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欧州債務危機とフランスの動向

2012.6.4

 

<目次>

1.フランス大統領はオランドに
2.独仏の連携は続くか
3.ギリシャが欧州・世界を揺るがす
4.イタリアとスペインの苦しい事情
5.フランスの左傾化
6.「フランスの価値、フランス人のアイデンティティ」
7.勢いを増す国民戦線
8.トッドと国民戦線の違い

9.欧州でのナショナリズムの復興
10.わが国は欧州模倣で針路を誤るな

 

 

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1.フランス大統領はオランドに

 本稿は平成24年(2012)年2月13日掲載の「ユーロとEUの危機」以後、同年6月3日現在までの欧州債務危機とユーロ圏・欧州連合(EU)の事情について、フランスの動向を中心に述べて検討を行うものである。

 本年(24年)に入りギリシャの財務危機・政治情勢が深刻化するなか、2月イタリア、3月ギリシャ、4月スペインで国債の大量償還が行われた。国際的な協調によって資金の調達がされ、大きな混乱は回避された。このような状況で、4月から5月初めにかけてフランスで大統領選挙が行われた。

 サルコジの再選が危ぶまれていることは、先の拙稿に書いた。第1回選挙では決着がつかず、第2回選挙で社会党のオランドがサルコジを破って、大統領に就任した。現職大統領が1期で敗退したのはジスカールデスタン以来である。また社会党政権は、ミッテランの退陣後、17年ぶりとなった。

 ギリシャ危機の勃発以降、EUでは緊縮財政が強化されている。仏大統領選挙で緊縮財政の継続を唱えたサルコジに対し、成長や雇用にも配慮するよう主張したオランドが勝利したことは、これ不満を持つ国民が多いことを示している。

 オランドは5年以内の財政均衡回復を約束すると同時に、成長のための拡大政策を掲げ、政府債務の上限に関するEUの協定を緩める提言を公約に盛り込んだ。だが、フランスには成長政策を力強く打ち出せる財源がないから、成長政策の実現可能性は疑わしい。最も重要なのは、オランドが財政規律強化を義務づけるEUの新財政協定見直しを主張していることだが、これはEUの既定路線とは異なる。特にこれまで「メルコジ」といわれるほどサルコジとの緊密な連携を取ってきたドイツのメルケル首相の政策とは相容れない。それゆえ、サルコジからオランドへの政権交代は、独仏関係に不協和音を響かせる可能性がある。

 オランドは、国内政策では電力の原発依存度を現行の75%から2025年までに50%に引き下げる「減原発」政策を掲げている。またアフガン駐留の仏部隊を予定より1年前倒しして2012年末までに撤退させることを公約した。こうした政策が、ドイツだけでなく米英との関係でも摩擦を生じるかもしれない。

 ただ、私には、オランドにEUの既定路線を改めさせるほどの強力なリーダーシップがあるようには見えない。オランドは社会党内では穏健派に属するとされる。オランドが師と仰ぐミッテランは、現実主義者と呼ばれた。ミッテランは大統領在職中、ドイツのコール首相と強い信頼関係を築き、独仏が両輪になって単一通貨ユーロの導入等、欧州の統合を進めた。それゆえ、オランドも現実路線に転じるとの見方が根強くあると伝えられる。

 私の見るところ、欧州の社会民主主義と欧州統合思想は親和的である。社会民主主義的国際主義と欧州統合思想は、ともにネイション(国家・国民・民族)を超え、脱国家・脱国民・脱民族的な理想を追求しようとする。これに対抗する思想は、ネイションの維持・発展を目指す。前者をリージョナリズム(広域統合主義)、後者をナショナリズムと呼ぶこととする。欧州では自由主義・資本主義を保守する思想が、リージョナリズムと結びつき、各国の文化・伝統を保守するナショナリズムと対立している。「保守」と言っても、主に何を保守するかで立場が違う。欧州統合を進める体制を維持・推進する立場を統合推進的保守というならば、ナショナリズムはこの体制を変えようとする点では一種の革新であり、欧州統合以前のネイションを復興しようという点では国民復興的保守である。ナショナリズムには、自由主義的・社会主義的・共産主義的・ファシズム的と異なった政治思想がある。ナショナリズム、イコール右翼ではないことに注意する必要がある。社会民主主義の主流は、リージョナリズムに合流しているが、欧州でも左翼のナショナリストがいる。ここで注目されるのが、フランスを始め欧州各国で勢力を伸ばしている「極右」と呼ばれる一群の政党である。本稿では6以降の部分で述べる。

 第2次世界大戦後の欧州では、ナショナリズムよりリージョナリズムが優勢であり、欧州統合が進められてきた。だが、その間に、各国が移民を拡大する政策を取ってきたため、ドイツのトルコ人、フランスのマグレブ人、イギリスのパキスタン人等、各国でイスラム教徒が急増し、社会的・文化的な問題が拡大している。こうした状況において、欧州の債務危機が深刻化し、ユーロの信用不安が増大しているので、今後各国で政治的な対立が先鋭化していくだろう。フランスもそういう欧州の一国であり、複雑な政治状況にある。大統領選挙では、きわどい展開で社会党のオランドが勝利したが、国内の主義・思想は多色化し、バランスは流動的と観察される。

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2.独仏の連携は続くか

 オランド仏大統領は5月15日に就任すると、当日夜すぐベルリンを訪問し、ドイツのメルケル首相と初会談した。就任直後に意見交換し、独仏の連携を維持するとともに、自説を説いてメルケルの理解を得ようとしたものだろう。

 メルケルは財政緊縮政策を堅持しており、経済成長策を重視するオランドとは、方針が異なる。独仏の連携が崩れるならば、ギリシャの債務危機や欧州の銀行危機の対応に影響をもたらす。「メルコジ」から「メルコランド」へと協調関係を維持できるかどうか、世界が注目した。

 両首脳は会談後、共同で記者会見をした。報道によると、ギリシャについて、メルケルは「ユーロ圏に残ることを望む」と強調した。ギリシャでは国政選挙が行われたが、第1党が連立政権を組めず、再選挙が行われる。オランドも、再選挙で「ギリシャがユーロ圏への信頼を確認することを願う」と述べた。独仏は欧州統合の牽引役であり、統合への後退になるユーロ加盟国の離脱を避けたいという意識があるのだろう。ただし、メルケルは、「約束は守られねばならない」と明言し、ギリシャにEU等が金融支援実施の条件とする財政緊縮策の実行を求めた。また両首脳は「ギリシャ国民が望むなら、成長のための追加的な可能性について検討する用意がある」という考えも表明した。これは、緊縮策で経済が疲弊し、生活に苦しむ中で緊縮策への反発を強めるギリシャ国民に配慮を示したものと見られる。

 メルケルとオランドは、欧州債務危機対応で緊密に協力することで一致した。オランドが求める成長重視の危機対応策については、EU首脳会議等で両首脳がそれぞれ考えを述べ、検討することにした。ただし、オランドが掲げる新財政協定の見直しについて、メルケルは「交渉は終わっている」と述べたという。今後、オランドが新財政協定の再交渉を強く求めれば、独仏の連携がきしみだすかもしれない。

 だが、両首脳は何らかの妥協をして、連携を維持するのではないかという見方もある。オランドがメルケルに強気で持論を説いても、フランスの経済力はドイツに劣る。ドイツの工業生産力に依存するところが大きい。それゆえ、オランドは、どこかで譲歩せざるを得ない。経済成長や雇用確保を求める国内世論を受けて当選した手前、オランドはメルケルに主張することは主張する。こうして国内の支持層の期待に応えようとしつつ、現実主義的な決着を図るのではないか。具体的には、新財政協定は修正せず、成長戦略等を盛り込んだ補完的な協定を作る等の方策を取るのではないかと観測される。メルケルも新たに債務を増やさないような成長戦略は必要性を認めており、ドイツ国内での緊縮政策重視路線に対する不満を緩和できると見られる。両首脳ともEU統合の路線を共有し、加盟国の脱落を防ぐため大きな変化は望んでいない。またそれぞれ自分の政治家としての地位を維持するために、互いを利用しようとするだろう。

 ユーロは、東西統一後のドイツを欧州の国家共同体に止めておくために創設されたという一面がある。また単一通貨で最も恩恵を受けている国は、ドイツでもある。だが、ユーロ圏の多数の国が債務危機に陥ると、それらを支え続けるのは、ドイツへの負担が大きくなってくる。欧州債務危機を解決する方法の一つにユーロ共同債の発行がある。加盟国が共同で公共債を発行し、信用力の低い国も同じ条件で資金の調達ができるというメリットがある。オランドは、5月23日に行われたEUの臨時首脳会議でこれを提案したが、メルケルは反対した。抜群の経済力を持ち、低金利で国債を発行できるドイツにとって、共同債は不利になるからだ。ここに経済的統合と各国の国益の不一致という問題がある。ドイツが共同債発行案に応じ、直接的な国益を損なっても、ユーロ圏全体を維持しようと考えるのでなければ、ユーロ圏を比較的財政状況の優良な国だけに縮小した方が、長期的にはドイツにとってプラスが大きいだろうと私は思う。独仏の連携は、やがて根本的な方針をどうするかという課題への両国首脳の判断にかかっていくだろう。

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3.ギリシャが欧州・世界を揺るがす

 フランスの大統領選と同じ日、ギリシャで国政選挙の投開票が行われ、世界が注目した。ギリシャは一院制だが、EUやIMF等の支援と引き換えに財政再建を進めてきた連立与党は、過半数に届かなかった。増税や歳出削減に取り組むという政策は、有権者の支持を十分得られなかった。総選挙後の連立交渉は決裂し、6月に再選挙が実施されることになった。

 5月の第1回選挙では、緊縮財政反対を唱える急進左派が大幅に議席を増やし、第二党に躍進した。世論調査によると、急進左派連合は、次の選挙でさらに票を伸ばしそうだと伝えられるが、緊縮財政推進派と大接戦の模様である。従来の連立与党で今回第一党になった中道右派の新民主主義党は、緊縮政策の見直しをEU等と交渉する考えを表明している。

 メルケルとオランドは、ギリシャがユーロ圏に残ることを望むという意思を表明した。メルケルはギリシャにEU等が金融支援実施の条件とする財政緊縮策の実行を求め、両首脳は「ギリシャ国民が望むなら、成長のための追加的な可能性について検討する用意がある」とも述べた。

 だが、再選挙の結果、もし急進左派連合を中心とする「反緊縮政権」が成立し、緊縮財政路線が放棄されたら、EU・IMF等を通じた支援策の履行は困難になる。EU諸国はギリシャに厳しい態度を取り、欧州以外の国からも不満が噴き出すだろう。IMFに多額の資金を提供しているわが国も黙っているわけにはいかない。それゆえ、ギリシャの再選挙で問われるのは、単にギリシャ国内の経済政策ではない。「ユーロ圏に留まるか離れるか」という最後の選択である。

 ギリシャがユーロ圏を離脱した場合、ギリシャ国内は混乱するだろう。独自の通貨に戻すか新通貨を造るかしても、通貨価値は当然低いから、輸入品の物価が急騰し、インフレが昂進するだろう。銀行預金の大量引出しが起きる。海外への資金流出が加速する。ギリシャ国債は暴落し、ギリシャ国債を多く保有する国々は、打撃を受ける。特に財政状況の悪いイタリア・スペインや経営状況の悪い欧州の銀行には、深刻な打撃となる。これはユーロ圏全体の危機であり、それをきっかけに世界経済はリーマン・ショック以来の混乱に陥る可能性がある。

 EUは、5月23日臨時首脳会議を開き、ギリシャに対し、財政緊縮策実行の約束を守ったうえで、ユーロ圏に残留するよう求めることで合意した。EUが地域間格差是正のため設けた「構造基金」を活用し、ギリシャの経済成長と雇用を支援することでも一致した。ギリシャを繋ぎ止め、財政改革をさせないと、悪影響が大きいという判断だろう。

 だが、ギリシャの国民はどこまで自国の行く末や欧州・世界への影響を真剣に考えているか疑わしい。勤労意欲が低く、観光業の収入に依存し、過剰な社会保障に甘え、ユーロに支えられて、自立心を失い、都合の良い考えに陥っているのではないか。選挙結果は、緊縮財政に反対の国民が多いことを示す一方、世論調査ではギリシャ国民の約8割がユーロ圏残留を希望している。増税や歳出削減、年金受給年齢の引き上げ、公共サービスの縮小等は嫌だ、それでいてユーロ圏には居残りたいというのは、許されないだろう。この国民性を変える強力な指導者が出れば別だが、そうした人材は不在のようである。

 私は、ユーロ圏は長期的には独仏を中心として、経済力に大きな差のない国々の集まりという適正範囲に縮小せざるをえないだろうと考えている。「最適通貨圏」という理論があり、労働や資本といった生産要素が比較的低い費用で移動できる範囲が共通の通貨を使用すべき最適な範囲とされる。この理論によると、ユーロが共通通貨として安定的に機能するためには、経済条件が似ており、比較的少ない費用で労働・資本の移動が可能な範囲に加盟国を限定すべきものである。経済学者の岩田規久男氏は、その条件を満たすのは、現在のユーロ圏17カ国の中では、ドイツ・フランス・オランダ・ベルギー・ルクセンブルグの5カ国だろうという。

 私は、ユーロ圏がこれまでのような拡大路線を続けていくと、そのためにヨーロッパ全体が沈むことになると思う。一旦広げたものを縮小する過程は、相当の痛みを伴う。ギリシャ一国がユーロ圏を離脱するだけでも、大きな影響が出るに違いない。ましてポルトガル、スペイン、イタリアが続くことになれば、激動になる。だが、その激動を経て適当な体制に至るまで、欧州も世界もこれに耐えるしかないだろうと思う。わが国のメディアの多くは、基本的にユーロは維持されるべきもの、EUは統合を進めるべきものという前提で報道しているが、もともと単一通貨ユーロやEUの経済制度には無理がある。無理のあるものを維持しようと無理を重ねると、先に行ってから、もっと深刻な結果を招く。落日進むイギリスはユーロ圏に加わらず、独自通貨を堅持しているが、長期的にはその道のほうが賢明だったということになるのではないかと私は思う。ページの頭へ

 

4.イタリアとスペインの苦しい事情

 ユーロ圏では、強いユーロのおかげで、加盟国は自国の財政規律とは関係なく、最強国のドイツ並みの低金利借金で財政支出してきた。平成14年(2002)にユーロ建て国債が普及すると、以後、各国債利回りは4%前後というほぼ同じ水準で安定していた。だが、平成20年(2008)9月のリーマン・ショックによって、各国の差が一気に開いた。財政状況の良くないギリシャ、ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペイン等の国債利回りは上昇し、逆に信用力のあるフランス、ドイツの国債利回りは低下した。国債利回りの上昇は、財政の先行きに投資家が不安を持ち、政府が高い利息を払わないと借金ができないという状況の表れである。今やギリシャは18%以上、ポルトガルは16%以上になっている。失業率も上昇し、今年2月の時点ではアイルランド14・5%、ポルトガル13・6%となった。

 イタリアは、独仏に次いでユーロ圏第3位の大国だが、昨23年後半には、国債利回りが債務危機の目安になる7%を突破した。失業率も8・9%と高い。経済状況が悪化するなか、昨年11月、経済学者で元EU欧州委員のモンティ首相が率いる暫定内閣が発足した。与野党から1人も政治家が内閣に参加しないという異例の布陣となった。財政再建と成長力回復が課題であり、容易ではない。本年2月に国債の大量償還があり、資金調達が懸念されたが、これは欧州中央銀行(ECB)が買い支えるなどして乗り越えた。今後も道のりは険しい。

 ユーロ圏第4位は、スペインである。スペインの財政状況も厳しく、国債をECBが買い支えてきた。4月19日に大量の国債入札が行われ、目標の上限額25億ユーロを上回る25億4千万ユーロを調達できた。これで2月のイタリア、3月のギリシャに続いて、スペインも国債大量償還が堅調に行った。危惧されていた混乱は、回避された。

 ただし、スペインの国債は10年物の落札利回りが平均5・7%となり、前回入札より0・3%上昇した。これが市場の評価である。昨年11月首相となったラホイは、270億ユーロの予算カットを打ち出し、「ギリシャのようにはならない」と決意を述べた。スペインは、公務員給与の削減や増税等の緊縮策に取り組んでいる。だが、その結果、景気は急速に冷え込んでいる。IMFは今年のスペインの経済成長率の予測をマイナス1・6%からマイナス1・8%へと下方修正した。失業率は急上昇し、本年2月には23・6%になった。先に書いたアイルランド、ポルトガルどころではない。ユーロ圏17カ国中で最悪の水準である。若者の半分が就職できない。これを不満とするデモや暴動が頻発し、社会不安が増大している。

 今後もスペインの資金繰りは綱渡りが続くだろう。スペイン国内の銀行の不良債権が増加しており、国債を購入する余力が低下し調達が困難になる恐れもある。いずれ国債の長期金利が自力での財政再建が困難になる7%を突破するという見方がある。財政健全化を目指す緊縮財政によって、失業者が増えて失業給付が増加、その一方、税収は減少。かえって財政が悪化するという悪循環となるおそれもある。

 スペインが本格的な危機に陥ったら、影響はギリシャの比ではない。他の財政悪化国への波及や欧州の銀行破綻への飛び火を防ぐため、EUやIMFの安全網の拡充が課題となる。EUは3月30日のユーロ圏財務相会合で、7月に発足する欧州安定メカニズム(ESM)等、融資能力を5千億ユーロから8千億ユーロに増加することを決めた。しかし、ギリシャへの支援等を除くと、残りは約5千億ユーロ。これでは、経済規模の大きいスペインへの支援には足りないと見られる。ESMの融資能力をさらにどこまで拡充できるか、それがひとつの大きなポイントとなるだろう。ページの頭へ

 

5.フランスの左傾化


 ギリシャ、イタリア、スペインを見てきたところで、再びフランスに話を戻したい。
 前大統領サルコジは、平成19年(2007)、大統領に就任した際、「もっと働き、もっと稼ごう」のスローガンの下、フランスをアメリカに似た自由主義的な競争社会に改革することを目指した。就任直後に減税法案を成立させ、企業の国際競争力強化等、成長路線を打ち出した。メルケルと連携を図り、独仏はユーロ圏の強力なエンジンとなった。しかし、サルコジは自国の政府債務の累積問題を解決できず、緊縮政策を強く打ち出さざるを得なくなった。私は、ユーロについて、各国が通貨発行権を放棄し、独自の金融政策をできなくなることなど無理があるという意見だが、近年ユーロが維持されてきたのは、サルコジの手腕によるところが少なくないと見ている。だが、リーマン・ショックはフランスにも打撃を与えた。失業率は目標の5%への低下どころか上昇し、平成11年(1999)以来、最悪水準の10%台に悪化した。国民の不満は高まり、サルコジは大統領再選ならずという結果になった。敗戦を機に、サルコジは政界からの引退を表明した。今後、フランスがどういう方向に進むか。その方向がユーロ圏とEUの針路を左右するだろう。
 フランスでは6月10日、17日に国民議会の選挙が行われる。フランスは二院制で、下院に当たるのが国民議会である。上院に当たるのは元老院だが、わが国の衆議院・参議院とは異なり、一つの議会を構成する議院ではなく、両者とも独立した議会である。国民議会に優先権があり、元老院は主に諮問機関として機能している。国民議会は議席数577。現在は、300議席以上を右派の国民運動連合(UMP)が占めている。UMPはサルコジの出身政党である。来る総選挙で、オランドの社会党が多数を獲得すれば、オランドは左派の首相と組んで、社会民主主義的な政策を強力に進めるだろう。もし左派が多数を勝ち得なければ、フランス特有の「コアビタシオン」となることが予想される。
 フランスは現在第5共和制だが、第5共和制では、大統領は首相の任命を含む強大な権限を持つ。だが、内閣は議院内閣制のため、議会が内閣を不信任できるようになっている。そこで、大統領の支持政党が議会内少数派であると、政権運営を安定させるため、多数党(反対派)の党首を首相に指名することが行われる場合がある。これを「コアビタシオン」と呼ぶ。同居とか同棲を意味する言葉だが、わが国では保革共存政権と訳す。コアビタシオンでは、大統領の実権は事実上制限される。大統領がミッテランの時代に2度、シラクの時代に1度あった。
 最近の世論調査では、社会党を含む左派の支持率が31%、UMPが30%と拮抗状態と伝えられる。左派が議会で多数を奪えなければ、オランド大統領は右派の首相を指名し、政権の安定を図るかもしれない。逆に大統領選に敗北したUMPにとっては、今度の総選挙は負けられない一戦である。多数を維持し、政権をコアビタシオンに持ち込み、左派の独走を制したいところだろう。だがUMPの現状は、かなり厳しいようである。サルコジへの批判は、UMPへの逆風になる。昨年9月の上院選では社会党を中心に左派が初の過半数を獲得した。地方でも現在、左派が優勢という。このうえ下院選で敗れれば、左派が国政から地方議会まで掌中にするというかつてない状況となる。
 仮に大統領―首相―国民議会―元老院―地方議会と主な政治機関を左派が押さえると、フランスは大きく左傾化する。ユーロ圏の双頭エンジンの片方で国内が社会民主主義で固まれば、経済・外交・安全保障等、様々な面でこれまでの政策とは異なる政策が打ち出されるだろう。それが独仏関係に影響し、ひいてはユーロ圏とEUの針路に影響するだろう。その点で、来る国民議会選挙は世界が注目する選挙となる。ページの頭へ

 

6.「フランスの価値、フランス人のアイデンティティ」

 サルコジは内相時代に「サルコジ法」と呼ばれる法を制定し、犯罪件数を激減させたことで評価され、大統領へと駆け上がった。自身はユダヤ系の移民2世だが、入国管理の強化、移民の制限を政策として打ち出した。欧州の統合を進める一方で、自国では移民の流入に一定の歯止めをかけようとした。
 今回の大統領選挙で、移民政策は一つの争点となった。サルコジは、移民問題は「フランスの価値、フランス人のアイデンティティを問い直すことだ」と国民に訴えた。欧州では平成5年(1993)発効のマーストリヒト条約によって、域内のヒトの移動が自由化された。その端緒は、昭和60年(1985)に、フランス、ドイツ、ベルギー、ルクセンブルク、オランダの5カ国が締結したシェンゲン協定である。締約国間の国境検問所を廃止するものだった。今回のフランス大統領選挙では、このシェンゲン協定の見直し問題が議論された。
 わが国のメディアは、欧州の統合、単一通貨、多文化主義、移民拡大をよいものとし、それを前提とした報道が多い。だが、欧州にはこれらに慎重ないし反対の意見がある。フランスにおいても同様である。欧州統合主義・ユーロ・多文化主義・移民拡大政策は、フランスが脱フランス化する方向である。フランスというネイション(国家・国民・民族)が欧州の広域組織に解消しかねない道である。フランスには、これに疑問を持ち、ナショナルな価値を保守しようとする人々がいる。サルコジが大統領の再選をかけた選挙で発したように、「フランスの価値、フランス人のアイデンティティ」が問われているのである。
 わが国のメディアの多くは、移民の制限や国境の機能の再評価を説く意見を「排外主義」とか「時代に逆行」などと報道する。その報道は表面的で安易である。移民の制限は排斥ではなく管理の強化であり、国境の機能の再評価は国境の閉鎖ではなく入国の検査である。言語も文化も宗教も異なるイスラム教徒が続々と流入して、社会的・文化的な問題が増大している欧州において、各国の文化・伝統・歴史の価値や国民としてのアイデンティティを問い直すことは、重要な問題なのである。
 サルコジは今回の選挙で、5年前の大統領選挙の第1回投票時より、約170万票を減らした。主な原因は経済政策の効果が上がらず、国民の不満がサルコジにぶつけられたことである。それに加えて、サルコジが極右政党の「国民戦線(FN)」に接近しようとして失敗したことが挙げられている。
 国民戦線は、ジャン=マリー・ル・ペンの名とともに知られる。彼の死後、娘のマリーヌ・ル・ペンが党首となり、今回の大統領選挙で善戦した。第1回投票では、17.90%という過去最高の得票率を記録した。サルコジは、その支持者を自分の支持層に取り込もうとしたのだが、ル・ペンは選挙前から、サルコジもオランドも支持しないという考えを表明していた。決選投票では棄権を示唆した。もしル・ペンがサルコジ支持を打ち出していれば、結果が変わったかもしれない。それほどに存在感を強めているのである。
 サルコジ=UMPは右派と呼ばれ、ル・ペン=FNは極右と呼ばれる。右派の中の穏健派と急進派等と漠然と考えられがちだが、根本的な政策がはっきり異なる。前者はリージョナリズムであり、後者はナショナリズムである。右派におけるリージョナリズムとナショナリズムの違いは、大統領選挙での連携が成立しないほどの違いなのだろう。従来の路線による欧州統合、単一通貨、多文化主義、移民受け入れ政策を続けていて、「フランスの価値、フランス人のアイデンティティ」を守れるかという問いが、ここに立ち上がってくる。だが、リージョナリズムを推進してきたサルコジがその問いを発しても、ナショナリズムを堅持する人々には、矛盾または欺瞞と感じられるだろう。ページの頭へ

 

7.勢いを増す国民戦線

 国民戦線(FN)は「極右政党」と言われ、ユーロからの離脱、フランの復活、保護主義政策を唱えてきた。わが国は広域共同体のない地域に位置し、円を独自の通貨として持ち、一定の保護主義政策を取っているから、これらの政策は日本では違和感がない。FNはまた移民の制限を唱える。ただし、フランスの文化を尊重・受容する移民は拒まないとする。国籍については血統主義を説く。わが国も血統主義である。ここまでであれば、移民の「排斥」と言うには当たらない。注目すべきは、FNがフランス国籍を取得した移民や移民2世・3世でも犯罪を行ったら出身国へ強制送還させるという政策を掲げていることである。移民に厳しいのは、それだけ犯罪が多いからだろう。FNは治安の強化を訴えており、移民にのみ厳しいのではなく、麻薬の密売人、小児性愛等の性犯罪者、母親による児童虐待、殺人者、テロリストを対象として死刑の復活を説いている。政策のうち排外的な性格を持っているのは、フランス国内でのイスラム寺院モスクの建設の停止である。この点は信教の自由との関係が出てくる。政教の厳格分離を原則とするフランスでは、大きな論点となる。だが、この政策を除けば、FNの主張は排外主義とまでは言えないだろう。
 FNは、比例代表制が導入された昭和61年(1986)の国政選挙で、初参加でありながら35議席を獲得した。ミッテラン政権は極右台頭に危機感を強め、大政党に有利な小選挙区制に再度変更した。平成14年(2002)の大統領選挙では、ル・ペン父はシラクの得票率19.7%に次ぐ16.86%を獲得し、決選投票まで残った。それだけFNには支持者・賛同者がいるのだが、選挙制度が不利のため、現在は国会に議席を持っていない。
 ル・ペン娘は、今回の大統領選で父の記録を上回る17.90%の得票率を獲得した。その支持層を背景に、マリーヌは今年(24年)6月の国民議会選挙で国政再進出を狙っている。大統領選挙の決選投票ではサルコジが負けた方が、FNには得策と考えたようだ。サルコジの敗北で国民運動連合(UMP)が動揺し、FNの考えに近い議員がUMPから離脱すれば、これと連携し、国政再進出の弾みとできるという狙いがあると見られる。
 UMPは、FNへの対応で意見が対立している。サルコジは大統領選で極右の支持層を取り込むため、FNの政策に理解を示す発言をしたが、取り込みに失敗した。UMP所属だったシラク前大統領は「国民戦線はフランスの伝統と一致しない」と述べて、FNとは一線を引いてきた。だが、何がフランスの「伝統」かと考えると、EUやユーロは近年のものであり、フランス革命までさかのぼれば、フランスのネイションを維持・発展させようとする思想こそが「伝統」だろう。欧州統合・単一通貨・多文化主義・移民拡大がフランスの「伝統」であるわけがない。欧州統合は、1920年代にクーデンホーフ=カレルギーが提唱して運動を起こしたもので、第2次世界大戦後にEUの生みの親となったのはシューマン・プランで、EUの父はモネというのが定説である。また統合の実現には、ビルダーバーグ・クラブが中心的な役割を果たした。詳しくは、拙稿「友愛を捨てて、日本に返れ〜鳩山政治哲学の矛盾・偽善・破綻」第1章(3)「カレルギーに依拠する『友愛』」をご参照願いたい。

 シラクの「国民戦線はフランスの伝統と一致しない」という発言に反して、UMPの支持者にはFNに共感を持つ人たちがいる。ある世論調査では、UMP支持者の6割以上がFNとの連携に賛成すると答えたという。サルコジ退陣後のUMPは、FNへの対応で大きく揺れていると伝えられる。6月の選挙でFNに票を集まった場合、UMPが議席を食われる可能性がある。オランドの社会党が伸びる一方、FNが進出し、UMPが後退することになるかも知れない。ページの頭へ

 

8.トッドと国民戦線の違い

 

フランスの人類学・人口学・歴史学の巨人エマヌエル・トッドは、ヨーロッパ各国の社会構造・精神構造の違い、言語の問題、国家・国民の自律性、人口動態の違い、移民に対する態度の違いーーこれら五つの理由を挙げて、ヨーロッパの統合に懐疑的な意見を表明している。ヨーロッパの通貨統合には構想段階から反対し、平成11年(1999)のユーロの導入後も反対を続けている。平成12年(2002)には、「私は、単一通貨ユーロの創設にも拘わらず、確固たるEU反対の立場を取り続けるものである」と宣言した。その後も一貫している。トッドもサルコジと同じくユダヤ系フランス人である。

ユーロに反対し、欧州統合に反対する点では、トッドは国民戦線(FN)と主張が共通する。だが、トッドは基本的な立場が左派であり、マルクス主義を擁護する。この点では、FNと対極的である。そして、トッドはFNに批判的であり、同党が勢力を伸ばしていることを警戒している。これは左派のナショナリズムと右派のナショナリズムの違いと見ることができる。ナショナリズムには、右派と左派がある。左派にも、ナショナリズムとリージョナリズムやインターナショナリズムがある。

トッドは、移民政策において、普遍主義をよしとし、差異主義に反対する。普遍主義と差異主義とは、家族型の価値のうち、遺産相続における兄弟間の平等・不平等という対にしぼって抽出した概念である。普遍主義は兄弟間の平等に基づき、世界中の人間はみな本質的に同じと考える。差異主義は兄弟間の不平等に基づき、人間は互いに本質的に異なると考える。フランスはパリ盆地を中心に平等主義的核家族が主であり、普遍主義的な価値観が強い。イギリスは絶対核家族、ドイツは直系家族が主であり、ともに差異主義的な価値観が強い。トッドは、英独の差異主義的な価値観を批判し、普遍主義的な価値観を広めようとしている。その根底にあるのは、権威より自由、不平等より平等という自由と平等の価値を広めようとする思想だろう。フランス革命を理想化し、フランスという国家に期待するナショナリズムが、トッドにはある。
 トッドは「国民共和主義者」と呼ばれる。フランス革命が産み出した共和国の理念を擁護する共和主義者であり、同時にフランスというネイション(国家・国民・民族)を愛する愛国主義者である。だたし、トッドの国民国家必要論は、普遍主義を普及するためにフランスという国家が必要ということであって、各民族の固有の文化の保持が目的ではない。それゆえ、私は、トッドはフランスのナショナリストである以上に共和主義者であり、普遍主義者であると見ている。

こうしたトッドにとって、FNはフランスにおいて差異主義を説く政党として警戒の対象である。フランスには南部のオック語地方のように直系家族の地域もあり、FNのような思想は直系家族の価値観の表れとトッドは見ている。トッドは直系家族の価値観を批判し、これを差異主義とし普遍主義的な価値観を広めようとしているので、ユーロに反対し、欧州統合に反対する点ではFNと主張が共通しながら、より基本的な価値観において違いがあるのである。この違いは、左派と右派という違いより、大きい。そして、トッドとフランス以外の諸国における極右政党の多くとの立場の違いともなっている。(ページの頭へ)

 

9.欧州でのナショナリズムの復興

 大国フランスで本年(24年)4月に行われた大統領選挙で、FN党首マリーヌ・ル・ペンが約18%の得票率を得たことは、欧州におけるナショナリズムの復興を物語るものである。
 フランス大統領選挙の期間、折しもオランダでは4月21日、閣外協力する極右政党が緊縮財政案に反対し、連立政権が事実上崩壊した。オランダは、移民問題において、フランスよりはるかに深刻な状態である。フランスにおける移民の人口比は7〜9%だが、オランダは20%に近い。オランダはEUの中で、EU加盟国以外の外国人にも、地方参政権を与えている唯一の国である。増大するイスラム系移民に地方参政権を与えたのだが、それによって大失敗し、国内に混乱が広がっている。
 北欧諸国は、旧ソ連から自国を防衛する手段として、外国人を受け入れ、永住外国人に参政権を認めてきた。ソ連解体後もその伝統が続いているが、現在では失業率や治安の面の悪化が懸念され、移民反対派の勢力が台頭している。
 平成23年(2011)7月、ノルウェーで爆弾テロと銃乱射事件が起こり、94名が殺害された。犯人の青年は「多文化主義をやめないと、西欧におけるイスラムの植民地化を止めることはできない」として、欧州からイスラム教徒を追放する「クーデター」などを主張していた。ノルウェーは、2世も含めると移民が総人口の1割を超える。事件の前月に行なわれた世論調査では、「移民に対して国境を閉ざすべきだ」と回答した人が54%。移民のノルウェー語試験を求める人も8割に上っていた。
 スウェーデンでは自由と平等の名の下に中東からの移民を受け入れてきたが、その結果治安が悪化している。移民は簡単に永住権を獲得でき、故郷から武器を持ち込む。犯罪が激増し、加害者の99%が移民で被害者の99%がスウェーデン人という状態である。警察の人数より暴力的な移民のほうが多いので、警察が太刀打ちできない。
 デンマークでは、イスラム系移民規制を訴えるデンマーク国民党が政権に閣外協力し、同党の戦術を取り入れた右派政党がスウェーデンやフィンランドで伸長し、北欧諸国でも多文化主義政策に反対または慎重という意見は増える傾向にある。なお通貨に関しては、フィンランドはユーロだが、ノルウェー、スウェーデン、デンマークは独自通貨を使用している。
 他にも、ドイツ、オーストリア等でも、極右の政党の存在が目立つようになっている。かつてしばしばわが国のメディアが報道したネオ・ナチとは異なる民主的で大衆性を持った政党が勢力を伸長している。EU加盟27カ国のうち、極右といわれる政党が議会に議席を持つ国は14カ国。半数以上を数える。それらの政党は、共通して移民に寛容な多文化主義が欧州の伝統や文化遺産、国家のアイデンティティを破壊していると主張し、欧州統合やグローバリゼーションへの疑問や反対を呈する。移民問題と経済危機を背景に、こうした少数政党がキャスチングボートを握り、国内政治を左右する国が増えてきている。また既に欧州議会にも一定の議席を持っており、欧州全体にも影響を与える事例が出ている。
 イギリスの独立系シンクタンク「デモス」は23年(2011)、英・伊・独等、欧州11カ国の極右政党や極右活動を支持する1万人超を対象にアンケートを実施した。調査結果によると、スウェーデンで平成22年(2010)に初めて国政進出を果たした極右政党・民主党の支持層は、16〜20歳が63%を占めたという。スウェーデンに限らない。欧州各国で、極右政党は若い層の支持を集めている。移民との摩擦、就職難、失業等に苦しむ若い層が、自国や欧州のあり方を根本から疑い、針路を求めているのだろう。
 ところで、本稿では、わが国のメディアの報道の多くにならって、「極右」という言葉を用いた。「新右翼」「右翼ポピュリズム」とも言われる。「極右」は、右派に対する極右派である。英語ではextreme rightという。わが国では right を右翼と訳すと、街宣右翼のイメージと重なるので、しばしば右派と訳される。leftも暴力革命主義が後退した現在、左派と訳されることが多い。
 基本的な政治経済思想は、フランスや欧州諸国の右派は自由主義・資本主義、左派は社会主義・共産主義である。事情が複雑なのは、右派も左派も勢力の主な部分は、欧州の統合という方針を共有していることである。極右がこれらと違うのは、欧州統合主義・多文化主義・移民拡大政策に反対するところである。欧州の極右は、自由主義・資本主義を否定していない。極右と言っても、デモクラシー下の議会政党であり、一部を除けば武闘的な過激派やファシストではない。それゆえ、私は欧州で「極右」と呼ばれているものの主流は、ナショナリズムだと思う。ナショナリズムは、国家・国民・民族と訳されるネイションを形成・維持・発展させようという思想である。ネイションの文化や伝統や社会を保守するという意味では、保守である。欧州統合主義・多文化主義・移民拡大政策は、この点では保守ではない。欧州の極右が表すナショナリズムは、欧州統合主義が席巻する以前のナショナリズム、すなわち18世紀から20世紀前半のナショナリズムの復興だろう。極右といっても、概ね自由主義的なナショナリズムである。欧州のリージョナリズムとともにアメリカ主導のグローバリズムに対抗する運動でもある。欧州統合主義・多文化主義・移民拡大政策の行き過ぎを正すという範囲であれば、排外主義とか人種差別主義という見方は当たらない。私はこのように観察している。
 なお、ネイションより下位の集団に、エスニック・グループがある。ネイションが政治的単位と文化的単位がほぼ一致した集団であるのに対し、エスニック・グループは文化的単位の集団であり、いわゆる少数民族や地域言語集団等をいう。エスニック・グループが政治権力の獲得や政治的権利の拡大をめざす運動は、広い意味ではナショナリズムに含まれるが、私はナショナリズムと区別する際にはエスニシズムと呼ぶ。欧州にはバスク、カタルーニャ、スコットランド、ウェールズ、ブルターニュ、シチリア等のエスニシズムがある。1970年代に欧州統合の動きに抗して勃発した動きである。本稿では、ネイションの単位に水準を合わせているので立ち入らないが、欧州の極右の一部にはエスニシズムがあることのみ言及しておきたい。ページの頭へ


10.わが国は欧州模倣で針路を誤るな

 

わが国は直系家族を主とする社会であり、フランスや英米のような核家族的な価値観とは異なる価値観を持つ。欧州にも直系家族の地域が広く存在し、ドイツ、オーストリア、ドイツ語圏スイス、ベルギー、スウェーデン・ノルウェーの大部分等がそうである。核家族的な価値観は個人主義だが、直系家族的な価値観は集団主義である。それによって国家と国民の関係の考え方が異なり、移民に対する対応も異なってくる。私は、フランスや欧州諸国における極右のナショナリズムは、こうした集団主義的な価値観の表れと見ることができると思う。

 欧州統合主義・多文化主義・移民拡大政策を進める思想は、単一通貨・単一市場を勧める思想と結合し、脱国家・脱国民・脱民族を志向する。欧州の経済的な繁栄が続いていた間は、そうした思想が大きな勢力を持っていた。これは資本の論理、市場の論理ともいえる。だが、経済的に行きづまり、社会的な矛盾が増大すると、国家・国民・民族の論理がこれへの抵抗力を増す。欧州における極右政党の伸長は、欧州のリージョナリズム、アメリカ主導のグローバリズムに対抗するナショナリズムの復興と見ることができると思う。ナショナリズムは、各国家・各国民・各民族における個別的な運動である。この点で、リージョナリズム・グローバリズムのような国際的な連携・統一を図る動きと異なり、広域的に大規模化することは難しい。だが、欧州の債務危機が深刻化する今日、この新たなナショナリズムが、欧州でどのように発展するか興味深いところである。

 わが国には、1970年代から欧州での統合の動きを先進的とみなし、東アジアでも統合を進めるべきという意見がある。1999年のユーロ導入後は、東アジアでも共通通貨を創設するのがよいという意見がある。私は、一貫してこうした意見に反対してきた。歴史・文化・宗教を共有し、各国の経済的発展段階も近い欧州でさえ、広域共同体や単一通貨には困難な課題がある。全く条件の違う東アジアでは、よほど慎重に考えるべき事柄である。だが、一部には鳩山由紀夫元首相のように東アジア共同体やアジア共通通貨を説く政治家や学者がいる。そういう人たちは、欧州の複雑な事情を見ずに、観念的な模倣に走っていると私は思う。東アジアに位置するわが国は中長期的な方向性を誤らないようにしなければならない。ページの頭へ

 

関連掲示

・拙稿「ユーロとEUの危機

・拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題

・拙稿「友愛を捨てて、日本に返れ〜鳩山政治哲学の矛盾・偽善・破綻

・拙稿「西洋発の文明と人類の歴史

 

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