トップ日本の心Blog基調自己紹介おすすめリンク集メール

 

212-B26   国際関係

                       

 題目へ戻る

 

説明: 説明: 説明: ber117

 

■中国の「大逆流」と民主化のゆくえ

2009.9.28

 

<目次>

はじめに

第1章 中国で起こっている「大逆流」

第2章 現代中国をどう見るか

第3章 愛国主義に毛沢東崇拝を吸収

第4章 迫りくる危機と日本の対応

第5章 中国民主化のゆくえ

結びに

 

説明: 説明: 説明: ber117

 

はじめに

 現在、わが国には石平(せき・へい)氏ほど、実際の中国と中国人を知っている中国問題の専門家はいないと思う。というのも石氏は、中国四川省の生まれのシナ人評論家だからである。石氏は、近年、中国や日中関係についての本を多く出している。とりわけ本年(平成21年、2009)に出された『中国大逆流 絶望の「天安門20年」と戦慄の未来像』(KKベストセラーズ)は、注目すべき情報と主張が盛られているので、要点を整理し、私見を述べたいと思う。併せて、中国の民主化のゆくえについての石氏の観測も紹介する。

 

 

第1章 中国で起こっている「大逆流」

 

●天安門事件20年を迎えた中国

 文化大革命が開始されたとき、4歳だった石平氏は「毛沢東主席の小戦士」として少年時代を送った。しかし、北京大学哲学部の学生だった時代に、民主主義の思想に触れ、毛沢東崇拝から脱却したという。大学卒業後、四川省で大学の教職についたが、日本への留学を勧められて来日。その翌年、1989年(平成元年)に天安門事件が起こった。民主化を求めて天安門広場に集まった学生・青年に対し、中国共産党は人民解放軍を動かして、虐殺を行った。石氏は日本にいたが、多くの仲間が天安門事件で殺されたという。

 本年は、天安門事件から20年である。数年前に日本に帰化した石氏は、この機会に中国を訪れた。天安門事件の際、最前線で戦った昔の同志たちに会い、中国の民主化運動について聞いた。彼らの大半は、民主化や中国の未来について何も考えていないようだった。むしろ共産党独裁のもとで出来上がった利権構造の中に安住して甘い汁を吸うのが、彼らの生き方となっているという。中国の未来について真剣に考える人たちもいる。しかし、「民主化はすでに彼らの視野から完全に消え去ったようだ。彼らは民主化とは正反対の方向で中国の未来像を描いている」と石氏は言う。その未来像は、毛沢東時代の恐怖政治を体験した石氏にとって、恐ろしいものだという。
 日本に帰国した石氏は、ネットの掲示板に掲示された意見や議論を調べた。そこで氏が見たのは、ケ小平への激しい批判、そして毛沢東崇拝の高揚だった。

●現状への不満から毛沢東崇拝が再燃

 中国共産党機関紙の人民日報社は、「人民網」というサイトを開設している。そのサイトには、「強国論壇」という名物掲示板がある。中国全土の愛国者や政治愛好者、政治や社会問題に関心のあるネット利用者が毎日、この掲示板に集まり、議論を行っている。石氏によると、「強国論壇」は今や、主流メディアに劣らないほどの影響力を持つにいたっている。胡錦濤国家主席は、「強国論壇は私がネットを閲覧する時に必ず入るサイト」と宣言しているという。
 中国は、ケ小平による市場経済の導入により、経済成長を続けている。その一方、貧富の格差が発生し、汚職が蔓延、失業者が増加、暴動が頻発している。こうした社会的な矛盾への不満が、ネット上に多く書き込まれている。そして「中国の現状に対する厳しい批判がやがてケ小平改革への全面的否定へとつながり、それはまた、現状にたいする不満の裏返しとしての毛沢東時代への回帰の願望を喚起し、狂信的な毛沢東崇拝を生み出すに至った」と石氏は、考察している。
 さらに石氏は「『毛沢東』を旗印に揚げてケ小平路線に対する『総清算』を行おうとする『革命』の兆しが、まさにこの時代の流れの歴史的帰結として現れてきたのである」と言う。「かつての中国人民を恐怖政治のドン底に陥れたはずの『毛沢東崇拝』は、今やそのままの形で復活し氾濫しはじめている。時代の流れは前進するのではなく、むしろ逆行しているような気がする」と石氏は述べている。
 2008年(平成20年)12月、中国人の学者や弁護士や303人が署名した「08憲章」がネット上で公開された。憲章は、共産党の実質的独裁体制による矛盾を指摘して、全面的な政治改革を求めるものである。自由・人権・平等・平和・民主・憲政の6つのキーワードに凝縮された民主化の基本理念を打ち出し、新しい国づくりを宣言している。これに賛同する署名が広がり、年末には6000名を超えた。しかし、当局は署名運動の封じ込めを行い、署名運動は伸び悩みの状態にある。

 石氏は、このたび中国を訪問し、「民主化運動のリーダー格となるべきこの国のエリート層の大半はすでに堕落し切って、知識人としての良識と使命感を喪失している」と感じたと言う。一方、「一般の民衆はむしろ、毛沢東という過去の偶像にすがり、「毛主席のようなよき指導者」の再来に自らを『解放』する望みをかけているようである」と石氏は感じた。「08憲章」が、「予想できる範囲の近未来において、中国国民の広範な支持を受けて一大政治運動に広がっていくような可能性は極めて少ないのではないか」と石氏は書いている。
 一方、石氏は、ネット以外の実社会の動きも検証し、民衆における毛沢東崇拝は本物のようだという。中国の都市部では、11.5%の家庭で毛沢東の像が祀られている。毛沢東は先祖や仏教の崇拝対象と肩を並べて、「まるで『神様』であるかのように」祀られているという。そして、石氏は「国民の多くが『08憲章』の下に集結して民主化の道を開くというシナリオよりも、『毛沢東への先祖返り』としての『革命』が起きてくる可能性はもっと現実的であろう」と石氏は書いている。
 民主化よりも毛沢東崇拝への逆流が、中国で起こっている。さらに、その逆流は、中国のファッショ化へと進むおそれがある。それが、「中国大逆流」の意味するところである。ページの頭へ

 

 

第2章 現代中国をどう見るか

 

●現代中国の軌跡

 石氏の『中国大逆流』は、中国における毛沢東崇拝の復活を伝えている。私は、その動きに強い懸念を感じる。
 私見を述べると、旧ソ連の共産主義理論では、プロレタリア革命によって、私有制が否定され、社会主義の建設が進められて生産力が発達し、やがて階級も国家もない共産主義の段階に入るとしていた。実際にはまったくうまくいかず、ソ連は崩壊した。これに対し、毛沢東は、社会主義の国家においても、階級闘争は続く。資本主義に走る者との戦いを継続しながら社会主義建設を進めなければならないとした。
 ところが、毛沢東が行ったのは、非現実的な経済政策だったため、中国では破壊と混乱が繰り返された。劉少奇によって一部資本主義的な政策が取り入れられ、ようやく成長の軌道に乗ったが、毛沢東は文化大革命を開始した。これは、資本主義への逆行に反対する階級闘争ではなく、毛沢東が自分の権力を取り戻そうと図った権力闘争だった。
 文化大革命によって、約10年間中国は大混乱が続いた。その後、ケ小平が実権を握り、市場経済を取り入れ、急速な経済成長を続けている。現在の中国は、共産党が指導する統制資本主義の国家となっている。そのため、社会的な矛盾が激化している。

 私は、1990年代以降の中国を観察し、資本主義的な経済発展が社会的矛盾を増大させているのを見て、10年ほど前から毛沢東主義の復活を懸念してきた。
 中国の場合、再度社会主義の道に進もうとするには、革命の英雄・毛沢東という象徴を必要とするだろう。またもし文化大革命後も極左が生き残っていたとすれば、民衆の教化に毛沢東を利用するだろう。また工業の発展によって、都市と農村の格差が拡大すると、不満を持つ農民及び農村出身者は、農民を重視した毛沢東を担ぎ出すだろう。これらが、私の予想の理由である。象徴的な言い方をすれば、「アンゴルモアの大王」がよみがえり、「新しいバビロン」と決戦を行うという黙示録的な展開を私は警戒している。
 石氏によると、現在の中国で、現状にたいする不満が毛沢東時代への回帰の願望を喚起し、狂信的な毛沢東崇拝を生み出しているという。私の予想は不幸にして当たりつつあるようである。

●経済発展の矛盾の解決方法

 社会主義国が国家資本主義的な経済発展をし、そこで矛盾が増大した場合、矛盾の解決には、三つの方法があると私は考える。
 第一は、社会主義を放棄し、自由民主主義による改革を行うという方法である。これが最も望ましいのだが、現在の中国は、この方向に進むには、相当時間がかかるようである。
 第二は、共産党が社会主義的な路線に戻り、社会主義的な改革を行うという方法である。私有財産を国有化したり、市場経済をやめて計画経済に戻すというような改革となる。
 第三は、共産党指導部に替わる集団が、社会主義の第二革命を起こし、権力を奪取して社会主義建設をやり直すという方法である。この方法には、ゼネスト・蜂起型とクーデタ型がある。中国の現状では、暴動が拡大するなかで民衆に呼応したクーデタ型のほうに可能性がある。
 ただし、第二または第三の方法を取って社会主義政策を再度実行したとしても、公有制及び計画経済には本質的な欠陥がある。早晩、再び限界にぶつかることになる。
 私自身は、社会主義すなわち統制資本主義より、自由資本主義がましだと考えている。ただし、経済的自由主義は規制を行わないと、欲望の際限のない追求へと暴走する。その欠陥を補うために、国際的な共同管理と社会貢献事業の拡大によって、資本主義の欠陥を補うのがよい。最大のポイントは、17世紀以来の貨幣経済の仕組み、つまり部分準備金と債務通貨の制度を変えることだと考える。
ページの頭へ

 

 

第3章 愛国主義に毛沢東崇拝を吸収

 

●中国経済は崩壊寸前

 ここで石氏の主張に話を戻したい。石氏は、中国で「『毛沢東への先祖返り』としての『革命』」が起こる可能性に触れている。これは、私の言う社会主義の第二革命に相当する。しかし、石氏は、毛沢東主義による第二革命より、別の方向に進む可能性がもっと高いと見ている。それは、中国共産党のファッショ化の可能性である。
 石氏は、「中国情勢は今のままの展開となっていけば、13億の中国人民がいずれ地獄を見てしまうだけでなく、日本を含めたアジア全体もその巻き添えを食って深刻な危機に直面することになるのではないか」と書いている。それが中国共産党のファッショ化である。
 この説明のためには、まず中国経済の現状を述べねばならない。石氏は『中国大逆流』と相前後して出版した『中国経済がダメになる理由』(三橋貴明氏との共著、PHP)で、大意次のように述べている。

 中国共産党は、「人民のための人民の政権」という論拠で中国を支配してきた。しかし、天安門事件で多数の学生・市民を虐殺したことによって、人民の信頼を失い、「正統性の危機」に直面した。そこで1992年(平成4年)、ケ小平が南巡講話を発表し、本格的な市場経済への移行を断行した。高度経済成長のもたらす繁栄は、共産党の一党独裁に新たな正統性の根拠を与え、政権安定の基盤をつくった。
 ところが、一党独裁と市場経済の矛盾を抱えたままの経済成長は、腐敗の蔓延、貧富の差の拡大、農村の疲弊等を生み出し、2005年(平成17年)には年間9万件もの暴動が起こり、社会不安が増大している。中国共産党は、政権を維持するには、どうしても成長率8%を維持しなければならない。成長率が8%を切ると、1億人以上の労働者に仕事を与えられなくなり、政権基盤が危うくなる。そうした中国に、2008年(平成20年)世界的な経済危機の大津波が襲った。
 国内総生産(GDP)の伸び率は、この1年で10.6%から6.8%に低下した。8%を切ったのである。株式価格は大暴落し、08年の年間下落率は65%となった。不動産は前年比で「販売は2割減、在庫は3割増」となり、不動産バブル崩壊の足音が聞こえている。中国は、極端な対外輸出依存型の経済であるため、アメリカ・EUの不況の影響をもろに受ける。米欧の経済が短期間で回復する見込みはない。内需拡大に打開を求めても、社会保障制度が発達していないため、消費者はものを買わずに、貯金によって将来の不安に備える。それゆえ、中国経済は「絶体絶命」である。

 「鳴り物入りの中国高度経済成長は、ハードランディングという最悪の形で頓挫してしまった」「中国経済は崩壊寸前」だと石氏は言う。2009年(平成21年)はさらに悪くなるはずだと石氏は予想している。
 中国経済の崩壊は、共産党の政権基盤を揺るがす。そこで共産党政権は、どう出るか。石氏は『中国大逆流』で次のように予想する。
 「外部的危機を作り出すことによって、国民の目を内部の危機から逸らし、『民族の大義』を掲げることによって国民のウルトラ・ナショナリズム情念を最大限に煽り立て、対外的冒険に走ることによって国内の危機を乗り越えていく」と。
 これが、「日本を含めたアジア全体もその巻き添えを食って深刻な危機に直面することになるのではないか」と石氏がおそれる中国共産党がファッショ化するという可能性である。

●共産党政権、起死回生の賭け

 ケ小平の指名で国家主席となった江沢民以降、中国共産党は、「『愛国主義精神』という名のウルトラ・ナショナリズムの政治利用」を行ってきた。その結果、今日、中国の若者のほとんどは、「民族利益至上主義の信奉者」となっていると石氏は言う。
 ウルトラ・ナショナリズムは、一般に超国家主義と訳される。この場合の「超」は「国家を超える」という意味ではなく、「極端な、過激な」を意味するウルトラの訳語である。それゆえ、ウルトラ・ナショナリズムとは、極端な民族主義・国家主義のことである。
 私たち日本人は、北京オリンピックに先立つ聖火リレーが長野に来た際、中国人の青年たちが巨大な中国国旗を振り、市中を我が物顔に行動したことを目のあたりにした。欧米の諸都市でも同様だった。彼らの行動の背後には、中国共産党の指示があった。

 石氏は、中国共産党が国民に「ナショナリズム的情念」を煽り立て、「愛国主義の旗印」を掲げれば、その下に国民の大半は熱狂的に集結する。中国共産党はそれを操る「術と力」を持っている、と言う。今後、中国経済が崩壊して社会不安が高まり、未曾有の危機に突入したとき、共産党政権は「起死回生の賭け」に打って出る可能性があると石氏は予想する。
 すなわち、対外的な「戦時体制」を作り出す。その中で、経済に対する統制を強化する。「挙国一致団結して民族の敵に立ち向かう」という大義名分の下で、共産党政権の存在意義とその正当性を強く主張する。それによって、党の政権基盤を再び磐石なものとしようと図る。このような「乾坤一擲の賭け」に打って出ることによって、「『経済の成長と繁栄』の上に政権の基盤を置くというケ小平路線の破綻を補って、中国共産党はまったく別の政権維持戦略への転換を実現できるのである」と石氏は述べている。

●毛沢東崇拝を愛国主義の中に吸収する

 この共産党の戦略転換と、先に述べた毛沢東崇拝の高揚とは、どういう関係になるか。石氏によれば、ケ小平の経済成長路線が破綻したため、中国では、厳しい現状批判の中から、毛沢東崇拝が再燃している。民衆の暴動・騒乱が毛沢東主義と結びついて、社会主義的な改革を求める動きになれば、私の言う「社会主義の第二革命」の方向になるだろう。しかし、この可能性は低い。むしろ、中国共産党は、毛沢東崇拝を権力の維持に利用し、反政府運動のエネルギーを外に向けるだろうと石氏は予想する。
 「政権側からすれば、『愛国主義』という大義名分下で『毛沢東崇拝』を吸収して体制の中に取り込むことが出来れば、これほど好都合のことはない」「『毛沢東』を旗印とした対外冒険的な軍国体制が共産党政権を中軸にして出来上がってくる可能性は十分あるのだ。いや、それはむしろ、そうなる確率のもっとも高い近未来のシナリオではないかと思う」と石氏は書いている。

 私見を述べると、毛沢東の思想には、マルクス=レーニン主義・毛沢東思想と定式化されるような共産主義の武力革命理論としての性格がある。それと同時に、漢民族の矜持と強烈な反米感情に彩られた現代の中華思想という側面がある。共産主義は本来、インターナショナリズムの思想だったが、スターリンによってナショナリズムに逆転し、さらに毛沢東によって中華思想と結びついた。
 ナショナリズムと結合した共産主義は、ファシズムに類似したものに変容する。ファッショ的共産主義である。既に中国は、マルクス・レーニンの名を掲げてはいても、実態はウルトラ・ナショナリズムを基盤とするナチス・ドイツに似た国家に変質している。石氏が予想する「『毛沢東』を旗印とした対外冒険的な軍国体制」が、経済崩壊後の中国に出現する事態は、十分想像できる。
 中国経済は、崩壊寸前の状態にある。上記の予想は、早ければ1〜2年、遅くとも数年のうちに起こりうる事態である。ページの頭へ

 

 

第4章 迫りくる危機と日本の対応

 

●中国の軍国化は、わが国安全保障上の大問題

 中国が、来るべき内部の危機を乗り越えていくために、「対外冒険的な軍国化」の道を歩むとすれば、「日本にとって安全保障上の大問題」である石氏は警告する。軍国主義化した中国の共産党政権が対外的な暴走を始めた場合、矛先は台湾海峡か東シナ海がターゲットになる。経済の崩壊、暴動の激発で、中国国内が収拾のつかない大混乱に陥ってしまった場合、「共産党政権は巨大な軍事力をバックにして一気に台湾併合に動き出す可能性が十分あるし、台湾併合の前哨戦として、尖閣諸島進攻を断行するかもしれない」と石氏は予想する。「国内がどれほどの危機的な状況に陥ったとしても、尖閣諸島か台湾を奪うことさえ出来れば、共産党政権は国民からの熱狂的な支持を受け、一気に局面を打開して危機を乗り越えられる」というのが、その理由である。
 台湾併合ないし尖閣略取の強行は、わが国にとって、危急存亡の事態となる。「台湾と尖閣諸島がともに中国軍の手に落ちれば、東シナ海全体は、まんまと中国の内海となってしまう。その結果、海から包囲されて通商の生命線を断たれたわが国日本は、まさにまな板の鯉となる。場合によって、国家と民族の存続さえ危うくなってくるのであろう」と石氏は憂慮を述べる。
 石氏の予想は、中国の軍事問題の専門家・平松茂雄氏が、数年前から警告していることと合致する。平松氏は2006年(平成18年)3月、「中国は日本を併合する」(講談社インターナショナル)を出して、警鐘を乱打した。台湾が独立を図るとすれば、軍事的な観点からは、08年(20年)から10年(22年)がリミットになる。その期間に中国が台湾の併合に動く可能性が高まる、と平松氏は日本国民に啓蒙した。
 台湾は08年(20年)3月、国民党・馬英九政権となった。馬総統は「両岸対等、共同協議、市場拡大」を方針とし、中台の融合が進み出したかに見える。しかし、今度は、共産中国の側が経済崩壊の寸前に至り、共産党とその軍が台湾ないし尖閣列島へと対外行動を起こすおそれが出てきている。

●中国の暴走に、日本はどう対応すべきか

 こうした迫り来る危機に対し、日本はどう対応すべきか。シナ人でありながら、日本国籍を取得し、日本人として日本を愛する石平氏は、次のように述べる。
 「今の日本は、中国国内の動向を左右できるほどの力を持たないから、できることはただ一つ、自らの守りを固めていざという時の『危機』に備えていくことではなかろうか」と石氏は言う。「そのためには、アメリカによって押し付けられた『平和憲法』なるものを一日も早く改正して、自衛隊に国防軍としての名誉と法的地位を与えて国防を強化させ、国家体制を固めておかなければならない。そして、国家と民族の存続を断固として守る意思を示した上で、中国共産党政権に対しては、台湾や尖閣諸島、および東シナ海にたいするいかなる侵略的冒険も、日本国としてけっして許さないという強くメッセージを送り続けるべきであろう」と。こうした石氏の主張は、私が拙稿中国の日本併合を防ぐには第3章書いたことと響き合う。
 「日本がかくの如く強くなって毅然とした姿勢を取ることによってはじめて、日本と東アジアの平和が保たれるであろう。日本が相応の実力と国家防衛の強い意志を持つことは、中国共産党政権の対外的冒険を思いとどまらせるための大きな抑制力となるからである」と石氏は言う。
 
●日本の抑止力が中国を民主化に向かわせる

 私は、日本人が迫りくる危機に目覚め、憲法改正・国防充実を即刻実行したとしても、単独では数年のうちに、中国の対外侵攻を防ぐだけの抑止力は持ち得ないと考える。日本人は、あまりにも長い間、平和ボケ、保護ボケを続けてきた。わが国にとって、アメリカの軍事力は、中国の暴走を防ぐために、当面不可欠である。そこに現在における日米同盟の重要性がある。
 石氏は、日本が「相応の実力と国家防衛の強い意志を持つ」ことのみを述べている。そして、次のように続ける。「このような抑制力が十分働くことによって、わが国日本は来るべき中国の内乱や革命に巻き込まれずに済むわけであるが、場合によってはそれが、中国国内の変化によい影響を与える要素となるかもしれない。つまり、日本の抑制力に阻まれて対外的冒険の道を断念した場合、中国共産党政権は今度は、政治改革を含めた国内改革に政権維持の活路を求めるかもしれない。これによって中国の民主化につながる最後の可能性が開かれるのであろう」と。
 石氏は、日本の軍事的抑止力が中国の対外侵攻を阻止しえた場合、それが中国共産党を国内改革に向わせる可能性があることを指摘する。それを共産党による民主化とは言っていない。共産党の国内改革が、人民による民主化につながっていく希望を述べるものだろう。しかし、石氏はこの方向が「中国の正しい方向であり、中国の13億の民にとっての唯一の幸福の道であり、そして隣国日本にとっての最善の結果でもある」と言う。そして「わが国日本がより強くなること、きちんとした国家体制と断固とした国家意思を持つようになること。実はそれこそが何より肝要なのである」と本書『中国大逆流』の結論を述べている。

●日本の憲法改正・国防充実は、アジアと世界の平和につながる

 私が思うに、中国がファッショ化して、対外侵攻に暴走すれば、アメリカと衝突することになる。米中の対決は、本格的な核戦争となり、多大な破壊と深刻な混乱を引き起こす。当然、日本はそれに巻き込まれる。こうした事態を防ぐには、日本が独立主権国家として、日本人自らの手になる憲法を創り、自力で国を守る精神と体制を備えることが必要である。このことは、日本の存亡のみならず、アジアの安定、世界の平和にとっても、極めて重要なことなのである。ページの頭へ

 

 

第5章 中国民主化のゆくえ

 

●中国の民主化のゆくえ

 

平成21年6月21日、石平(せき・へい)氏の講演があった。場所は東京の文京シビック・センター、スカイホール。講演は大阪国際大学講師の久野潤氏が主宰する戦略・情報研究会の勉強会の一環だった。私はこの勉強会に、マイミクでもある久野氏の案内で、初めて参加した。
 石氏の講演は1時間の予定だったが、熱弁はとどまるところを知らず、2時間に及んだ。その内容は、石平氏の著書『中国大逆流』を補足し、また一部敷衍するものだった。当日私の取ったメモを元に、講演の大意を記す。録音は撮っていない。文責はほそかわにある。

    

 石平氏の講演(大意):
  演題「東アジアをどう民主化するか〜中国という存在を前提に」

●中国民主化運動の歴史的根拠

 天安門事件は、建国史上最大の民主化運動だった。共産党は戦車部隊まで出して自国の学生運動を鎮圧し、虐殺した。どれだけ殺されたか不明であり、いつ明るみに出るかも分からない。
 なぜこの時、民主化運動が起こったのか。それを考えるには、建国の歴史にさかのぼって考えねばならない。
 1949年、共産党軍は国民党軍との内戦に勝った。革命をして解放したと言っているが、反乱軍が勝っただけのこと。それを革命だという神話・イデオロギーを作った。党がすべての権力を持つ政治システムを作った。一度も選挙をしたことがなく、権力の座に居座り続けている。軍も党の軍である。軍の幹部は、党に絶対服従すると宣誓する。忠誠の対象は党である。
 共産党政府は、一切の批判が許されない。権力に対するチェック機能が存在しない。毛沢東は文化大革命を起こした。毛が政治権力を守るための闘争だった。7億人のうち、1億人が政治的迫害を受けた。一切のチェックを受けない独裁は、ファシズムになる。毛沢東の独裁は、恐怖政治になった。
 1976年に毛という化け物が死んだ。毛は中国史上最大のならず者で、自分の権力の満足のために、中国人民を地獄に陥れた。なぜ誰も悪行をとめられなかったのか。独裁システムが出来てしまったことを反省した。独裁政治を繰り返さないために、民主化をしなければならないと考えた。中国の民主化は理念や思想から始まったのではなく、独裁政治・恐怖政治を繰り返さないという切実な問題意識から始まった。
 1980年代、中国の若者は、民主主義に夢中になった。自分は学生のとき、毎日中国は民主化しなければならないと議論した。共産党は経済の自由化はするが、政治の民主化は許さない方針だった。唯一、学生に一定の理解を示した胡耀邦総書記、87年に失脚させられ、89年4月に死去した。それがきっかけで天安門事件が起こった。これが中国の民主化運動の根っこである。

●天安門事件後に考え出された「正統性の根拠」

 天安門事件の翌年1990年、中国は安定を取り戻した。共産党政権にとって、事件を鎮圧したことはダメージとなった。それまでは、共産党は「人民のための人民の政権」という神話があった。しかし彼らは政権を守るために鎮圧した。それによって政権の「正統性の根拠」が崩れた。そこでケ小平と江沢民が考えたのが、愛国主義・反日教育である。これらは天安門事件を隠すために考え出された。悪いのはあいつらだと日本を悪者にし、若者の憎しみの対象を日本とした。日本という侵略国家がある限り、共産党の独裁が必要という論理を若者に教えた。
 それまで中国人は日本にいいイメージを持っていた。一世を風靡したアイドルは、男性には山口百恵と栗原小巻、女性には高倉健だった。反日はなかった。
 90年代になった反日感情が出てきた。共産党の教育によるものである。
 もう一つ考え出したのが、市場経済の全面的な導入。1992年、ケ小平は「南巡講話」で大号令をかけた。全面的に市場経済をやると経済発展を宣言した。これも天安門事件隠しだった。天安門を忘れて、みなが金もうけに専念すれば、ハッピーになれるとして、高度経済成長が始まった。若者も知識人も、金もうけが出来れば、共産党でもいいのではないかと、思うようになった。
 毎年6月4日に、外国人記者が質問する。「天安門事件をどうとらえるか」と。中国政府のスポークスマンは「皆さん見て下さい。中国は経済的に発展している。それが天安門事件の鎮圧が正しかったことの証拠です」と答えている。
 愛国主義・反日教育と市場経済の全面的導入の二つで、中国共産党は、この20年間、見事に成功してきた。私は2002年以来、反中国的な言論活動をしてきた。今年、日本に帰化してから初めて、日本のパスポートで、中国に入り、北京に行った。一番ショックだったのは、学生の頃の友達が、大学教授や官僚等になって、中国共産党の独裁政治にぶら下がって、利権を得ていることだった。ケ小平の戦略は成功している。

 

●経済成長の低下で、中国は崩壊する

 中国は市場経済で時代の波に乗り、わが世の春を謳歌していた。ところが、去年あたりから大きな変化の兆しが現れてきた。10数年、経済成長を続けてきて、裏の面が出てきた。
 共産党政権は、政権の正統性を経済成長に託している。政権が続くかどうかは、経済が成長するかどうかにかかっている。その経済が落ちたらどうなるか。ドラマが始まった。
 まず貧富の差の拡大が進んでいる。マルクスが「資本論」に書いた資本主義の社会以上のひどさである。新人社員と社長の給料の差は、日本では8〜10倍だが、中国では300倍以上。国有企業でこれである。もう一つは腐敗の蔓延。これには、国民の大半が不満を持っている。
 貧富の差が拡大し腐敗が蔓延しても、共産党が政権を維持できたのは、経済成長してきたからだった。だから、共産党は「保八」つまり経済成長率8%を保つことを至上命題としている。8%より落ちると、政権は不安定になる。去年は8%より下だった。

 これまで中国の経済を引っ張ってきたのは「2台の馬車」である。1台は輸出。特にアメリカへの輸出。経済成長が10%だったとき、輸出の伸びは20%以上だった。もう1台は、投資。政府による投資である。
 経済の成長は本来、生産と消費のバランスによるべきだが、中国はアンバランスな成長をしてきた。個人消費率は、日本は60%で健全。アメリカは70%でちょっと高い。中国は37%で低すぎ。後の6割は輸出という輸出依存の経済になっている。
 中国は、安い製品を安い労働力で作って売っている。付加価値の低いものばかりで、世界的なブランドは一つもない。安く売るには、労働力を低く抑えねばならない。給料を上げると、値段が上がり、輸出しても売れない。輸出を伸ばすために、労働力を低く抑える。所得が少ないから、消費は伸びない。それでも成長するには、輸出をますます伸ばすしかない。その前提には、世界経済が伸び続けることがある。
 ところが世界経済危機のため、中国の輸出が落ちた。毎月マイナス成長となり、マイナス25%に。こうなると中国は崩れていく。国が大きいから、一気には崩れない。ゆっくりと崩れていく。
共産党政権は、内需拡大と言っている。しかし社会保障システムを作っていないから、国民の6割以上が医療保険に入っていない。お金があれば、備えのために貯金に回す。消費は伸びない。

●誰も中国の将来を予想できない
 
 これから3〜5年は、中国経済は低成長となる。「保八」ができないと、共産党政権は不安定になる。
 雇用の問題もある。人口が多すぎる。2007年に成長率が13%と異常なほど高かったが、それでも大学生の3割が就職できなかった。8%を切れば、どれほどの失業者が出るか。
 農村では2億人の剰余労働力がある。「農民工」という。日本の出稼ぎは生活基盤のある農民が都会に出て働くが、中国では田舎で生活基盤がない農民が都市に出てくる。しかし、仕事はないから失業者が増える。
 暴動は政府が発表した数字で、年間9万件も起こっている。「襲警事件」といって、警察を襲撃する事件が各地で続いている。
 市場経済をずっとやってきても、独裁政治で民主化をやっていないから、不満のはけ口がない。アメリカや日本では、選挙の機会がはけ口になっている。中国では、建国以来一度も選挙をしていない。はけ口がないから、ちょっとしたことで暴動が起こる。不満はすべて暴動という形で、党に向かう。

 経済がもっと落ちると、さらに暴動が増える。江西省南康市で最近、市政府が税の徴収について法令を発表したところ、暴動が起こった。警察の車を9台壊して、市庁舎をも襲撃した。すると省政府が市政府に法令の撤回を命じた。暴動を起こしたことで法令が撤回されたから、ますます暴動を誘発することになる。暴力的な行動に対して、政府は暴力的なファシズムで対抗する。
 誰も中国の将来を予想できない。どんなことでも起こり得る。予想できるという人は、ペテン師だ。
 国民の視線を外に向けさせる軍事的冒険の可能性もある。未曾有の混沌の国になるかもしれない。健全な民主主義になる可能性は少ない。

 

●質疑応答の主な内容

 講演の終了後、久野氏のコーディネイトで、石氏は参加者の質問に答えた。質疑応答の大意を、次に記す。

Q 石さんは少年時代、毛沢東を崇拝していたというが、どうして変われたか。
A 個人崇拝は作られたもの。真実が分かれば、変ることができる。宗教とは違うし、先祖からのものとは違う。毛沢東は麻原彰光と似ている。

Q 上海は本当に経済的に伸びているのか。
A 上海は全国の富を集めた窓口。いいことだけを見せるショーウィンドウ。上海を繁栄させたのは、土地のバブル。

Q 中国に空母は作れるか。
A 全国民が餓死しても空母は作る。これに対し、日本は強く出るべき。平和を守るには、実力の均衡が必要。日本が取るべき唯一の道は、憲法第9条を改正して、強い国を作ること。

Q 核を保有するのはどうか。
A 核を持ったほうが良い。核は平和を守る最後の武器。日本が核を持っていたら、広島・長崎に原爆を落とされることはなかった。持っていなかったから、やられた。

Q 中国の知識人は本当に反日か。
A 反日感情は本物。エリートは心の深いところで反日感情を持っている。もう一回日本と戦争をやりたいと思っている。中国が強くなるには、日本は邪魔である。
 日中友好は必要ない。普通の国の関係でよい。カナダと友好とは言わない。友好、友好というのは、魂胆があるから。

Q 中国で混乱が起きた場合、ウイグルなどでの政策はどうなるか。
A 国内に混乱がおきれば、ますます少数民族に強く出ると思う。

Q これからの中国はどんなことも起こりうると言われたが、民主化のシナリオもあるか。
Q 台湾は李登輝が出て民主化に成功したが、なぜ台湾は成功できたか。
Q 北京オリンピックの際、長野に来た中国人がチベット人の運動を妨害したが、どういうことか。
A (三つまとめて) 必要なことは、中国人が大中華思想から脱却すること。北京を中心とする大帝国が解体すれば、民主化し得る。台湾は人口2000万だから民主化できた。中国が15〜30の台湾に分裂すれば、民主化の可能性が出てくる。チベットやウイグルが独立して、漢族の中で適当なサイズで民主化し、小さい民主主義国の緩やかな連邦制を作るのが最善の道。それが日本にとっても、アジアにとっても安全な道。
 長野に集まった若者は、民主主義を知っているはず。それでもチベット人に向かって暴行した。民主化だけでなく、大帝国の思想から脱出できるかどうかがポイントとなる。

    


ページの頭へ

 

 

結びに

 

 結びに補足として、4点述べたい。
 第一に、中国による日本併合について、文中で平松茂雄氏の著書を紹介したが、私は、氏に学んで、拙稿「中国の日本併合を防ぐには」を書いた。ご参考に願いたい。


 第二に、現状への不満で高揚する毛沢東崇拝のエネルギーを、共産党政権が吸収して、政権の基盤強化に利用し、対外侵攻をはけ口にすることはあり得る。第1次大戦後のドイツでは、ソ連を中心とするコミンテルン型の共産主義革命運動が起こった。これが鎮圧されると、ヴェルサイユ体制への不満を背景に超民族主義的な国家社会主義が台頭し、変革を求める国民のエネルギーは、ナチスの運動に吸収されていった。知識人も偽りの国際主義に失望し、極端な民族主義・国家主義に組織され、ユダヤ民族弾圧と侵攻戦争が行なわれた。

 第三に、第2次世界大戦では、そのドイツにフランスが敗れた。現在の日本と中国の関係は、大戦前のフランスとドイツの関係に似ている。私は、アンドレ・モーロワの『フランス敗れたり』(ウエッジ)を読んで、慄然とした。今日の日本とアジアを憂える人々に、本書をお勧めする。拙稿「『フランス敗れたり』に学ぶ〜中国から日本を守るためにをご参考に願いたい。

 最後に、石氏は、『中国大逆流』では、ファッショ化とかファシズムという用語を使っていない。「軍国体制」とか「軍国化」という用語を用いている。しかし、氏は従来、中国共産党についてファッショ化とかファシズムという用語を使用し、最近聴いた講演でも同様だった。共産党がファッショ化すると言うには、ファシズムに関する広義の定義が必要である。また同時に共産主義の分析が必要である。この点については、マイサイトの共産主義のページに私見を載せてある。併せてご参照願いたい。(註 1

ページの頭へ

 

(1) 拙稿「現代中国をどうとらえるか〜ファシズム的共産主義の脅威」(目次からB16へ)

 

 「国際関係」の題目へ戻る

 

説明: 説明: 説明: ber117

 

説明: 説明: 説明: ICO_170

 

トップ日本の心Blog基調自己紹介おすすめリンク集メール