トップ日本の心Blog基調自己紹介おすすめリンク集メール

 

  国際関係

                       

 題目へ戻る

 

説明: 説明: 説明: ber117

 

■ギリシャ財政危機でユーロ圏が揺れている

2015.9.20

 

<目次>

はじめに

1.ギリシャ財政危機の経緯

2.ギリシャの事情EU側の事情

3.EUとユーロ圏の失敗

4.ギリシャの地政学的な重要性

5.ロシアの思惑

6.中国の狙い

7.ギリシャの今後

8.ユーロ圏の今後

結びに〜わが国はしっかりした対策を

 

補説 ギリシャ総選挙で与党勝利

 

説明: 説明: 説明: ber117

 

はじめに

 

 ギリシャが、そしてユーロ圏が揺れている。ギリシャ経済はユーロ圏経済の約2%にすぎない。だが、ギリシャの財政危機は、EU諸国を揺さぶり、EUの将来に暗雲をもたらしている。またそれとともに、米欧とロシア・中国の対立を激化させる可能性がある。
 本年(2015年)6〜7月、ギリシャの財政危機とEU等の対応が世界的に注目された。チプラス政権はEUによる財政再建策を受け入れ、8月20日EUの支援は最初の融資が実行された。これによって、ギリシャ政府は同日に期限を迎えた欧州中央銀行(ECB)に対する国債償還を乗り切った。だが、これは長い道のりの一歩に過ぎない。
 こうした中、チプラス首相は辞任を表明し、内閣が総辞職した。今月9月20日に総選挙が行われる。選挙はチプラスが反財政緊縮策の公約を撤回し、欧州連合(EU)と金融支援で合意したことに対して、国民に信を問うものである。選挙結果によっては、またギリシャとEUの関係が悪化する恐れもある。
 本年(2015年)6〜7月、ギリシャの財政危機が世界的に注目された時、6月12日以降中国の株バブルが破裂した。中国政府は8月11日から、なりふり構わす人民元の切り下げを行った。中国経済の深刻さに市場に不安が広がり、中国発の世界同時株安が起こっている。この影響は、ギリシャにも波及するだろう。中国の経済危機がギリシャの危機と連動すれば、それだけ大きな影響を世界に与え得る。当然わが国にも影響は及ぶ。そこで、その対策のために、ギリシャの財政危機とそれを巡る動きをまとめておきたい。それが本稿の目的である。

 

1.ギリシャ財政危機の経緯


 ギリシャは欧州単一通貨ユーロの誕生から2年後の2001年、ユーロ圏に加わった。他の多数の加盟国に比べて経済力が劣るギリシャは、ユーロを採用したことによって、かえって財政が悪化した。2008年(平成20年)、リーマン・ショックがヨーロッパ諸国を襲った。この世界経済危機は、震源地のアメリカ以上にヨーロッパ諸国に大きな打撃を与えた。アメリカのサブプライム・ローンやCDS等を多量に買って保有する銀行・金融機関が多かったからである。そうした中で、ギリシャ政府が財政赤字を少なく見せるように粉飾していたことが、2010年初めに発覚した。ギリシャ政府は膨大な政府債務を隠していた。ギリシャは国際的な信用を失い、ユーロ圏には動揺が走った。
 ユーロ採用国には、経済力の格差が大きい。ギリシャ以外に多額の債務を抱えている国々に、ポルトガル、アイルランド、スペインがあり、PIGSと呼ばれる。イタリアを加えてPIIGSと呼ぶこともある。ギリシャ以外の他のPIIGS諸国でも債務危機が広がり、自力では財政再建が不可能に近い状態になっており、欧州債務危機が先鋭化した。
 ユーロ圏諸国は、危機拡大を阻止するために、金融安全網「欧州安定メカニズム(ESM)」を発足させた。PIIGSの中で最も弱い部分であるギリシャに対し、2010年以降、欧州連合(EU)は、この機構を用いて、国際通貨基金(IMF)と共に2度支援を行った。同時にギリシャに厳しい緊縮財政を強いた。その結果、ギリシャのプライマリーバランスは黒字化した。だが、国家経済全体は大きく収縮した。ギリシャは、EUやIMFによる緊縮財政政策を受け入れ、財政再建に取り組んだ。だが、失業者は増え、経済は良くならない。経済成長ができないから、借金の返済もできない。債務は増大し、返済は滞っている。EU統計局によると、ギリシャの失業率は、2015年3月時点で25.6%。4人に1人の比率である。特に25歳未満の若者の失業率は、49.7%にも上る。
 ギリシャ政府の債務は、2014年末時点で3170億ユーロ(約43兆円)。国内総生産(GDP)比で177%に上る。ユーロ圏19カ国で最悪である。注意したいのは、ギリシャにせよ、他のPIIGSの国々にせよ、これらの国の国債の多くは、外国政府や外国投資家が保有していることである。わが国の場合は、国債の95%程度を国内で消化しており、政府の債務は国民の債権でもあるが、外国政府や外国投資家が国債を多く保有している国の場合、それらの保有者が売りに出れば、一気に財政危機に陥る。
 緊縮財政政策をやっても経済は良くならないから、ギリシャ国民の不満は募った。こうしたなか、本年(2015年)1月に行われた総選挙で、緊縮財政政策に反発する急進左派連合(SYRIZA)が第1党に躍進し、アレクシス・チプラス党首が首相になった。チプラス首相は、共産主義青年組織での学生運動から頭角を現した。急進左派連合は、公務員をはじめとする労働組合に強い支持基盤を持つ。
 新政権のもと、ギリシャとEU・IMF側との交渉が続けられたが、ギリシャへの金融支援は、本年(2015年)6月末で期限が切れることになっていた。このままでは、IMF等への債務の返済が行われず、デフォルト(債務不履行)に陥る。EUは、チプラス首相に厳しい緊縮を迫る財政再建策を提示した。年金支給額の削減などを求め、合意すれば支援を11月末まで延長する考えだった。再建策を受け入れなければ、金融支援は打ち切られる。
 これに対し、チプラス首相は突然、再建策の受け入れの賛否を問う国民投票を7月5日に行うと発表した。国民の意思を問うのは民主的な方法だが、交渉のぎりぎりの段階で国民投票を行うことに対し、EU側は不信を強め、ギリシャ政府との交渉は、いったん打ち切られた。
 ギリシャに対するEUの金融支援は、7月1日午前0時に失効した。ギリシャへの金融支援が失効するのは、2010年の開始以来初めてだった。ギリシャはIMFに対し計212億ユーロ(約2兆9千億円)の債務を抱えている。このうち6月30日が返済期限だった約16億ユーロ(約2200億円)を返済できなかった。IMFは同国を「延滞国」とすると発表した。また、融資返済まで新たな資金援助を実施しないと決めた。ギリシャがIMFからの融資を期日以内に返済しなかったことは、IMFの70年の歴史のなかで先進国としては初の事態である。その時までIMFが延滞国とするのはスーダンとソマリア、ジンバブエの3カ国だけだった。最貧国や内戦で混乱しているような国である。経済協力開発機構(OECD)加盟国であるギリシャが延滞国となったのは異例のことだった。
 この時点でギリシャは一時的に、事実上のデフォルト(債務不履行)状態となった。IMFは7月2日、ギリシャの破綻を回避するため、債務返済期限を少なくとも現在の20年から40年に大幅に延長するとともに、新たに500億ユーロ(約6兆8千億円)の追加支援が必要だとする報告書を発表した。ただし、これらの対応策をとったとしても、財政黒字目標を達成できなかったり、成長率が想定を下回ったりした場合は、500億ユーロ規模の大幅な債務免除が必要になるとした。

 

 チプラス首相は、国民投票の実施を発表すると、国民にEUの財政再建策に反対するよう呼びかけた。7月5日の投票の結果は、反対が6割を占めた。緊縮財政策に反対を投じたのは、公務員や年金生活者が多かった。また若者の8割は反対したという。
 チプラス首相は、自ら国民に反対を呼び掛けておきながら、そして投票結果も反対が多数になったにもかかわらず、7月9日EU側に対して、その財政再建策をおおむね受け入れる回答をした。結局、土壇場になって、EU側の要求に歩み寄ったわけである。反対を投じた国民は、首相に騙された格好になった。
 私の見るところ、ギリシャの選択肢は、根本的にはユーロ圏にとどまるのか、離脱するのかのどちらかである。離脱して自らの道を進む意思がなければ、EU側が求める財政再建策を受け入れるしかない。ギリシャ政府がEU側の出した財政再建策を受け入れるつもりなら、国民投票を行う必要はない。チプラス首相がなすべきことは、国民に対して、財政再建策の受け入れを説得することだった。ところが、チプラス首相は、全く反対のことをしておいて、結果はEU側の財政再建策をおおむね受け入れる回答をした。国民投票の結果をEU側との交渉の圧力に使うつもりだったのか、単なる時間稼ぎの手段だったのか。不明である。ただ、国民に判断を求める民主的な方法を取ることで、ギリシャの衆愚政治を世界に露わにしたことは間違いない。
 ギリシャがEU側に提出した回答は、年金や税制改革を中心に、これまでのEU側の要求に歩み寄りを見せた内容だった。税制では付加価値税(VAT)について、レストランに対する課税率を13%から23%に引き上げ、離島への軽減措置を撤廃する。年金改革では、早期退職の厳格化などでEU側の要求に応じ、年金支出の削減を盛り込んだ。一方、国防費をめぐってはEU側が求めた4億ユーロの削減に対し、削減幅を3億ユーロにとどめる策を提示した。
 ギリシャはこうした財政再建策を実行する見返りとして、「欧州安定メカニズム(ESM)」に対し、2018年6月までの3年間で、総額535億ユーロ(約7兆2千億円)のさらなる融資を要請した。借金は返すから、そのためにもっとカネを貸してくれというわけである。また、安定的な財政運営のため、政府債務の返済負担の軽減を目指していると伝えられる。
 ギリシャによる再建策は欧州委員会とIMF、欧州中央銀行(ECB)の3機関によって精査され、ユーロ圏財務相会合での検討を経て、7月12日にユーロ圏首脳会議で、了解された。
 7月12日のユーロ圏首脳会議で各国首脳は、ギリシャへの金融支援問題で合意した。これにより、ギリシャの財政破綻とユーロ圏離脱は一応回避されることになった。
 この協議は非常に難航したと伝えられる。緊縮策をEUの押しつけと受けとめるギリシャは、その背後に財政規律を重視するドイツの存在があるとみて、攻撃の矛先を向けた。第二次世界大戦中のナチス占領による賠償問題まで持ち出し抵抗したという。一方、最大の支援負担国でありながら批判されたドイツは、ギリシャが一方的に国民投票を実行したことで、不信感が頂点に達していた。メルケル首相は首脳会議前、「是が非でも合意しようと思わない」と強調した。こうした厳しい姿勢はフィンランドなど欧州北部の国々からも示された。一方、フランスのオランド大統領は「ギリシャのユーロ残留のためにあらゆる手を尽くす」とし、ユーロ圏内での各国の立場の相違が露呈した。ドイツは、ギリシャに対し、財政再建策を本当に実行するのか、疑念をぶつけた。ギリシャにユーロ圏からの5年間の離脱を迫ることも辞さない姿勢だった。だが、トゥスクEU大統領やオランド仏大統領が2回にわたって、メルケル独首相とギリシャのチプラス希首相との4者会談を行って合意にこぎつけた。
 ユーロ圏首脳は、チプラス首相が示した財政再建策を受け入れた一方、ギリシャは、財政再建策の実行を担保するため一部再建策を15日までに法制化することを受け入れた。
 ギリシャ政府は、EUに提出した財政再建策を国会に提出し、ギリシャ国会は11日、圧倒的な賛成多数で承認した。定数300のうち、賛成が251票、反対が32票だった。野党の多くも賛成に回った。だがその一方、財政緊縮反対を掲げるチプラス首相の与党、急進左派連合から一部の議員が反対に回った。
 ギリシャでの法制化を受けて、EU側は、大規模な支援融資実施を行うことにした。2010年以降、ギリシャ向け支援は、3度目となった。欧州中央銀行(ECB)が保有する約35億ユーロのギリシャ国債は、7月20日に償還期限を迎えるため、この日に融資実行を間に合わせる措置が取られた。
 これによって、ギリシャの財政破綻は当面回避された。ここからは、再びいばらの道である。ギリシャ国民は引き続き厳しい財政緊縮策のもとで、経済の再建を図らねばならない。 
ともあれ、ギリシャがEUの財政再建策を受け入れ、EUがギリシャに支援を行うことになったことで、当面の危機は回避された。今後、ギリシャが財政再建を為し得るのか、それとも結局、債務不履行を繰り返して、ユーロ圏を離脱することになるのか、先行きは不透明な状況である。ページの頭へ

 

2.ギリシャの事情とEU側の事情


 ギリシャというと古代ギリシャ文明の栄えた地であり、誰しもパルテノン神殿やプラトン、アリストテレスなどを思い浮かべる。だが、古代ギリシャの民族と、現代のギリシャ国民は、民族が異なっている。古代からの長い歴史を同一民族が、そのままギリシャで生きてきたのではない。
 現在のギリシャでは、国民に国家への帰属意識が薄い傾向があるという。国民は政府を信頼していない。自分が大事で自分本位の考えが強い。危機に際して国民が団結して乗り切るという発想が弱いといわれる。
 国民は順法意識を欠いている。駅前は無秩序駐車がまかりとおる。警察も取り締まらず、運転手も駐車ルールを守ろうとしない。官僚は腐敗し、税務署員に賄賂を渡せば、納税額を減額してもらえるという。
 産業革命前まで地中海の恵を享受したギリシャは欧州の先進地域だった。だが、科学技術の進歩に伴い、第2次産業の優位が確立する中、第1次及び第3次産業が中心のギリシャは、OECDの加盟国でありながら、開発途上国に近い状態にある。産業は観光業を主とし、物を作って輸出して外貨を得るという経済になっていない。
 いまや、ギリシャ人は「怠け者」だという見方が定着している。国民はあまり働かないし、庶民には預金のほとんどない人が多い。その一方、桁違いの富豪もいる。だが、富裕層は外国に資産を移しているので、自国の経済が悪化しても、立て直そうとしないのだという。
 ところが、こうしたギリシャ国民の姿は、わずか半世紀ほど前には、ずいぶん違っていたらしい。『日経ビジネス』2012年5月7日号は、アテネ大学教授で政治歴史学者、ギリシャ欧州外交問題研究所(ELIAMEP)副会長のサノス・ベレミス氏の見方を伝えている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20120507/231727/?ST=pc
 それによると、べレミス氏は、「ギリシャ人が怠け者だというのは根拠のない馬鹿げた偏見で、本来は勤勉な働き者だ。例えば、ギリシャは内戦終了後(1950年代)に驚くほどの復興を遂げており、内戦後の国家再建の過程を振り返れば、ギリシャ人の国民性が本来は勤勉で働き者であることが分かるはずだ」と言う。
 だが、働き者だったというギリシャ人は、今や「怠け者」というレッテルが貼られている。その原因は、どこにあるのか。『日経ビジネス』の記事は、原因は、ギリシャを同時に襲った2つの歴史的な変化にありそうだという。1981年のEC(欧州共同体、のちEU=欧州連合)への加盟と社会主義政権の誕生である。
 ギリシャは1981年以降、ECないしEUの加盟国という信用力を背景にして、従来よりも低い金利で資金を調達できるようになった。その市場環境を活用して国民を懐柔するかのような政策を推進したのが、社会主義政党の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)だったという。
 ベレミス氏は、「PASOK政権は81年に保守派の新民主主義党(ND)から政権を奪うと、ギリシャ人が自ら生み出した富を再分配するのではなく、借金で調達したカネを国民に分配するという安易な政策を推進した。EU加盟と社会主義政権の誕生という2つの出来事が不幸にも重なり、雪だるま式に問題が大きくなってしまった」と説明する。
 財政規律はPASOK政権が誕生するまで、比較的健全だった。1980年時点のGDPに対する政府債務の比率は約20%。現在の約177%に比べると極めて小さかった。だが、PASOKが政権を奪ってから、財政規律は緩んでいったという。
 その典型が、公務員の過剰な採用だった。ベレミス氏によれば、PASOKが政権を奪取すると同党の支持者を公務員に雇うようになった。だが、PASOKだけではなく、政権交代が起こると、今度はNDも自党の支持者を新たに公務員に雇い入れた。こうして二大政党が政権交代をするたびに、公務員の数は膨れ上がっていったという。
 記事が掲げるのは、2008年時点のデータだが、OECDによると、ギリシャの労働人口に占める公務員比率(国営企業の従業員含む)は20.7%。フランスの24.3%やオランダの21.4%より少ない。この数字を見る限り、ギリシャだけが「公務員天国」ということにはならない。だが、ベレミス氏は、「ギリシャは、人口がほぼ同じ規模のオーストリアと比べて2.5倍もの公務員を抱えている」と指摘する。当時ギリシャの人口は1130万人で、オーストリアは830万人だった。
 私見を述べると、フランスやオランダより公務員比率が低いと言っても、ギリシャはGDPがフランスの約8分の1、オランダの約3分の1である。また、観光業以外に外貨を稼げるような産業がほとんどない。そのような国で、公務員が5人に1人というのは多すぎる。そのうえ、公務員の給与が高く、民間の1.5培とも2倍とも言われる。これでは、民間の活力を発揮する経済成長は見込めない。そのうえ、年金の支給開始年齢が55歳前後と極めて早い。支給額も、現役の労働者と大差がない程多いという。これでは、国民の勤労精神は、失われていく一方だろう。
 ソ連・東欧の国々は、共産主義政権が崩壊した後、民主化とともに、市場経済を導入し、厳しいグローバル競争の中で経済活動を行っている。ところが、ギリシャは、冷戦終結後、逆に「最後のソビエト型国家」と呼ばれるほど社会主義的な政策を進めていった。その結果、生じたのが、今日の欧州で最悪の財政危機なのである。ページの頭へ

 

3.EUとユーロ圏の失敗

 

 EUは、ヨーロッパは一つという理想のもとに、加盟国を広げてきた。ユーロ圏も同様である。ギリシャにユーロ圏加入の適格性があったのかは疑問である。

エコノミストの田村秀男氏によると、各国は「ユーロ加盟以来、強いユーロのおかげで、全員がそれぞれの財政規律とは無関係にドイツ並みの低金利借金で財政支出してきた」。「2002年にユーロ建て国債が普及して以来、各国債利回り」は、ほぼ同じ水準(4%前後)で推移していた。だが、2008年9月のリーマン・ショックに直撃され、状況は一変した。「欧州の金融機関がバブル崩壊した米金融商品を大量に抱えていたため、信用不安はたちまち欧州に波及し、財政に問題のある国の国債が売られた」。ドイツ・フランスは国債利回りが低下した。イタリア・スペインはやや高めになり、イタリアは昨年後半、債務危機の目安になる7%を突破。ギリシャ・ポルトガル・アイルランドは利回りが急騰し、平成24年2月の時点でギリシャは18%以上、ポルトガルは16%以上になっていた。

 ギリシャは、ユーロ圏で最低の状態となっている。ギリシャがユーロ圏に加入する資格と能力があったのか、初めから疑問を呈する見方は少なくなかった。ギリシャは西洋文明の源の一つである古代ギリシャ文明の誕生の地であり、また近代デモクラシーとオリンピックの発祥の地である。そうしたギリシャへの憧れや郷愁が、ヨーロッパ人の現実的な判断を曇らせたのではないか。

 現在のEUは、新自由主義的な経済政策を取っている。財政再建のためには、緊縮財政を行うという財政規律優先の考え方である。IMFも同様である。だが、経済成長なくして、財政再建はできない。ドイツ主導でギリシャに要求してきた緊縮策は、ギリシャの大量失業と金融システムの崩壊を招き、債務危機を深刻化させている。

 そのうえ、そもそも統合通貨を使用する国が、自国の判断で金融政策を行うことができないというユーロ圏の仕組みに根本的に問題がある。1999年、米ドルの一極支配に対抗する単一通貨ユーロは誕生した。ユーロが作られる前、ヨーロッパの各国は通貨の発行権を持ち、各国の中央銀行が自国の通貨の発行量や金利の調整を行っていた。ところが、ユーロを採用した国では、実質的に、自国の意思だけでは通貨政策・金利政策を決定できなくなった。ユーロ採用国は、財政政策を自国の判断で行う権限は持っている。国債発行、政府支出拡大等を行うことができる。一定の枠内で財政政策を行うとしても、財政政策は本来、金融政策と連動しなければならない。ところが、各国は金融政策については権限を持たない。ドイツ・フランクフルトに本拠を置くECB(欧州中央銀行)に委ねている。だが、もともと財政政策と金融政策は連動的に実施しないと効果を上げられない。

 これまで欧州通貨統合によるメリットを受けたのは、ギリシャ等の南欧諸国だけではなかった。ドイツは、生産性の低い南欧などを編入したおかげでユーロが実力よりも安くなり、輸出を増やすことで外貨を稼ぐことができた。ドイツは、通貨統合を利用して、ドイツ国内や東欧に生産拠点を拡充できた。また、稼いだ外貨はドイツの銀行がギリシャなどの輸出先で投資・運用した。ドイツの一人勝ちと言われる。

 その上、ギリシャへの最初の金融支援だった2010年に、ドイツなどの金融機関が抱えていたギリシャ向けの不良債権は、国際通貨基金(IMF)等の公的機関につけかえられた。当時、ドイツの銀行は推計で300億ユーロ程度のギリシャ向け投融資を抱えていたとされ、救済されたのはギリシャだけでなく、ドイツの銀行も救済された。また、欧州全体の金融システムも救済されたと見られる。

 ドイツの他に欧州北部の諸国は経済が堅調だが、南部の諸国は停滞しており、ヨーロッパにおける「南北格差」が広がっている。本年(2015年)最新の統計では、ドイツは失業率が4・7%であるのに対し、ギリシャは約26%、スペインは約23%となっており、南部の低迷ぶりが目立つ。

ギリシャに対して、ドイツやフィンランド、スロバキアなどが一貫して厳しい態度を示しているのに対し、フランスやイタリア、スペインなどがギリシャに融和的である。両者の意見の対立は、今回一段と強まった。

 こうしたなか、独自の路線を取っているのが、イギリスである。イギリスは、EUの加盟国だが、ユーロを導入していない。通貨の発行は国家主権の一部であり、譲るべきではないという立場を取っている。キャメロン首相は、来年、EU脱退の是非を問う国民投票が行うことを発表している。

今回の首脳会談で、欧州統合の歴史上初めて、加盟国のユーロ圏離脱が現実的な話題となった。今後、ギリシャが離脱の道を選ぶ可能性もあり、またドイツがギリシャに離脱を迫る可能性もある。またギリシャに続いて、ポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリアへと波及していくかもしれない。

南部諸国の財政危機が深刻化していけばいくほど、EUの中核国家であるドイツとフランスは、ユーロを防衛するために、大きな負担を担わざるを得ない。とりわけドイツは、ユーロを防衛するか、国民経済を防衛するか、重大な判断に迫られるだろう。ページの頭へ

 

4.ギリシャの地政学的な重要性

 

 ギリシャ問題は、単に経済的な問題ではない。欧州、さらにはもっと広くユーラシアの安全保障に関わる問題でもある。

 ギリシャは、バルカン半島の南端に位置し、黒海と地中海を挟みロシアや中東と向き合っている。こうした地理的な位置から、ギリシャは米ソ冷戦時代から戦略上の要衝となっている。

 第2次世界大戦終結後、ギリシャは、米ソ冷戦の最前線となり、自由主義の政府と共産主義勢力との内戦状態にあった。トルーマン米大統領は、1947年に連邦議会演説で「武装した少数派や外部の圧力による制圧の試みに抵抗している自由な国民を援助することこそが、米国の政策でなければならない」と述べ、ギリシャとトルコに対する経済・軍事援助をイギリスから引き継ぐと表明した。この方針をトルーマン・ドクトリンという。

ソ連にとっては、ギリシャとトルコは黒海から地中海に抜ける出口を東西からふさぐような位置にあった。その一角を自らの勢力圏に置くべく、ソ連はギリシャに力を注いだ。これに対し、米国はソ連の影響力を排除すべく、ギリシャへの援助を続けた。援助は冷戦終結後、ギリシャがユーロ圏に入る数年前まで続いた。

元外交官で評論家の宮家邦彦氏は、「欧州大陸でのギリシャの地政学的重要性は論をまたない。だからこそEUはギリシャをユーロ圏に入れたのだろう」と述べている。ギリシャは、米欧諸国の安全保障において重要な位置にあり、NATOはクレタ島などに軍事基地を置いている。その重要性は、2014年3月、ロシアがウクライナのクリミア半島を併合して以降、増している。ここにおいて、ギリシャは、自らの地政学的な重要性を利用して、ユーロ圏で有利になるように振る舞い、さらにロシアや中国をも自国が有利になるような外交を展開している。ページの頭へ

 

5.ロシアの思惑

 

ロシアは、近年ギリシャのチプラス政権に接近している。ギリシャを引き寄せることによって、クリミア問題で対露制裁を続ける欧米の足並みを乱し、制裁を緩和させようという思惑だろう。ギリシャも、ロシアに接近することで、債務問題でEUを揺さぶる狙いがあるだろう。

 ギリシャの財政危機がヨーロッパで大きな話題になっていた本年(2015年)6月18〜20日、ロシアの北の都サンクトペテルブルグで、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムが行われた。同フォーラムは1997年から行われており、親露的な新興国等の政治家やビジネス・チャンスを求める企業家等が集う。本年(2015年)、数少ない外国首脳の一人としてチプラス首相が参加し、プーチン大統領と会談した。ちょうどEUではユーロ圏財務相会合が開かれ、ギリシャ問題について協議されている真最中だった。チプラス首相は、あえてロシアを訪問することで、EU側を牽制したものだろう。

 このフォーラムの期間、ロシアとギリシャのエネルギー相は、ロシアが建設を計画する欧州向けガスパイプライン「トルコストリーム」のギリシャ延伸で基本合意し、覚書を交わした。新パイプラインは、プーチン大統領が昨26年末、EUとの対立を背景に中止を表明したブルガリア経由のパイプライン「南ルート」に代わって、トルコを経由するものである。

7月5日のギリシャの国民投票後、プーチン大統領は外国首脳として一番先にチプラス首相と電話会談を行い、投票結果について協議した。EUが来年(28年)1月を期限として発動している対露経済制裁の延長には全加盟国の同意が必要である。プーチン大統領は、チプラス政権との連帯を深めてEUの結束を崩そうとしていると見られる。

ロシアは、EUを揺さぶるため、欧州の反EUを掲げる政治勢力とも密接な関係を築いてきた。社会主義勢力はもちろんだが、民族主義的な勢力も含めて、欧州各国の反体制勢力を重要視してきた。「敵の敵は味方」の論理である。本年(2015年)3月、サンクトペテルブルクで欧州の民族主義政党の代表者を集めた国際フォーラムが開かれ、ロシアによるクリミア併合の支持や反EUで気勢を上げたという。反EU・反ユーロ勢力の中心となっているフランスの「国民戦線」(FN)はロシアの銀行から巨額を借り入れていることが判明し、プーチン政権の関与を疑う見方もある。

一方、ロシアは、米国の動きを注視し、米国がギリシャ問題や欧州情勢への関与を強めることを警戒していると見られる。ロシアはソ連崩壊後、中東欧諸国が次々にNATOに加盟したことに強い反発を示してきた。ギリシャは、米欧に取って地中海の要衝であるとともに、ロシアにとっては黒海沿岸を拠点とするロシア艦隊の地中海への出口という位置にある。ロシアがギリシャをNATO加盟国から引き離すことができれば、NATOの東欧への拡大に対する反撃となる。一方、NATOの側からすれば、ギリシャ国内の反EU感情が高じ、ギリシャがロシアに接近することにでもなれば、NATOの結束に亀裂が生じる。これは、米国にとっても避けたいところである。

オバマ米政権は、ギリシャの財政危機とこれに乗じたロシアのギリシャ接近に懸念を強めている。7月初め、EUがギリシャへの対応で激しく協議している時、オバマ大統領は、欧州首脳に電話攻勢をかけたという。ギリシャのユーロ圏残留を共通の利益だとして、ギリシャの離脱を食い止めることが目的だと見られる。ギリシャがユーロ圏から離脱してロシアになびけば、EUとNATOの安全保障体制に影響することを、警戒したものだろう。

もしギリシャがロシアと連携するようになれば、米国がより積極的に欧州や旧ソ連圏の情勢に関与するようになるだろう。当然ロシアはこれに対抗する。それによって、米露の対立がいっそう先鋭化すると予想される。ページの頭へ

 

6.中国の狙い

 

 ロシアだけではない。中国もギリシャに接近している。中国は、ギリシャの財政問題が深刻化したこの数年の間に同国に急接近した。2014年6月19日、李克強首相がギリシャを訪問し、約50億ドル規模の貿易・投資協定を締結した。その約1カ月後の7月13日、習近平国家主席もギリシャを訪問し、観光・金融分野などで協力を深めることで合意した。中国の国家主席と首相が1カ月以内に同じ国を訪問するのは極めて異例だった。

 本年(2015年)6月29日、ギリシャの財政危機が深刻化する中で、欧州を訪問中の李首相は、ブリュッセルで欧州議会のマルティン・シュルツ議長と会談し、「中国と欧州は運命共同体で、今後も欧州の債券の責任ある長期保有者であり続ける」と述べ、ギリシャ国債を売却しない方針を示した。また同日の記者会見で、ギリシャ財政危機について、「中国は建設的な役割を果たす用意がある」と述べ、ギリシャに積極的に関与する姿勢を示した。中国が対ギリシャ支援に動いているのは、ギリシャを足がかりにしてユーロ圏との貿易の拡大を狙っているものと見られる。

これに加えて、中国にはギリシャの最大の港湾、ピレウス港の開発整備に中国企業を参加させ、工事を主導したいという考えがあると見られる。中国は現在、AIIBの設立と共にこれと一体のものとして、「一帯一路」構想を推進している。「一帯」とは「シルクロード経済ベルト(陸上)」、「一路」とは「21世紀海上シルクロード」を意味する。中国を起点に内陸と海の2つのルートで欧州まで経済圏を構築する構想である。この構想において、中国は欧州への陸海路のインフラ整備を進めており、ピレウス港は欧州貿易の中継拠点として重要な位置を占める。本年(2015年)1月チプラス氏は、首相に就任すると、選挙時の公約通り、国有資産売却を当面見送ると説明し、アテネ首都圏に位置するピレウス港の民営化計画を棚上げすると宣言した。

それまでギリシャ政府はピレウス港の権益の67%を売却する計画を推進していた。落札が確実視されていたのは、中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)だった。コスコは、2008年にピレウス港の2号・3号コンテナ埠頭の35年間リース契約を締結し、2010年から正式運営に乗り出していた。国営会社ゆえ、中国政府が同港開発に巨額を投じているものである。

チプラス首相の民営化凍結宣言に対し、中国政府は巻き返しを図っている。2月11日李首相はチプラス首相に電話し、ピレウス港の民営化を予定通り実施するよう求めた。中国は民営化された後には、同港に係る株式の買収を目指している。チプラス首相は、民営化凍結を発表していながら、李首相に中国の投資拡大を歓迎し、「ピレウス港の案件は協力事項の筆頭だ」と応じたと伝えられる。緊縮財政の実施を求められるチプラス政権は、凍結を解除し、ピレウス港の株式67%をCOSCOに売却をせざるをえない状況と見られる。

中国は、ピレウス港を単に貿易のために利用しようとしているのではない。中国海軍の艦艇が出入港する戦略的な拠点にしようとしている。中国は毎年国防費を1%以上増加しており、日本の防衛予算の3倍以上となっている。中でも、海軍の予算が増えている。海軍に予算が多く配分されるのは、海洋覇権の確立を目指しているからである。その海洋覇権は、石油の確保を一つの目的とする。中東からインド洋、南シナ海、東シナ海を結ぶシーレーンは、中国にとっても重要な海路である。ピレウス港は、中東から黒海を通じて、もう一つの石油の宝庫、カスピ海へと続く位置にある。

港湾だけではない。中国は、アテネ空港に出資して空港運営権の一部を獲得しようとしている。空港は、状況によっては軍事的にも利用できる。またギリシャ軍が保有するロシア製の揚陸艦を中国が購入する案もあるという。購入すれば、戦車3両と将兵31人を載せて、日本等の離島に上陸できるようになる。

本年(2015年)5月、中国海軍とロシア海軍は地中海では初となる合同軍事演習を実施した。この演習は、中露による米欧牽制と見られる。ギリシャの地政学的な重要性は、米欧とロシア・中国の対立が強まるにしたがって、増大しつつある。ページの頭へ

 

7.ギリシャの今後

 

 ギリシャは、当面ユーロ圏にとどまり、支援を受けながら、財政を再建する道を進む。それには、厳しい緊縮財政政策を実行しなければならない。ギリシャの指導者及び国民にその忍耐力と勤労精神があるのか、疑問なところである。かといって、ユーロ圏を離脱し、独自通貨を発行して金融的に自立する道を進むという決断力があるのかどうかも疑問である。

今後、ギリシャ政府には、各種の債務の支払い期限が相次いで訪れる。その債務が不払いとなり、またデフォルト(債務不履行)に陥る可能性がある。欧州では、債務危機への反省から、金融危機の拡大を防ぐための仕組みが整備されている。このためギリシャがデフォルトに陥ったとしても、その影響は限定的だという見方が多い。ただし、EU側がこれ以上ギリシャを支援できないという状況になった場合、欧州中央銀行(ECB)はギリシャの銀行の命綱になっている緊急支援を停止する可能性が高まる。

 ギリシャの銀行が破綻すれば、企業による借り入れや、給与、年金の支払いが滞り、ギリシャ経済は格段と悪化する。ギリシャ政府はユーロに代わるものとして政府借用証書の発行や旧通貨ドラクマの復活を迫られる。政府が借用証書や旧通貨ドラクマを発行すれば、それがユーロ圏離脱の一歩となる。仮にギリシャ政府が借用証書を出すようになると、ギリシャは食料品等の輸入が多く、政府借用証書は輸入品の支払いには使えないから大混乱すると予想される。

ドラクマの発行はどうか。エコノミストの田村秀男氏は、ギリシャの債務返済不履行の問題には、「自国経済の非常時に対応できない通貨制度」が根底にあると指摘している。田村氏は、次のように述べる。「欧州連合(EU)との債務救済交渉が決裂すれば、ユーロから離脱して旧通貨『ドラクマ』を復活させるしかない。新ドラクマの価値はユーロに対して極端なまでに低く評価されるので、国民は当分の間は今よりももっと厳しい耐乏生活を強いられるだろうが、中長期的には視界が開けてくる。独立した中央銀行は思う存分に金融緩和できる。外国人にとって通貨が安いギリシャ旅行や投資の魅力が増し、主力の観光産業が活気づくだろう」と述べている。

ドイツは、7月初めの交渉において、ギリシャのユーロ圏の資格を5年間停止するという案を示した。ギリシャ政府の今後の対応結果によっては、そうした選択肢が再び議論されるだろう。ただし、EUにはEU脱退の規定はあっても、ユーロ圏のみの離脱を想定した規定はない。こうした事態にEUがどう対処するかは、前例のない新たな課題である。EUのヨーロッパは一つという理想主義の甘さが、EUを窮地へと追い込んでいくだろう。ページの頭へ

 

8.ユーロ圏の今後

 

わが国には、ユーロ圏加盟国の離脱はあるべきでないとして、離脱の議論を心配する見方があるが、ヨーロッパには、もともと単一通貨の創設に反対する意見がある。

反対論者の一人、エマヌエル・トッドによると、ヨーロッパの近代化は、農村共同体やギルド等、国家と個人の間の中間的共同体を解体しながら進展した。都市化・工業化がそれである。共同体が崩壊すると、それまで共同体によって守られてきた個人は、バラバラの個人になる。単一通貨は、残存していた中間的共同体の意識を崩壊させ、とりわけ国民共同体の意識を崩壊させる。その結果、帰属意識を失った個人を無力感に陥れる、とトッドは指摘した。
 トッドは、1998年の著書『経済幻想』で、次のように述べている。単一通貨は、同じ通貨を使うということだけでなく、各国が統一された通貨政策を行うことを意味している。したがって、ユーロが成功するかどうかは、ヨーロッパに、国民国家を超えた政治的共同体ができるかどうかにかかっている。トッドは、それは不可能だと見る。
 「共通の通貨の管理は、共通の財政管理を前提としている。しかし、人口動態が与えるショックが国によって違うので、共通の財政管理をさまざまな社会に適用するという考え自体をあやしげなものにしている。単一通貨は、それゆえ、壮大な非常識にしかなりえない」とトッドは人類学的な観点から批判する。ここに「人口動態が与えるショック」とは、出生率低下による年齢構成の変化が社会に及ぼす影響を言う。トッドは、その影響が国によって異なることが、ヨーロッパに国民国家を超えた政治的共同体の建設が不可能である理由の一つだと主張する。

EUは、加盟国を広げすぎて、内部に大きな経済格差を抱え込んでいる。私は、EUだけのことを考えると、規模を縮小し、地域的に近く、また経済的に格差の少ない国々でまとまったほうがよいと思う。この点については、拙稿「ユーロとEUの危機」に書いた。

http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion12k.htm

 その拙稿で述べたことだが、浜矩子(のりこ)同志社大学大学院教授は、平成23年に出した著書『EUメルトダウン』(朝日新聞出版社)で、「このままで行けば、ユーロ圏は間違いなく消滅する」と予測している。浜氏は、「経済格差がある中での通貨統合には、いかにもやっぱり無理がある。当初から分かり切っていたこの問題が、つわものどもの熱き夢、無謀な夢、悲しき夢が一巡したところで、改めて統合欧州の眼前につきつけられている」と言う。

 浜氏は「ユーロ圏が発足した時の15か国のEU、そして11か国のユーロ圏であれば、困っている誰かのために奉加帳を回すことに、さほどの抵抗はなかった」と言う。奉加帳とは寄進帳のことである。「独仏伊とその周辺国でこぢんまりと始まった欧州統合は、今やロシアの勢力圏と境界を接するところまで広域化している」。それなのに「かつての小振りな金持ちクラブだった時のルールを基本的にそのまま踏襲していこうとしている。それが今日のEUであり、ユーロ圏だ。これでは彼らが今直面している難局を乗り越えていくことが出来るはずはない」と浜氏は断じる。

田村秀男氏は、産経新聞平成24年2月6日の記事で、大意次のように書いている。「ギリシャの債務危機勃発から2年たった今、欧州共通通貨ユーロは解体の道に踏み出した、と言ってもよさそうだ」「ユーロが利益になる『北』と、重荷になる『南』にユーロ圏が分裂し修復できそうにないからだ」。「ユーロ危機の最大の勝ち組」であるドイツは、ギリシャに対して財政主権を放棄し、EU当局に移譲するよう迫る。ギリシャはこの要求を拒絶する。「ギリシャが離脱すれば、ポルトガル、スペイン、さらにイタリアと連鎖しかねないが、ドイツは南欧抜きで再結束を図る覚悟のようだ」。「ドイツを中心とするユーロ圏北部と南欧の対立」は、修復できそうにない。ユーロは解体の道に踏み出したと言えそうだ、と。

 私は、こうした浜氏・田村氏の長期的な予想が、今回のギリシャ財政危機の深刻化によって、より現実性を強めていると考える。ページの頭へ

 

結びに〜わが国はしっかりした対策を

 

米欧では、ギリシャの財政危機は、世界的な金融危機を引き起こした2008年のリーマン・ショックとは違うという見方が多い。欧州中央銀行(ECB)など世界中の中央銀行ギリシャ破綻した際の準備をしているうえ、ギリシャの経済規模は大きくないからである。ただし、他の南欧諸国に信用不安が飛び火してユーロ圏が瓦解し、ユーロを使う国や企業が減る場合は、欧州における金融政策は実効性が低下するだろうと見られる。

問題は、ギリシャ問題は単なる経済問題ではなく、またヨーロッパ地域の問題だけでもなく、米欧とロシア・中国の世界的な勢力争いの一つの焦点になっていることである。世界情勢への影響は、今後、ギリシャがユーロ圏にとどまるにせよ、離脱して独自の道を進むにせよ、ギリシャ国民に自力で自国を再建しようという意思があるかどうかによって変わってくるだろう。

いかなる国も、国民が自力で自国を維持・繁栄させ、周囲の国に迷惑をかけず、互いに共存共栄を図っていく以外に、自国及び国際社会の調和と発展は、ない。利己主義や覇権主義は、一時的にはいいように見えても、結局は破滅への道となる。

中国の経済危機がギリシャの危機と連動すれば、それだけ大きな影響を世界に与え得る。中国経済は、いよいよ1〜2年のうちに本格的な危機に進み、デフレに陥ると予想される。社会不安がいっそう深刻化し、政権はますます不安定になり、対外的に覇権主義的な軍事行動を起こす可能性が高まる。その国際的な影響を想定し、わが国はしっかりとした備えをすべきである。経済的にはアベノミクスを完遂する一方、追加の消費増税を絶対やってはならない。安全保障的には、法制の整備とそれによる装備・訓練の推進、そして憲法の改正による本格的な国家再建が急務である。ページの頭へ

 

関連掲示

・拙稿「ユーロとEUの危機

・拙稿「欧州債務危機とフランスの動向

・拙稿「中国は株バブルが破裂し、人民元を切り下げた

 

補説 ギリシャ総選挙で与党勝利

 

ギリシャで本年(2015年)9月20日国政総選挙が行われた。与党・急進左派連合(SYRIZA)が中道右派の最大野党・新民主主義党(ND)を抑えて勝利し、チプラス前首相が新首相に就任した。

 一院制で定数300のところ、SYRIZAの獲得議席数は145議席で過半数に届かなかった。10議席を獲得した右派の独立ギリシャ人党との連立を継続する。

 チプラス氏は本年1月、反財政緊縮策を掲げて前回選挙に大勝し、首相に就任した。だが、ユーロ圏離脱や財政破綻の危機に陥ったことで方針を転換し、緊縮策を伴うEU支援の受け入れを決めた。これに対し、SYRIZAの党内から反緊縮路線から転換したことに反発する造反者が続出し、チプラス政権は事実上少数派政権となった。この状況を打開し政権基盤を立て直すために、チプラス氏は、新方針について国民の信を問う選挙に打って出た。その結果、予想を超える形で勝利を収めた。SYRIZAは前回選挙時の149議席から微減したが、造反組が離党した改選前の124議席から党勢をほぼ回復した。逆に、SYRIZAを離脱した反緊縮強硬派が結成した「民衆統一」は、全く議席を獲得できなかった。チプラス氏が賭けに勝った形である。

 チプラス氏は、選挙結果を受け、「われわれには困難が待ち受けているが、展望はある」と述べ、EUの金融支援の下、財政再建路線を堅持する考えを強調したと報じられる。だが、チプラス政権の行く手には、数多くの難問が待ち受けている。来月(10月)には860億ユーロ規模の金融支援に伴う次回の融資実行の可否の判断のため、EU等による緊縮策の履行状況の審査が迫っている。新政権にとっては、国内銀行の資本増強が急務となる。チプラス首相は債務負担が軽減されない限りギリシャは景気後退から脱却できないと主張しているが、まずこの審査を通過しなければ、首相がEU側に求める膨大な政府債務の負担軽減策の議論は始まらない。

 また、支援条件である年金改革や税制改革、公営企業民営化が実行されねばならない。トルコ経由でギリシャに流入する移民らへの対応も迫られている。移民の流入に有効な対処が出来なければ、国内事情は悪化し、国際的な評価は低下する。

 本文の繰り返しになるが、ギリシャ問題は単なる経済問題ではなく、またヨーロッパ地域の問題だけでもなく、米欧とロシア・中国の世界的な勢力争いの一つの焦点になっている。世界情勢への影響は、今後、ギリシャがユーロ圏にとどまるにせよ、離脱して独自の道を進むにせよ、ギリシャ国民に自力で自国を再建しようという意思があるかどうかによって変わってくるだろう。今後のギリシャの動向が注目される。

 

 

 「国際関係」の題目へ戻る

 

説明: 説明: 説明: ber117

 

説明: 説明: 説明: ICO_170

 

トップ日本の心Blog基調自己紹介おすすめリンク集メール