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  人類の展望

                       

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■地球温暖化〜「不都合な真実」を知ったら

2007.5.21

 

<目次>

はじめに

第1章 地球環境の危機

第2章 温暖化こそ最大の危機

第3章 アル・ゴアの『不都合な真実』

第4章 どうして温暖化するのか

第5章 このまま行くと、何が起こるか

第6章 科学者の見方は一致しているのか

第7章 アメリカを変えること

結びに〜一人一人の決断と行動にかかっている

補章 日本の役割

 

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はじめに

 

今日、人類最大の危機といえるのが、地球温暖化である。地球温暖化の危機を伝え、行動を呼びかけるものに、アメリカの元副大統領アル・ゴアの映画『不都合な真実』がある。その映画を基にした本も出ている。

本稿は、ゴアの著書の内容を抜粋して整理しながら、地球温暖化への取り組みについて意見を述べるものである。

 

第1章     地球環境の危機

 

●人類の地球意識のめざめ

 人類が、地球環境の危機を認識し、取り組みを始めたのは、まだそう古いことではない。
 人類が、地球というこの惑星を自らの住まいと自覚したのは、宇宙から撮影した一枚の写真による。昭和43年(1968)12月24日、アポロ8号が撮った宇宙に浮かぶ、青く輝く地球の写真だ。この写真が世界中に報道されたことによって、人々は、はじめて「地球意識」とでもいうべき新しい意識を持つようになった。
 翌44年(1969)7月20日、人類史上初めて、有人宇宙船が月に着陸し、アメリカのアポロ11号の乗り組み員が、月面に降り立った。まさに歴史的な瞬間だった。私は、その時の衛星中継をテレビで目撃した世代だ。高校1年生、15歳の時だった。
 以後、地球環境を考える運動や、宇宙や地球を意識した文化運動、自然回帰の生活運動等が、先進国を中心に叢生した。地球に「ガイア」という名前をつけ、地球意識持った存在のようにとらえる考え方も広がった。

 アル・ゴアは、昭和23年(1948)生まれ。アポロの月面着陸の時には、21歳だったことになる。昭和40年(1965)にハーハーバード大学に入学し、政治学を専攻した。在学中の昭和43年(1968)、ゴアは、ロジャー・レヴェル教授から、地球の大気中の二酸化炭素の濃度を観測したデータを見せられた。レヴェルの測定は、地球温暖化の原因を解明する先駆的な研究だった。宇宙飛行士が宇宙空間から撮った初めての地球の写真を持ち帰ったその年に、ゴアは、地球の異変を知ったわけである。

●地球環境危機の認識

 地球環境の問題、地球規模の環境問題について、人類が最初に国際会議を開いたのは、昭和47年(1972)だった。その年の6月、ストックホルムで、国連人間環境会議が開催された。この会議の報告に基づくテレビ番組が、NHKで放送された。18歳の私はそれを見て、人類がかつてない問題に直面していることを知った。
 この会議には、114か国が参加した。キャッチフレーズは、「かけがえのない地球 (Only One Earth)」。バーバラ・ウォードとルネ・デュボスが、地球と人類の文明の危機を伝える報告をした。このかけがえのない地球を守るために「人間環境宣言」及び「環境国際行動計画」が採択された。109項目の行動計画が採択された。会議の初日だった6月5日は、「世界環境デー」と決められた。しかし、その後も人類は、地球環境や人口・エネルギー・食糧等の問題に、十分有効な取り組みをできていない。

 国連人間環境会議が開かれた同じ年、ローマ・クラブの依頼により、マサチューセッツ工科大学(MIT)内にドネラ・H・メドウズ、デニス・L・メドウズ、ヨルゲン・ランダースの3人を中心とする研究プロジェクトが設けられた。彼らは、コンピューターを駆使して、21世紀の世界の人口および産業の成長を予測し、研究発表を行なった。これが、『成長の限界』(ダイヤモンド社)である。
 本書は、西洋近代文明が目指すべき価値としてきた「成長」という概念に、反省を投げかけ、大きな反響を呼んだ。私もほどなく翻訳で読んだ。本書は、あらゆる分野からデータを集め、システム思考にいて総合的に地球の状態を把握し、考えられるいくつかのシナリオを提示していた。具体的な政策と行動を求める問題提起の書だった。

●私の問題関心

 10代の終わりころから、人類社会の危機を意識し、苦悩していた私は、昭和51年(1976)に、大塚寛一先生の教えに出会った。それまで、私は、当時影響を受けていた共産主義の総括を中心に、西洋近代文明の克服とそれによる危機の解決の道を模索していた。大塚先生の教えと実証に触れたことで、私は、文明の根本的な転換をなし得る原理があることを知った。
 以来、私は、現代の人類にとっての最大の課題は、世界平和の実現と、地球環境の保全だと考えている。その課題を達成するには、日本に重要な役割があるとも認識している。
 地球環境を考える人には、国家や民族を否定し、地球市民として生きるという人がいる。そういう人の政治意識は、ほとんど左翼と変わらない。しかし、現実の世界は、さまざまな国家が並存している国際社会である。地球環境の問題も、個人や民間団体の活動は、規模が限られている。地球的な環境危機を改善するには、国際社会の単位である国家が主体とならなければ、大規模な動きはできない。

 西洋物質文明の中核をなすアメリカや、唯物的な共産主義の支配している中国が、人類社会を大調和の方向に導けるとは、思えない。日本には、人と人、人と自然が調和して生きる精神が伝わってきている。その精神が、21世紀人類の衰亡か飛躍かの岐路において、大きな役割を果すと私は思う。
 日本を再建し、日本文明の持つ潜在力を発揮することが、世界平和の実現と地球環境の保全の鍵となると私は考える。
 それゆえ、環境保全そのものの運動よりも、日本の再建を通じた人類文明の転換に、私の関心の要がある。この点は、30数年来変わらない。現在も同様である。ゴアの『不都合な真実』についても、この観点から書く。
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第2章 温暖化こそ最大の危機

 

●取り組みの甘さと遅れ

 地球環境の問題に関しては、昭和53年(1978)に「環境と開発に関する世界委員会」が、「われら共通の未来(Our Common Future)」という報告書を出した。その中で「持続可能な発展(Sustainable Development)」という概念が導入された。
 昭和55年(1980)には、アメリカ政府が「西暦2000年の地球」という報告書を出した。カーター大統領の時代だ。当時のアメリカ政府は、地球環境の危機の実態を真摯につかもうとし、かなり深刻な未来予測を公表した。
 昭和57年(1982)には、国連環境計画(UNEP)の管理理事会が、それまでの取り組みの不十分さを認め、21世紀の地球環境の模索とその実現に向けた戦略を策定する特別委員会の設置を提案して、採択された。これが、「ナイロビ宣言」と呼ばれる。

 しかし、その後も、取り組みは、やはり、はかばかしくなかった。ナイロビ宣言から10年たった平成4年(1992)6月 ブラジルのリオ・デジャネイロで、国連環境開発会議が開催された。これが第1回の「地球サミット」である。
 この会議は、21世紀に向けて、環境と経済発展を対立したものとして捉えるのではなく、両者を調和させながら実現することを目指したものだった。「持続可能な発展」の実現のための基本理念となる「リオ宣言」、これを具体化するための行動計画としての「アジェンダ21」、さらに気候変動枠組条約、生物多様性条約、森林原則声明などが採択された。この時、地球温暖化問題についても、国際的な取組みが協議された。

 第1回「地球サミット」の年、私は38歳。二人の子の親になっていた。子どもが生れてから、自国に誇りの持てるような日本、そして人類が自然と調和して生存できる地球を、子どもたちに受け渡さねばならないという気持ちが強くなった。それが、親としての責任、大人としての責任、人間に生まれた者の責任と感じている。

 第1回「地球サミット」と同じ年、『成長の限界』のグループが、続編を出した。
 昭和47年(1972)の『成長の限界』の結論はこうだった。人口、工業化、汚染、食糧生産、資源消耗などの点で、現在のような傾向が不変のまま続けば、今後100年のうちに地球上での成長は限界に達する。その結果、最も起こる見込みが強い結末は、人口と工業の突然の、制御不可能な減退であろう、と。
 本書の刊行後、20年がたった平成4年(1992)、メドウズ教授らは、続編である『限界を超えて』(ダイヤモンド社)を出した。教授らは、高度化したコンピューターを使い、膨大な情報をもとに地球の状態を把握した。そして、人類は、既に地球の扶養力の限界を超えて、行き過ぎてしまった、そこから戻らねばならない、と強く警鐘を叩いた。教授らは、将来予測のシナリオを示し、農業革命、産業革命に続く「持続可能性革命」が必要だとし、早急に行動を起こすよう呼びかけた。
 行動が遅れれば遅れるほど、後の結果はよくない。危機を乗り越えることはできても、生活水準は下がる。場合によっては、破局に至る、とコンピュータは冷厳な数値を示した。

●地球温暖化が最大の環境危機に

 アル・ゴアは、平成4年(1992)、第1回「地球サミット」が行われ、『限界を超えて』が刊行されたその年に、クリントン政権の副大統領になった。以後、その立場で8年間、彼が生涯の課題とする地球環境の問題に取り組んだ。
 クリントン政権は、国際政治には、共産中国との癒着など大きな問題を持っていたが、地球環境問題については、ゴアという指導者を政府中枢にすえたことにより、多くの法案を成立させ、有効な政策を推進した。アメリカ政府は、世界各国に対して、環境政策の実行を促す役割をしていた。ゴアは、京都議定書の起草にも参画していた。
 しかし、平成12年(2000)に行なわれた大統領選挙で、ゴアは、ジョージ・ブッシュ(息子)に僅差で敗れた。投票の集計に疑惑の残る選挙だった。環境政策では、ブッシュ政権は、それまでの経済と環境の調和を重視する政策から、経済成長重視の政策に転換した。アメリカは、京都議定書を批准していない。ブッシュ政権は、世界132カ国が批准しているこの条約を、自国の企業の利益追求のために、無視している。

 平成16年(2004)、メドウズらのグループは、三回目の本を出した。『成長の限界〜人類の選択』(ダイヤモンド社)である。昭和47年(1972)の最初の本から30年以上たったところで、改めて地球規模のシナリオを提出した。事態の深刻さは、以前にいやましている。これまで30数年の間、顕在化してきた多くの事実。温暖化、沙漠化、森林消失、大気汚染、土壌汚染、水質汚染、海洋汚染、種の大量絶滅等々。『成長の限界〜人類の選択』は、人類に待ったなしで、行動を迫まっている。
 これらの環境危機の中でも、地球温暖化こそ、最も深刻かつ切迫した危機になっている。私は、本年(平成19年)1月に公開されたアル・ゴアの映画『不都合な真実』及び同名の本によって、そのことを確認した。

 人類は、これまでの取り組みの甘さ、遅れのつけを受けつつある。日本人も同様である。
 地球温暖化によって、極地の氷が溶け、海面が上昇すれば、東京・大阪等の大都市は、相当部分が水没する。国土が狭く、わずかな平野部に人口や産業が集中しているわが国は、水没によって多大な被害を受ける。日本人こそ、この問題を自らの問題としてとらえるべき時にある。
 このような規模の問題は、個人や民間団体の取り組みでは、到底及ばない。日本人は、新たな視点から国家を意識し、日本を建て直して、国民の総力を挙げてこの地球的な危機に立ち向かう必要がある。私が日本精神の復興を呼びかけるゆえんでもある。

●温暖化する地球の近況

 地球環境の問題については、今年(平成19年、2007)の異常な暖冬で、地球の温暖化が深刻な段階にあることを、肌身で感じた人が多いのではないか。
 温暖化は、極地に顕著な異変をもたらしている。
 北極の海氷は、過去25年間、毎年1.5%から2%減少してきた。平成14年(2002)以降、融け方が激しくなり、16年から17年の1年間には、14%も減少したという。これは、過去に比べ、10倍もの速さという。昨年(平成18年)9月には、韓国とほぼ同じ大きさの穴が、海氷の上に開いた。住みかを失い北極海を漂流しているホッキョクグマの姿が、日本でも放映された。
 南極海でも、巨大な棚氷(たなごおり)が次々と崩壊している。平成14年2月には、ラルセンB棚氷が崩壊した。それにより氷山となって流出した面積は、埼玉県と同じくらいになる。氷の壁が崩落するシーンは、世界に衝撃を与えた。

 北極の氷は、海の水が凍った海氷が、海に浮かんでいるものである。海氷は、海水と比重が同じゆえ、溶けても海水面は上昇しない。しかし、南極やグリーンランド等の氷は、陸地で真水から出来た氷が主である。融解すると、融け出した水が海面を上昇させる。
 仮に温暖化が続き、平均気温が2〜3度C上がると、海水面が上昇し、関東平野の相当部分が水没すると予想されている。横浜・川崎・市川・草加・越谷までが水面に沈み、東京駅は海岸沿いの駅になる。関西地方、中部地方等でも同様のことが起こる。
 日本だけではない。NASAゴッダード宇宙研究所のハンセン博士は、次のように予測している。地球規模で長期にわたる干ばつと熱波が続く。飢餓と水不足が戦争の火種となる。強大なハリケーンが世界各地を襲う。生態系が壊れ、種の半分が絶滅する、と。博士は、人類の努力によって地球温暖化を阻止するには、時間はあと10年しかないと警告する。
 また、イギリス政府の要請により、気候変動が経済に及ぼす影響について報告したスターン博士は、温室効果ガスの削減対策を実行しないと、世界の平均気温が2度Cを超えるのは、2035年と予測する。ここ10〜20年間にどう対処するかが、21世紀後半以降の気候を左右する。しかし、今から2050年までの間、毎年世界全体のGDPの1%を対策に投じれば、温暖化の危機を回避することは可能だとしている。

 今年(平成19年、2007)に入って、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第4次報告書が、各作業部会から提出されている。2月には、第1作業部会が、人間活動が起因する温暖化の進行を確実なものと認めた。4月には、第2作業部会が、気候変動が生態系や水資源に及ぼす深刻な影響について警鐘を鳴らした。今月(5月)には、第3業部会が、適切な削減対策を取れば、世界の温室効果ガス排出量を2050年に現状より半減させれば、産業革命からの気温上昇を、2.4度に抑えることができるなどとした報告書を出した。そして、11月には、これらをまとめた統合報告書が発表される予定である。
 来年から京都議定書に定められた5年間の二酸化炭素の削減期間が始まる。しかし、先進国のうち、アメリカとオーストラリアは、京都議定書を批准していない。削減義務を負っていない発展途上国からの排出は続き、かつ急速に増加していくと予想される。京都議定書の期限が切れる平成25年(2013)以降については、地球温暖化を防止する実効的な枠組みを作れるかどうか、まだ見通しは立っていない。

●現代文明の危機の原因

 地球を温暖化させ、それによって自らの生活が危うくなるほどに、人間は、自然を変えるだけの力を持つにいたっている。近代西洋が生み出した科学技術は、産業に応用され、自然環境に働きかけて、繁栄をもたらした。しかし、西洋近代人の自然を支配し、搾取する思想は、自然の破壊や汚染をも生み出した。科学技術は、西洋から世界の多くの地域にその力を広げ、人類の文明と地球の生態系の関係が根本的に変わってしまった。その結果、人類は、この地球において、平和的に共存し、自然と調和して生きることが難しくなってきている。

 その原因は、3つの要因が重なり合ってきたことにあるだろう。
 第1の要因は、科学技術の規制なき発達と、欲望の実現のための応用である。これは、産業革命と資本主義の発展以後の傾向であったが、20世紀の1930年代から、アメリカで大量生産・大量消費・大量投棄の生産方式・生活様式が生まれ、地球上に広がった。その原動力が、石油である。現代文明は、石油文明とも呼ばれる。
 第2の要因は、人口の爆発的な増加である。20世紀後半から、世界の人口が幾何級数的に増えてきた。その世紀半ばに20億人だった世界人口は、21世紀初頭の現在60億を超えた。人口の急増は、発展途上国を中心に起こっている。食糧や水、エネルギー、その他あらゆる天然資源に対する需要が増加し、地球の自然に強い圧力をかけている。
 第3の要因は、国際社会の構造である。現在の人類世界には、本当の国際秩序がまだ存在しない。先進国と発展途上国、核所有国と非所有国、リベラル・デモクラシーの国と共産主義の国、産油国と非産油国等の様々な差異・対立が存在する。人類は、科学技術、産業、人口等を、全地球的な次元で調整できないばかりか、国際社会の構造が、第1と第2の要因をより強めている。

 現代世界の人類文明は、地球環境との間に、多くの問題を生じている。その中の最大のもの、最も切羽詰ったものとして、浮かび上がってきたのが、地球の温暖化である。
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第3章 アル・ゴアの『不都合な真実』


●アル・ゴアの映画と本

 平成12年(2000)に行なわれたアメリカ大統領選挙で、ブッシュに敗れたゴアは、政界を去った。その後、民間人として、地球環境の保全のための活動を行なってきた。ゴアは、平成18年(2006)、アメリカで映画『不都合な真実』を製作し、人類に行動を呼びかけている。この作品は、全米を中心に世界各地で講演を行っているゴアの講演を映画化したものである。同名の本も出されている。映画には、本に数倍勝る迫力と説得力がある。地球上の各地を飛び回って温暖化の実態を調査し、粘り強い警告と行動を続け、分かりやすいプレゼンテーションに努めるゴアの姿に、私は感動した。彼の背後に、超越的な意思の働きを感じたほどである。
 このまま温暖化を防ぐことができなければ、人類が破滅的な状態に陥るのは明らかである。地球の現状はどうなのか、なぜ急速に温暖化が進んでいるのか。どうすれば破滅を回避できるのか。自分にも出来ることは何か。その答えの得られる映画であり、また本である。是非多くの人に考えていただきたく、心からお勧めしたい。映画の案内サイトは、以下へどうぞ。
http://www.futsugou.jp/

 

●「不都合な真実」とは

 アル・ゴアの著書の題名「不都合な真実」は、”An Inconvenient Truth”の訳である。”inconvenient”は「不都合な」と訳されているが、日本語の「不都合」よりも意味が強い。単に都合が悪いというより、「問題や困難を生じる」「困った」「まずい」という意味合いがある言葉である。

 ゴアの言う「不都合な真実」とは何か。
 本書の「はじめに」において、ゴアは、次のように書いている。
 「2005年、最も影響力のある11カ国の科学アカデミーが共同で、すべての国に対し、『気候変動の脅威は明らかであり、増大しつつあることを認める』ように呼びかけた。そして、『今では、気候変動に関する科学的な理解は、根拠として十分に明らかになっている。各国は迅速な行動を起こさねばならない』と断言した。このメッセージは、一点の曇りもなく、明々白々である。この危機は、『危険!』ということだ。私たちの指導者たちが、これほど明確な警告に耳を傾けないのはなぜなのか? 単に彼らにとっては、真実を聞くのは『不都合』だということなのだろうか?」
 「気候の危機」「気候変動」とは、地球の温暖化である。その地球温暖化の危機を認めようとしない、また警告に耳を傾けない「私たちの指導者たち」とは、アメリカの指導者たちを指す。本書の題名である「不都合な真実」とは、アメリカの指導者たちにとって、「不都合な真実」であることを意味する。地球の温暖化は、「問題や困難を生じる」「困った」「まずい」真実というわけである。

 ただし、アメリカの指導者たちだけではなく、より多くの人々にとっても不都合でありうる。ゴアは、本文に次のように記述している。
 「最もよく聞かれる質問が二つある。『たくさんの人々が、まだこの危機は本物ではないと思っているのは、なぜなのだろうか』『なぜこれは、そもそも政治問題なのか』」
 最初の質問については、「理由の一つは、気候の危機に関する真実は、自分たちの暮らし方を変えなくてはならないという『不都合な真実』だからではないかと思う」、「変えるべきものが、冷暖房の温度設定を調整するとか、新しい種類の電球を使うといった小さなことにしろ、石油や石炭から再生可能な燃料に切り替えるといった大きなことにしろ、そのためには、骨を折らなければならないからだ」とゴアは書いている。
 この質問と答えは、幅広く多くの人々に当てはまる質問であり、答えである。まだまだ世界の多くの人が、地球の温暖化を本物の危機だとは認識していない。また、ある程度、危機を感じていても、自分の暮らし方を変えたり、さらに産業や技術や文明のあり方を変えようとしたりしている人は、限られている。しかし、ゴアが主な対象としているのは、普通の多くの人たちではない。質問への答えは、次のように続く。
 「温暖化に関する真実は、一部の力の強い人々や企業にとって特に不都合であり、歓迎せざるものなのだ。そういった人々や企業は、地球をいつまでも住める場所にするには、自分たちに巨額のお金を儲けさせてくれている活動を、大きく変えなくてはならない、ということを十分に承知しているのである」

●誰にとって最も不都合か

 そして、そのことは、二つ目の質問の答えに関係してくる、とゴアは言う。
 「こういった人々――特に、そういった意味で最も問題になっている2、3の多国籍企業の人々――は、毎年何百万ドルもの資金を費やして、温暖化に関して人々を混乱させる方法を考え出そうとしている。このような人々は、互いの利益を守ろうと意気投合したほかのグループとうまく結託し、この連合がこれまでのところ、温暖化に対応する米国の力を麻痺させることに成功しているのだ。ブッシューチェイニー政権は、この連合から強力な支持を受けており、その利害を満たすためにできることなら何でもやっているようである」と、
 ここで、ゴアの言う「私たちの指導者たち」とは、現在のアメリカ政府、ブッシューチェイニー政権を指すことが、明確に述べられている。そして、2、3の多国籍企業が、互いの利益を守ろうとして意気投合したほかのグループと結託して連合をつくり、ブッシューチェイニー政権を強力に支持しているという。ゴアが本書で、こうした連合の企業・団体として、具体名を挙げているのは、エクソンモービル社のみである。石油メジャーの一つであり、ロックフェラー財閥の中心企業である。
 本書の題名「不都合な真実」とは、特にアメリカの一部の企業・団体及び彼らが支持するブッシューチェイニー政権にとって、「不都合な真実」を意味するわけである。

 ちなみに、ジョージ・ブッシュ大統領は、かつて原油や天然ガスの発掘会社を経営し、石油・資源エネルギー産業の世界で働くビジネスマンだった。ディック・チェイニー副大統領兼上院議長は、世界屈指の石油関連サービス会社、ハリバートンの最高経営責任者(CEO)を退いて、政権入りした。彼らを中心とした政権が、アメリカの石油業界・資源エネルギー業界と、強い結びつきを持ち、その業界の利益を追求することに尽力しているだろうことは、こうした来歴からも理解されよう。

 本書『不都合な真実』は、地球温暖化の危機を伝え、行動を呼びかけている。そして、後に見るように、ゴアは、この問題は「倫理的な問題(モラル・イシュー)」であることを強調する。しかし、ゴアの主張を読めば、倫理的な行動が、アメリカの政権の交代と、それによるアメリカの環境政策の転換をめざす行動になることは明らかである。その点では、本書は、政治的に先鋭な本である。
 倫理的であることが政治的となり、政治的であることが倫理的となる。これは、温暖化を含む地球環境問題、さらに言えば、地球規模での文明の転換という課題の持つ本質的な性格である。
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第4章 どうして温暖化するのか

 

●ありがちな誤解をしていないか

 わが国では、地球温暖化について、昨年(平成18年)から本年(19年)にかけて、意識する人が目だって増えていると思う。しかし、まだまだ多くの人が誤解を抱いている。本書は、主としてアメリカの国民を対象に、ありがちな疑問を10、取り上げて、その答えを明確に示している。そのうちの4つが重要だと思う。わが国の現状にも当てはまる。そこで、その4つの質疑応答をそっくり引用して、啓発の一助としたい。

「地球温暖化をめぐるありがちな10の誤解」より

 誤解その1:「人間が地球の気候変動を引き起こしているのかどうかに関して、科学者の意見は一致していない」
 回   答:「実際には、科学的な意見は「人間の活動が地球の気候を変えているということでしっかり一致している。圧倒的多数の科学者が、『地球はどんどんと暖かくなっており、この傾向の原因は人間であり、温室効果ガスを大気中に排出し続ければ、温暖化はますます害を及ぼすものになる』ことに合意している」
 
 誤解その2:「気候に影響を与える可能性のあるものはたくさんある。だから、二酸化炭素だけを取り出して心配すべき理由はない」
 回   答:「気候は、太陽の黒点や水蒸気など、二酸化炭素以外にもさまざまなものの影響を受けやすい。しかしこのことは、私たちが二酸化炭素などの人間の影響による温室効果ガスに真剣に気をつけなくてはならないことを示しているにすぎない。『歴史を通して気候システムはつねに、さまざまな自然の変化に影響を受けやすいことがわかっている』ことは、危険信号として受け取るべきである。私たちは、自分たちがもたらしている前例のない大きな変化にしっかりと注意を払わなくてはならない。私たち人間は、自然のいかなる力よりも大きな力を持つようになっている」

 誤解その3:「気候とは、時の経過とともに自然に移り変わるものだ。だから、私たちが今見ている変化はどれも、自然の周期の一環にすぎない」
 回   答:「確かに気候は自然に変化するものである。年齢や湖の堆積物、氷床コアなど、過去の気候の変遷がわかる自然の特徴の研究から、科学者は、気候が、急速な変化を含め、歴史を通じて変化してきたことを知っている。しかし、そのような変化が起こった際の自然な二酸化炭素濃度の変動はどれも、私たちが現在引き起こしているものより小さい。南極の深いところから取り出した氷床コアを調べると、現在の二酸化炭素濃度は過去65万年間で最高であることがわかる。つまり、私たちは、自然に生じる気候の変動幅を外れているのだ。大気中の二酸化炭素が増加すると気温が上昇する」

 誤解その4は、省く。

 誤解その5:「温暖化について、自分たちにできることはない。すでに手遅れだ」
 回   答:「これは最悪の誤解である。真実を否定してはならないのと同じように、けっして絶望しないこと。自分たちにできることはたくさんある。ただし、今すぐにはじめなくてはならない。私たちには、これ以上、気候変動の原因と影響を見て見ぬふりをすることはできない。政府の取り組み、産業界の革新、個々人の行動を組み合わせて、化石燃料の使用量を減らさなくえてはならない。自分にできる数十のことが、この情報ガイドに載っている」
 最後の「情報ガイド」とは、本書の巻末にあるページを意味する。

 誤解その6〜10は、省く。

 以上の4つを中心とした誤解を解くために、ゴアは本書で、実に説得力のある説明と主張を行なっている。その内容は、少しづつ整理して見ていこう。

●温暖化のメカニズムを理解する

 なぜ地球は温暖化しているのか。
 その仕組みを理解することが必要だ。
 「人口がこれほどまでに増え、かつ、人間の用いる技術の力が、このうえなく強力になったため、今や私たち人類は、地球環境の多くの部分に大きな影響を与える力を手にしている」とゴアは、本書に書いている。
 こうした地球環境への影響は、近年、「エコロジカル・フットプリント」として数値化されている。人間が地球の自然生態系を踏みつけた足跡を意味する言葉で、一人の人間が持続的な生活を営むために必要な地球上の面積を指標とする。「エコロジカル・フットプリント」は、森林、土壌、河川、海洋、動植物の種等に及ぶ。こうした自然生態系への影響の中で、現在、最も重大な問題になっているのが、大気である。

 「地球の生態系のうち、最も脆弱なのは大気である。非常に薄いからだ。友人の故カール・セイガンは、よくこんなふうに言っていた。『球にニスを塗ったとしよう。地球に対する大気の厚みは、その球に対するニスの厚みぐらいなんだよ』。大気はとても薄いので、私たちがその組成を変えることが出来てしまうのだ」とゴアは言う。

 人類は、大気中に大量の温室効果ガスを排出して、大気の組成を変化させてきている。温室効果ガスとは、二酸化炭素、窒素酸化物、メタン、フロン(CFC)等である。
 どうして、これらの気体が、温室効果ガスと呼ばれるのか。ゴアは、温室効果について、次のような説明を書いている。
 「太陽エネルギーが光波となって大気中に入り、地球を暖める。そのエネルギーの一部が地球を暖め、それから赤外線として反射され、宇宙に戻っていく。通常の条件下では、宇宙へと反射される赤外線の一部は、何もしなくても大気に吸収される。これはありがたいことである。そのおかげで、地球の気温は快適な温度領域に保たれるからだ。金星を取り巻く温室効果ガスはあまりにも厚いので、金星は私たちには生きられないほどの高温になる。火星のまわりには温室効果ガスはほとんどない。そこで、火星は私たちには生きられないほど低温となる」
 この仕組みは、最近の科学的発見ではない。100年ほど前から知られていることである。
 ゴアは、次のように言う。
 「いま私たちが直面している問題とは、人間が膨大な量の二酸化炭素やその他の温室効果ガスを排出していることから、この大気の薄い層がだんだん厚くなっていることだ。大気の層は厚くなるにつれ、本来ならば大気を抜けて宇宙へと出ていくはずの赤外線放射の多くを逃がさなくなる。その結果、地球の大気や海洋の温度は、危険なほど上昇しつつあるのだ。これが気候の危機なのである」

 温暖化、温暖化と聞いてはいたが、ゴアの映画や本で詳しいことを初めて知った人が、多いかもしれない。しかし、例えば、平成4年(1992)に刊行された『限界を超えて』は、地球温暖化に関するグラフを載せ、警告を発していた。
 「前世紀には290ppmであった大気中の二酸化炭素濃度が、現在では350ppmを超え、さらに幾何級数的上昇を続けている。二酸化炭素増加の原因は、人間による化石燃料の燃焼や森林破壊にあり、結果として地球規模の気候変化も起こりうる」と。
 この本は、次のように書いてもいた。
 「二酸化炭素には、毛布のように、あるいはより正確に表現するなら、太陽エネルギーの入射だけを許し熱の放射を防ぐ温室のように、熱を封じ込めて地球の気温を上昇させる作用がある」
 「地球が温暖化すると、海水が膨張し、水面が上昇する。もし極地の氷が大量に溶けるようなことになれば、海水面は大幅に上昇する」と。

●本当に主原因は二酸化炭素なのか

 『限界を超えて』の2年後に出た小西誠一著『地球の破産』(講談社ブルーバックス、平成6年、1994)も、次のように書いていた。
 「化石燃料消費の急激な増大は、大量の二酸化炭素を大気中へ排出し、自然界の炭素バランスを崩し、大気中の二酸化炭素濃度を上昇させ、気温の上昇を招き始めたとみられている」
「二酸化炭素濃度の増加には、化石燃料の燃焼によるもののほかに、森林の減少が原因をみられるものがある。森林の減少がもたらす結果としては、焼畑農業や薪の燃焼による二酸化炭素の発生と、森林による二酸化炭素の減少の両方がある」。
 さらに次のようにも書いている。
 「二酸化炭素の大気中の濃度が現在の2倍になると、気温は平均摂氏2〜3度上昇すると予測されている。この気温上昇は、高緯度地域や極地域では、摂氏10〜15度にも達するという。このため、南極をはじめ陸上の氷が溶けて海水面が上昇し沿岸に被害が発生する、降水量や降水時期が変化し農作物に大きな影響がある、耕作適地の移動が必要になる、などの重大な影響が想定されている」

 今から13年前の本だが、専門の科学者は、すでに大雑把とはいえ温暖化による気候変動を予測していたのである。特に「南極をはじめ陸上の氷が溶けて海水面が上昇し沿岸に被害が発生する」という一節は、目を引く。本書を読んだ当時の私は、SF的な想像力を働かせるだけだったが、今や現実の出来事になっている。

 現在の地球温暖化は、人為的な原因によるのか、太陽の活動や地軸の揺れなどによる自然の現象ではないのか。あるいは、その両方の影響なのか。素人には、わかりにくい。
 ゴアによる「ありがちな誤解」のその1〜3のところで、基本的な説明は引用したが、ここで重要なポイントを補足しておこう。

 ハーバード大学教授だったロジャー・レヴェルは、地球の大気中の二酸化炭素の測定を最初に提案した科学者である。レヴェルと、調査のために彼に雇われた科学者チャールズ・デイビッド・キーリングは、昭和33年(1958)、太平洋の真ん中にあるハワイ本島の上空で、毎日の測定を始めた。その観測結果を、レヴェルは、学生たちに見せ、それが何を意味するかを説明した。昭和43年(1968)、当時、ハーバード大学の学生だったゴアは、教授から、観測に基づくデータを見せられた。観測を始めてまだ10年程度のこの段階ですら、地球の大気中の二酸化炭素の濃度が急上昇していることは、明らかだった。
 レヴェルは、第二次世界大戦後、爆発的な人口増加に後押しされ、石炭・石油を主な燃料費として地球規模で経済が拡大することから、地球の大気中の二酸化炭素の量がこれまでになく危険なほど増大するであろうことを、はっきり見て取ったのである。

 しかし、それが人類と地球に何をもたらすかについて、人々が深く理解するには、時間がかかった。現在もなおかなりの人が、現在の地球温暖化の主たる原因が、二酸化炭素を初めとする、人間が排出する温室効果ガスによるものだということを疑っているか、認めていない。

●科学的証明はされている

 この点に関し、私は、既に科学的証明はされていると理解している。決定的な証明の一つが、ゴアも引いているオハイオ州立大学のロニー・トンプソン博士による南極の氷床の研究である。

 トンプソン博士の研究チームは、南極の氷河の氷に穴を開け、長い円筒を深く差し入れて、氷の円柱を取り出す。この氷柱は、「氷床コア」と呼ばれる。その中に閉じ込められている小さな気泡を調べる。そうすることで、大気中の二酸化酸素の量を過去にさかのぼって1年ごとに測定することができる。また、酸素の同位元素の割合を計算することによって、各年の大気温も正確に測ることができる、という。
 この測定によって、過去千年間の気温と二酸化炭素濃度の相関関係が、示された。驚くほど明らかな相関関係が示された。しかし、温暖化に懐疑的な論者は、それでも、「地球温暖化とは自然の周期的な変動を反映した幻想にすぎない」と言う。その裏づけとして、彼らはよく「中世の温暖期」の数字に言及する。しかし、トンプソン博士のグラフを見ると、「中世の温暖期」は、ここ50年間の気温の急上昇に比べれば、ほんのわずかである。

 トンプソンの氷床コアの記録から、以下のことがわかる。ゴアは、書く。
 「南極では、二酸化炭素濃度と気温の測定は、65万年前までさかのぼる」「産業革命が始める前までの65万年間、二酸化炭素濃度が300ppmを超えたことは一度もなかった」「二酸化炭素濃度の変動と基本の変動は、65万年間にわたって、ほぼ一致している。現在の二酸化炭素濃度は、過去65万年間の記録にあるどの点よりも、ずば抜けて高い」
 単に産業革命以降の三百数十年という期間の話しではない。人類の現文明が栄えてきた1万年程度の期間の話でもない。65万年前からである。
 地質時代の区分によると、今から約200万年前の新生代第4紀更新世前期から、約1万年前の完新世初期までの間に、少なくとも4回の氷期があった。その間には、比較的気候の穏やかな間氷期があった。
 トンプソン博士の調査が及んでいる65万年前とは、ギュンツ氷期から第1間氷期にあたる。その後、3回の氷期と3回の間氷期があり、現在は、最後の第4間氷期にある。そして、65万年前から今日までの期間で、二酸化炭素濃度が、過去のどの時点よりも高くなっているのである。
 地球の気温は、過去40万年の間に、10度C程度の振幅と約10万年の周期で急激な気温上昇と穏やかな寒冷化を繰り返してきたこともわかっている。この間、二酸化炭素濃度は、氷期には約200ppm、間氷期には300ppm以下だった。産業革命以後の濃度は、300ppmを超え、このままでは400ppm、500ppmと上昇を続けることが予測されている。

 温室効果ガスの代表的なものが、二酸化炭素であり、温室効果への影響度の寄与率は64%あるといわれる。産業革命以後、人類は、二酸化炭素を多量に排出し、大気中の二酸化炭素濃度を、過去65万年間で、最も高い数値に押し上げているのである。
 これによって、人為によって上昇した二酸化炭素濃度が、現在の地球温暖化の主要な原因であることは、明らかだと私は思う。

 仮に自然現象による気温の上昇も要因だとしても、太陽地球系の自然的な変動は、人間の力では防ぎようがない。しかし、人為的な要因の部分は、人間の努力で削減することができる。
 必要なことはそのための行動だと思う。自然的か人為的かの疑問で判断停止となり、行動も停止してしまうことは、後々取り返しのつかないことになりかねない。
 地球温暖化に限らない。既に人類の文明は、限界を行き過ぎ(オーバーシュート)、回復不可能なほどに、自然生態系を破壊している。昭和47年(1972)以来出し続けられてきた『成長の限界』『限界を超えて』『人類の選択』は、地球環境問題への取り組みは遅れれば遅れるほど、結果がよくなくなることを、冷厳にシミュレイトしている。

 「後悔先に立たず」
 「天は自ら助くる者を助

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第5章 このまま行くと、何が起こるか

 

●温暖化はさまざまな災厄をもたらしている

 地球温暖化は、さまざまな現象を生み出している。

 温暖化は、森林などの重要な生育地の伐採や焼失とあいまって、多数の生物種の喪失を引き起こしている。喪失の規模は、6500万年前に恐竜が地上から姿を消した出来事に匹敵するほどと見られる。生態系は、地域的(ローカル)であるが、また地球的(グローバル)につながってもいる。一部地域における種の減少が、人間社会にどのような影響をもたらすかは、専門家もわからない。

 温暖化によって、病気の媒介となる疾病媒介生物が活発になっているという事実はある。疾病媒介生物とは、藻、蚊、ツェツェバエ、シラミ等である。これらの生物が、従来は活動できなかった地域に、活動範囲を広げている。それによって、人口の多い地域で病気が広がりつつある。
 また、この25〜30年の間に、30ほどの新しい病気が出現したり、一度は抑えていた病気で、ふたたび猛威をふるい始めているものがあり、温暖化が一要因と考えられる。わが国でも、温暖化に伴って、熱帯性・亜熱帯性の疾病媒介生物が北上し、かつてない病気や、制圧していたはずの病気がはやる可能性が出てくる。

 温暖化の影響で最もわかりやすいのは、異常気象とそれによる災害である。平成15年(2003)の夏、ヨーロッパでは、熱波のため、3万5千人が死亡した。翌16年(2004)、日本では、10個の台風が列島を襲った。それまで台風の最多上陸回数は7回だった。また、かつては南大西洋を襲うことはありえないといわれていたハリケーンが、初めてブラジルを襲った。アメリカでは、竜巻の発生数が、史上最多となった。
 そして、平成17年(2005)。この年、世界各地でかつてなく多くの人が、地球温暖化を意識した。実際、1860年以降の地球の気温上昇の実測値で、最も気温の高い年となった。アメリカの西部では、多くの都市で、華氏100度(37.8度C)以上の真夏日の連続記録が更新された。西部の合計200以上の市町村で、観測史上最高気温を記録した。東部でも多くの都市で、日単位の最高気温記録が塗り替えられた。
 さらにこの年8月、アメリカの南部をハリケーン・カトリーナが襲った。アメリカ史上最大の天災となった。近年、ハリケーン・サイクロン等の大型暴風雨は、活動期間が長く、勢いが強くなっている。海洋の気温が上昇していることにより、海面から蒸発する水蒸気が増えており、ハリケーンが発生すると、海上を移動する間に、強大化する傾向が目立つ。カトリーナは、その典型である。

 今年も暑い年になりそうだ。
 
●北極・南極の氷が溶けている

 一体、地球温暖化は、どこまで進んでいるのか。
 温暖化が最も顕著に現れているのは、南極と北極である。とりわけ北極では、地球上のいかなる場所よりも急速に気温が上昇している。そのため、北極の氷はこの40年間に40%縮小したという。
 北極の氷冠は、南極に比べて非常に薄い。南極の氷冠は、厚さ3000メートルもある巨大なものだが、北極の氷冠の厚さは、平均3メートルもない。1000分の1である。その違いは、南極は海に囲まれた大陸であり、氷は大地の上に積みあがっている。北極は陸地に囲まれた海であり、氷は海に浮かんでいる。
 今世紀後半に、夏の北極海から氷が消失するとする専門家が多く、10年以内になくなるという予測もある。

 なぜ北極では、これほど急速に氷が溶けていくのか。
 ゴアは、次のような説明を書いている。
 「氷は射し込んでくる太陽放射のほとんどを、まるで大きな鏡のように反射する。一方、氷のない海面は、太陽熱のほとんどを吸収してしまう。すると、水温が上がるので、その付近の氷のへりがさらに溶けやすくなる。これは、科学者が言うところの『自己強化フィードバック』の一つの例であり。今まさに北極で起こりつつあるのだ」
 「自己強化フィードバック」とは、「正のフィードバック・ループ」とも呼ばれるものである。簡単に言えば、悪循環がだんだんひどくなるということ。実際、北極における氷の溶解は、科学者の予測を大きく上回る速度で進行している。

 温暖化は、北極にだけ影響するのではない。当然、南極や北極圏の大地にも影響する。
 南極の氷には、大陸の上にできて安定している氷床、ゆっくりと流れている氷河、氷河が海に張り出して板状に浮いて広がっている棚氷(たなごおり)、これらの氷から離れて海に浮かんでいる氷山がある。南極では、温暖化のため、巨大な棚氷が、次々と崩壊している。
 平成14年(2002)2月には、ラルセンB棚氷が崩壊した。それにより氷山となって流出した面積は、埼玉県と同じくらいになる。氷の壁が崩落するシーンは、世界に衝撃を与えた。
 世界の平均気温は、約14.5度Cである。平均気温が2〜3度C上がるという時、世界中が均等に、2〜3度C上がるのではない。赤道では0.5〜1度Cしか上がらない。しかし、北極の気温は、7度Cも上昇する。南極の周辺でも、大きく上昇する。温帯で生活する日本人にとって、2〜3度Cの上昇はちょっと暑いな、というくらいで、我慢ができない暑さではない。その時、北極・南極では、2倍、3倍気温が上がり、じりじりと氷が溶けているのである。

 

●北極の氷が溶けるとどうなるか

 温暖化によって、世界の海水面はどれだけ上昇するか。
 まず北極の氷についてだが、ゴアは、北極の氷はこの40年間に40%縮小し、今後50〜70年で北極の氷が消滅し、水位は6m上昇すると書いている。これはおそらく誤記だろう。

 北極の氷は、融解しても、海水面は上昇しないといわれている。アルキメデスの原理によって、水に浮かぶ氷が溶けても、比重が変わらないから、水面は上昇しない。
 ただし、もし真水が凍ってできた氷が海水に浮かんでいる場合は、真水と塩水の比重の違いによって、海水面は上昇する。 北極海に広がる氷の場合は、海水が凍ってできた海氷である。海水は塩水だが、塩水はマイナス1.6度Cで凍る。そのため、北極の氷が溶けた場合、塩水の中に浮かんだ海氷が溶けるので、比重に変わりがなく、それだけでは海水面は上昇しないと考えられている。

 では、北極の氷が溶けても、海水面上昇にはまったく何の影響もないのか。そうとは言えないと私は思う。
 海水面上昇の原因のひとつに、熱膨張が挙げられる。水は温度が上がると、膨張によって容積が増える。そのため、海水の温度が上がると、膨張により海水面が上昇する。
 南極と並んで北極は、地球のほかの地域を冷やす働きをしている。北極の氷が縮小していくと、この冷却機能が下がる。赤道付近で多く吸収されている太陽エネルギーは、海洋大循環や風によって北極に運ばれて冷却される。そのため、北極が温暖化し、氷の融解が進むと、赤道付近で吸収される太陽エネルギーが放出されなくなり、地球の温暖化が加速される。海水の温度も上がるから、熱膨張によって世界の海水面は上昇する。
 コップの中では起こりえないことが、地球という巨大な環境においては、起こり得る。

 また、北極の氷の融解が地球の温暖化を加速させると、他の地域での気温の上昇に影響する。海水面上昇をもたらす別の要因のひとつに、南極、グリーンランド、高地等の氷の融解がある。これらは北極の氷と違って、直接、海水面を上昇させる。この点は、後ほど書く。
 なお、北極の氷の融解は、他に永久凍土に眠るメタンの目覚めや、海洋大循環の停止などに影響すると見られているが、これらについては別に書くのでここでは省略する。

●南極やグリーンランド等の氷が溶けたら

 次に、直接海水面を上昇させる氷の融解に移る。
 南極はどうなるか。南極は、オーストラリアの2倍の大きさがある。南極大陸は、東南極大陸と西南極大陸に分けられる。西南極にある西部氷床は、東南極にある東部氷床より、不安定な状態にある。ゴアは、その氷の塊が溶けたり、島に立てかけられたようになって島とつながっている部分から外れて海中に滑り落ちたりすると、世界の海水面は上昇すると書いている。
 温暖化によってラルセンB棚氷が崩壊したことを、先に書いた。西南極大陸からラテン・アメリカの方に、南極半島が伸びている。ラルセンB棚氷は、この半島にそって海に張り出ていた棚氷の一部だった。それが崩れて、大海に消えた。
 ラルセンBは、埼玉県ほどの大きさだったが、それよりはるかに大きいのが、ロス棚氷である。南極大陸には、ニュードランド側にロス海という巨大な湾状の場所がある。ロス棚氷は、ロス海を埋めている世界最大の棚氷である。フランスに匹敵する大きさがある。そのロス棚氷が次々と割れ、巨大な氷山が、ロス海に流れ出している。また、西部氷床がやせてきているともいう。
 南極には、世界中の氷の90%が、氷床として集まっている。その南極の氷の1%が融解するだけで、世界の海水面は60センチ上昇すると見られている。もし10%も溶けたら、上昇は6メートルに上るだろう。

 ゴアは、西南極の氷床がすべて溶けると、世界中で海水面が6メートル上昇するという予測を書いている。また、北極海の氷塊、南極大陸の氷塊につぐのは、グリーンランドの氷塊であるが、ゴアは、次のように書いている。
 「西南極の氷床とグリーンランドのアイスドームは、その大きさも質量もほぼ同じある。アイスランドのアイスドームが、溶けたり崩壊して海に滑り落ちたりしてしまうと、世界中の海水面はやはり6メートル上昇することになる」
 「もしグリーンランドまたはグリーンランドの半分と南極の半分が、溶けたり割れたりして海中に滑り落ちると、世界中の海水面は5.5〜6メートル上昇することになる」と。
 こうなったら、大変な被害が出る。

 

●もし海水面が6メートル上昇したら

 ゴアは、海水面が6メートル上昇すると、アジアでは、北京とその周辺の地域では、2000万人が、上海とその周辺地域では、4000万人を超える人々が避難せざるを得なくなる。カルカッタとバングラデシュでは、6000万人が家を失うことになる、という。ほかにアメリカのフロリダやサンフランシスコ湾、ヨーロッパのオランダ等で予想される状態を挙げている。
 アジアに関しては、次のような予測も述べている。ヒマラヤにはアルプスの100倍もの氷があり、世界の人口の約40%に飲み水の半分以上を提供している。アジアにはこの平原を水源とする7つの河川がある。その7つとは、黄河、長江、メコン、サルヴィン、ブラウマプトラ、ガンジス、インダスであり、これらの河川は、中国、東南アジア、インド、パキスタンの地を潤している。「世界の温暖化を緩和すべく、大胆かつ迅速に行動しない限り、今後50年のうちに、世界のこの40%の人々は非常に深刻な飲み水不足に直面する可能性がある」とゴアは警告する。
 この時、東シナ海、南シナ海、インド洋の海面は、南極・グリーンランド等の氷の融解によって、上昇しているはずである。不幸にしてそのような事態を招いた場合は、沿岸部は、海水に浸食され、河川では、淡水が枯渇していくという二重の水災害が、アジアを襲うだろう。このような展開となれば、中国やインドにおける経済成長の夢は、まさに水の泡と消えるだろう。

 ゴアは、海水面が6メートル上昇した場合の日本への影響は、述べていない。ゴアは、親中反日的な傾向の強いクリントン政権で副大統領をしていた。そのせいかどうかわからぬが、『不都合な真実』において日本への言及は、ごく少ない。地球温暖化を防ぐために、日本の文明や技術に期待するという姿勢も、本書には見られない。日本語版なのだから、日本人読者へのメッセージを載せてもよいだろうに。
 ゴアにも、日本文明や日本精神の勉強をしてもらいたいと私は思っている。

●数十センチの上昇でもわが国には多大な被害

 ゴアの上げる6メートルという数字が適当かどうかについては、異論が多いだろう。過去60万年の間に少なくとも1回は、南極西部にある氷床が完全に溶けたことがあると考える科学者は多いというが、今世紀中に6メートルも海水面が上昇し得ると考える科学者は、少ない。
 海面水位上昇は1980年代には数メートルの上昇が予測されていたが、年々上昇予測の水準は低下している。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が、平成13年(2001)に発表した第3次報告書では、2100年間までの海水面上昇は最大限88センチと予測していた。最新の予測では、2100年に平均気温が最大推計で6.4度Cとして、海面水位は最大推計で59センチの上昇としている。

 日本の場合、海水面が約50センチ上昇した場合、日本の砂浜の70%が消失し、海水面が1メートル上昇した場合は、砂浜の90%が失われるという予測が、国内機関から出されている。わが国は、主要都市のほとんどが沿岸部にある。海に面する市町村に人口の46%が生活し、工業出荷額の47%、商業販売額の77%が集中している。海水面の上昇は、徐々にわが国のGDPの低下と資産の消失をもたらすことになる。
 海水面が80センチ上昇した場合、東京都北部から埼玉県南部にかけては海抜以下となり水没する。横浜・川崎・市川・草加・越谷までが水面に沈み、東京駅が海岸線沿いの駅になる。関西地方、中部地方等でも同様のことが起こる。大阪湾岸でも、尼崎市や淀川河口等のゼロメートル地帯は水没するという。
 それゆえ、わが国にとっては、数十センチの海水面上昇であっても、多大な被害が出る。

 産業や生活の維持のためには、少なくとも1メートルの海水面上昇に備えたインフラの整備が必要だろう。港湾、埋立地、人工島、下水道、工業用水、地下鉄、地下街等を海水から守るための設備投資は、莫大な費用と高度の技術を要するだろう。

 

●わが国でも動植物に異変が起こっている

日本人は、地球温暖化を「対岸の火事」のように考えている人がまだまだ多いのではないか。しかし、温暖化の影響は確実にわが国でも現れている。

・桜の開花時期が早くなっている
 平成元年(1989)から同12年(2000)の間に、ソメイヨシノの開花が、平年に比べ3.2日早まった。種子島、宮崎、鹿児島等では、冬の高温により新年を迎える前に開花した例がある。

・紅葉の時期が遅くなっている
 1970年代終わりから平成12年(2000)までの47年間で、イロハカエデの紅葉が、約2週間遅くなっている。

・植物の立ち枯れが発生している
 沖縄の琉球松、秋田市下浜海岸の黒松、山形県のモモ若木、群馬県三国峠付近の松並木等が、壊滅的な打撃を受けている。

・サンマの体長が小さくなっている
 海水温の上昇により、エサになる動物性プランクトンが減少。体力を失ったサンマが、栄養豊富な千島列島まで北上できなくなり、体長が小さくなっている。

・エチゼンクラゲが日本列島沿岸を侵食し始めた
 毎年、最大で直径2メートル、重さ200kgの巨大クラゲが、日本海や紀伊半島沖に大量発生。沿岸漁業に被害を与えている。平成18年(2006)、若狭湾には数千匹が出現した。

・オニヒトデが大発生し北上している
 平成14年(2002)ごろから沖縄・八重山付近で大発生し、サンゴを食べ、サンゴ礁の白化の原因に。同17年(2005)前後には、和歌山串山沖のサンゴ礁を襲い、生息域を拡大している。

 植物と動物の例を三つずつ挙げたが、これらは、日本の生態系が、温暖化によって総体的に影響を受けていることを示すさまざまな現象の一部である。

●21世紀後半の日本はどうなるか

 平成17年(2005)1月、独立行政法人国立環境研究所は、「地球温暖化が日本に与える影響」を発表した。
 その発表は、世界最高速のコンピューターである「地球シミュレーター」を使った地球温暖化に関する予測計算の結果を示している。経済重視で国際化が進むと仮定したシナリオの場合、2100年の二酸化炭素濃度は720ppmとなる。それにより地球の温暖化が進む。1971〜2000年と比較すると、2071年〜2100年の平均的な日本の気候は、以下のようになると予測されている。

・地球の平均気温は4度上昇する。日本の夏日(6〜8月)の平均気温は4.2度上昇。日最高気温は4.4度上昇し、降水量は19%増加する。
・真夏の日数は平均で約70日程度増加する。また、100ミリ以上の豪雨日数も平均的に増加する。

 2071年〜2100年といえば、今から66年から93年先の未来である。この予測どおりになれば、日本列島の環境は根本的に変わってしまう。発表によると、東京が鹿児島と同じ気候となる。今より4度上昇した夏が約3ヶ月、1年の4分の1も増え、秋が来るのは1月になる。マラリアやコレラなどの熱帯性の感染症が蔓延する。海水面上昇を回避するための沿岸インフラの工事に真剣に取り組まなければ水害に襲われる。海抜0メートル地帯は水面下に戻り、産業構造も激変してしまう、という。
 しかし、この未来予測は、決して極端なものではない。この予測では、2071年以降で4度上昇としているが、昨日書いたスターン報告は、世界の平均気温が2度Cを超えるのは、2035年と予測している。4度上がる前に、2度、3度と上がっていくわけで、当然その過程で被害は拡大していく。
 平均気温の上昇は、単に海水面の上昇をもたらすだけではない。気候や生態系の変化が、自然や産業、国民生活にさまざまな悪影響をもたらす。その一つが、国内の穀物の生産量の減少である。わが国は、カロリーベースでの食糧自給率が約40%しかない。食糧の60%を海外に依存している。温暖化は、当然海外諸国でも深刻な影響を生み出しているはずである。水不足、干ばつ、熱波、ハリケーン等は、食糧生産に打撃を与える。世界的な食糧不足や食品価格の高騰の中で、日本人の食を確保するのは、重大な課題となるだろう。

また、熱帯性の感染症の蔓延、激化する異常気象、台風の強大化・多発化等が、我が国を襲うことが考えられる。

地球温暖化は、「対岸の火事」どころか、日本の主要部分の水没であり、また混乱・衰亡の道なのである。

 

●温暖化で、海流が止まることも


 地球温暖化が悪化した場合、世界規模で起こりうることに、海流の停止という事態がある。世界の海のすべての海流は、一つにつながっている。これは、「海洋コンベアベルト」と呼ばれる。海流には、暖かい海面の流と冷たい深層水の流れとがあり、次のような仕組みで流動している。ゴアの著書から引用する。

 「北大西洋で温かい水が蒸気となって蒸発すると、あとに残る水は、水温が低いだけではなく、塩分が高くなる。水が蒸発しても、塩分はそのまま残るため、塩分濃度は増すのだ。そこで水はぐっと重くなり、毎秒約2000万立方メートルという、信じられない速度で沈み込んでいく。この水が海底に向かって真っ直ぐに落ちていき、南に向かう冷たい海流の始まりとなる」。

 この巨大な沈み込みは、熱と塩分を原動力とする「巨大なポンプ」によるものである。これを「熱塩循環」という。沈み込みの起こる場所は、グリーンランドの近くである。


 温暖化を防げなかった場合、懸念されることがある。もしグリーンランドの氷が急速に溶けて、大量の淡水が海に流れ込むと、海水が一気に薄められ、このポンプが稼動しなくなる恐れがあるというのである。大自然のポンプが働かなくなると、海水が動かなくなる。そして、世界の海で、海流が停滞する。

 科学者によると、1万年ほど前、氷河が溶けてたまった淡水が、どっと北大西洋に流れ込んだ。それによって、メキシコ湾流がほとんど流れなくなってしまった。ヨーロッパを暖めていた海流が止まったため、ヨーロッパが氷河期に逆戻りした。地球温暖化が進むと、この現象が繰り返されるおそれがある。そう心配している科学者たちがいる、とゴアは記している。

 メキシコ湾流の停止は、ヨーロッパに災厄をもたらすだけでなく、世界の海で、海流の停滞をもたらす。それが地球の各地にどのような気候の変動を招くのか。ゴアは記述していない。海流と風や雨は、深い結びつきがある。風や雨といった基本的な気象までが、相当程度、変わるのではないか。それによって、海でも陸でも空でも、地球の生態系に、大きな変化が現われるだろう。人類の生活は、重大な支障に突き当たるに違いない。


●最も防ぐべきは、メタンの目覚め


 次に、私の知る限り、地球温暖化が続いた場合、最大の惨事を起こすのは、メタンの目覚めである。シベリアのツンドラ地帯や海底には、大量のメタンが眠っている。そのメタンが、温暖化によって、大気中に放出される可能性がある。メタンには、二酸化炭素の21〜25倍の温室効果がある。それゆえ、メタンの大量放出は、温暖化を激化すると見られている。

 この点に関して、ゴアは次のようにしか書いていない。

 「(北半球のツンドラ地域には)700億トンの炭素がためこまれており、永久凍土が溶けるにつれて、この炭素が不安定になりつつあるという。シベリアの土壌中には、人為的に排出される年間排出量の10倍もの炭素がある」と。


 最後の1行は、誤記か誤訳と思われるので、私の得た知識を書く。シベリアは、かつて緑なす大地だった。その当時の枯れた草原や野生動物の死骸が、永久凍土の中に大量に蓄積されている。東北シベリアにあるイェドマには、化石燃料によって1年間に大気中に放出される炭素の100年分もの炭素が存在するという。

 温暖化で凍土が溶けることにより、4万年間にわたって閉じ込められていた炭素が露出する。すると、メタン細菌が活動して、氷付けになっていた有機物を分解する。その過程で、大量のメタンを放出するというのである。


 海水温の上昇によって、海底から放出されるメタンが増加することも、懸念されている。海における放出の源泉は、メタンハイドレートである。低温・高圧の海底には、メタンの分子が、結晶になった氷が作るカゴの中に閉じ込められ、シャーベット状に堆積している。それが、メタンハイドレートである。ハイドレートは、水和物を意味する。世界中のメタンハイドレートには、大気中にあるメタンの3000倍の容量が、閉じ込められていると推計されている。


 北極圏の永久凍土や、低温・高圧の海底から大量のメタンが大気に放出されると、温暖化は、新たな段階に突入してしまう。そういう事態にいたったら、地球は、「灼熱の惑星」に変貌するかもしれない。灼熱とは、数百度を意味しない。人間にとっての灼熱である。夏の気温が50度、60度と上がっていけば、人間は自然のままの環境では生存できない。特殊な技術による人工的環境をつくって、そこに入ることのできる人間だけが生命を維持することになるかもしれない。SF作家たちが思考実験で想像した世界に近づく。

 私たちは、こうした悪夢のような事態を引き起こさないように、最善の努力をしなければならないと思う。ページの頭へ

 

 

第6章      科学者の見方は一致しているのか

 

●科学者の間に共通認識はあるのか

 地球は本当に温暖化しているのか、その主因は人間なのか、その結果はただちに行動を取らねばならないほど危険なものなのか。この点について、科学者の間で意見が分かれているのだろうか。 

 ゴアは、世界の科学界には共通認識ができており、まじめに取り合うべき議論の不一致は一つも残っていないという。
 著書に、次のように書いている。
 「ジム・ベーカーは、温暖化関連の測定の大部分を担当している米国立海洋大気庁の長官を務めていた時、こう述べた。『この問題以上に科学的な意見が一致している問題はほかにはない。あるとしたら、ニュートンの力学法則ぐらいだろう』。
『サイエンス』の編集長であるドナルド・ケネディは、温暖化に関する意見の一致度合いについて、このようにまとめた。『科学において、この件に関する意見ほど皆の見解が一致することは、まれである』。」
 『サイエンス』は、世界的に権威のあるアメリカの科学雑誌である。
 ゴアは、さらに駄目押しのように、次のように伝えている。
 「カリフォルニア大学サンディエゴ校の科学者、ナオミ・オレスケス博士は、過去10年間に論文審査を受けて学術雑誌に掲載された温暖化に関する記事を一つずつ調べるという大がかりな研究を『サイエンス』に発表した。オレスケス博士とそのチームは、該当する論文総数のほぼ10%に当たる928本という大規模なサンプルをランダムに選び、広く受け入れられている共通認識と同じ見解の論文はどれほどあるか、見解の違う論文はどれほどあるかを注意深く分析したのだ。(略)
 共通認識と意見が相反するものは、どれくらいあっただろうか? ゼロである」

●大多数の認識は一致と考えるのが合理的

 わが国では、科学者の間では意見の違いがあり、認識は一致していないという理解を、かなりの人たちが持っているようだ。それは、マスメディアやジャーナリストが、科学者の意見が分かれているという報道をしてきたからであり、また実際に異論を述べる科学者がいるからである。
 一体「広く受け入れられている共通認識」と異なる見解を持つ科学者がどれくらいいるのか。私には、わからない。ただ科学者と言っても、さまざまな専門があり、専門が異なれば、門外漢となると聴く。またひとつの専門においても、全員が同じレベルにあるわけではなく、個人差が大きいはずである。その点、人文科学や思想・文学・芸術等と違って、自然科学の分野は、評価基準が厳しい。
 自然科学では、客観性、再現性、普遍性が要求される。客観性とは、個人、個人の主観に左右されずに誰が見ても正しいことである。再現性とは、一度起ったことは必ず起ることである。普遍性とは、ある場所で起ったことは他の場所でも起ることである。そのような領域で抜群の実績をあげた優秀な人たちが、自然科学分野のノーベル賞受賞者だろう。彼らは、地球温暖化についてどのように考えているか。
 平成16年(2004)6月21日、48人のノーベル賞科学者たちが、ブッシュ大統領とその政権は科学をゆがめていると非難した。「地球温暖化などの重要な問題に関する、科学的に一致している意見を無視することによって、(ブッシュ大統領とその政権は)地球の将来を脅かしている」と。
 3年前、ブッシュ政権は、地球温暖化の現状を認めていなかった。それに対して、科学者たちが、ブッシュ政権を批判したのである。ゴアの著書は、これらのノール賞受賞者の名簿を掲載している。私は、その名前を見てもどういう業績の人かわからないが、錚々(そうそう)たる科学者たちのはずである。 ブッシュ大統領は、今年(平成19年、2007)に入って、方針を変えつつあるが、その変化は、彼を非難した科学者たちの主張が正当だったことを物語るものだろう。

 平成17年(2005)には、最も影響力のある11カ国の科学アカデミーが共同で、すべての国に対し、気候変動の脅威は明らかであり、増大しつつあることを認めるように呼びかけた。そして、「今では、気候変動に関する科学的な理解は、根拠として十分に明らかになっている。各国は迅速な行動を起こさねばならない」と断言した。
 各国の科学アカデミーのメンバーは、その国有数の科学者だろう。仮に、呼びかけを出した11カ国の中に、異論を唱える科学者がいるとしても、その科学者は、自国のアカデミーの見解をくつがえすほど説得力のある意見や論文を出していないのだろう。まして、先ほどの48人のノーベル賞受賞者に署名を撤回させるほどの見解を出している科学者は、いないのだろう。私は、こう考える。

 IPCCは、今年に入って、これまでの論調より明確に、地球温暖化の現象とそれへの人為的原因を認める見解を発表した。
 地球は本当に温暖化しているのか、その主因は人間なのか、その結果はただちに行動を取らねばならないほど危険なものなのか。これらについて、大多数の科学者の認識は一致している。私は、このように考えるのが、合理的であると思う。

●アメリカ政府が情報をかく乱してきた
 
 ブッシュ政権についてゴアは、極めて重要な事実を暴露している。映画の中でも指摘しているが、著書ではより詳細に記述している。彼が「不都合な真実」という辛らつな題名をつけている最大の理由が、以下の記述にある。
 「温暖化をめぐって科学者の意見が真二つに分かれているという誤解は、実は意図的に作り出されたものである」とゴアは言う。「作り出しているのは、エクソンモービル社などの石油、石炭、電力・ガス会社を中心とする、規模は比較的小さいが、このうえなく潤沢な資金を持った特別利益団体の中核メンバーだ」と。
 これは根拠のない陰謀論ではない。
 「このグループが、情報かく乱運動要員として雇った従業員に指示を与えるために書いた内部用のメモを、ピュリッツアー賞を受賞したジャーナリストのロス・ゲルブスパンが入手した。『地球温暖化を、事実ではなく、理論として位置づけ直せ』と、このグループはそのめざすところを述べている」という。

 ゴアは、平成12年(2000)、アメリカ大統領選に出馬した。ゴアは、次のように言う「長く大変な戦いとなった選挙戦だった。この選挙戦は、鍵を握るフロリダ州での投票の再集計の中断を5対4で決めた最高裁判所の判決で終わった。これは手痛い一撃だった」
 ゴアは、ブッシュ現大統領に敗れた。現アメリカ政府について、ゴアは言う。
 「選挙が終わると、ブッシューチェイニー政権は、温暖化汚染物質を制限するための政策は、すべて断固として阻止しようとしていることが明らかになった。既存の法規制を後退させ、弱め、そして可能な場合には、まったくなくしてしまうための全面的な努力を開始したのである」「政権が交代したあと、私たちが前へと進めたものがほとんど完ぺきなまでに覆されていく様子を、私は懸念しながらじっと見守っている」

 こうした法規の改変だけではない。アメリカ政府は、国民に対し、地球温暖化について誤った認識を与えるように、マスメディアの情報を操作する工作まで行なってきたと言う。
 「温暖化に関する主要な情報かく乱源の一つは、ブッシューチェイニー政権である。ホワイトハウスは、私たちが直面しているこのうえない危険について警告しようとするNASAのジェームズ・ハンセンをはじめとする政府機関の科学者を黙らせようとしている」
 ハンセン博士は、人類の努力によって地球温暖化を阻止するには、時間はあと10年しかないと警告している科学者である。

●政府とロックフェラー系グループによる情報操作

 ゴアの引用に戻る。
 「(註 またホワイトハウスは)石油会社が推薦した『懐疑論者』を重要な役職に就けている。その立場から、温暖化防止に向けた行動を阻止することができるのだ。このような懐疑論者は、国際的な場で米国を代表して交渉を行なうので、温暖化に対する世界的な対応に関する合意を阻むことができる。
 2001年の初め、ブッシュ大統領は、ホワイトハウスの環境政策担当として、フィリップ・クーニーという弁護士兼ロビイストを雇った。その前の6年間、米国石油協会で石油・石炭会社が温暖化に関して米国民を混乱させるために行う活動の主担当であった人物である。クーニーは科学的な訓練をまったく受けていないにもかかわらず、環境保護庁をはじめとする連邦政府の省庁から出される温暖化に関する公式な評価に手を入れたり、検閲したりする権限を大統領から与えられたのだった。
 2005年、政権内部の匿名の内部告発が、クーニーがそれでよしと許可を出したホワイトハウスのメモをニューヨーク・タイムズ紙に漏らした。クーニーは温暖化が米国民にもたらす危険について言及している箇所には一つ残らず、微に入り細に入り手を入れていた。ニューヨーク・タイムズ紙にこのメモをすっぱ抜かれて、ホワイトハウスの面目は丸つぶれになり、この数年間ではまれなことだが、クーニーは辞任した。あくる日、クーニーはエクソンモービルでの仕事に就いたのだった」

エクソンモービルは、世界最大の石油会社。「石油王」ジョン・D・ロックフェラーが始めたスタンダード・オイルが前身。平成12年(2000)同じロックフェラー系のエクソンとモービルが合併して今日にいたる。
 ゴアは、エクソンモービルという社名しか上げていないが、彼の告発は、ロックフェラー財閥やそれにつらなるグループに向けられていると理解できる。ちなみに、ブッシュ政権の主要なメンバーは、ロックフェラー財閥との関係が深いことで知られている。

 ゴアが伝える事件は、国家権力による検閲であり、情報操作である。自由とデモクラシーを理念とし、これらを世界に広める政策を行っているアメリカ政府が、自国内で言論・表現の自由を踏みにじっているとすれば、自国民への裏切りであり、人類への欺きだろう。

なお、ゴアについては、ユダヤ系のロスチャイルド財閥との関係が指摘されている。地球環境保護に関する取り組みには、石油業界を中心とするロックゲラー財閥と、原子力の燃料であるウランを抑えるロスチャイルド財閥との利権争いが絡んでいると見られる。

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第7章 アメリカを変えること

 

●アメリカが変らなければ、温暖化は止まらない

 アル・ゴアが訴えているのは、直接的にはアメリカ国民である。映画も著書も、アメリカを変えるために訴えている。そこでここからは、本書の主たる対象であるアメリカを変えるには、どうするかについてノートする。
 今年(平成19年、2007)に入って論調が変わってきたものの、アメリカのブッシュ政権は、過去6年間以上にわたり、地球温暖化の防止に消極的だった。いやむしろ地球温暖化への取り組みを後退させ、国民の理解をかく乱させる工作さえ行っていた。
 地球温暖化への寄与率において、アメリカは世界第一位である。寄与率の高い順に並べると、次のようになる。

アメリカ 30.3%
ヨーロッパ 27.7%
ロシア 13.7%
東南アジア・インド・中国 12.2%
中南米 3.8%
日本 3.7%
中東 2.6%
アフリカ 2.5%
カナダ 2.3%
オーストラリア 1.1%。

 アメリカは、中南米・アフリカ・中東・オーストラリア・日本・アジアのすべてを合計した以上の量の温室効果ガスを排出している。人口比で見ても、アメリカの人口は世界の5%だが、世界全体の25%近くの温室効果ガスを出している。一人当たりの炭素排出量で見ても、アメリカがずば抜けて多い。こうしたアメリカが、京都議定書を批准していない。先進国132カ国が批准しているこの国際協定を批准していないのは、二カ国。アメリカとオーストラリアのみである。それゆえ、アメリカが変わらなければ、地球の温暖化は止まらない。

 京都議定書については、アメリカの多くの都市が、連邦政府とは別に、独自に批准している。その数は約210都市に上る。地球温暖化汚染物質の排出を、議定書が求めるレベル以下に減らす政策を実行している都市も多い。こうした動きが連邦政府に及んだ時、アメリカは変わる。アメリカが変わってはじめて、人類の地球温暖化への取り組みは、本格的な段階に入ることができる。アメリカが変わらなければ、真に大きな力にはならない。
 ゴアは、アメリカ国民に対して、次のように言う。「私たちは、この危機の解決に向けて取り組みを始めるために必要なものはすべて、手にしている。例外があるとしたら、政治的意思だけだろう。しかし、米国では、政治的意思は、再生可能な資源なのである」
 取り組みを始めるために必要なものについては、後述する。ここで注目したいのは、ゴアのいう「政治的意思」である。アメリカは、自由とデモクラシーの国である。アメリカの政治を変えるのは、アメリカ国民の意思次第である。だから、アメリカ人が地球温暖化の真実を知り、国民の意思で政治を変えることが、アメリカの将来だけでなく、人類全体の運命にかかわる。ここにおいて、現大統領ブッシュと大統領選を争ったアル・ゴアという人物が、アメリカ国民への啓発を続けていることは、非常に大きな意味を持ってくる。

●「環境面の改善が、経済面の利潤につながる時代」に

 先ほどの地球温暖化の取り組みに必要なものについて、ゴアの言うところをここで引きたい。
 アメリカは、極度に資本主義が発達した国である。市場原理が徹底し、企業も個人も、利益を求めて厳しい生存競争を行う。こうした社会では、短期の利益追求が絶対的に優先され、自然環境への配慮は、ひどく軽視される。地球の将来がどうなるかということより、今現在いかに利潤を上げ、競争に勝ち残るかということに、関心が集中する。
 しかし、すでに世界の潮流は変わっている。環境を考えない企業よりも、環境保全に積極的な企業のほうが、利益を上げる社会に変化している。ゴアは、「私たちは、健全な経済か、健全な環境かのどちらかを選ばなくてはならない』という誤った思い込み」があると指摘する。そして、「私たちが正しいことをすれば、多くの富や雇用、機会を生み出せる」と主張する。

 その一例として、自動車の燃費基準を挙げる。
 「日本の自動車は、法律によって1リットル当たり19キロメートル以上の燃費基準達成を求められている。ヨーロッパもそれほど後れを取っておらず、日本の基準を上回るべく新しい法案が通過した。カナダやオーストラリアも燃費基準を引き上げ、1リットル当たり12.7キロメートル以上を求める方向に進んでいる。
 だが米国は、はるか最下位なのである。『米国の自動車目メーカーを、中国のような場所での競争から守らなくてはならない。そのような国の指導者は環境のことなど気にしてない』と私たちは聞かされている。しかし実際には、中国の排出基準は引き上げられ、すでに米国の基準をはるかに超えているのだ。皮肉なことに、私たちは米国で製造した自動車を中国に売ることができない。私たちは中国の環境基準を満たしていないからである」
 ゴアは、このように矛盾を明らかにしている。実際、近年業績がいいのは、燃費の優れた自動車を生産しているメーカーである。2005年2月〜11月の期間における時価総額の変化を見ると、日本のトヨタは、+11.86%、ホンダも、+3.28%。ところが、アメリカのフォードは、−33.20%、GMは、−35.84%である。
 車を買う消費者は、燃費のいい車を求める。燃費の悪い車は売れない。地球環境や温暖化を配慮し、積極的に取り組んでいるメーカーが作った車のほうが売れる。そういう時代になっているのだ。

 アメリカでも一部の企業経営者は、考え方を変えている。ゴアは、ゼネラル・エレクトリック社(GE)は、最近、温暖化についてのめざましい新しい取り組みを発表したとして、最高経営責任者(CEO)ジェフリーイメルトの言葉を引く。「私たちは、“環境にやさしいことはお金にもなる”と考えている。環境面の改善が、経済面の利潤につながる時代なのだ」と。
 問題は、資源エネルギー関連企業だろう。ゴアが「エクソンモービル社などの石油、石炭、電力・ガス会社を中心とする、規模は比較的小さいが、このうえなく潤沢な資金を持った特別利益団体」という企業集団である。そのグループの考え方を、早期に変えられるかどうかが、天王山となるだろう。

アメリカを変える実行可能な政策が、準備されている

 アメリカ国民がアメリカの政治を変えようと思えば、すぐ実行できる政策が準備されている、とゴアは伝えている。
 プリンストン大学の二人の科学者、ロバート・ソコロー教授とステファン・パカラ教授は、気候の危機を解決するのに役立つ研究を発表した。両氏は「人類は、今後50年間にわたって炭素と気候の問題を解決するための科学的、技術的、産業的なノウハウをすでに持っている」と結論付けている。
 米国の現在の炭素排出量は、18億トン。これまでのやり方を続けるなら、40年後には26億トンになる。しかし、無理なく利用できる既存の技術を用いて行うことのできる変革を実行すれば、1970年代のレベル以下に排出量を減らすことができると、教授らはいう。
 彼らが挙げる実行可能な政策群は、以下の6種類である。

@冷暖房、照明、電子・電気機器のエネルギー効率改善による削減
A暖房、冷房、照明、動力など、最終用途でのエネルギーの効率化による削減。つまり、建物やビジネスを現在よりも省エネ型に設計すること
Bより燃費のよい自動車を製造し、ハイブリッド車や燃料電池車の台数を増やすなど、自動車の効率改善による削減
Cよりよい公共交通システムのある都市や町を設計したり、大型トラックの燃費を改善したりするなど、乗用車以外の交通輸送の効率化による削減
D風力やバイオ燃料など、すでに存在している再生可能なエネルギー技術をより利用することによる削減
E発電所や産業活動からの過剰な炭素を回収・貯留することによる削減

 これらをアメリカ政府が採用し、実行に移すならば、世界最大の温暖化推進国アメリカは、大きく変わるのは間違いない。

●オゾン層の危機の時の前例がある

 「米国は以前に、地球規模の環境危機を解決したことすらあるのだ」とゴアは言う。「成層圏のオゾン層に穴が開いているという問題が起こったとき、その原因が地球規模で、解決には世界中のあらゆる国の協力が必要なため、解決は無理だろうと言われた。しかし、この時は、共和党の大統領と民主党の議会という超党派で、米国がリーダーシップをとり、陣頭に立ったのである。米国は条約の草稿を準備し、世界中の合意を取り付け、この問題の原因である化学物質の排除を始めたのだった。今では世界中が、成層圏オゾンの危機解決に向かって着々と進んでいる」と。
 原因の化学物質とは、CFC(クロロフルオロカーボン)いわゆるフロンガスである。

 ここで、人々に「オゾン層の穴が地球の温暖化をもたらしているのだ」という誤解がある点について、ゴアの回答を引いておこう。「ありがちな誤解」の一つである。
 「気候変動とオゾンホールの間には関係があるが、こういう関係ではない。大気の上層にあって、高濃度のオゾンガスによって地球を太陽の放射から守ってくれているオゾン層に穴が開いたのは、CFCと呼ばれる人工化学物質が原因であり、CFCはモントリオール議定書という国際条約で禁止された。オゾン層に穴があると、地表に届く紫外線が増えるが、地球の気温には影響を及ぼさない、オゾン層と気候変動の唯一の関連は、上の誤解とはほぼ正反対のものだ。温暖化によってオゾン層に穴が開くわけではないが、温暖化は実際、オゾン層の自然な修復過程を遅らせてしまう可能性がある。地球が温暖化すると、大気の下層は暖かくなるが、成層圏の温度は下がる。そうすると、成層圏のオゾン消失が悪化する可能性があるのだ」

 せっかくフロンの製造中止が進められ、オゾン層の自然な修復が期待されているのに、地球温暖化は、オゾン層の裂け目を再び大きくしてしまうおそれがある。アメリカのリーダーシップで実現したことを、アメリカの無作為によって、後退させてしまうことは、アメリカ国民の恥辱だろう。
 それは、単なる恥辱に終わらない。温暖化は、既に竜巻、ハリケーン、熱波などとなって、アメリカ自体を襲っている。北極や南極の氷が溶け、海面がゴアの上げる数値のように6メートルも上昇すれば、ニューヨークやサンフランシスコやフロリダ半島の相当部分が水没する。自由の女神も水につかる。

 ゴアは、CFCの時と比較して、次のように言う。
 「温室効果ガスの抑制は、もっと難しいだろう。なぜなら、主要な温室効果ガスである二酸化炭素は、CFC以上に世界経済とかかわりが深いからだ。私たちの産業を二酸化炭素から引き離すこと、そして私たち一人一人の習慣を変えることは難題だろう。しかし、オゾン層の問題で私たちが経験したことは、政治的・経済的な利害の衝突があったとしても、世界の人々は実際に自らの過ちを修復するために協力できる、ということだ」

 南極や北極圏の氷が溶け、その影響で海水面が大きく上昇すれば、日本でも中国でもインドでも、膨大な被害が出る。人類は、地球温暖化の危機を理解し、あらゆる国が協力して、危機解決に協力しなければ、共倒れである。
 ここにおいてわが国の役割は、極めて重要である。わが国は、アメリカ政府に強く働きかけ、政策の大規模な変更を求める役割があると思う。

 

●欲望を無限に追求するシステムの転換へ

 

ロックフェラー財閥を頂点とするアメリカの巨大資本は、石油産業・軍事産業・宇宙産業で莫大な利益を上げているが、その利益追求のために、9・11同時多発テロ事件やアフガニスタン侵攻、イラク戦争を起こしたのではないかという疑惑が強まっている。巨大資本は、全米のマスメディアを支配しており、世論を誘導するために報道内容を操作していると見られている。わが国の政府が、旧長銀の売却、リそな銀行の国有化、郵政民営化、三角合併の解禁等の売国的な政策を行なって来たのも、アメリカの巨大資本による日本支配の意思が働いている。

 現在、人類は、世界平和の実現と地球環境の保全という二大課題を保持している。その地球環境の問題も、戦争の問題も、巨大資本の意思とそれに誘導される大衆の行動が大きな影響を与えている。富と権力が自己増大し、一部の資本と一部の国家が超巨大化し続けるなか、あたかもガン細胞が増殖して人体を蝕むように、自然が回復不可能なほど破壊され、また人類が核であい撃ち合って自滅するような事態となれば、これほどの悲劇はない。これらの課題の解決のためには、西洋近代文明が生み出した、欲望を限りなく追い求めていくシステムを転換することが必要となっている。ページの頭へ

 

 

結びに〜一人一人の決断と行動にかかっている

 

●政治的であることと倫理的であること

 地球温暖化への取り組みについて、ゴアは、政治的な課題(ポリティカル・イシュー)、倫理的な課題(モラル・イシュー)という言い方をする。
ゴアは言う。
 「温暖化は、科学だけの問題ではない。政治だけの問題でもない。(略)これは実は、倫理の問題なのである。この問題を解決するうえで、確かに政治が重要な役割を果たすべきときもある。しかし、これは党派をまったく超えて取り組むべき種類の難題なのだ」

 政治的と倫理的の対比については、少し考察が必要だろう。ゴアは、その点の説明を欠いている。そこで、私の意見を述べて読者の考察の一助としたいと思う。
 一般的な理解としては、政治的(ポリティカル)とは、国家権力の獲得や使用に関わること。倫理的(モラル)とは、正邪善悪の基準となる原理に関することをいう。ゴアは、これを対比し、地球温暖化への取り組みは、政治的(ポリティカル)よりも倫理的(モラル)であることを強調する。
 しかし、政治的と倫理的は、本質的に対立する概念ではない。本来、政治的であることは倫理的であり、倫理的であることは政治的なのである。西洋近代の政治は、古代ギリシャのポリスに理想を見出し、それを淵源とした。ポリスは、都市国家である。ポリスは、市民が私的なものを顧みずに集い、法が支配する公的空間に積極的に参加する人的で倫理的な結合体だった。そのポリスから派生した言葉が、英語のポリティックス、政治である。それゆえ、政治的(ポリティカル)には、本質的に、公共倫理的という意味が含まれている。
 ゴアの著書について書いているので、西洋の話をしたが、本質はシナでもわが国でも共通している。儒教の思想がそうであるし、わが国の皇室に伝わる伝統は、儒教の理想を実現しているものといえる。わが国の「まつりごと」では、政治的と倫理的は根本的に一致し、公共倫理の実行なのである。

 話を戻す。政治的と倫理的が対立概念となる場合も、ある。ある社会で、利害の対立する集団が生まれ、社会の共同性が失われた時、政治的は必ずしも倫理的ではなく、倫理的は必ずしも政治的ではなくなる。
 現代アメリカは、二大政党が対立し、選挙によって国家権力が移動する。そういう仕組みを理想的政治形態としている。そのような社会では、政治的であることは、党派的となる。ゴアは、そういう事情にいて、政治的と倫理的を対比しているのだろう。
 しかし、これは、本来の社会のあり方ではない。人類がめざすべきは、政治的であることが倫理的であり、倫理的であることが政治的であるような社会の回復である。
 そして、倫理的であることが政治的となり、政治的であることが倫理的となることは、温暖化を含む地球環境問題、さらに言えば、地球規模での文明の転換という課題の持つ本質的な性格なのである。

 私がいま述べたことに関し、ゴアの主張は、もう一つ明確でない。ゴアは、地球温暖化への取り組みについて、ある時は、政治だけの問題ではなく倫理の問題だ、という。またある時は、政治的な問題ではなく倫理的な問題だという。AかつBなのか、AではなくBなのか。この二つは論理的に異なるが、ゴアはその時々で表現を変えている。

●倫理的で精神的であることが、政治的かつ社会的な行動を生み出す時代

 ゴアは、地球温暖化への取り組みは、倫理的な課題だというだけでなく、精神的(スピリチュアル)な課題だともいう。少し長いが、本書から2箇所、彼の言葉を引用する。
 「気候の危機は、人類史上、ほとんどの世代が残念ながら知りえなかったものを経験する機会をも私たちに差し出している。“世代としての使命”。説得力のある“人としての目的”の高揚感。みなを団結させてくれる共通の“重要な意義”。状況が状況なだけに、超越を絶えず求める人間の思いをしばしば阻んでしまう狭量さや衝突といったものを、ひとまず脇に置いておかざるをえないスリル。立ち上がる“チャンス”。
 私たちがともに立ち上がる時、私たちの魂は満たされ、心を一つにすることができるだろう。現在、不信感や絶望に息が詰まりそうな人たちは、のびのびと自由に息が吸えるようになるだろう。生きている意味の喪失に苦しんでいる人たちは、希望を見出すだろう。
 立ち上がる時、この危機は実は政治の問題などではないとひらめくだろう。これは倫理の問題であり、精神的(スピリチュアル)な課題なのだ」
 「(註 ファシズムとの戦いや戦後の日欧の復興援助の時のように)今もまた倫理的な瞬間であり、分岐点である。これは科学の議論や政治的な対策といったものではない。突き詰めれば、『私たちは人間としていったい何者なのか?』ということなのだ。私たちが自分自身の限界を乗り越える力、この新しい機会に立ち上がる力そのものが問われているのだ。私たちは、頭だけでなく心で、今求められている行動を考えることができるのか。これは、道徳的、倫理的、そして精神的な課題なのである」

 スピリチュアルは、「精神的」というより「霊魂的」または「心霊的」と訳したほうがよい言葉である。この意味合いで彼の言葉を理解すれば、本書の主張は、ニューエイジ・ムーブメントやトランスパーソナルのめざすものに通じていく。
 しかし、ゴアのいう倫理的で精神的な課題への取り組みは、単なる文化運動ではなく、アメリカの政権の交代と、それによる環境政策の転換をめざす行動になることは明らかである。その点で、本書は、彼自身の主張に反して、政治的に先鋭な本である。
 ゴア自身、次ぎのように書いている。
 「私たちは、この危機の解決に向けて取り組みを始めるために必要なものはすべて、手にしている。例外があるとしたら、政治的意思だけだろう。しかし、米国では、政治的意思は、再生可能な資源なのである」

 元大統領候補アル・ゴアは、再び政治に志す意思はないように見える。平成20年(2008)の大統領選挙にも出馬していない。しかし、彼個人の姿勢に関わらず、彼の講演・映画・著書は、アメリカの政治を変え、それによって国際社会の地球温暖化への取り組みを促進する加速器であり続けるだろう。

 倫理的(モラル)で精神的(スピリチュアル)である生き方が、非政治的であり、非社会的である時代は終わっている。地球と人類の危機が切迫していることにより、倫理的で精神的であることが、政治的かつ社会的な行動を生み出す時代を、我々は生きている。そのことを認識したい。
 この認識は、日本の再建と、それによる地球と人類への貢献という課題にも共通するものである。国家・社会・地球・人類を思う者は、倫理的で精神的であり、かつ政治的で社会的であるように思考・行動すべきである。

 

●みなで出来ることをしよう

 地球温暖化の危機を訴え、行動を呼びかける書。アル・ゴアの『不都合な真実』の内容を整理して掲載してきた。最も重要なことは、自分にできることを実行すること。そして、自国を動かし、国際社会を動かす努力をすることだと思う。
 ゴアの一人一人への呼びかけを引用しよう。
 「地球温暖化ほどの大きな問題を考えると、圧倒されそうな気がして、無力感を感じてしまうかもしれない。『自分ひとりぐらいやたって、何にもならないのではないか』と思ってしまうかもしれない。しかし、そのような気持ちに負けてはいけない。私たち一人一人が責任を負わない限り、この危機は解決できないからだ。自分やまわりの人びとを教育・啓発すること、自分の資源使用量やむだを最小限にするために自分にできることをやること、今より政治的にも活動的になり、変化を求めることーーこのようなさまざまな方法によって、私たち一人一人が事態を変えていけるのだ」
 「私たちひとりひとりが温暖化を引き起こしている。しかし、私たちひとりひとりは、解決策の一端を担うことが出来る。何を買うか、どれくらいの電力を使うか、どの自動車を運転するか。そして、どのように生きるかーーそういったことを決めるたびに、解決に資することができるのだ。自分自身の炭素排出量をゼロにすることだって選択できるのである」

●『不都合な真実』が呼びかける具体的行動

 地球温暖化を防ぐために一人一人に何ができるか。本書は、次ぎの10の行動を挙げている。

@省エネルギー型の電化製品や電球に交換しましょう。
A停車中は、エンジンを切り、エコドライブしましょう。
Bリサイクル製品を積極的に、利用しましょう。
Cタイヤの空気圧をチェックしましょう。
 車の燃費基準を上げれば、無駄なエネルギー消費を防げます。
Dこまめに蛇口を閉めましょう。
 水道の送水に使用されるエネルギーを削減することができます。
E過剰包装、レジ袋を断りましょう。
 買い物は、リサイクル・エコ・バックを使いましょう。
Fエアコンの設定温度を変えて、冷暖房のエネルギー削減をしましょう。
Gたくさんの木を植えましょう。
 1本の木は、その育成中に1t以上の二酸化炭素を吸収することが出来ます。
H環境危機について、もっと学びましょう。そして学んだ知識を行動に移しましょう。
 子供たちは、地球を壊さないで、と両親に言いましょう。
I映画『不都合な真実 』を見て地球の危機について知り、友に勧めましょう。
 
 Iは別として、以前から呼びかけられてきたことばかりだ。1970年代、アース・デイ(地球の日、4月22日)や世界環境デー(6月5日)がもうけられ、地球環境保全の運動が広がった。アメリカでは、『地球を救うかんたんな50の方法』がベストセラーとなり、わが国でも平成2年(1990)に翻訳が出た。そのころはまだ一部の環境に敏感な人々しか真剣に考えていなかった。今では、わが国も、政府の主導で、各地方自治体が「地球にやさしい行動」「環境にやさしい暮らし」の行動計画を立て、積極的に推進している。
 ちょっとしたことの積み重ねが大きな変化をもたらす。各自の心がけにかかっている。

●子どもたちに感謝してもらえる未来を

 最後に、もう一つゴアの言葉を引いて参考にしたい。
 「もう一度、私と一緒に想像してみてほしい。私たち全員の時間が止まったとしよう。時間がふたたび動き始める前に、私たちは自分の想像力を使って、時間の向こう側に自分たちがいるのが見えるとしよう。17年後の未来だ。そして、2024年に生きている子どもや孫たちと、短い対話ができるとしよう。
 彼らは、彼らの故郷であり、私たちの故郷でもある地球を大事にするという義務をなぜ果たさなかったのかと、私たちのことを苦々しく思っているのだろうか? 地球は、私たちのせいで取り返しのつかないほど傷ついてしまっているだろうか?
では、未来世代が私たちにこう尋ねているところを想像してみてほしい。『あなたたちは何を考えていたの? 私たちの将来のことを心配してくれなかったの? 自分のことしか考えていなかったから、地球環境の破壊を止められなかったの?――止めようとしなかったの?』
 私たちの答えは、どのようなものになるだろう?
 このような問いかけに対して、私たちは今、単なる約束ではなく、行動で答えることができる。その過程で私たちは、子どもたちに感謝してもらえる未来を選ぶことができるのだ。」

●「不都合な真実」を知った日本人として

 アル・ゴアの映画及び著書『不都合な真実』について、書いてきた。この映画・書籍は、地球温暖化の危機を伝え、行動を呼びかける極めて重要なメッセージを発している。そこで趣旨を把握して参考にすべく読書ノートのような形で記してきた。
 私はここにおいてわが国の役割は、極めて重要だと思う。わが国は、アメリカ政府に強く働きかけ、政策の大規模な変更を求める役割がある。また、わが国が開発した環境保全技術を、アメリカの産業と生活の転換にも提供できる。日米が共同で、持続可能な発展をめざせば、国際社会を力強くリードすることができる。
 日本には、人と人、人と自然が調和して生きる精神が伝わっている。その精神が、21世紀人類の衰亡か飛躍かの岐路において、大きな役割を果すと思う。日本を再建し、日本文明の持つ潜在力を発揮することが、世界平和の実現と地球環境の保全の鍵となると私は考える。私が日本精神の復興を呼びかけるゆえんである。

 美しい日本、美しい地球を守れるか。環境調和型の技術はすでに開発されており、地球規模で環境保全を行なう資金もあるのだ。それなのに有効な施策を実行せず、温暖化を悪化させて、みすみす人類文明を破滅にいたらせるというのは、あまりにも悔しいではないか。子どもや子孫に申し開きができない。先祖にも申し訳ない。
 とにかく、できることをやっていこう。
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関連掲示

・「日本の心」コーナーの「自然」の項目に掲載した拙稿(エコロジー、米、森等に関するもの)

・拙稿「“心の近代化”と新しい精神文化の興隆」の第3章(6)以下

参考資料

・アル・ゴア著『不都合な真実』(ランダムハウス講談社)

・『このままでは地球はあと10年で終わる!』(洋泉社)

・ドネラ・H・メドウズ他著『成長の限界』『限界を超えて』『成長の限界 人類の選択』(ダイヤモンド社)

・国立環境研究所のサイト

http://www.nies.go.jp/

 

 

補章 日本の役割

 

地球温暖化への取り組みにおいて、日本の政治家、有識者の間では、まだ危機の認識が遅れているように思う。

 そうした中で、中谷巌氏(多摩大学学長・三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長)が、地球温暖化における日本の役割について書いたものは、注目に値する。氏が産経新聞平成19年3月10日号の「正論」に寄せた「日本は地球温暖化対策で指導力を〜『自然との調和』への鋭い感性生かせ」と題した記事から、引用する。

 

 「温暖化対策が待ったなしの国際的な課題になってきた今日、いよいよ日本の『出番』が来たと考えるのは私だけではないと思う。なぜか。

 第1に、日本は「自然との調和」を文化の基本にしている国であって、『自然を管理する』考え方の強い西洋諸国とは国の成り立ちが異なる。カ『自然との調和』を復元することが環境問題の根本であるとすれば、日本こそ環境問題解決に向けたリーダーシップをとる資格のある国である。

 第2に、日本は平和国家を標榜(ひょうぼう)し、防衛予算も他の先進国に比べて圧倒的に低い。日本は軍事面での防衛ではなく、地球環境を防衛するという観点から、『環境防衛』予算を増額し、地球救済のために尽力すべき立場にある。

 第3に、日本には京都議定書の枠組みづくりの先頭に立った実績がある。京都議定書の次の段階で何をすべきか、EUなどで真剣な模索が始まっているが、日本が2013年以降の国際協調の枠組みづくりでも引き続きリーダーシップをとりたい。

 第4に、日本の高度な環境技術を温暖化防止のためにもっと活用すべきである。省エネ型の自動車や電化製品で世界一の技術力を誇る日本は燃料電池、太陽光発電など、非化石燃料の普及をさらに促すための財政的措置を積極的に講じるべきである。

 第5に、日本は政府開発援助(ODA)予算を、これまでの工業化支援から地球環境保全という分野に大きく重点を移し、そのことを世界に明言すべきである。なかなか環境対策に手が回らないBRICsに対しても、環境面で支援の手を差し伸べたい。

 第6に、二酸化炭素の排出権取引については、日本は産業界の反対もあり、消極的な姿勢に終始しているが、排出権取引こそ温暖化対策の切り札になる。政府は排出権取引の活発化のため、市場の育成に本腰を入れるべきである。

 日本人は1万年にも及ぶ縄文時代の経験から、自然との調和に鋭い感受性を育んできた。日本文化の多くも、自然との調和がベースにある。従って、遺伝子的にみても日本人は環境保護とは相性がよい民族なのである。

 わが国は、現在、京都議定書の1990年比6%の温室効果ガス削減という国際公約を守れないどころか、基準値を8%以上、上回っている。まずこの国際公約をクリアすることが前提条件になるが、その上で、温暖化防止のための国際的なリーダーシップを発揮できれば、日本は真に世界で最も必要な国、最も役に立つ国として尊敬されるようになるであろう」


 中谷氏が挙げた6点は、地球温暖化における日本の役割を具体的に論じたものである。第2点については、独立主権国家のあり方及び東アジアの厳しい国際事情から言って、軍事面の防衛を否定するような意味であれば、私は異論がある。地球環境の保全を総合的な安全保障の一要素として予算を増やすという意味であれば、同意できる。その他の点については、基本的に賛成する。

 日本が地球と人類のために自らの役割を果たすためには、日本人が日本精神を取り戻し、日本人ならでは、ということに力を尽くすべきだと思う。

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