約又は責務の加重を受けることを妨げない。
4 公務員の給与は、民間人の給与に比べ、著しく高額になってはならず、適正を欠いてはならない。また、公務員退職者が、過去の地位を利用して、公的機関において、不当に高い給与を得てはならない。

(公務員の選定及び罷免の権利、普通選挙の保障、秘密投票の保障)
第二十七条 国会議員、地方公共団体の首長及びその議会の議員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
2 前1項の公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
3 すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
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(5)請願権・国家賠償請求権等

 

請願権・国家賠償請求権・奴隷的拘束等については、昭和憲法の内容を特に変える必要はないと思う。

◆ほそかわ案

(請願権)
第二十八条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令または規則の制定、改正もしくはその廃止その他の事項について、平穏に請願する権利を有する。
2 何人も、前項に規定された請願を行ったことを理由として、いかなる差別も受けることがなく、また、いかなる不利益も被ることがない。

(公務員への賠償請求権)
第二十九条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国または地方公共団体に、その賠償を求めることができる。

(奴隷的拘束と苦役の禁止)
第三十条 何人も、国または地方公共団体によって、いかなる奴隷的拘束も受けない。また、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
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(6)思想及び良心の自由

 

昭和憲法は、第十九条に「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」と定めていた。いかなる思想も道徳的価値観も、個人がその心の中で持つことは、自由である。ただし、それが表現や社会的な行動に移されるときには、表現の自由等との関係が出てくる。この点については、その項目のところで述べたい。また、自分の良心に反する信念や行動を強制されることのないことを、憲法は保障することが必要である。
 条文は、昭和憲法のままでよいと思う。

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◆ほそかわ案

(思想及び良心の自由)
第三十一条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
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(7)信教の自由


 信教の自由は思想および良心の自由と関係が深い。信教の自由とは、どのような宗教を信じることも、また信じないことも自由であることである。思想及び良心の自由との違いは、宗教を対象とする点である。そして、宗教の場合、ここに国家と宗教、政府と宗教団体の関係という問題が出てくる。

 国家と宗教、政府と宗教団体の関係について、一般に「政教分離」ということがいわれる。昭和憲法自体には「政教分離」という言葉は使われていない。国家と宗教、政府と宗教団体の関係についての条項の内容を集約して、「政教分離」と言っているものである。
 昭和憲法で、国家と宗教の関係を定めているとされるのは、第二十条とともに第八十九条である。

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●昭和憲法

第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
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 これらを合わせて、一般に「政教分離規定」という。政教分離とは、第二十条の冒頭に明らかなように、信教の自由の保障を目的とする制度である。その手段として、国家と宗教団体との過度の関わりを排するものである。
 昭和憲法に定める政教分離とは、国家と宗教の分離ではない。つまり、国家と宗教を厳密に分離して国家が宗教と一切の関係を持たないということを定めているのではない。国家が特定の宗教団体に対して援助・助長、又は圧迫してはならないということを定めたものである。

 この問題は重要であり、新憲法では、わが国における政教関係について、より明確にする必要があると思う。その際、欧米諸国との比較した上で、わが国固有の伝統や慣習が尊重されなければならない。

 

昭和憲法の「政教分離規定」の意図するものは何か。現行憲法の制定にあたったGHQの当事者は、政教分離規定は「国家と宗教の分離(Separation between State and Religion)」ではなく、「国家と宗教団体の分離(Separation between Church and State)」であると明言している。また、条文にいう「国」とは、Stateつまり政府のことであり、Nationつまり国民共同体としての国家のことではない。現に第二十条1項は、宗教団体について、「国(=政府)から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」としている。また第八十九条も、政府及び公的機関による宗教団体への助成を禁止する条項である。
 つまり、昭和憲法の規定の趣旨は、「政府(State)と宗教団体(Church)の分離」であって、国民国家(Nation)と宗教(Religion)の分離ではないのである。ところが、憲法学者の宮沢俊義らは、国家から宗教を完全に排除する厳格分離説を主張する。これは、明らかに条文を曲解したものである。
 もし厳格分離説を取るならば、多くの面に混乱を生じる。宗教法人が経営する学校や、特定の宗教を信奉する私立学校には、政府からの補助が禁止されねばならず、経営が困難になる。また、国宝や重要文化財に指定されている神社や仏閣等の宗教的文化財への補助金も支出できなくなる。それゆえ、宮沢説は、歴史や伝統に基づくわが国の現実を無視した観念論に過ぎない。

 司法においては、最高裁が昭和52年7月の津地鎮祭訴訟で、三重県津市が市立体育館の起工に当たり、神道式地鎮祭を行ったことに関する訴訟において、市が神職への謝礼と供物料を公金から支出したことを合憲とした。その際、判決の中で、次のような判断基準を示した。すなわち、目的が宗教的な意義をもち、その効果が特定の宗教を援助、または他の宗教を圧迫するような場合でない限り、憲法に違反しないという、いわゆる「目的効果基準」である。
 この規準は、仮に憲法が国家と宗教の完全な分離を理想としていたとしても、現実の国家制度としては、自国の社会的・文化的諸条件に照らして、国家と宗教とのある程度のかかわり合いは認めざるを得ないという判断に基づくものである。
 「目的効果基準」は、わが国の現実を踏まえて、国家と宗教との関わりを一定限度容認する緩やかな分離主義に則っている。これを限定分離説といい、宮沢らによる厳格分離説を退けるものである。その後、国や地方自治体と宗教との関係をめぐる各地の玉串料訴訟、忠魂碑訴訟などで、この法理論が踏襲されている。これは国民の常識に合致するものである。

 どこの国でも、宗教的な伝統があり、それを尊重している。尊重していないのは、宗教を否定・敵視する唯物論的共産主義の国だけだろう。わが国には、わが国の宗教的伝統があり、それに基づいて国家と宗教の関係を定めればよい。日本国憲法も、国家と宗教の関係を完全に断ち切るものではない。むしろ国民の多くは、家族の葬儀や先祖の慰霊において、神道や仏教の伝統に則っており、葬儀や慰霊を国家行事として行う際、神道や仏教の伝統・慣習に則って行うことは、多くの国民の常識と感情にかなっている。国事殉難者の霊を祀る靖国神社の儀式についても当然、日本固有の宗教性を保持して良いのである。
 国家と宗教の厳格分離説は、西洋近代の思想である合理主義によって、わが国の伝統・慣習・文化・歴史・道徳を否定するものである。それはかえって、特定の思想によって、信教の自由を抑圧するものである。厳格分離説は極端化すると、唯物論による宗教の否定に行き着く。厳格分離を説く論者には、共和制をよしとする者や左翼とそのシンパが多く、一部にキリスト教徒もいることに注意すべきだろう。

 

信教の自由について、自民党の改正案では、昭和憲法の第二十条のうち、第1項・第2項はそのままである。第3項のみ修正を施している。

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●自民党案

(信教の自由)
第二十条 信教の自由は、何人に対しても保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及び公共団体は、社会的儀礼の範囲内にある場合を除き、宗教教育その他の宗教的活動をしてはならない。
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 修正を行っているのは、「国及びその機関」を「国および公共団体」に変え、「社会的儀礼の範囲内にある場合を除き、」という文言を補い、「その他のいかなる宗教的活動」から「いかなる」を取っている。
 この第3項の修正は、明らかに限定分離説に立っており、憲法の条文を改正して、厳格分離説による曲解を防ぐ意図があるものと思う。私は、基本的にこの考え方に賛成である。

 次に、第1項にある「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」という文言をどのように解釈するか。それによっては、改正の必要を生じる。現実問題として、公明党という事実上の宗教政党があり、連立与党になって、国の行政を行っている。わが国はデモクラシーの国家ゆえ、今後、選挙で第1党となることも理論的にはあり得る。

一体、「政教分離」という考え方の発祥の地であるヨーロッパでは、どうなのだろうか。イタリアでは第二次大戦後、「旧キリスト教民主党」が第一党を長く占めた。ドイツでは長期政権だった保守党の名は、「キリスト教民主同盟(CDU)」である。現在の連立政権もCDUが中心となっている。スペインでも「キリスト教民主党」が政党の自由化決定とともに、真っ先に誕生した。これらのキリスト教政党は、キリスト教内の特定の宗派ではなく、広い意味でのキリスト教を政治理念の根本に置いている。
 もしこのような国々を基準に考えれば、宗教政党が政権を担っても、「政教分離」の原則に違反しないことになる。ただし、創価学会は、仏教の一宗派である日蓮正宗の在家団体である。一宗派の、またその一部の信徒集団のみで政党を結成し、それが国政に影響を与えている。欧州にはこれに近い例はない。

公明党は現在、連立与党の一角を占めている。それによって、宗教団体が間接的とはいえ、政治上の権力に参加し、一定程度行使している。そう見て、警戒している人は多いだろう。外国人参政権付与法案や人権擁護法案には、創価学会の教勢拡大の意図があると見られる。何度か国会で「政教分離」の問題が問われはしたが、司法において憲法問題として本格的に審理されるには、到っていない。

 私は、もし宗教団体の政治活動を憲法が規制する場合、何を規制するのか、もっと絞り込む必要があると思う。宗教者にも、政治的な自由は保障されねばならない。しかし、選挙によって、宗教団体が事実上、国家権力を掌握し、権力の行使によって、国民にその信仰を強制するようなことになっては、いけない。そこで、憲法に規定すべきは、宗教団体が政治上の権力を行使して、その特定の宗教または宗派の信仰を、国民に強制してはならないことが第一となると、私は思う。
 次に、第二としては、仮に宗教政党が第一党となり、その政党から首相を出る場合となっても、政府及びその機関は特定の宗教または宗派の活動をしてはならないことだと思う。この際、行政と司法の関係が、非常に重要になる。
 私は、独立の憲法裁判所を新設すべきという考えである。こうした問題を審査できる機関としても、憲法裁判所が必要だと思う。

 上記のような見解に基づき、「政教分離」の規定全体を見直してみよう。自民党案を含むさまざまな憲法改正案において、いわゆる「政教分離」に関する規定は、政府またはその機関を対象とした内容と、特定の宗教・宗派を対象とした内容を含んでいる。
 まず政府またはその機関に対して、日本会議は、「新憲法の大綱」改訂版で、「国及びその機関が、特定宗教を布教・宣伝し、並びにそのための財政的援助をしてはならない」とする。JCの案は、「国、地方公共団体およびそれらの機関は、特定の宗教に対する援助、助長もしくは促進または圧迫もしくは干渉となるような宗教的活動ならびに公金の支出をしてはならない」とする。愛知和男氏は、「国及びその機関は、特定の宗派を振興し、又は弾圧してはならない」とする。
 こうした規定は、すべて政府と宗教団体の分離を明確にしようとするものである。
 もしこうした規定を設けるのであれば、自民党案の第二十条3項にあるような、「政府及び公共団体及びその機関は、社会的儀礼の範囲内にある場合を除き、宗教教育その他の宗教的活動をしてはならない。」という規定を、さらに明確な表現にして、バランスをとるべきだろう。
 つまり、「社会的儀礼の範囲内」と認められる行為は、布教・宣伝・援助・促進・振興には当たらないということを決めておきたい。また、社会的儀礼と見なされる場合を例示する必要があるだろう。
 特定の宗教または宗派の布教・宣伝・援助・促進・振興になるような宗教教育はだめだが、宗教・宗派の違いを超えた宗教的情操を養う教育は許容されるという規定も設けたい。宗教教育に関しては、ドイツでは、公立学校が宗教教育をする義務が憲法に明示されている。わが国においても、自国の文化を理解したり、外国の文化を理解する上で、宗教的情操を養う教育は必要である。

 次に、宗教団体に対して、日本会議の案は、「宗教団体による政治活動を禁止する旨を明記する」ことを提案している。仮に「宗教団体による政治活動を禁止する」とした場合、「政治活動」をどう定義するかによって、国家による宗教団体の活動への規制となる。またその信者への政治的自由をも規制する可能性がある。これは「法の下の平等」に反する。宗教は単に個人の内面の問題ではなく、社会改良や世界平和をも目的とする場合がある。また、それが、教義の重要部分を占める例がある。「宗教団体による政治活動を禁止する」というのは、行き過ぎだろう。この点は、先に書いたことと関連する問題である。
 

以上の検討を踏まえた私案を以下に記す。

◆ほそかわ案

(信教の自由)
第三十二条 信教の自由は、公共の利益に反しない限り、これを保障する。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制されない。
3 政府及び公共団体は、特定の宗教または宗派を布教、宣伝、援助または促進するような宗教的活動をしてはならない。ただし、冠婚葬祭、慰霊、建築及びこれに類する社会的儀礼の範囲内にある場合を除く。
4 政府及び公共団体は、特定の宗教または宗派を弾圧してはならない。
5 いかなる宗教団体も、政府から特権を受け、または政治上の権力を行使して、その特定の宗教または宗派の信仰を、国民に強制してはならない。
6 政府及び公共団体は、特定の宗教または宗派の布教、宣伝、援助または促進になるような教育をしてはならない。ただし、宗教・宗派の違いを超えた宗教的情操を養う教育を妨げるものではない。
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(8)表現の自由

 

表現の自由について、最初に自民党案を見てみよう。

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●自民党案

(表現の自由)
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、何人に対しても保障する。
2 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
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 第1項は昭和憲法の規定に、「何人に対しても」を付け加えている。第2項は現代文風に直している。
 私は、表現の自由について重要なことは、これを政府が国民に保証するとともに、公共の利益や個人の人格権の保護等と絡む問題ゆえ、無制限の自由ということはありえないことを明らかにすることであると思う。
 この点、日本会議の案は、「表現の自由は、最大限尊重されなければならない。但し、個人の名誉の保護、青少年の保護その他公益上の必要のため、法律の定めるところにより国はこれに制限を加えることができる。」としている。

関連して愛知和男氏は、集会及び結社の自由に関し、次のような案を提示している。

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●愛知案

第二十七条【集会及び結社の自由】
@何人も、集会及び結社の自由を有する。ただし、憲法秩序の破壊、あるいは国民の諸権利の侵害を目的とし、具体的な活動に及びたる結社は、これを禁止する。
A何人も、その意に反して結社に参加することを強制されない。
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 検閲に関しては、義務教育における教科書の検定は、これに当たらないことを明記する必要がある。また、通信の秘密に関しては、国家の安全保障及び国益上、重要な情報の漏洩を防ぐものとしなければならないと思う。

◆ほそかわ案

(表現の自由)
第三十三条 集会、結社及び言論、出版その他の表現の自由は、最大限尊重されなければならない。但し、国民は、他人の自由と権利を尊重し、また公共の利益に反しないように努める責務を負う。
2 政府は、個人の名誉の保護、青少年の保護、もしくは国防、治安その他公益上の必要のため、法律の定めるところにより、これに制限を加えることができる。
3 検閲は、してはならない。ただし、義務教育における教科書の検定は、これに当たらない。
4 通信の秘密は、侵してはならない。ただし、国家の安全保障及び公益上、重要な情報に関しては、法律の定めるところにより、漏洩を防止することができる。
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(9)人格権

 

昭和憲法は、人格という概念がなく、また人格という用語も使われていなかった。自由と権利を保有する主体としての個人の基礎付けができていないまま、自由と権利を保障するという内容になっていた。名誉及びプライバシーの保護についての規定もなかった。その規定を設けるとすれば、新しい憲法には、人格という概念が使用されなければならない。

 人格のことは、(1)は自由と権利に関するところに書いたように、人はそれぞれ人格を持ち、人格を成長・発展させる自由を有する。政府は、国民の子供の人格形成のため、教育を施す義務を負う。また、国民の人格の発展を促す環境を整備する責務を負う。家庭は、相互の人格の形成・発展の場として尊重されねばならない。子供の両親または保護者は、子供の心身の健やかな成長と、人格の健全な発展を促す義務を負う。地域社会もまた相互の人格の交流・発展の場として、その活動の振興を図らねばならない。
 具体的には、それぞれの条項に定めることとして、ここでは最低、以下のような規定が必要と思う。

◆ほそかわ案

(人格権)
第三十四条 国民は、その人格、名誉及び信用を尊重される権利を有する。
2 何人も、自己の私事について、みだりに干渉されない権利を有する。
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10)居住移転・外国移住・国籍離脱の自由


 昭和憲法は、第二十二条に「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転」の自由を有するとしていた。また同2項に「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」としていた。このうち、国籍離脱の自由を憲法で認めていたのは、諸外国では異例である。あえて憲法で保障すべきものではないと思う。

 愛知和男氏は、「正当な理由なくして、国籍を奪われ、外国に追放され、又は犯罪人として外国政府に引き渡されない」ことを規定することを提案している。私は、この提案に同意するとともに、国民が外国政府または外国人によって、拉致または不当な監禁をされた場合、政府は、その国民の救出を行わなければならないことを規定したいと思う。もちろん北朝鮮による拉致問題を踏まえたものである。
 政府の重要な役割の一つに、国民の生命と財産を守ることがある。その役割を、わが国の政府は果たしてこなかった。あえて、私は国民救出の義務を、憲法によって政府に約束させたいと思う。統治権や安全保障に関わる事柄だが、本条に定めておくことにする。

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◆ほそかわ案

(居住移転・外国移住の自由、国外追放の禁止、国民救出の義務)
第三十五条 何人も、公共の利益に反しない限り、居住、移転の自由を有する。
2 何人も、外国に移住する自由を侵されない。
3 国民は、正当な理由なくして、国籍を奪われ、外国に追放され、または犯罪人として外国政府に引き渡されない。
4 国民が外国政府または外国人によって、拉致または不当な監禁をされた場合、政府は、その国民の救出に努めなければならない。
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11)職業選択・営業の自由

 

昭和憲法は、職業選択の自由を定めていたが、これに営業の自由を加えたい。これもまた、資本主義及び自由主義の社会における基本的な経済的自由の一つである。

◆ほそかわ案

(職業選択及び営業の自由)
第三十六条 何人も、公共の利益に反しない限り、職業選択及び営業の自由を有する。
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12)学問の自由


 学問の自由は保障されねばならない。ただし、公務員として給与を受けている国立または公立の大学の教員や国公立の研究所の研究員が、この憲法の理念に反するような学問・研究を行うことは、憲法の保障する自由を逸脱するものである。私立の大学や研究所とは違う。公務員として、国民全体に奉仕する立場にあることを自覚してもらわねばならない。それが研究上、差し支えのある人は、民間で学術研究をしてもらえばよいと思う。

国民は統治権の共有者として、また納税者として、こういう意思を憲法において明示すべきだと思う。

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◆ほそかわ案

(学問の自由)
第三十七条 学問の自由は、これを保障する。
2 前項の規定に関し、国公立の大学または研究機関に勤める者は、公務員として、第二十九条1項の規定に服する。
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13)知る権利


 新しい憲法には、いわゆる「知る権利」について、定めたいと思う。意外にも自民党案、JC案には、その提案がない。日本会議と愛知和男氏は、次のような提案をしている。

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●日本会議案

 情報に関する新しい権利と義務の規定を新たに設ける。
1.国民は法律の定めるところにより、政府及びその機関の有する情報の開示を求める権利を有する。但し、国防・外交・公安上の機密情報及び企業、個人の秘密に関わる情報及びその公開が公共の福祉を害するおそれがあるとして法律で定める情報については、国はこれを保護する義務を負う。
2.個人の秘密に関わる情報は、保護されなければならない。但し、国の安全を害する場合、犯罪捜査、税務調査その他法律で定める場合を除く。

●愛知案

第二十六条【知る権利】
 すべて国民は、国の安全及び公共の秩序並びに個人の尊厳を侵さない限り、一般に入手できる情報源から、情報を得る権利を有する。
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 私は、基本的にこれらの案に賛成であり、採用させていただく。そのうえで、さらに、情報を得る側の責務を加えたいと思う。「知る権利」があれば、「知った者の責任」というものもあらねばならない。権利だけでは、片手落ちである。

◆ほそかわ案

(情報に関する権利と義務)
第三十八条 国民は、法律の定めるところにより、政府及びその機関の有する情報の開示を求める権利を有する。ただし、国防、外交、公安上の機密情報及び企業、個人の秘密に関わる情報及びその公開が公共の利益を害するおそれがあるとして法律で定める情報については、政府及びその機関は、これを保護する義務を負う。
2 個人の秘密に関わる情報は、保護されなければならない。ただし、国防と治安を害する場合、犯罪捜査、税務調査その他法律で定める場合を除く。
3 国民は、開示によって知り得た情報を、公共の利益に反しないように、またはその実現のために用いなければならない責務を負う。
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14)家族

 

私は、新憲法の制定において、家族の問題は、第九条の問題に匹敵するくらい重大な課題だと考えている。対外的な安全保障と、対内的な家族の保護は、どちらを欠いてもならない。

 昭和憲法には、第二十四条に婚姻に関する規定がある。第1項に「婚姻は、両性の合意のみによって成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」、第2項に「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と記されていた。
 自民党の改正案は、昭和憲法第二十四条を一字一句、変えようとしない。わが国の現状は、家族が安定し、幸福な家庭に満ちているのだろうか。否。その反対である。家族の崩壊が進み、それが少子化と高齢化と重なり合って、重大な社会問題を生み出している。これに対し、有効な手立てを講じるには、憲法に家族条項を設け、日本の家族を立て直すことが必須であると私は考える。

 そもそも昭和憲法のように、憲法に婚姻に関する規定が設けられていることは、世界的に見て異例であった。男女が性的に結びつくことには、法律はいらない。その限りでは、結婚は私的な事柄であり、政府が介入すべきことではない。
 結婚が法律上定められるとすれば、それは結婚が単なる男女の結びつきではなく、家族という一つの社会を形成する公共的な行為だからである。そのために婚姻の安定性を求める法律も定められるのである。恋愛・性交をするのは両性の自由だが、婚姻は夫婦の性的関係を維持する手段ではなく、家族を形成することが目的である。それゆえ、憲法に必要なのは、婚姻よりも家族に関する規定なのである。
 先進国の中ではイタリア憲法やドイツ基本法などには家族に関する規定がある。それらの国法の規定は、婚姻ではなく、家族を中心とした規定となっている。そして、家族の権利、子供の教育の義務と権利、国家による家族・母性・子供の保護などが規定された例が見られる。そこには、家族は特別な社会であるから、特に保護されなければならないという考えが示されている。

 家族は、生命・種族の維持・繁栄のための基本単位となる社会であるとともに、文化の継承と創造の基礎となる社会である。単なる生物的経済的共同体ではなく、文化の継承の主体、文化の創造の主体として、家族を考えなければならない。それゆえ、家族は生命と文化を継承する場所として、国家によって保護されなくてはならないのである。また、親は子供を教育する権利を有し、また子供を教育し文化を継承発展させていく義務を担う。
 しかし、昭和憲法の規定には家族という概念はなく、婚姻が両性の努力で維持されるべきことしか規定されていなかった。私は、両性の権利の平等を強調しながら、家族の大切さを規定していない第二十四条には、大きな欠陥があると思う。その条文は、利己的個人主義の結婚観を、日本人に植え付け、愛と調和の家族倫理を失わせ、社会の基礎を破壊するものとなってきたのである。
 特に、今日、家庭道徳の低下と離婚率の上昇など、日本の家族は崩壊の危機にあるので、女性・子供・高齢者を守るためにも、憲法において家族の概念を明確化することが必要だと思う。日本人は、アメリカやスエーデンなどの極度の個人主義が招いた家庭崩壊の愚を後追いすべきではない。

 また、昭和憲法の条文には、夫婦と並んで家族を構成するもう一本の柱である親子への言及がない。これは、生命と文化が、世代から世代へと継承されていくことを軽視しているものである。婚姻が、その夫婦、その世代限りのものと考えるならば、先祖から子孫への縦のつながりは断ち切られ、民族の歴史が断ち切られる。
 親が子どもを生み、その子に知恵や財産を継承するのは、私的な行為である。しかし、それは単に私的な行為ではなく、同時に、大人が次の世代を生み育て、生命と文化を継承するという社会性をもった行為でもある。それゆえ、家族は国民の生命と文化を継承する場所として、国家によって保護されなくてはならないのである。

 新しい憲法には、各世代には世代としての責任があり、健常な大人の男女は、子孫を生み育て、教育を施し、生命と文化の継承に努める義務があると明記すべきであろう。
 子供の教育に関しても、親は子供を教育する権利を有し、また子供を教育する義務を負う。それは、自分の子供を通じて、次世代に文化を継承発展させていくという公的な義務なのである。家族というものを通じて、国民は、生命と文化の継承という公的義務を負うのである。
 また、国民は、自分の親の養護に努力すべきことも、憲法に定めるべきだろう。自分の子どもには、親として教育を与える義務があるということは、他の大人に託すのではないということである。これと同様に、自分の親に対しても、子として養護に努力すべきだろう。それは、他の大人に託すのではないということである。子どもの教育においても、親の養護においても、まず自助努力を促し、それで足りないところを学校や、福祉施設が補う。これが、人格的な人間関係を根本においた社会の基本的なあり方である。

 以上のように憲法において家族の概念を明確化することが不可欠であると私は考える。自民党の案には、家族条項がない。これは大きな欠陥である。この点、日本会議、中曽根康弘氏、愛知和男氏は、家族に関する規定を提案している、その内容は以下の通りである。

●日本会議案
 婚姻における個人の尊重及び両性の平等とともに、国は国家・社会の存立の基盤である家族を尊重、保護、育成すべきことを明記する。

●中曽根案

(
家族生活の保護)
第二十六条 国は、家族生活が社会の倫理的発展の健全な基礎となるように、これを保護する義務を負う。

●愛知案

第三十一条【家庭の運営・婚姻における責任、国の家庭尊重保護の責務】
@家庭は、社会を構成する最も基本的な単位である。何人も、各自、その属する家庭の運営に責任を負う。
A婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利と責任を有することを基本として、相互の協力により維持するものとする。
B国は、家庭を尊重し、及びこれを保護するものとする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これらの案は、それぞれ立派なものと思うが、私は、より積極的に規定すべきと思う。憲法は、国の基本法であり、国民共同体の維持・繁栄のためのものである。国民共同体の自然的な基礎は、家庭である。家庭が健全に維持・繁栄していてこそ、国民共同体は維持され繁栄できる。

少子化、劣子化、非婚化、離婚の増大、孤独な老人の増加、ジェンダーフリー思想、過激な性教育等は、家族と国民共同体の維持に、深刻な危機をもたらしている。家族の保護は、対外的な安全保障に匹敵するほど、重要な国家的課題である。これに対する真剣な取り組みなくして、わが国の将来はない。

◆ほそかわ案

(家庭の運営と保護)
第三十九条 家庭は、社会を構成する自然かつ最も基本的な単位である。何人も、各自、その属する家庭の運営に責任を負う。
2 親は、子に対する扶養および教育の義務を負う。子は親に対する孝養に努めるものとする。
3 政府は、家庭を尊重し、家族・母性・子供を保護するものとする。

(婚姻に関する基本原則)
第四十条 男女は互いの長所を認め合い、互いの短所を補い合って、社会の維持及び発展を担う。健常な成年国民は、家族を形成し、子孫を生み育て、教育を施し、生命と文化の継承に努めるものとする。
2 国の行政・立法機関は、次代を担う国民の育成のために、男女の結婚を奨励し、夫婦の子育てを支援する責務を負う。
3 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の信頼と協力により、維持されなければならない。
4 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、人格の尊厳、両性の権利の平等、家庭の保護に立脚して、制定されなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

15)教育に関する権利・義務

 

教育基本法には、法律には珍しく前文がついている。その前文に、「ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。」とある。そして、教育の目的について、第一条に、「教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。」と定められている。
 すなわち、昭和憲法のもとにおける教育は、昭和憲法の精神に則って国民を育成することにあった。その憲法に欠陥があれば、教育の全体に欠陥を生じる。
 自民党の改正案は、昭和憲法の条文と同じ内容である。修正は、言葉遣いを現代風に直しただけである。

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●自民党案

(教育に関する権利及び義務)
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に普通教育を受けさせる義務を負う。義務教育は、無償とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 果たして、昭和憲法の教育条項と同じままで、わが国の教育を立て直せるだろうか。
 昭和憲法は、占領下にGHQが秘密裏につくった草案が押し付けられたものだった。教育基本法もまた占領下に作られた。そのため、国民を育成するとしていながら、愛国心の涵養や伝統の尊重、家庭の尊重、公徳心の醸成等が、教育基本法には盛られていない。
 昭和憲法を踏襲する自民党案には、学級崩壊・学力低下・NEETの増加等をもたらしている教育の根底的な

危機に対し、真剣に取り組もうという気概が感じられない。
 私は、新しい憲法においては、日本の伝統・文化・国柄を表現し、愛国心の涵養や伝統の尊重、家庭の尊重、公徳心の醸成等を盛り込んで、そうした新憲法の精神に則った教育を行うことを明記したいと思う。まず教育の目標を憲法において明確にすることが必要である。
 この点、中曽根康弘氏の案は、積極的である。

●中曽根案

(
教育の目標)
第二十九条 教育は、真理と正義を愛し、世界平和のための国際協力の理念並びにわが国の歴史と伝統を正しく尊重し、かつ、自主的で責任感をもつ創造的な国民を育成することを目標とする。
2 国は、学校教育が常に政治的中立を保つように努めなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第1項は優れた内容だと思うし、第2項もまた重要な提案だと思う。

日本会議は、以下のような案を提示している。

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●日本会議案

 教育は、この憲法の前文に掲げられた理念を基本として行われるべきことともに、学校教育に関する国家の責任を明記する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この指針の前半は、憲法にそのように明記すれば、教育基本法には前文がいらなくなると思う。また後半は、教育の目的と関係することであり、なぜ政府には国民に教育を行う責務があるのかを明記すべきと思う。これに続いて、教育に関する国民の権利と義務を定めるとよいと思う。
 私案を以下に記す。

◆ほそかわ案

(教育の目標)
第四十一条 教育は、この憲法の理念に則り、わが国の伝統と歴史を尊重し、真理と正義を愛し、世界の平和と地球環境の保守を志し、自主的で責任感をもつ創造的な国民を育成することを目標とする。
2 前項の目標に向けて、政府は、学校教育を行い、国民の子どもの人格を形成し、将来、国家及び社会を担う人材を育成する責務を負う。
3 政府は、学校教育が常に政治的中立を保つように努めなければならない。
4 政府は、家庭教育、学校教育及び社会教育が連携して、前1項の目標を実現できるように努めなければならない。

(教育に関する権利及び義務)
第四十二条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に教育を受けさせる義務を負う。公的機関による義務教育は、法律の定めるところにより、これを無償とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第四十二条2項について、昭和憲法では「普通教育」と「義務教育」が用いられていたが、どちらかに統一すべきと思う。そこで、一般に定着している「義務教育」を採った。

 

16)生命と健康

 

昭和憲法は、第二十五条に生存権を規定していた。

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●昭和憲法

第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、ここにいう「健康」とは、どういう状態を意味するかを明らかにすべきと思う。この点は、後で述べる。
 まず「文化的」とは、文化の発達段階によって変わってくる状態である。それに伴い、「最低限度の生活」の生活水準も変わってくる。それゆえ、生存権は、天賦生得的な人権とはいえない。その国の国民文化・国民経済の水準によって変わってくるものを求めるのだから、その権利は、歴史的・社会的に相対的なものである。いわゆる人権ではなく、日本国の国民の権利としての重要な基本的な権利である。

 第2項については、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むという、その主体について考えねばならない。ここでも、人格という概念を補う必要があるというのが、私の考えである。
 人間は人格を持ち、人格の形成・成長・発展のために、「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されねばならない。単なる生物として生存するのではなく、また物質的・経済的な条件が保障されるのでもなく、生物的・物質的・経済的な条件を基礎として、人格を持つ者として、精神的・心理的な充足感や向上・発展が得られるのでなければならない。

 愛知和男氏は、生存権の条項に、「心身に障害を持つ者、高齢者、妊産婦、母子家庭に対しては、国政の上で、特段の配慮を与えるものとする。」という一項目を加えることを提案している。よい提案だと思う。

以下に私案を記す。

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◆ほそかわ案

(生存権)
第四十三条 すべて国民は、人格を有する者として、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 政府は、各人の人格の尊重の上に立って、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
3 前2項に関連して、心身に障害を持つ者、高齢者、妊産婦、三歳までの子供を持つ家庭、単親家庭に対しては、国政の上で、特段の配慮を与えるものとする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 まず第3項から述べると、愛知氏の案に「三歳までの子供を持つ家庭」を加えた。ことわざに「三つ子の魂百まで」というが、医学・心理学・脳科学等の学問や、保育・児童医療等の現場報告は、胎内期から乳幼児期における母子のかかわりが、いかに子供の人格の形成に重要かを示している。少子化・劣子化の危機に対応できる憲法を考えるにあたり、私はその重要なポイントの一つとして、上記の案を提示したい。これは先に書いた家族条項と関連するものである。なお、母子家庭だけでなく、父子家庭を含め、「単親家庭」とした。
 次に、第1項の健康についてのことだが、国民は、自らの健康の維持・増進に努めなけばならない。そのことを、憲法に規定すべきだと思う。
 なぜこんな当たり前のことをあえて言うのか。世界保健機構(WHO)は、「健康とは、完全な肉体的、精神的及び社会的福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」(1951年)と定義している。「健康」とは身体的にも精神的にも社会的にも調和のとれた状態にあることである。
 わが国は、健康保険制度が発達しているが、その弊害として、国民が安易に医療に頼る傾向に陥り、医療費の支出が国家財政を圧迫している。これは、個人としても、国家としても、健康な状態ではない。個人としても、国家としても健康な状態を追求しなければ、病人・半病人だらけの財政破綻国家になってしまう。

 憲法の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を真に意義あるものにするために、私は新たに健康条項を設けることを提案したい。

◆ほそかわ案

(健康を求める権利と責務)
第四十四条 国民は、自ら及び相互に、健康の維持・増進に努めなければならない。
2 政府は、国民が精神的、身体的、社会的に健康な生活が出来るよう支援するものとする。
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17)環境に関する権利・義務

 

現代の人類の抱える二大課題は、世界平和の実現と地球環境の保守である。私は、新しい憲法には、環境に関する条項を新設すべきであると思う。
 自民党の改正案は、前文の結語に「日本国民は、自然との共生を信条に、自国のみならずかけがえのない地球環境を守るため、力を尽くす。」と書いている。ところが、そこまで書いていながら、本文には、自然との共生や地球環境の保守のための条文がない。これも重大な欠陥である。一方、愛知和男氏、日本会議、JCはそれぞれ次のような提案をしている。

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●愛知案

(環境に関する権利及び責務)
@何人も、良好な環境を享受する権利を有するとともに、良好な環境を保持し、かつわれわれに続く世代にそれを引き継いでいく責務を負う。
A国は、良好な環境の維持及び改善に努めるものとする。

●日本会議案

 環境に関する権利と義務を新たに規定すること。
1、国民は、健康で文化的な生活を維持するため、公共の福祉に反しない限度において良好な自然環境を享受する権利を有する。
2、国民は自然環境を保護し、将来の国民にこれを伝えるよう努めなければならない。

●JC案

(環境権および環境保全の責務)
第三十四条 国民は、良好な環境を享受する権利を有し、その保全に努める責務を負う。
A 国は、良好な環境を保全する施策を行わなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これらの三案は、国民の権利と責務については、ほぼ一致している。愛知案とJC案は、政府の役割についても規定している。私は、政府とともに企業に関しても、責務を課すべきと考える。
 なお、環境については、保全・保護の用語が使われるが、あえて私は「保守」という語を用いたい。日本の伝統・文化・国柄を守る態度・思想を「保守」というが、その守るべきものの中に、日本の自然と、さらにその元にある地球の自然が含まれているのでなければ、真の保守とは言えないという含みがある。以下に私案を示す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(環境に関する権利及び責務)
第四十五条 国民は、良好な自然環境を享受する権利を有するとともに、良好な自然環境を守り、かつ将来の世代にそれを引き継いでいく責務を負う。
2 政府及び企業は、かえがえのない地球及び国土の自然環境を保守しつつ、持続可能な開発の実現に努めなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

18)勤労と社会貢献

 

勤労に関する権利及び勤労者の権利については、昭和憲法の規定のままでよいと思う。ただし、勤労の義務については、もっと明確にすべきだと思う。
 わが国では勤労しない者が、罰せられるわけではない。何かの事情により勤労していない者も、社会保障の対象となる。このような規定では、勤労の意欲の低下が起こった場合、歯止めにならない。私は、何のために国民は勤労をする義務を負うのか、その目的を示すべきだと思う。
 現実に、成年に達した健康な男女であって、勤労の義務を果たしていない者は多い。特にNEETと呼ばれる、仕事に就こうとせず、教育を受けるでもなく、職業訓練を受けるのでもない状態の若者が年々増加している。彼らはフリーターや失業者とは違う。自ら働いて社会参加する意欲がなく、孤立している。こうした若者の増加に対し、昭和憲法の規定のままでは対応できない。
 また、子育てや介護などの家事労働は、家庭と社会において、欠かすことのできない労働である。その意義を評価したうえで、新憲法にはきちんと定めるべきだと思う。家事労働に専念する者は、家庭外に出て賃金労働をする必要はないし、また、家事に専念も可能な制度に変えていく必要がある。税金の減額や育児手当の支給など、具体策はいろいろ考えられる。以下に私案を記す。

 

◆ほそかわ案

(勤労に関する権利)
第四十六条 すべて国民は、勤労の権利を有する。
2 賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律で定める。
3 児童は、酷使してはならない。

(勤労に関する義務)
第四十七条 成年に達した健康な国民は、社会、経済及び文化の発展に協力するため、自己の能力を発揮して勤労する義務を負う。
2 子育て、介護その他の家事労働は、家庭の保護及び社会の安寧のために、尊重されなければならない。

(勤労者の権利)
第四十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障する。
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19)社会貢献と文化の尊重


 次に、社会貢献と文化の尊重に関する条項を、新たに設けたいと思う。これは、JCの提案である。

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●JC案

(社会貢献の責務)
第二十九条 国民は、受けた教育の成果を活かして社会貢献に努めなければならない。

(日本文化の尊重)
第三十条 国民は、わが国の歴史、伝統および文化を尊重しなければならない。
A 国は、歴史的、文化的および芸術的な財産の保護および育成を奨励しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 教育においては、教育を受けた者が、社会に貢献するという考え方が重要だと思う。国家が国民の子供に対して教育を行う義務があるとすれば、その教育を受けた者がお返しとして、社会貢献に努める義務もあるとせねば、バランスが取れない。
 また、わが国固有の文化の尊重については、前文に理念として書くだけでなく、条文に定め、それが教育において実践されるようにしなければならないと思う。JC案に若干の文言を修正した私案を記す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(社会貢献の責務)
第四十九条 国民は、第四十一条に定める教育に応え、社会貢献に努めなければならない。

(日本文化の尊重)
第五十条 国民は、わが国の伝統、文化および国柄を尊重しなければならない。
2 国は、歴史的、文化的および芸術的な財産の保護および育成を奨励しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

20)財産権とその制限

 

財産権について、自民党案では、次のようになっている。

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●自民党案

(財産権)
第二十九条 財産権は、侵してはならない。
2 財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 昭和憲法との違いは、「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」と言い換えただけである。財産をめぐっては、個人の権利と公共の利益との間に、利害の対立を生じる。これは、重要な問題である。憲法には、個人と全体、個人と政府の間の権利と義務を定める役目があるのだから、財産権に関する条項は、もう少し踏み込んだ内容にすべきだと思う。
 憲法の条項は、相当数が国民の財産権にかかわる。そもそも統治権という最も基本的な権利は、国土の占有・利用に関わるものである。また、国家の安全保障や非常事態においては、国民個人の財産権に制限が課される場合が想定される。環境の保守においても、持続可能な開発の実現に努め、良好な自然環境を守り、かつ将来の世代にそれを引き継いでいくためには、国土とその自然の開発・利用に、一定の制限が課されよう。
 この点に関して、日本会議は、以下のような提案をしている。

●日本会議案

 財産権については、国土の公共性を明らかにするとともに、国民の財産権と、国土の利用及び自然環境の保護との調和をはかることを明記する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、この提案を重要なものと考える。以下に私案を示す。

◆ほそかわ案

(財産権)
第五十一条 財産権は、これを保障する。
2 財産権の内容は、公共の利益に適合するように、法律で定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる。
4 わが国の国土は、自然の恵みとして享受する公共の財産である。国民は、第四十五条1項の定めにより、個人の財産としての土地利用と、国民全体の財産としての土地利用との調和に配慮しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 国家の安全保障や非常事態に関する場合は、第3項の条文に含まれると考え、あえてここでは記していない。

21)納税の義務


 財産権と関連する納税については、納税の目的を明記したいと思う。税は、国に金銭を取られるのではなく、国民が共同で公共の利益を実現するための出資である。また、だからこそ、税金が有効に使われるよう、国民は協議や監視をしなければならないのである。以下のように定めることを提案したい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(納税の義務)
第五十ニ条 国民は、公共の利益の実現のため、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
2 国民は、税金が有効に利用されるように求める権利を有する。国は、国民の付託に応え、税金を有効かつ適正に使うよう努めねばならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

22)裁判の権利と保障

 

裁判権に関する条項について、項目別に見ていく。

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●昭和憲法 

第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
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 この条項には、「その他の刑罰」に続けて、「またはその他のいかなる不利益も受けることはない。」と補うとよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(適正手続の保障)
第五十三条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、若しくはその他の刑罰を科せられ、またはその他のいかなる不利益も受けることはない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次に私は、昭和憲法では、第三十九条に置かれていた遡及処罰等の禁止についての条項を、この位置に置くのが良いと思う。司法の原則に関わることだからである。条文の内容は、昭和憲法と同じでよい。位置だけの移動である。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(遡及処罰等の禁止)
第五十四条 何人も、実行の時に適法であった行為または既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。また、同一の犯罪については、重ねて刑事上の責任を問われない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次の裁判を受ける権利は、昭和憲法の規定どおりでよいと思う。

◆ほそかわ案

(裁判を受ける権利)
第五十五条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。
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 人身の自由の条項について、昭和憲法では以下のようになっていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 まず「権限を有する司法官憲」とは「裁判官」のことだろう。また、「且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、」は、現実的には無理がある。上記の二条は重複が多く、自民党案は、この二条を一条にまとめている。そのまとめ方がよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(人身の自由)
第五十六条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、裁判官が発し、かつ、理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
2 何人も、正当な理由なく、かつ、その理由を直ちに告げられることなく、抑留され、または拘禁されない。
3 抑留され、または拘禁された者は、直ちに弁護人に依頼する権利並びに拘禁の理由を直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示すことを求める権利を有する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

23)住居不可侵と拷問禁止

 

住居等の不可侵について、昭和憲法の規定は、文言がよく整理されていない。

●昭和憲法

第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利を有する。この権利は、第五十四条の場合を除いては、正当な理由にいて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 自民党案は、これを以下のように整理している。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●自民党案

(住居等の不可侵)
第三十五条 何人も、正当な理由に基づいて発せられ、かつ、捜索する場所及び押収する物を明示する令状によらなければ、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索又は押収を受けない。ただし、前条第一項の規定により逮捕される場合は、この限りでない。
2 前項本文の規定による捜索又は押収は、裁判官が発する各別の令状によって行う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私はさらに、意味を明確にできると思う。

◆ほそかわ案

(住居等の不可侵)
第五十七条 何人も、あらかじめ正当な理由に基づいて発し、かつ、捜索する場所及び押収する物を明示する令状によらなければ、その住居、身体または書類その他の所持品について、刑事手続のための侵入、捜索又は押収を受けない。ただし、前条第1項の規定により逮捕される場合は、この限りでない。
2 前項本文の規定による捜索又は押収は、裁判官が発する各別の令状によって行う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次の拷問等について、昭和憲法は「公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対に禁止する。」と定めていた。私はこのままでよいと思う。ただし、「残虐な刑罰」とは、火あぶり、釜ゆで、磔等の方法を禁止したものであって、現在の絞首刑はそれに当たらない。内乱罪、外患罪、放火罪、殺人罪、強盗強姦致死罪等については、極刑をもって処すべきである。

◆ほそかわ案

(拷問等の禁止)
第五十八条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対に禁止する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

24)刑事被告人・自白

 

刑事被告人の権利について、昭和憲法は以下のように定めていた。

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*  昭和憲法

 

第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、また、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、政府がこれを附する。
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 自民党案は、若干の文言を修正している。第2項・第3項の「刑事被告人」は単に「被告人」とできる。また、第2項の権利は、二つに分けるべきものである。

●自民党案

(刑事被告人の権利)
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる権利及び公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを付する。
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 刑事被告人を罪人と同じような印象を与える報道がある。そこで、「刑事被告人を罪人として扱うことは、許されない。」という項目を追加したいと思う。

◆ほそかわ案

(刑事被告人の権利)
第五十九条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所のすみやかな公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人を罪人として扱うことは、許されない。
3 被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる権利及び公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
4 被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、政府がこれを付する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次に、刑事事件における自白等について、昭和憲法は、以下のように定めていた。

●昭和憲法

第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自白または不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、または刑罰を科せられない。

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 これに対し、自民党案では、「強制、拷問若しくは脅迫」を「拷問、脅迫その他の強制」に修正している。また、「有罪とされ、または刑罰を科せられない。」を単に「有罪とされない。」としている。私はこの修正でよいと思う。

◆ほそかわ案

(刑事事件における自白等)
第六十条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 拷問、脅迫その他の強制による自白又は不当に長く抑留され、若しくは拘禁された後の自白は、証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされない。
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 刑事補償を求める権利については、昭和憲法の規定のままでよいと思う。

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◆ほそかわ案

 

(刑事補償を求める権利)

第六十一条 何人も、抑留または拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、政府にその補償を求めることができる。
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 さて、JCは、新たに、犯罪被害者の救済に関する条項を設け、生命または身体を害する犯罪行為による被害者またはその遺族が国から救済を受けることができることを提案している。

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●JC案

 

(犯罪被害者の救済)
第三十九条 生命または身体を害する犯罪行為による被害者またはその遺族は、法律の定めるところにより、国から救済を受けることができる。
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 よい提案だと思う。従来、加害者の「人権」が過剰に保護される一方、被害者及びその遺族の「人権」が軽視されるのは、憲法の規定に欠陥があったと私は考える。そこで、JCの案に加えて、被害者及びその遺族の人格権の尊重を、あえて盛り込みたいと思う。以下に私案を示す。

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◆ほそかわ案

 

(犯罪被害者の救済)
第六十ニ条 生命または身体を害する犯罪行為による被害者またはその遺族は、その人格権を尊重されねばならない。また、法律の定めるところにより、政府から救済を受けることができる。
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 以上で、第五章「国民の権利と義務」を終える。ページの頭へ

 

第六章 国会

 

私の理解では、わが国は、統治権を、天皇と、天皇を象徴と仰ぐ国民が共有する。また、統治権を三権に分立し、立法・行政・司法の機関を設けている。私案では、三権の長は、国会または内閣の指名に従って天皇が任命する。立法権・行政権・司法権は、それぞれ国会・内閣・裁判所に属する。これらの国家機関は、相互に協力・けん制しながら、統治を分掌する。
 昭和憲法においては、国会・内閣・裁判所の順に定めている。これにならい、まず国会に関する条項から見ていくことにする。最初に検討すべき主な点を挙げてみたい。

1、国会の位置づけ
 国権の最高機関か、否か
2、議会の構成
 二院制か一院制か。参議院を必要とする場合は、どのようにして独自性を発揮させるか
3.国会議員の倫理
 どのようにして、倫理の向上を図るか
4.国会議員の欠格事由
 欠格事由は何か
5.衆議院の解散権者
 解散権者は誰か
6.国軍の活動及び非常事態宣言の承認
 第三章安全保障に定め済み
7.首相の選任方法
 国会の指名か、公選か

 これらの検討点のうち、首相の選任については、公選制は、天皇を象徴と仰ぐわが国の国家制度になじまないと思う。従来どおり、国会の指名が適当と考える。他の点については、条文の順番に沿って検討していきたい。

(1)国会の位置づけ

 

国会の位置づけについて、昭和憲法は、第四十一条に「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」と定めている。私は、この「国権の最高機関」という規定は、不適当だと思う。この規定によれば、三権のうち、立法府は、行政府・裁判所より、上に立つことになる。しかし、現実の国政は、内閣総理大臣を中心として行われている。国会の議長を、首相より上だと考える人はいない。最高裁判所長官も同様である。
 また、「機関」という概念を用いるとすれば、日本国の最高機関は、天皇以外にはあり得ない。昭和憲法における象徴もまた「機関」である。内閣総理大臣も、国会の指名に従って、天皇が任命する。任命される者より、任命する者が、「機関」としては上である。それゆえ、私は、昭和憲法のもとでも国会は「国権の最高機関」ではなかったし、新憲法では、この規定を除くべきと思う。私案では、天皇を元首と規定し、天皇は統治権を象徴的に行使する。三権の長は、すべて国会または内閣の指名に従って、天皇が任命する。

 私と同じ考えではないが、中曽根康弘氏やJCも「国権の最高機関」と規定しない案を出している。その表現は一致している。

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●中曽根案・JC案
 立法権は、国会に属する。
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 私も、これが必要十分な規定だと思う。

 

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◆ほそかわ案

(立法権)
第六十三条 立法権は、国会に属する。
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(2)国会の構成

 

国会の構成については、二院制を取るか、一院制を取るかという問題がある。自民党、中曽根氏、日本会議の案は、二院制を維持する。ほかに読売新聞社等の案もこれである。愛知案とJC案は、一院制を取る。ほかに駒澤大学・西修ゼミナール等の案もこれである。意見は二つに割れている。
 私は、二院制を維持するのがよいと思う。もともと二院制は、イギリスのように貴族と庶民のように身分制の残る国家や、アメリカのように連邦制を取る国家において、二つの議院が階級や地域の代表で構成されるというものだった。
 わが国には、明治憲法の下では、貴族という身分があり、貴族院と衆議院の二院制が取られていた。昭和憲法の下では、貴族がなくなったので、身分を基礎とした二院制は意味を持たなくなった。貴族院に代わった参議院は、「良識の府」といわれながら、その特徴を発揮することができず、第ニ衆議院のような存在になってしまっていた。そこで、一院制に改めるべきだという案がある。効率的には、当然優れている。
 しかし、私は、一院制の場合、国政がその折々の世相や、政党間の争いに左右されやすいと思う。その点を思うとき、任期が長く、解散のない参議院は、日本の政治に安定をもたらす機関となっていた。両院で審議するため、意思決定が遅くなるという欠点はあったが、私は内閣総理大臣の権限を強化することによって、この弊害を少なくできると思う。また、首相の権限を強化した場合、議会が一院制でその議会が首相及び与党の強い影響下に置かれた場合、大衆迎合や独裁に陥りやすいという弊害もありうる。この点において、一院制を説く意見に、こうした弊害の防止について、説得力のあるものを見出せない。
 そこで私は、従来どおり二院制を維持しながら、参議院の独自性を発揮させるような工夫をするのがよいと思う。この方向で、議員の選出方法、憲法上の権限、運用上の配慮を検討したいと思う。
 二院制の下での国会全体に関する私案を以下に記す。

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◆ほそかわ案

(両議院)
第六十四条 国会は、衆議院及び参議院の両議院で構成する。

(国会議員および選挙人の資格)
第六十五条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産または収入によつて差別してはならない。

(両議院議員の国民代表性)
第六十六条 国会議員は、全国民の代表者であり、日本国及び国民の利益を念頭においてその職務を行わなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第六十六条は、小選挙区・比例代表・推薦等のどのような選出方法で選出された場合であっても、国会議員は国民全体の代表であり、民利国益を考える立場にあるということを、明らかにするための条項である。

(3)衆議院・参議院の役割

 

私は、国会の両院の役割・特徴を区別するため、衆議院は小選挙区制、参議院は広域の比例代表制と一部推薦制という選出方法を考えている。任期は、昭和憲法にならう。
 まず衆議院についてである。

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◆ほそかわ案

(衆議院の組織)
第六十七条 衆議院は、地域別の小選挙区によって選出された議員で組織する。
2 衆議院の議員の定数は、法律で定める。

(衆議院の任期)
第六十八条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
2 衆議院の任期は、総選挙を行うに適しない緊急の事態が発生した場合においては、同院の議決により緊急の事態の継続中、これを延長することができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次に、参議院についてである。かつて旧自由党が昭和27年当時、参議院は選挙された議員と推薦された議員とをもって構成するという案を出していた。私は、これに注目する。この案に広域別の比例代表制を取り入れたのが、中曽根康弘氏の案と見られる。

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●中曽根案

(
参議院の組織)
第五十七条 参議院は、広域別に比例代表制により選挙される議員及び推鷹制により選任される議員で組織する。
2 広域別に選挙される議員の定数は、衆議院議員の定員の五分の四以上とし、法律で定める。
3 内閣首相及び両議院の議長で構成する衆議院議員推薦会議は、法律の定めるところにより、特定数の参議院議員を推薦によつて選任する。
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 中曽根氏と似た発想として、平沼赳夫氏(元経済産業大臣)は、衆議院を全国的な国民の民意を反映するものとし、参議院を地域ないしは職域の代表とするという案を出している。私は、中曽根案に基づいて、一部推薦制の推薦対象を学識経験者とする案を提示したい。これにより、参議院を「良識の府」とする可能性が開かれることを期待する。

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◆ほそかわ案

(
参議院の組織)
第六十九条 参議院は、広域別に比例代表制により選挙される議員及び推鷹制により選任される議員で組織する。
2 広域別に選挙される議員の定数は、衆議院議員の定員の五分の三以上とし、法律で定める。
3 現職の内閣総理大臣及び両議院の議長、及びそれらの経験者で構成する参議院議員推薦会議は、法律の定めるところにより、学識経験者の中から、参議院議員を推薦によつて選任する。
4 推薦制による議員の定数は、広域別に選挙される議員の定数の三分の一以下とし、法律で定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 議員の定数については、例えば、衆議院議員を200名とすれば、参議院の広域比例代表制による議員が120名、推薦制による議員は40名となる。
 任期については、昭和憲法の規定のままでよいと思う。

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◆ほそかわ案

(参議院の任期)
第七十条 参議院議員の任期は、六年とする。

2 三年ごとに、議員の半数を改選する。

3 推薦制によって選任される議員は、就任後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に、国民審査に付されるものとする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

第3項は推薦制による議員に対する国民の判断の権利を保障する機会である。
 次に、衆議院と参議院の役割の明確化が必要である。一院制を取る場合は、この必要はないが、二院制の維持を主張する者は、この点を提起しなければ、単なる惰性的な維持、変化へのためらいに過ぎないものとなる。この点、憲法上の権限、運用上の配慮について、平沼氏は、参議院に、条約批准の先議権や優先議決権を付与する、あるいは決算の審議に特化するといった機能の整理を提案している。
 私は、両議院の議員は、選出方法は異なれども、根本的には国民全体を代表することを明記したうえで、衆議院・参議院の役割を以下のようにしたいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(両議院の役割)
第七十一条 条約案および国家予算案は、衆議院が先議権を持つ。これらは衆議院による決議後、参議院で否決された場合、衆議院による再決議により法案は成立する。但し、再決議は国会休会期間中を除き六十日を経なければならない。
2 参議院は、国家決算案及び複数年にわたって継続して国費を支出する予算案に関して、先議権及び優先議決権を有する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 選挙に関する事項、兼務の禁止は、昭和憲法のままでよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(選挙に関する事項の法定)
第七十ニ条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

(両院議員兼務の禁止)
第七十三条 何人も、同時に両議院の議員たることはできない。
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(4)国会議員の倫理

 

愛知和男氏は、国会議員の就任宣誓と欠格事由を提案している。

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●愛知案

第五十五条【議員の就任宣誓】
@国会議員は、その就任に際し、次の宣誓を行わなければならない。
 「私は、憲法及び法律を尊重擁護し、何人からも職務に関して約束もしくは贈与を受けず、つねに全力を尽くし、国家の発展と国民の利福の増進に努めることを誓う。」
A宣誓を行うことを拒否し又は条件付の宣誓を行う者は、国会議員の地位を放棄したものとみなす。

第五十六条【国会議員の欠格事由】
 国会議員は、次に掲げる事由により、その地位を失う。
一、直接間接に、公有財産を購入又は賃借すること。
二、直接間接に、国又はその機関と、土木請負契約、物品納入契約又はその他法律が禁ずる契約を結ぶこと。
三、国又はその機関と契約関係にある営利企業の役員又は法律顧問となること。
四、国又はその機関を相手とする訴訟事件において、訴訟代理人又は弁護人となること。
五、第三者の利益を図るために、国又はその機関の事務の負担となるべき交渉をなし、又は交渉をなさしめること。
六、正当な理由なくして、会期中三分の一以上欠席すること。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 国会議員自身から、憲法にこうした条項を盛り込むべきという提案がされていることを、他の国会議員は無視し続けている。私は非常によい提案だと思うので、一部文言を修正して、そのまま取り入れさせていただく。

◆ほそかわ案

(国会議員の就任宣誓)
第七十四条 国会議員は、その就任に際し、次の宣誓を行わなければならない。
 「私は、憲法及び法律を尊重擁護し、何人からも職務に関して約束もしくは贈与を受けず、つねに全力を尽くし、日本国及び国民の利益の増進に努めることを誓う。」
2 宣誓を行うことを拒否し、または条件付の宣誓を行う者は、国会議員の地位を放棄したものとみなす。

(国会議員の欠格事由)
第七十五条 国会議員は、次に掲げる事由により、その地位を失う。
一 直接間接に、公有財産を購入または賃借すること。
二 直接間接に、国の統治機関と、土木請負契約、物品納入契約またはその他法律が禁ずる契約を結ぶこと。
三 国の統治機関と契約関係にある営利企業の役員または法律顧問となること。
四 政府またはその機関を相手とする訴訟事件において、訴訟代理人または弁護人となること。
五 第三者の利益を図るために、国の統治機関の事務の負担となるべき交渉をなし、または交渉をなさしめること。
六 正当な理由なくして、会期中三分の一以上欠席すること。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(5)国会議員の歳費・特権

 

国会議員の歳費つまり給与について、昭和憲法は第四十九条に「両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。」と定めていた。私は、これでよいと思う。


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◆ほそかわ案

(国会議員の歳費)
第七十六条 国会議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
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 昭和憲法は、次に国会議員の特権について定めていた。私は、そのままの規定でよいと思う。

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◆ほそかわ案

(議員の不逮捕特権)
第七十七条 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。

(議員の発言及び表決についての免責)
第七十八条 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論または表決について、院外で責任を問われない。
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(6)国会の運営

 

国会の運営に関して、昭和憲法は、以下のように定めていた。

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●昭和憲法

第五十二条 国会の常会は、毎年一回これを召集する。

第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 基本的にこれでよいが、会期についてなど、一部修正・加筆するとよいと思う。

◆ほそかわ案

(通常会)
第七十九条 国会の通常会は、年に一回、これを召集する。
2 通常会の会期は、法律で定める。

(臨時会)
第八十条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。
2 前項の場合の他、いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があったときは、内閣は、臨時会の召集を決定しなければならない。
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(7)衆議院の解散権


 重要なことであるが、昭和憲法では、衆議院の解散について、誰に権限があるかが明確になっていなかった。実際には、首相が衆議院の解散を決定してきた。その決定に従って、天皇は、国事行為の一つとして、衆議院の解散を行う。それが、統治権の象徴的な行使の一つとなっている。 
 立法府との相互牽制関係において、行政府が内閣総辞職をするか、衆議院を解散するかを決めることは、内閣の重要な権限である。私は、新憲法には、内閣総理大臣に決定権があると明記すべきだと思う。この点は、第七章「内閣」において、内閣総辞職との関係から再度、触れたい。

以下が私案である。

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◆ほそかわ案

(衆議院の解散、特別会及び参議院の緊急集会)
第八十一条 衆議院の解散は、内閣を代表する内閣総理大臣が決定する。
2 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に、国会の特別会を召集しなければならない。
3 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
4 前項ただし書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであって、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失う。
5 第二十条に定める非常事態宣言の承認に関しては、前3項及び前4項の規定を準用する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第5項にいう非常事態宣言とは、私案の第三章「安全保障」の第十九条に定めるものである。

 

(8)議院資格争訟の審査

 

国会議員の議員資格について、昭和憲法は以下のように定めていた。

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●昭和憲法

第五十五条 両議院は各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
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 「議席を失わせる」は、日本語として不自然だと思う。これは、資格を奪うのであるから、剥奪というべきと思う。

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◆ほそかわ案

(資格争訟の審査)
第八十ニ条 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。
2 議員の議席を剥奪するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(9)定足数・表決等


 定足数、表決、議事の公開、秘密会、議事録、表決の記載については、昭和憲法の規定のままでよいと思う。

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◆ほそかわ案

(表決及び定足数)
第八十三条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
2 両議員の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

(会議及び会議録の公開等)
第八十四条 両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
2 両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、かつ一般に頒布しなければならない。
3 出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 役員の選任について、昭和憲法では、議長も他の役員も同じく、両議院が選任するとしていた。私は、三権の長は、天皇が任命すべきと考え、第四条にそのように規定する案を提示した。衆議院議長及び参議院議長は、国会が指名し、天皇が任命する。そこで、両議院の役員について、議長に関しては指名、その他の役員については選任とする。
 次に、国会規則及び懲罰については、昭和憲法では、第五十八条2項の前半に、「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。」と定めていた。実際は、このほかに、刑事裁判にて有罪が確定した場合が含まれる。そこで、少し整理した方がよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(役員の選任並びに議院規則及び懲罰)
第八十五条 両議院は、その議長を指名し、その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定めることができる。
3 両議員は、前2項による手続及び規則に反して院内の秩序を乱し、あるいは刑事裁判にて有罪が確定した議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

10)法律案の議決

 

法律案及び予算案の議決については、昭和憲法の規定でおおむね良いと思う。法律案は両院の可決によって法律となると定められているので、予算についても「予算案」が可決されて予算となるという表現にした方がよいと思う。

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◆ほそかわ案

(法律案の議決)
第八十六条 法律案は、この憲法に特別の定めのある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを妨げない。
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。

(予算案の議決)
第八十七条 予算案は、国会で議決されたとき、予算となる。
2 予算は、先に衆議院に提出しなければならない。
3 予算について、参議院で衆議院と異なった議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

(条約承認案の議決)
第八十八条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第三項の規定を準用する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

11)国政調査権・大臣の出席


 国会の国政調査権については、昭和憲法の規定のうち、提出を要求できるものに、資料という文言を補うとよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(国会の国政調査権)
第八十九条 両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言、資料並びに記録の提出を要求することができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 国務大臣の国会出席の権利及び義務について、昭和憲法は次のように定めていた。

 

●昭和憲法

 

第63条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のために出席を求められたときは、出席しなければならない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 これに対し、自民党案は、以下のように修正している。

 

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●自民党案

 

(閣僚の議院出席の権利と義務)
第六十三条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院のいずれかに議席を有すると有しないとかかわらず、いつでも議案について発言するため議院に出席することができる。

2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、答弁又は説明のため議院から出席を求められたときは、職務の遂行上やむをえない事情がある場合を除き、出席しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 私は、この案を妥当なものと思う。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

 

(閣僚の議院出席の権利と義務)
第九十条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院のいずれかに議席を有すると有しないとかかわらず、いつでも議案について発言するため議院に出席することができる。

2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、答弁または説明のため議院から出席を求められたときは、職務の遂行上やむをえない事情がある場合を除き、出席しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

12)弾劾裁判所・政党

 

私は、従来の裁判所のほかに、憲法裁判所を新設することを提案する。具体的には、司法に関する第八章で述べるが、条文の順番の関係で、国会の弾劾裁判所の規定に、憲法裁判所のことを含めておく。
 以下は、昭和憲法の規定に、その点を加えたものである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(弾劾裁判所)
第九十一条 国会は、罷免の訴追を受けた司法裁判所の裁判官並びに憲法裁判所の裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

13)政党


 自民党・日本会議・JCは、ともに政党に関する条項を新設することを提案している。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●自民党案

(政党)
第六十四条の二 国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることにかんがみ、その活動の公明及び公正の確保並びにその健全な発展に努めなければならない。
2 政党の政治活動の自由は、制限してはならない。

●日本会議案

 憲法に政党条項を設け、政党は国民の政治的意思の形成に協力し、その結成及び活動は自由であること、並びに政党の組織及び運営は民主的でなければならないことを明記する。

●JC案

(政党)
第六十条 政党は、国民の政治的意思形成を主導することを役割とし、民主政治の発展に努めなければならない。
A 政党は、国会議員総選挙に際し、施政の基本方針を明示しなければならない。
B 政党の要件は、法律でこれを定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、これらの提案の意義を認め、政党条項を新設することに同意する。ただし、本来、政治は政党を単位として行うものではない。政治家は「一人一党」という心構えをもって、国家・国益のために活動すべきである。国民は、選挙では、候補者の人物を見て判断すべきである。また、政党は、党員の言動や投票に強い拘束をかけ、異なる意見を排除すべきではない。そのような認識をもって政党について定めるべきだと思う。私案を以下に記す。

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◆ほそかわ案

(政党)
第九十ニ条 政党は、国民の政治的意思の形成に協力することを役割とし、議会政治の発展に努めなければならない。
2 政党の組織及び運営については、党員の自由と平等が尊重されねばならない。
3 政党は、国政選挙に際し、施政の基本方針を国民に明示しなければならない。
4 政党の要件は、法律でこれを定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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第七章 内閣

 

内閣に関する章の主な課題を最初に挙げてみたい。

1.内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならないという要件現役軍人除くことに改める。
2.衆議院の解散権について明らかにする。
3.内閣総理大臣は、内閣を代表して国軍を指揮するものとする。
4.内閣総理副大臣の指名を定める。
5.内閣の職務として、天皇の国事行為に関する助言と承認を行うことを、この章にも明記する。
6.内閣の職務に、法律案並びに憲法改正発議案の提出及び国会の召集並びに栄典授与の決定を加える。
7.条約の締結について、国会の承認を要するものは、立法権、予算審議権など国会の権限に関係のあるもの、その他政治的に重要な条約に限るものとする。
8.国務大臣の訴追されない特典については、内閣総理大臣を含み、訴追のうちには逮捕を含むことを明らかにする。

 これらの課題については、条文に沿って検討していきたい。

(1)内閣と行政権


 昭和憲法は、第六十五条に「行政権は、内閣に属する。」としていた。自民党案は、これを以下のようにしている。

●自民党案

(行政権)
第六十五条 行政権は、この憲法に特別の定めのある場合を除き、内閣に属する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この加筆は適当なものと思う。


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ほそかわ案

(行政権)
第九十三条 行政権は、この憲法に特別の定めのある場合を除き、内閣に属する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

特別の定めとは、例えば、地方自治がこれに当たる。

(2)内閣の組織・責任

 

内閣の組織及び国会に対する責任について、昭和憲法は、以下のように定めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第六十六条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣で組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 自民党案は、この条文のままである。ここで問題としたいのは、第2項の「文民」という用語である。自民党案は、この用語を踏襲している。文民とは civilian の訳語である。文民の対となる語は何か。文官であれば、武官となる。これは、公務員のうちに文官と武官があるのであって、文官は官吏である。官僚ではない民間人は、含まれない。civilian を文民と訳したことが混乱を招いている。
 言いたいことは、軍人と非軍人の区別だろう。軍人の対を文人とすると、文学者と紛らわしい。文官と訳せばよかったのだが、そう訳すと、昭和憲法の発布時に武官の存在を前提にしていることになる。日本が非武装化され、軍も自衛隊もない占領下で、憲法に武官という用語を使うわけにはいかない。こういう事情が、おかしな訳語を生み出したのだろう。
 私は、国軍を新設するという案を提示している。だから、文官と武官という対を用いることはできる。しかし、憲法に文官統制(civilian control)を定めたいのは、現役の軍人が政治に関与し、政治をつかさどることを禁じることがポイントである。それならば、現役の軍人は、これこれしてはならないと定めた方がよいと思う。そこで、私案では、第十七条に「現役の軍人は、内閣総理大臣及びその他の国務大臣になることができない。」と定めている。本条では、以下のようにしたいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(内閣の組織及び国会に対する責任)
第九十四条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣で組織する。
2 内閣総理大臣その他の国務大臣は、現役の軍人であってはならない。
3 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(3)内閣総理大臣の指名


 内閣総理大臣の指名について、昭和憲法は以下のように定めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第六十七条 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会が指名する。
2 国会は、他のすべての案件に先立って、前項の指名を行わなければならない。
3 衆議院と参議院とが異なった指名をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名をしないときは、衆議院の指名を国会の指名とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第1項については、「国会の議決で、これを指名する」と補ったほうがよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(内閣総理大臣の指名)
第九十五条 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。
2 国会は、他のすべての案件に先立って、前項の指名を行わなければならない。
3 衆議院と参議院とが異なった指名をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が指名をしないときは、衆議院の指名を国会の指名とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(4)首相の資格

 

内閣総理大臣については、候補者の資格を定めておきたい。
 私案では、第二十六条2項に「公務員のうち、国会議員、地方公共団体の首長及びその議会の議員、またはそれ以外の公務員のうち管理職に就任する者は、日本国民であることを要件とする。」と定める。それゆえ、外国籍の者は、国会議員になれない。帰化した場合はその限りでない。ただし、国家の最高指導者である内閣総理大臣については、帰化して日本国籍を取得した者がなることはできない、と制限をかけておきたい。
 これに似た発想の提案をしているのが、中曽根康弘氏である。

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●中曽根案

 出生によって日本国民たる者で、年齢満三十五年に達した者は、内閣首相及び内閣副首相の候補者になることができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 出生とともに年齢も条件にすることは、よい着想だと思う。ただし、年齢は、J・F・ケネディほどの俊英にして米国大統領となったのは43歳である。わが国の政治風土から言っても、40歳以上が妥当だと思う。

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◆ほそかわ案

(内閣総理大臣の資格)
第九十六条 内閣総理大臣は、出生によって日本国民たる者で、年齢満四十歳に達した者のうちから指名しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 国務大臣の任命及び罷免については、昭和憲法の定めのままでよいと思う。

◆ほそかわ案

(国務大臣の任命及び罷免)
第九十七条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(5)副首相の指名


 私は、内閣総理大臣は、組閣の際に必ず総理副大臣を指名し、首相に事故等があったときは、副首相が臨時的に代行することを、国民に対し明確に示しておく必要があると思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(内閣総理副大臣の任命)
第九十八条 内閣総理大臣は、内閣の成立と同時に、国務大臣のうちから、内閣総理副大臣を任命しなければならない。
2 内閣総理副大臣は、内閣総理大臣に事故のあるとき、または内閣総理大臣が欠けたときに、臨時に内閣総理大臣の職務を代行する。
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(6)首相・副首相の代務者

 

さらに、非常事態の場合の代行者の順位も決めておくことにしたい。

 

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◆ほそかわ案

(内閣総理大臣正副の代務者)
第九十九条 内閣総理大臣及び内閣総理副大臣にともに事故あるとき、または内閣総理大臣及び内閣総理副大臣がともに欠けたときは、以下の順位に従って、すみやかに代務者がその職務権限のすべてを代行する。
一 内閣官房長官
二 外務大臣
三 財務大臣
四 総務大臣
2 前項に定める代務者が代行を行えず、または政府が機能しない事態が生じた場合は、以下の順位に従って特別代務者が代行する。
一 東京都知事
二 大阪府知事
三 愛知県知事

3 前2項の第四位以下は、人口の多い府県の順に、その知事とする。
4 代務者または特別代務者は、その置くべき事由がやんだときは、すみやかにその職を退くものとする。

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(7)内閣の衆議院解散権と内閣不信任決議

 

昭和憲法では、内閣が国会で不信任されたとき、内閣は総辞職するか、衆議院を解散するかを選択した。この選択において、衆議院の解散を決定することは、しばしば首相の専権事項だといわれてきた。しかし、憲法に、そのような規定はなかった。
 第七条に天皇が内閣の助言と承認により、国民のために行う国事行為の一つとして、第七条の三号に「衆議院を解散すること」と定められていたのみである。天皇は自ら主導的に解散を決定するのではない。決定するのは、内閣である。政局を左右する重要なことであるにもかかわらず、このことは、内閣の権限として明記されていなかった。

 私は、行政府と立法府の相互牽制の一つとして、内閣に衆議院の解散権がある、と憲法に定めるべきだと思う。この決定に基づいて、天皇が、統治権の象徴的な行使として、衆議院を解散する。これは、天皇の国事行為の一つとして、私案第五条4項に定める。また、どういう場合に解散できるのか、解散の目的も定めて置きたい。

 次に、内閣不信任決議の効果については、昭和憲法は以下のように定めていた。

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●昭和憲法

第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、」という部分は、可決するのは内閣であるかのようにも読める。内閣と衆議院の関係を、より明確になるように文言に改めたい。
 以下の私案は、上記の修正・加筆を行ったものである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(内閣の衆議院解散権、内閣不信任決議の効果)
第百条 内閣は、衆議院を解散することができる。
2 解散の目的は、内閣の信任または重要法律案の可否について、国民の意思を問うためとする。
3 内閣は、衆議院で不信任の決議案が可決され、または信任の決議案が否決されたときは、十日以内に衆議院が解散しない限り、総辞職をしなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(8)内閣総辞職


 内閣が総辞職しなければならない場合については、昭和憲法の規定のままでよいと思う。

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◆ほそかわ案

(内閣総理大臣の欠缼等と内閣総辞職)
第百一条 内閣総理大臣が欠けたとき、または衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
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 次に総辞職後の内閣について、昭和憲法は以下のように定めていた。

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●昭和憲法

第七十一条 前二条の場合には、内閣は、新たに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行
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 前二条の場合とは、内閣の信任・不信任の決議、内閣総理大臣の欠缼、衆議院議員総選挙後の新国会の召集をいう。これらの場合には、内閣は衆議院を解散できないことを加筆すると、より明快になると思う。

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◆ほそかわ案

(総辞職後の内閣)
第百二条 第百一条3項及び前条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで、引き続き憲法の定める職務を行う。
2 前項の場合、内閣は、衆議院を解散することができない。
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(9)内閣総理大臣の職務

 

内閣総理大臣の職務について、昭和憲法は以下のように定めていた。

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●昭和憲法

第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
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 いかにもごちゃごちゃした文章である。自民党案は、これを次のように整理している。

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●自民党案

(内閣総理大臣の職務)
第七十二条 内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督し、その総合調整を行う。
2 内閣総理大臣は、内閣を代表して、議案を国会に提出し、並びに一般国務及び外交関係について国会に報告する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第1項に定める首相の職務は、行政各部の「統括」とすべきと思う。単なる「総合調整」ではない。また、昭和憲法で内閣について使われてきた「国務を総理する」という規定は、総理大臣にこそふさわしい。私案では、首相の権限に、国軍の指揮や非常事態宣言の発令を含む。戦時や非常時に国家の最高指導者が行う任務は、他律的な調整でなく、自律的な決断である。
 第2項については、単に「議案」でなく、「法律案その他の議案」と加筆したほうがよいと思う。また、第3項以下に安全保障に関わる職務を加える必要もある。
 そこで私案では、以下のようになる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(内閣総理大臣の職務)
第百三条 内閣総理大臣は、行政各部を統括し、国務を総理する。
2 内閣総理大臣は、内閣を代表して法律案その他の議案を国会に提出し、一般国務および外交関係について国会に報告する。
3 内閣総理大臣は、第十六条に従って、国軍を指揮する。
4 内閣総理大臣は、第十九条に従って、非常事態に対処する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

10)内閣の職務

 

内閣の職務について、昭和憲法は以下のように定めていた。

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●昭和憲法

第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行
 一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
 二 外交関係を処理すること。
 三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
 四 法律の定める基準に従、官吏に関する事務を掌理すること。
 五 予算を作成して国会に提出すること。
 六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
 七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、内閣は天皇の国事行為に関して助言と承認を行うことを、ここにも明記した方がよいと思う。次に、第2項の一号、三号、四号、五号は一部修正したいと思う。また、いくつかの職務を追加する必要を感じる。そのため以下の私案では号数が変わる。以下のうち、四号、六号、八号、十号、十二号は追加項目である。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(内閣の職務)
第百四条 内閣は、第三条2項に基づき、天皇の国事行為に関して助言と承認を行い、その責任を負う。
2 内閣は、一般の行政事務の他に、次の事務を行う。
一 法律を誠実に執行し、行政事務を統括管理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。ただし、立法後、予算審議権など国会の権限に関するもの、その他政治的に重要なものは、事前に、時宜によっては事後に国会の承認を経ることを必要とする。
四 国家安全保障を実行すること。
五 法律の定める基準に従い、公務員に関する事務を掌理すること。
六 国会の召集を決定すること。 
七 予算案及び決算案を作成し、国会に提出すること。
八 法律案並びに憲法改正発議案を作成し、国会に提出すること。 
九 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
十 最高裁判所並びに憲法裁判所の長たる裁判官を指名すること。また、長たる裁判官以外の裁判官を任命すること。
十一 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
十二 栄典の授与を決定すること。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

11)法律・政令の署名、国務大臣の訴追

 

 法律・政令の署名については、昭和憲法の規定のままでよいと思う。

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◆ほそかわ案

 

(法律及び政令への署名)

第百五条 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。

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 国務大臣の訴追について、昭和憲法は以下のように定めていた。


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●昭和憲法


第七十五条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は害されない。

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 この訴追には、逮捕を含むことを明記しておきたい。


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◆ほそかわ案

 

(国務大臣の特権)

第百六条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。ただし、このために、訴追の権利が害されることはない。訴追には、逮捕を含むものとする。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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第八章 司法

 

この章の主な課題は、憲法裁判所を設けることである。司法全体に関わることなので、最初に述べておきたい。

 昭和憲法は、第八十一条に「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と定めていた。しかし、憲法裁判は、一審、二審、最高裁判所という通常の手続を取ると非常に時間がかかる。また最高裁は違憲立法審査権の行使について消極的である。年間上告件数が3千7百件余りもある最高裁に積極的な判断を求めること自体が、かなり制度的に無理がある。
 最高裁の中に憲法訴訟を専門に扱う部門を設置すればよいという案もあるが、私は独立した憲法裁判所を設けて、そこで専門的に審査を行うことにしたほうがよいと思う。そうすることにより、憲法問題について集中した審査ができる、また、憲法解釈に統一を図ることができる。また最高裁判所は、憲法解釈に関わる事件は、憲法裁判所に委ねられるから、他の訴訟事件の審査を速く処理することができると思う。
 詳しくは、条項に沿って述べたいと思う。

 さまざまな憲法改正案の中で、読売新聞社は早くから憲法裁判所を提唱している。読売案は、司法の章全体がよく整理されている。そこで、この章は読売案(1994年版)をもとに検討を進めたいと思う。

(1)司法権と裁判所

 

司法権と裁判所の関係について、読売案は次のように提示している。

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●読売案

第八五条(司法権、憲法裁判所及び裁判所、特例の裁判所の禁止)
@すべて司法権は、憲法裁判所、最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
A 特例の裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 昭和憲法の規定との違いの一点目は、憲法裁判所が加わっていることである。二点目は、昭和憲法の当該条文第七十六条3項に、裁判官の独立を定めていた。読売案では、この条項を裁判官の身分保障と合わせて一つの条項としている。その条項は後出する。
 読売案に対する私見を述べると、まず第2項に、行政裁判所を設置することを妨げないことを加えたい。また軍事裁判所を設けることを提案する。国家安全保障の関係で、私案第十八条に定めたように、軍事裁判所は最高裁判所の統括管理に服せず、内閣総理大臣がこれを統括管理するものとする。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(司法権と裁判所)
第百七条 すべて司法権は、憲法裁判所、最高裁判所および法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
2 特例の裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、この憲法の定める場合を除いては、終審として裁判を行うことができない。ただし、前審として、法律で特殊な人、又は事件を管轄する行政裁判所を設置することを妨げない。
3 軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、軍事裁判所を設置する。軍事裁判所は、内閣総理大臣が統括管理する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(2)憲法裁判所

 

読売案では、憲法裁判所の条文を置いた上で、その後に最高裁判所・下級裁判所及びこれらに共通する条項を置いている。これは、よい整理の仕方だと思う。
 そこで、その整理に沿って憲法裁判所について見ていく。

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●読売案

第八六条(憲法裁判所の違憲立法審査権)
 憲法裁判所は、一切の条約、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する唯一の裁判所である。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は基本的にこの規定に賛成である。憲法裁判所に対し、最高裁判所は、憲法裁判所の管轄以外を扱うものと規定できる。次に、憲法裁判所の権限について、読売案は以下のように定めている。

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●読売案

第八七条(憲法裁判所の権限)
 憲法裁判所は、次の事項を管轄する。
 一 条約、法律、命令、規則又は処分について、内閣又はそれぞれの在籍議員の三分の一以上の衆議院議員若しくは参議院議員の申し立てがあった場合に、法律の定めるところにより、憲法に適合するかしないかを審判すること。
 二 具体的訴訟事件で、最高裁判所又は下級裁判所が求める事項について、法律の定めるところにより、憲法に適合するかしないかを審判すること。
 三 具体的訴訟事件の当事者が最高裁判所の憲法判断に異議がある場合に、法律の定めるところにより、その異議の申し立てについて、審判すること。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第二号については、行政裁判所を加えたい。
 次に、憲法裁判所の判決の効力については、以下のとおりである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●読売案

第八八条(憲法裁判所の判決の効力)
 憲法裁判所が、条約、法律、命令、規則又は処分について、憲法に適合しないと決定した場合には、その決定は、法律で定める場合を除き、それ以降、あらゆる国及び地方公共団体の機関を拘束する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 効力については、発効の期日を定めておいたほうがよいと思う。これは愛知和男氏の案による。
 以上のところまでの私案を示す。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◆ほそかわ案

(憲法裁判所の違憲立法審査権)
第百八条 憲法裁判所は、一切の条約、法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する唯一の裁判所である。

(憲法裁判所の権限)
第百九条 憲法裁判所は、次の事項を管轄する。
一 条約、法律、命令、規則又は処分について、内閣またはそれぞれの在籍議員の三分の一以上の衆議院議員若しくは参議院議員の申し立てがあった場合に、法律の定めるところにより、憲法に適合するかしないかを審判すること。
二 具体的訴訟事件で、最高裁判所若しくは下級裁判所または行政裁判所が求める事項について、法律の定めるところにより、憲法に適合するかしないかを審判すること。
三 具体的訴訟事件の当事者が最高裁判所の憲法判断に異議がある場合に、法律の定めるところにより、その異議の申し立てについて、審判すること。

(憲法裁判所の判決の効力)
第百十条 憲法裁判所が、条約、法律、命令、規則または処分について、憲法に適合しないと決定した場合には、その決定は、法律で定める場合を除き、それ以降、あらゆる国及び地方公共団体の機関を拘束する。
2 憲法裁判所の判決は、法律の定める場合を除き、その判決の公布の翌日から効力を生ずる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

憲法裁判所の裁判官について、読売案は以下のようである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●読売案

第八九条 (憲法裁判所の裁判官、任期、報酬)
@ 憲法裁判所は、その長たる裁判官及び八人のその他の裁判官で構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、参議院の指名に基づいて内閣が任命する。
A 憲法裁判所の裁判官は、任期を八年とし、再任されない。
B 憲法裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
C 憲法裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、減額することができない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私案では、憲法裁判所の長たる裁判官は、内閣が指名し、天皇が任命する。そのことをここでも明記しておきたい。次に、長たる裁判官以外の裁判官を、参議院が指名するというのは、参議院の独自性を発揮するのに、よい発想だと思う。
 第2項の任期を8年と年限を定めるのは、よいことだと思うが、再任はかまわないと私は思う。
 第3項は、独立した項目にするほどのことではない。但し書きとして、第2項に含めることができる。
 報酬については、最高裁判所等の裁判官と合わせて、裁判官の独立と身分保障の条項に定めたい。

 次に憲法裁判官については、兼職の禁止を定めておいた方が良いと思う。

 昭和憲法は、最高裁判所の裁判官について国民審査を設けていた。この制度は形骸化しており、廃止すべきだという意見がある。しかし、それはやり方がよくないためであって、国民の選挙で選ぶことのできない司法公務員について、国民が審査するという制度は、維持すべきである。デモクラシーつまり「国民参政制度」とは、国民が政治に参加する制度であり、統治権に関わる公務員を選挙または審査できるという仕組みが保たれねば、健全なデモクラシーは維持されない。
 私は、憲法裁判所と最高裁判所について、裁判官の国民審査を定めるという考えである。国民審査については、国民が判断できるように、各裁判官が重要な訴訟事件について、どのような判決をしているか、国民に情報を提供させるようにするとよいと思う。そのことは、最高裁判所の裁判官の国民審査と合わせて、独立した条項に定めたい。

 私案を以下に示す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(憲法裁判所の裁判官)
第百十一条 憲法裁判所は、その長たる裁判官及び八人のその他の裁判官で構成する。
2 憲法裁判所の長たる裁判官は、内閣が指名する。長たる裁判官以外の裁判官は、参議院の指名に基づいて内閣が任命する。
3 憲法裁判所の裁判官は、任期を八年とし、再任を妨げない。ただし、法律の定める年齢に達した時は退官する。
4 憲法裁判所の裁判官は、国会議員、国務大臣、司法裁判所の裁判官、その他の公務員職を兼ねることはできない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(3)最高裁判所・下級裁判所

 

最高裁判所の管轄は、憲法裁判所の管轄以外となる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(上告裁判所としての最高裁判所)
第百十二条 最高裁判所は、憲法裁判所の管轄以外の事項につき、裁判を行う終審裁判所とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次に、最高裁判所の裁判官について、読売案は以下のように定めている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●読売案

第九一条(最高裁判所の裁判官、任期、定年、報酬)
@ 最高裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
A 最高裁判所の裁判官は、任期を五年とし、再任されることができる。
B 最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
C 最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第1項については、私案の憲法裁判所の条文と同様の修正を行いたい。第2項の任期については、昭和憲法では不定であった。読売案では、5年としている。私見としては、憲法裁判所の裁判官との関係で、年限は定めたほうがよいと思う。というのは、最高裁判所の裁判官のうちから、憲法裁判所の裁判官を指名することのできるようにしておいた方がよいと考えるからである。第3項・第4項及び国民審査については、憲法裁判所の条項のところに書いた。ここでは説明を省く。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(最高裁判所の裁判官)
第百十三条 最高裁判所は、その長たる裁判官および法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成する。
2 最高裁判所の長たる裁判官は、内閣が指名する。長たる裁判官以外の裁判官は、参議院の指名に基づいて内閣が任命する。
3 最高裁判所の裁判官は、任期を五年とし、再任を妨げない。ただし、法律の定める年齢に達した時は退官する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

下級裁判所については、これまでの規定に従って、私案を示す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(下級裁判所の裁判官)
第百十四条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によって、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任を妨げない。ただし、法律の定める年齢に達した時には退官する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(4)裁判官の国民審査


 裁判官の国民審査を、ここで定めたい。憲法裁判所及び最高裁判所の裁判官については国民審査が必要と考えることは、既に書いた。
 まず昭和憲法が、最高裁判所の国民審査について定めていた条文を見てみよう。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第七十九条 (略)
2 最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
3 前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は、罷免される。
4 審査に関する事項は、法律でこれを定める。
(以下略)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私案では、この条項を憲法裁の裁判官についても同時に定めるものとする。国民審査における罷免を、「投票者の多数」としていたのは、憲法の規定とは思えないほど、雑であった。これは、有効投票の過半数としたい。また、国民が各裁判官について可否を判断できるように、情報提供を義務付ける。以下が私案である。

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◆ほそかわ案

(裁判官の国民審査)
第百十五条 憲法裁判所の裁判官及び最高裁判所の裁判官は、国民審査を受ける。
2 これらの裁判官は、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際、また再任の場合は再任後初めて行われる同選挙の際に、国民審査に付されるものとし、その後も同様とする。
3 前項の場合において、有効投票の過半数が裁判官の罷免を求めるときは、その裁判官は、罷免される。
4 裁判官の国民審査において、当該裁判所は、各裁判官が重要な訴訟事件に行った判決について、国民に情報を提供し、国民の判断に供しなければならない。
5 国民審査に関する事項は、法律でこれを定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(5)規則制定権・裁判の公開

 

昭和憲法は、最高裁判所の規則制定権を定めていた。憲法裁判所を新設する場合、こちらにも共通する条文を定める必要がある。読売案では、以下のようになっている。

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●読売案

第九三条(憲法裁判所及び最高裁判所の規則制定権)
@ 憲法裁判所及び最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
A 検察官は、前項に規定する規則に従わなければならない。
B 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これでよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

 

(憲法裁判所及び最高裁判所の規則制定権)
第百十六条 憲法裁判所及び最高裁判所は、訴訟に関する手続き、弁護士、裁判所の内部規律および司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
2 検察官は、前項に規定する規則に従わなければならない。
3 最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(6)裁判官の独立と身分保障

 

裁判官の独立と身分保障について、読売案ではここの位置に、一つにまとめて定めている。

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●読売案

第九四条(裁判官の独立、身分保障)
@ すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。
A すべて裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この条の第1項・第2項は、これでよいと思う。ここに第3項として、報酬のことを定めたい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

 

(裁判官の独立、身分保障)
第百十七条 すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律にのみ拘束される。
2 すべて裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことはできない。
3 すべて裁判官はひとしく、法律の定めるところにより、国庫から相当額の報酬を受ける。この給与は、前項に定める裁判官の独立と身分保障に基づき、個別の裁判官について減額することができない。

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(7)裁判の公開

 

裁判の公開について、読売案は、以下のようになっている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●読売案

第九五条(裁判の公開)
@ 裁判の対審および判決は、公開法廷でこれを行う。
A 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序、善良の風俗又は当事者の私生活の利益を害するおそれがあると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行うことができる。ただし、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第五章で保障する国民の権利が問題となっている事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 読売案は、昭和憲法に定める非公開の理由に、「当事者の私生活の利益」を加えている。私は、国家の安全保障のためという理由を第一に置くべきだと思う。
 私案を以下に記す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(裁判の公開)
第百十八条 裁判の対審および判決は、公開の法廷でこれを行う。
2 裁判所が、次に掲げる理由により、裁判の公開が適当でないと、裁判官の全員一致で決定した場合は、対審を公開せずに行うことができる。
一 国家の安全保障を脅かすおそれのあるとき。
二 公共の秩序を害するおそれのあるとき。
三 善良の風俗を害するおそれのあるとき。
四 当事者の私生活上の利益を害するおそれのあるとき。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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第九章 財政

 

最初にこの章の主な課題を述べたい

1.最大の課題は、財政の透明性の実現である。
 財政条項を強化するため、財政の透明性を実現することを憲法に規定する。
 具体的には、内閣は毎会計年度の予算作成に際し、前年度決算を前提にその審議を経なければならないこと、公会計を複式簿記にすること、一般会計と特別会計を連結とすることを明記したい。
2.予算不成立の場合の処置として、内閣の責任支出を認め、事後に国会の承認を得るものとする。
3.複数年度にまたがる継続費についての規定を定める。
4.公金その他公の財産の支出に関しては、社会的儀礼の範囲内は認めるものとする。
5.決算は国会に、提出するだけでなく、承認を得なければならないと明記する。
6.非常事態において、国会召集の不能または余裕のない場合、内閣の責任支出を認め、事後に国会の承認を求めるものとする。

(1)財政の基本原則


 昭和憲法の財政の基本原則に関する規定は、以下のとおりであった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決にいて、これを行使しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この条文の主語は何か。国の財政を処理する権限を持つ主体は何か。行政府であり、内閣だろう。それを明記したい。また、財政の処理を権限として規定する必要はないと思う。他の権限に関して、同じようにしていないからである。
 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(財政の基本原則)
第百十九条 国の財政は、国会の議決にいて、内閣がこれを処理する。
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(2)租税法律主義・国庫の支出等

 

租税法律主義について、昭和憲法は、以下のように定めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 法令というものは、誰が誰に何をどうするということを具体的に定め、権利義務関係を明確にしなければならないものだろう。ところが、上記の条文には主語がない。また、「法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」という表現は、日本語として練れていない。そこで、次のようにしたいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(租税法律主義)
第百二十条 国の行政府及び立法府は、租税を新たに課し、または現行の租税を変更する際は、法律、または法律の定める条件によらなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 国費の支出及び国の債務負担について、昭和憲法は以下のように定めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第八十五条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決にくことを必要とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これも主語がない文章であるので、改めたい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(国費の支出及び国の債務負担)
第百二十一条 内閣は、国費を支出し、又は債務を負担する際には、国会の議決に基づくことを必要とする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(3)予算


 予算に関する条項は重要である。昭和憲法は以下のように定めるのみであった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第八十六条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、ここで財政の透明性を実現するための具体的な規定として、以下のように盛り込みたいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(予算、公会計)
第百二十二条 内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない。
2 内閣は予算作成に際し、前年度決算を前提にその審議を経なければならない。
3 公会計は複式簿記とする。一般会計と特別会計は連結する。
4 内閣は、国会において議員が提出した法律案が可決されたときは、その法律の執行に必要な費用を補正予算案、または次の会計年度の予算案に計上しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 第2項は、予算・決算の本来あるべき関係を明記するものである。
 第3項については、国民が財政の実態を把握するには、複式簿記の導入が必要である。日本の公会計は江戸時代の大福帳のような単式簿記のままである。そのため、日本全体でいくらの資産と負債があるか全く分からない。それを放置したまま、郵政民営化だ、年金だ、増税だ、小さい政府だと言っているのは、おかしい。
 複式簿記に変更して、ストックとフローの増減を連動させ、一般会計と特別会計・特殊法人会計・認可法人会計を連結させる。それが第3項である。こうしなければ、財政の透明性が得られない。
 私は、憲法の条文から財政の透明性を打ち出さないと、国富に寄生して私利私欲をほしいままにする悪質な政治家や官僚の行動を止めることができないと思う。
 第4項は、愛知和男氏の提案に基づく。ほぼそのまま採用した。前条において主語をはっきりさせるための修正を行ったが、全体に財政の章では、内閣と国会、行政府と立法府の関係を明示すべきと思う。

 

次に、予算案が年度内に成立しなかった場合について定めておく必要があると思う。自民党案は、以下のように提示している。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●自民党案

(予算)
第八十六条 (略)
2 当該会計年度開始前に前項の議決がなかったときは、内閣は、法律の定めるところにより、同項の議決を経るまでの間、必要な支出をすることができる。
3 前項の規定による支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 基本的にこれでよいと思う。これに非常事態における内閣の責任支出を定めておきたい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(予算不成立の場合の処理)
第百二十三条 当該会計年度開始前に前項の議決がなかったときは、内閣は、法律の定めるところにより、同項の議決を経るまでの間、必要な支出をすることができる。
2 前項の規定による支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。 
3 第十九条に定める非常事態宣言が発せられたとき、国会召集の不能または余裕のない場合は、内閣の責任支出を認め、事後に国会の承認を求めるものとする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(4)継続費


 継続費について新設する提案が出されている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●自民党案

(継続費)
第八十六条の二 数年度にわたる事業であって、特に必要があるものについては、法律の定めるところにより、あらかじめ国会の議決を経て、数年度にわたる支出をすることができる。

●愛知案

第百八条【継続費】
内閣は、特別に複数年にわたって継続して国費を支出する必要のあるときは、継続費として国会の議決を得なければならない。

●JC案

(予算案、継続費)
第八十八条 (略)
A 特別に継続支出の必要があるときは、年限を定め、継続費として国会の議決を得なければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、ここでも主語を明確にする必要があると思う。先ほどの条項と共に、私案を示す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(継続費)
第百二十四条 内閣は、特別に複数年にわたって継続して国費を支出する必要のあるときは、年限を定め、継続費として国会の議決を経なければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(5)予備費・皇室財産

 

財政の予備費については、昭和憲法の規定のままでよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(予備費)
第百二十五条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決にいて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を経なければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次に皇室財産については、昭和憲法の定めでよいと思う。ただし、第八十八条の「予算」は「予算案」と修正する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(皇室財産)
第百二十六条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算案に計上して、国会の議決を経なければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(6)公の財産の用途制限


 公の財産の用途制限については、検討すべき点がある。昭和憲法は、第八十九条に次のように定めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これは、第二十条の信教の自由に関する条項と合わせて、「政教分離」を規定した条項と言われる。同条3項の「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。」と、第八十九条は、「政府(State)と宗教団体(Church)の分離」を示すものであって、国民国家(Nation)と宗教(Religion)の分離を定めたものではない。厳格分離説ではなく、限定分離説で解釈すべき条項であった。
 この観点に立ち、私案では第三十二条にて次のように提案している。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(信教の自由)
第三十二条 信教の自由は、公共の利益に反しない限り、これを保障する。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式または行事に参加することを強制されない。
3 政府及び公共団体は、特定の宗教または宗派を布教、宣伝、援助または促進するような宗教的活動をしてはならない。ただし、冠婚葬祭、慰霊、建築及びこれに類する社会的儀礼の範囲内にある場合を除く。
4 政府及び公共団体は、特定の宗教または宗派を弾圧してはならない。
5 政府及び公共団体は、特定の宗教または宗派の布教、宣伝、援助または促進になるような教育をしてはならない。ただし、宗教・宗派の違いを超えた宗教的情操を養う教育を妨げるものではない。
6 いかなる宗教団体も、政府から特権を受け、または政治上の権力を行使して、その特定の宗教または宗派の信仰を、国民に強制してはならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、このような案であるので、公の財産の用途制限については、これと整合するように定めたいと思う。
 次に、昭和憲法第八十九条は、宗教上の組織・団体についての規定と、慈善・教育・博愛の事業についての規定が、一緒に書かれているので、これらを分けて整理した方がよいと思う。また、「公の支配」に属する、属しないという表現は、不適当である。英文では「not under the control of public authority」となっている。「支配」は、「control」の誤訳である。これは、「監督」という用語を使うべきだろう。
 以下に、私案を示す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(公の財産の用途制限)
第百二十七条 公金その他の公の財産は、社会的儀礼の範囲内にある場合を除き、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のために支出し、またはその利用に供してはならない。
2 公金その他の公の財産は、国若しくは公共団体の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対して支出し、またはその利用に供してはならない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(7)決算の承認

 

決算の検査及び報告について、昭和憲法は以下のように定めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第九十条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この規定では、決算を提出するだけという規定になっている。しかし、決算というものは、決算案を審議して採決して、初めて決算となる。提出だけでなく、承認が必要とすべきである。「毎年」とあるのは、「毎年度」であろう。上記の条文は「これ」「その」「これ」という指示語が多く、指示する対象もわかりにくい。
 自民党と愛知和男氏は、次のような修正案を提示している。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●自民党案

(決算の検査及び国会の承認)
第九十条 内閣は、国の収入支出の決算について、すべて毎年度会計検査院の検査を受け、法律の定めるところにより、次の年度に、その検査報告とともに国会に提出し、その承認を受けなければならない。
2 会計検査院の組織及び権限は、法律で定める。

●愛知案

第百十一条【決算検査、会計検査院】
@国のすべての収入及び支出の決算は、会計検査院がこれを検査する。
A内閣は、次の年度に、前項に規定する会計検査院による決算検査と併せ、国のすべての収入及び支出の決算を国会に提出し、その承認を得なければならない。
B会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、愛知案は妥当なものと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(決算検査、会計検査院)
第百二十八条 国のすべての収入及び支出の決算は、会計検査院がこれを検査する。
2 内閣は、次の年度に、前項に規定する会計検査院による決算検査と併せ、国のすべての収入及び支出の決算を国会に提出し、その承認を得なければならない。
3 会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 財政状況の報告については、昭和憲法の規定のままでよいと思う。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(財政状況の報告)
第百二十九条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少なくとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は、この財政の章に、財政の透明性の実現、公会計の複式簿記、一般会計と特別会計の連結等を盛り込んでいる。この基礎となるのは、国民の権利と義務の章の第五十二条に、次のように定めることである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(納税の義務)
第五十ニ条 国民は、公共の利益の実現のため、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
2 国民は、税金が有効に利用されるように求める権利を有する。国は、国民の付託に応え、税金を有効かつ適正に使うよう努めねばならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 財政状況の報告は、この第2項に基づいて行われなければならないものとしたい。

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第十章 地方自治

 

私がこの章で課題と考えるのは、主に以下の点である。

1.国の統治権との関係で、地方自治の本旨を明らかにする。
2.地方公共団体の組織及び運営に関する事項だけでなく、地方公共団体の種類も、地方自治の原則に基づいて、法律でこれを定めるものとする。
3.地方公共団体の直接選挙に関し、首長と議員以外の公務員については、選挙を要する規定を削除する。
4.地方公共団体のみに適用される特別法でその地方公共団体の住民の投票に付さなければならないものは、特に法律で定めるものに限定するものとする。

(1)地方自治の本旨


 まず地方自治の本旨についてであるが、昭和憲法では、何が地方自治の原則であるのか、規定がされていなかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨にいて、法律でこれを定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ただこれだけである。「地方自治の本旨」という文言は、何を意味するのか。字義的には、「本来の主旨」であるが、その説明がない。本旨が不明なまま、わが国は約60年間、国政と地方自治を行ってきた。

 地方自治とは何か。これは、国家の統治権の問題として考えねばならないと思う。わが国の統治権は、天皇と、天皇を中心とする国民が共有するというのが、私の見解である。統治権は、立法・行政・司法の三権に分立される。このうち行政権の一部を、各地方に居住する国民が分担する。行政のうち、地域生活に関係の深い部分を、その地域の国民が、国政の枠内で、自律的に担う。それが地方自治である。
 それゆえ、地方公共団体の自治権は、国家全体の統治権に根源を持つものであって、自ずから限定されている。憲法に定める地方公共団体の住民は、単なる地域住民ではなく、その地域に住む国民の意味である。そして、地方自治は、国の行政府及び立法府の下に、これと連携して行われねばならない。私は、このように考える。
 次に、こうした観点から、まず自民党案を見てみたい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●自民党案

(地方自治の本旨)
第九十一条の二 地方自治は、地域における住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として、行われるものとする。

(地方自治体の役割等)
第九十一条の三 地方自治体は、住民の福祉の増進を図るため、住民の協働を基本として、地域における行政を実施する役割及びそれらに係る責任を担う。
2 住民は、その属する地方自治体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を公正に分任する義務を負う。
3 住民は、その属する地方自治体の運営に参画するよう努めるものとする。

(国及び地方自治体の相互の協力)
第九十一条の四 国及び地方自治体は、地方自治の本旨に基づき、適切な役割分担を踏まえて、相互に協力しなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 これらはいずれも自民党が新設を提案している条項である。昭和憲法では、この章はわずか四つの条項のみである。ところが、自民党案は、これに五つの条項を新設する。ちなみに、新設する残りの二つは、(地方自治体の種類)と(地方自治体の財務及び財政措置)である。昭和憲法の条項のうち第九十五条(特別法の住民投票)は削除するということなので、四つ条項が増えることになる。全部で八つの条項となるから、昭和憲法の条項を、二倍に増やすということである。
 自民党の憲法改正案で、これほど力を入れている章はない。まるで、憲法改正の最大のテーマを、地方自治に置いているのかと疑われるほどである。

 問題は、第九十一条の二(地方自治の本旨)、第九十一条の三(地方自治体の役割等)、第九十一条の四(国及び地方自治体の相互の協力)にある。ここには、急進的な地方分権の思想が盛り込まれていると思う。特に「自主的」「自立的」を拡大解釈すると、国より地方が主体性を持つことになる。国が地方への解体を推進しなければならない方向となる。

 私は、早急に地方分権を進めることには反対である。危険だと思う。理由は、敗戦後約60年、国民の国家意識が著しく低下し、国民としての団結心が極度に弱くなっているので、この状態のまま地方分権を進めると、ますます国家としての紐帯が弱くなり、日本の衰退を早めると思うからである。とりわけ国家安全保障と次世代の教育に関して、早急な地方分権は、自滅的な結果を招きかねない。
 現在のわが国の課題は、敗戦後の占領政策の後遺症から回復することである。昭和憲法という日本弱体化の自動装置の呪縛から自らを解放し、一個の独立主権国家のありようを回復・確立することである。その重大課題をしっかり成し遂げた後に、改めて地方分権を考えるのがよいと思う。手順を誤ると、国のたがが外れるおそれがある。

自民党が急進的に地方分権を進める改正案を出しているのに対し、愛知和男氏やJCは、慎重な構えである。
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●愛知案

第百十三条【地方自治の原則】
@地方公共団体は、国と協同して国民の福祉の増進に努めるものとする。
A地方公共団体の運営及び組織に関する事項は、法律でこれを定める。

●JC案

(地方自治の基本原則)
第九十三条 地方公共団体の組織および運営に関する事項は、地方公共団体およびその住民が地域住民の生活に密接に関わる事務を自らの意思および責任において行うことを基本として、法律でこれを定める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 どちらの案も、地方自治の本旨を規定しようとしているわけだが、国家の統治権と地方自治権の関係を規定していない。これは、欠陥である。統治権について掘り下げた検討をしていないために、このような欠陥を生じたものと思う。
 両者を比較すると、愛知案が国と地方公共団体の「協同」をうたっているのに対し、JC案はこの点に触れていない。また、愛知案は「国民の福祉の増進」と「国民」を対象とするのに対し、JC案は「地域住民」を対象としている。愛知案は重心が国家・国民の方にあり、JC案は地方・住民の方に置かれているのがわかる。
 JC案は、地方自治における「住民」に外国人を含むという解釈を招く余地がある。また「自らの意思及び責任」も「外国人を含む地域住民」の意思及び責任と拡大解釈される可能性がある。私は「その地域に住む国民」と明確に規定した方がよいと思う。
 国民は、国政についても、地方自治についても、自分は日本国民であるという自覚をもって参加しなければならない。また、自主的な政治参加は、地方においてのみ可能であるのではなく、まず国政においてなされるのでなければならない。インターネット等の情報通信技術の発達は、それを可能にしてもいる。
 なお、地方公共団体については、運営・組織だけでなく、種類についても法律で定めるとしておきたい。
 以上のような考えにもとづいた私案を以下に示す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(地方自治の本旨)
第百三十条 地方自治は、国家の統治権のうちの行政権の一部を、内閣の統括管理のもと、各地域に住む国民の意思と責任において行使するものである。

(地方公共団体の組織及び役割)
第百三十一条 地方自治を行うため、地域ごとに地方公共団体を組織する。
2 地方公共団体は、地域における行政を実施する役割及びそれらに係る責任を担う。
3 地方公共団体は、国の行政府及び立法府と協同して、その地域に住む国民の福祉の増進に努めるものとする。
4 地方公共団体の運営、組織及び種類に関する事項は、法律でこれを定める。

(各地域に住む国民の権利及び義務)
第百三十二条 国民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公正に分任する義務を負う。
2 国民は、その属する地方自治体の運営に参画するよう努めるものとする。
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(2)地方選挙

 

地方自治体の機関及び直接選挙について、昭和憲法は次のように定めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
2 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 「議事機関」として議会を設置するという表現は、冗語だろう。意思決定機関としたほうがよいと思う。
 「吏員」は、昭和憲法において、ここでしか使われていなかった用語である。英訳では、「The chief executive officers」に対して、「other local officials」となっている。「officials」は、昭和憲法の第9条、第15条、第16条等の英文では、「public officials」として使われている。つまり、「公務員」のことである。これも用語使用の不統一であって、昭和憲法の制定における粗雑さが、ここにも出ているわけである。
 しかも、「法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」と規定しているが、首長や地方議員以外の地方公務員を、直接選挙で選んではいない。
 これらの点を踏まえて、私案を以下に示す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(地方議会、首長・議員の直接選挙)
第百三十三条 地方自治体には、法律の定めるところにより、その意思決定機関として議会を設置する。
2 地方自治体の首長及びその議会の議員は、日本国民である当該地方自治体の住民が、直接選挙する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次に、これは愛知和男氏の提案であるが、地方公共団体の首長と議員についても、欠格事由を定めておくべきと思う。これは国会議員について定めた規定を準用することとする。

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◆ほそかわ案

(地方公務員の欠格事由)
第百三十四条 地方公共団体の首長及びその議会の議員の欠格事由については、第七十五条の規定を準用する。この場合において、同条中「国会議員」とあるのは、「地方公共団体の首長及びその議会の議員」と読み替えるものとする。
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(3)地方自治体の権能

 

地方公共団体の権能について、昭和憲法は次のように定めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 基本的にはこれでよいが、条例によって租税を科すことができること、及び地方財政の健全性の維持を定めておくとよいと思う。

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◆ほそかわ案

(地方公共団体の権能)
第百三十五条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
2 地方公共団体は、自らの権能を行使するために、条例により租税を課すことができる。また、その財政は健全に維持及び運営されなければならない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次に、特別法の住民投票について、昭和憲法は以下のように定めていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
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 「一の地方公共団体」は、「特定の」と言い換えたほうがよいと思う。また、「地方公共団体の住民」は日本国籍を持った者に限ることを明記しておきたい。

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◆ほそかわ案

(特別法の住民投票)
第百三十六条 特定の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民である国民の投票において、有効投票の過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次に、非常事態の場合における地方自治について定めておく必要がある。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

(非常事態下における地方自治)
第百三十七条 第十七条に規定される非常事態が宣言された場合、法律の定めるところにより、地方公共団体は、その権限を停止し、内閣の直接の指揮の下に入るものとする。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 本章の最初に、国家の統治権と地方自治の関係について書いた。国家統治権と地方自治権が、最も強い緊張関係におかれるのが、他国による侵攻、内乱・騒擾、大規模自然災害等の場合である。
 先に、自民党案が地方自治の章の条項を倍に増やし、急進的な地方分権を進めようとしていることを指摘した。自民党の憲法改正案には、国防の義務がなく、また非常事態宣言もない。これは大きな欠陥である。そして、こうした条項のないままに、地方分権を進めようとしている自民党案は、万が一の危機のときに、国家分裂・日本解体に陥りかねない内容となっている。
 国民は、自民党の憲法改正案の問題点に、しっかり目を向ける必要がある。

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第十一章 改正

 

 憲法とは、国民のための憲法であって、憲法のための国民ではない。国の基本法である憲法は、時代と必要に応じて、真に国民のためになるものへと、随時改正していくべきものである。ところが、昭和憲法の改正に関する規定は、他国に比べ非常に厳しいものとなっていた。改正は、国会の両院の3分の2以上の議決で発議され、さらに国民投票で過半数の承認を必要とした。世界的に見て、これらの両方を必要とする例は少ない。

 

 昭和憲法の本質的性格の一つは、占領基本法であり、占領政策の固定・継続をねらうものだった。そこに、憲法改正を極めて困難にした企みがあった。 そのため制定後、半世紀以上、一度も改正されないままだった。最初から欠陥と不備が多い上に、時間がたつにつれ、国際環境と国内問題との歪みを強めていた。

 日本人の手による真の日本国憲法を制定するに当たり、制定後の改正に関しては、時代と必要に応じて改正を行い得るように定めておきたい。

 

(1)改正の手続き

 

 さて、昭和憲法の改正条項は、条件が厳しいだけでなく、規定が不十分であった。国会が発議・提案して、国民が承認を得るとしているが、これだけでは、改正の手続きが明らかになっていない。条文を見てみよう。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

 

第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体であるものとして、直ちに憲法改正を公布する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 「発議」とは、普通は議会に議案を提出して審議を求めることである。単なる「提案」とは違う。議会では、提案内容の審議を行う。すなわち、詳しく論議・検討する。その審議がつきたところで、採決を行う。採決を行った結果、可決か否決かが決定する。だから、憲法改正案についても、「発議⇒審議⇒採決」という手続きが必要である。

 そのうえで、憲法の場合、他の法律案と違うのは、国民投票によって承認を求めることにしてきたことである。承認は、審議を伴わない。国会で議決したことを、認めるか認めないかの可否を問うだけである。国民は、国会から発議をされても、審議はしない。Yes Noの意思表示をするだけである。この手続きについて、昭和憲法の規定は粗雑だったと思う。

 国会での「発議⇒審議⇒採決」、その後の国民投票による「提案⇒承認」という五段階を定めるとよいと思う。

 

さて、さまざまな憲法改正案のうち、国会の議決のみでよいとする案は、日本会議がそれである。

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●日本会議案

 憲法改正は、国会または内閣が発議し、衆参両院の総議員の5分の3以上の賛成を必要とする。
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 従来の「3分の2以上」を「5分の3以上」としているところに、数的基準の緩和がある。ざっとした言い方をすると、約67%以上から60%以上に下げるという案である。この程度に緩和すれば、改正は現実的になるだろう。
 これに対し、国民投票を要するという意見は、自民党、中曽根氏、愛知氏、JC等が出している。焦点をしぼるため、天皇による公布の項目等は省略して、各案を以下に示す。国会での採決の基準の高い順に並べて見る。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●中曽根案

(
改正の手続)
第百二十二条 この憲法の改正は、各議院の総議員の五分の三以上の賛成によるか、又は選挙人の三分の一以上の連署に上って発議され、国民投票に付して、その過半数の賛成による承認を経なければならない。

●自民党案

(改正の手続)
第九十六条 この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議に基づき、各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 (略)

●JC案

(憲法改正の手続)
第九十七条 この憲法の改正案は、国会から選出された常設の憲法調査委員会が、これを作成する。
A この憲法の改正は、前項の憲法調査委員会が作成した改正案をもとに、在籍議員の過半数の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を得なければならない。
B 前項の国民の承認には、法律の定めるところにより実施される国民投票において、有効投票数の過半数の賛成を必要とする。
C (略)

●愛知案

第百十九条【憲法改正の手続、憲法改正の制限】
@憲法改正案の提出は、国会の在籍議員数の三分の一以上の議員、又は内閣がこれを行う。
Aこの憲法の改正は、国会において在籍議員の三分の二以上の出席の上で、出席議員の三分の二以上の賛成による可決を必要とする。
B前項の場合の他、この憲法の改正は、国会において在籍議員の三分の二以上の出席の上で、出席議員の過半数により、国会がこれを発議することができる。この場合、特別の国民投票、又は国会の定める選挙の際に行われる国民投票において、有効投票の過半数の賛成を必要とする。
CD (略)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 細かい規定は捨象して数的基準のみを整理すると、各議院の総議員または在籍議員の「5分の3以上」が中曽根氏、「過半数」が自民党とJCである。愛知氏の案は、複雑である。「在籍議員の三分の二以上の出席の上で、出席議員の三分の二以上」で可決、「過半数」だが「三分の二未満」の場合は、国民投票という案となっている。前者だと9分の4以上、後者だと3分の1以上となる。これをざっと数字で示すと、それぞれ、60%以上、51%以上、44%以上、33%以上ということになる。国民投票については、過半数という基準は、どの案にも共通している。

(2)議決・承認・公布

 

私は、憲法改正において、国会での審議・採決と国民投票による承認という二重の手続きは、維持していくという考えである。現時点で国会における議決だけで憲法を改正できるとするのは、国民の国家統治への参加意識の低下を招くと思う。昭和憲法に代わる新憲法を作り上げ、国民が占領政策の悪影響を脱却し、自主独立の気風を取り戻したうえであれば、国会の議決だけで改正が出来るように切り換えても良いと思う。それは将来的な課題と認識する。

 さて、昭和憲法の改正条項で修正したい第1の点は、「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」で「発議」としていた点である。これを、国会では審議・採決を行う。採決は「各議院の総議員の過半数」をもって可決とする。ここで国民の代表による議会においては、議決する。その議決内容について、国民に承認を求めるものとする。国民投票では、有効投票の過半数をもって承認とする。

 次に、修正の第2点は、国会への「発議」つまり提案は、国会議員だけでなく、内閣もこれを行えるとしたい。重要な法律案の多くは、内閣が提案している。行政府には、法務のプロがいる。国会議員また彼らを党員とする政党の人材だけでは、改正案の十分な策定ができないおそれがある。

 次に、公布について、昭和憲法は第九十六条2項に、「憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体であるものとして、直ちに憲法改正を公布する。」と定めていた。「この憲法と一体であるものとして」とは、どういう意味だろうか。天皇と憲法が「一体」であるとは、不可解な規定である。英訳を見ると、次のようになっている。
 「Amendments when so ratified shall immediately be promulgated by the Emperor in the name of the people, as an integral part of this Constitution.
 「一体」という用語に対応するのは、「an integral part of this Constitution」である。
 つまり、「不可欠の部分」「なくてはならない要素」といった意味である。確かに、天皇は昭和憲法において、日本国の象徴及び日本国民統合の象徴と規定されている。第七条に「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行。」として、その第一号に「憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。」と定められていた。そして、昭和憲法は、昭和天皇が「帝国憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる」として、裁可と公布を行った。
 昭和憲法の規定では、天皇は国会における「発議」に関わらず、国民投票の「承認」にも関わらない。国民投票で「承認」された時点で、事実上、憲法改正案は新憲法となる。
 新憲法には、天皇の勅語を賜らねばならない。そして、国務大臣が副署をして、初めて公布される。天皇は内閣の助言と承認のもとに、わが国の統治権の象徴的な行使として、改正後の憲法を公布することになる。
 このように考えると、「この憲法と一体であるものとして」という文言は、不必要であり、削除すべきと思う。
 また、「国民の名において」という規定も不適当であり、むしろ公布は天皇の名において公布されるとしなければならない。御名御璽が必要なのである。

 次に、非常事態宣言が発令されている間は、この憲法は改正することができないことを定めておくべきと思う。これにより、クーデタ政権による改正は、正当性を持たないことを明らかにしておく。
 以上述べてきた私見をまとめた案を示す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◆ほそかわ案

(改正の手続)
第百三十八条 この憲法の改正は、衆議院または参議院の議員若しくは内閣の発議により、審議される。
2 国会において、各議院の総議員の過半数の賛成によって改正案が可決された場合、内閣は国民に改正を提案して、その承認を受けなければならない。この承認には、特別の国民投票または国会の定める選挙の際に行われる国民投票において、有効投票の過半数の賛成を必要とする。
3 非常事態宣言が発令されている間は、この憲法は改正することができない

(
改正の公布)
第百三十九条 憲法改正について前条の承認を得たときは、第七条及び同一号の規定に従い、天皇は、直ちに改正された憲法を公布する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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第十二章 最高法規

 

「最高法規」と題した章に、昭和憲法は、以下の三条を設けていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●昭和憲法

 

第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 

第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

 

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

基本的人権をまたここで言うのはおかしなことである。既に「国民の権利と義務」の章に定めているのだから、これこそ蛇足である。

憲法尊重義務もここで言う必要はないと思う。天皇については、憲法を尊重するのみでよく、擁護する(英訳は uphold)ことまで求めるのは、適当でない。国会議員には憲法を尊重する義務があるとともに、改正を発議・審議する権限があり、自由な発言や討議を束縛してはならない。昭和憲法の下では、国務大臣がこの憲法の制定過程の問題点を指摘すると、憲法の尊重擁護の義務に違反するとして、罷免を求める動きがしばしば起こった。そのように悪用されるおそれがある。

私案では、第二十四条に「国民は、憲法その他の法令を遵守しなければならない。」と規定する。公務員だけでなく、国民一般について憲法遵守義務を定めるので、最高法規の章に規定する必要はないと考える。この国民には天皇を含む。

 

このように考えると、この章に規定しなければならないのは、昭和憲法の第九十八条のみである。その第1項については、そのままでよいと思う。「詔勅」に関しては、憲法の条規に反しない詔勅は有効である。憲法改正私案の場合、「教育勅語」は私案の条規に反しない。憲法改正の暁には、国会において、教育勅語の復権が審議されることを期待する。

第2項については、憲法の最高法規性を定める条項にあえて規定する必要がないと思う。もし規定するとすれば、憲法は国内的には最高法規だが、国際的には国際法より下位のものだと認めることになる。しかし、国際法には、国や政権や論者によって、解釈の違いが生じうる。条約というものは、相手国の政府と解釈の違いが生じることがしばしばある。場合によっては、締結の時点では自国にとって有利だったことが、相手国の変化によって、国益を損なう場合もある。国際機構についても同様である。国家主権の独立を維持するためには、柔軟な外交ができるようにしておいたほうがよい。

だから、私は、第2項は、憲法に定める必要がないと思う。むしろ、第1項に、「条約」を加えるべきだと考える。条約を含めて、憲法の優位を明確にしておく。憲法上疑義のある条約は結ぶべきでないし、仮に結んでも憲法裁判所が審判を行う。

以上に基づく私案を示す。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

 

(最高法規)

第百四十条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅、条約及び国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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第十三章 補則

 

 「補則」として、憲法の施行期日と準備手続きを定めておく必要がある。施行期日は、昭和憲法では6ヶ月後であったが、時代の速度に対応するため、3ヵ月後としたい。

次に、昭和憲法は貴族院を廃止し、参議院を設立したが、私案では、国会組織の改造はないので、このような条項はいらない。最後に、憲法施行にあたって、従来の公務員の地位を保障することが必要なので、これは定めておきたい。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆ほそかわ案

 

(憲法施行期日、準備手続)

第百四十一条 この憲法は、公布の日から起算して三箇月を経過した日から、これを施行する。

2 この憲法を施行するために必要な法律の制定及び国会召集の手続並びにこの憲法を施行するために必要な準備手続は、前項の期日よりも前に、これを行うことができる。

 

(経過規定―公務員の地位)

第百四十ニ条 この憲法施行の際、現に在職する国務大臣、国会議員及び裁判官並びにその他の公務員で、その地位に相応する地位がこの憲法で認められている者は、法律で特別の定めをした場合を除いては、この憲法施行のため、当然にはその地位を失うことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選挙または任命されたときは、当然その地位を失う。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

以上で、憲法改正の私案を終える。

私は憲法の専門家ではない。特に法学を学んだわけでもない。ただ国民の一人として、日本再建のために、新しい憲法を求めて、浅学非才を省みず立案した。このささやかな試みが、新憲法の実現に向け、同胞諸氏の関心高揚に役立つことができれば幸いである。ページの頭へ

 

参考資料

・自由民主党憲法改正案(平成17年8月1日、第1次案発表)

http://www.jimin.jp/jimin/shin_kenpou/index.html

・木村睦男著『平成の逐条新憲法論』(善本社)

・愛知和男著『平成憲法【愛知私案】(第4次改訂、平成16年4月現在)

http://www.aichi-kazuo.net/kenpou/index.html

・平沼赳夫著『新国家論』(中央公論新社)

・“This is 読売”増刊『日本国憲法のすべて』平成9年5月号(読売新聞社)

大原康男・百地章他著『新憲法のすすめ』(明成社)

・日本青年会議所案(平成17年10月4日発表)

http://www.jaycee.or.jp/2005/nationalpower/constitution/html/data/jc_souan.pdf

 

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