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■オバマVSロムニー

   〜2012年米国大統領選挙の行方

2012.7.4

 

<目次>

はじめに
第1章 共和党・民主党とアメリカの政治構造

(1)共和党・民主党の基本的な違い
(2)米国における保守とリベラル
(3)共和党を変えたネオコン
(4)両党を動かすイスラエル・ロビー
(5)背後にいる巨大国際金融資本
(6)二大政党の政策の違い
第2章 オバマとロムニーの政治信条・政策の違い

(1)現職大統領対挑戦者の戦い
(2)経済政策の違い
(3)社会政策の違い
(4)外交・安全保障の基本姿勢
(5)対中東政策は?
(6)アジア太平洋政策は?
(7)対中国・対北朝鮮政策は?
(8)対日本政策は?
(9)外交・安全保障のブレーンとスタッフ 

結びに〜選挙戦を左右する無党派層と欧州債務危機

 

補説 結果はオバマの再選に

 

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はじめに

 平成24年(2012)11月6日に行われるアメリカの大統領選挙は、ミット・ロムニーが共和党の大統領候補に事実上決まったことにより、現職の民主党バラク・オバマと共和党ミット・ロムニーの戦いとなる。これからの数か月間、世界はこの二人の戦いに注目を寄せるだろう。アメリカの大統領職は、現在の地球上でもっとも大きな権限と影響力を持つ役職だからである。
 前半では共和党・民主党という二大政党とアメリカの政治構造について書き、後半ではそれを踏まえてオバマとロムニーの政治信条・政策等を検討し、今後の選挙戦の行方について述べる。

 

第1章 共和党・民主党とアメリカの政治構造

 

(1)共和党と民主党の基本的な違い

 アメリカはイギリスから独立し、東部の13州が連邦を組む形で建国された。建国の初期には、中央集権の強化、大規模な正規軍の設置、商工業立国、保護関税、親英外交、デモクラシーへの警戒を主張する連邦主義者(フェデラリスト)と、中央集権に反対、民兵組織をもとにした国防、農業立国、自由貿易、親仏外交、デモクラシーの称揚を主張する民主共和主義者(レパブリカン)が対立した。前者を代表するのが初代財務長官アレグザンダー・ハミルトンであり、後者を代表するのが第3代大統領トーマス・ジェファーソンである。連邦主義者が共和党の前身となり、後者の民主共和主義者が民主党の前身となった。
 ジェファーソンの思想を継承した第7代大統領アンドリュー・ジャクソンが自営農民や労働者の立場に立ち、参政権の拡大、東部の独占体質への対抗等、ジャクソニアン・デモクラシーと呼ばれる政策を進めると、その専横に反対するホイッグ党が結成された。英国の反王権派ホイッグ党になぞらえた名称である。
 共和党は、連邦主義者やホイッグ党が合流し、黒人奴隷制反対を掲げて1854年に結成された。現在と違って当時は北東部・中西部を支持基盤とする政党で、1860年にリンカーンが初の同党出身の大統領になった。当初は進歩的な傾向を持っていたが、その後、キリスト教右派を取り込むなど保守的な傾向を強め、民主党との政治的立場が入れ替わった。
 民主党は、ジェファーソン=ジャクソンの流れを汲み、1830年から「民主党」を名称にしている。当初、北部では大都市のカトリックやユダヤ系移民に支持され、南部では奴隷制廃止に反対する白人層が支持層であった。しかし、1929年の大恐慌後、フランクリン・ルーズベルトのもとで、所得再分配・中小企業重視・弱者救済を重視する政策を行い、北部や労働者に支持層を広げた。逆に、共和党は1960年代以降、南部へ進出して、さらに保守的な性格を強めた。その結果、現在は共和党がレッド・ステイツと呼ばれる南部を中心に勢力を持ち、民主党はブルー・ステイツと呼ばれる北部を中心に勢力を持つことになっている。
 政治的立場は、大まかに言って共和党は保守、民主党はリベラルと分類される。共和党は富裕層に支持者が多く、主に大企業・軍需産業・キリスト教右派・中南部の保守的な白人層などを支持層とする。民主党は労働者や貧困層に支持者が多く、主に東海岸・西海岸および五大湖周辺の大都市の市民、ヒスパニック、アフリカ系・アジア系など人種的マイノリティに支持者が多い。ユダヤ系も民主党支持者が多い。その関係もあって、マスメディア関係者、ハリウッド映画関係者等には民主党支持者が多く、アメリカのメディアの大半が民主党寄りという特徴がある。
 民主党は労働者や貧困層に支持者が多いと書いたが、民主党にはニューヨークの金融資本家から多額の資金を得ているという別の一面がある。これは、ユダヤ系米国人には民主党の支持者が多いことと関係がある。またロックフェラー家が民主党最大のスポンサーとなっている。ここには二大政党というだけでは見えないアメリカの政治構造がある。
 なお、アメリカの民族構成をいうとき、WASPという言葉がしばしば使われる。ホワイト(W)、アングロ・サクソン(AS)、プロテスタント(P)の略で、イギリス系の白人プロテスタントをいう。WASPはもともとのアメリカの支配集団で、今日も上流階級をなし、共和党支持者が多い。非WASPには、白人だが労働者集団のカトリックでホワイト・エスニックと呼ばれる集団やユダヤ系が含まれる。彼らは民主党支持者が多い。WASPが支配していたアメリカでは、20世紀に入ると、欧州のロスチャイルド家を後ろ盾に持つユダヤ系が経済的な実力を発揮し、ニューディール政策を行ったFDR政権の時代以降は、WASPとほぼ拮抗している。共和党・民主党の勢力図には、こうした要素もある。

 

(2)米国における保守とリベラル

 アメリカでは、大まかに言って共和党は保守、民主党はリベラルと分類されると書いた。この点をより詳しく述べたい。
 アメリカの価値の中心は自由(liberty, freedom)である。自由を理念とする思想を、リベラリズム(liberalism)という。自由主義と訳す。自由主義とは、もともと国家権力の介入を排し、個人の自由と権利を守り、拡大していこうという態度のことである。自由主義は、近代イギリスで発達した思潮である。これは言葉の本来の意味での自由主義であり、国権の抑制と自由競争に特徴がある。これを古典的自由主義(classical liberalism)と私は呼ぶ。
 それに対し、今日アメリカで使われる「リベラル」は、古典的自由主義とは異なる。19世紀半ばのイギリスに現れた「進歩」に元があり、それまでの自由主義を修正したものである。社会改良と弱者救済に特徴があり、修正的自由主義(revised liberalism)と私は呼ぶ。
 前者の古典的自由主義は、英米では、保守主義(conservatism)の態度でもある。なぜなら、これらの国々では、国権の抑制と自由競争が歴史的に制度化され、伝統となっているからである。自助努力と自己責任の原則を強調し、機会均等を達成した上で、効率的な市場経済を担保しようとするのが、この古典的自由主義である。その伝統を保守することが、保守の基本態度となっている。
 古典的自由主義に比し、修正的自由主義は、社会的弱者に対し同情的であろうとし、弱者救済を目的として自由競争を制限する。名前は同じリベラリズムだが、国権抑制・自由競争型と社会改良・弱者救済型で、政策に大きな違いがある。
 以上を整理すると、アメリカの2大政党は、共和党は古典的自由主義である保守、民主党は修正的自由主義であるリベラルに分類できる。
 2大政党のどちらも自由主義の政党なのだが、本来古典的自由主義が「リベラリズム」だったものが、修正派に「リベラル」の看板をとられてしまった格好になっている。そこで、看板を取られた古典的自由主義者の中には、「リバータリアニズム(libertarianism)」を自称する人もある。「徹底的自由主義」とでも訳せるだろう。英米では、これが最も伝統的な「保守」と言える。リバータリアンは、共和党の一部にいるほか、独立した少数政党やグループとなっている。保守とは言っても、わが国の文化・伝統・国柄を守ろうとする伝統尊重的な保守とは全く違う思想である。ちなみに、戦後のわが国の伝統尊重的保守は、修正的自由主義に近い。これに対し、自由主義的資本主義を守ろうとする経済優先的保守は、古典的自由主義を摂取し、日本をアメリカ型の社会に変える作用をする。文明学的に言うと、前者は近代化の中で国粋を保持しようとし、後者は近代化イコール合理化としてこれを推し進める傾向がある。
 もともとアメリカの国民の多数は、郷土での自立した生活を重んじ、他国には不干渉をよしとする。それゆえ、アメリカの伝統的な保守は、自分の郷土を中心にものを考え、アメリカ一国で自立することを志向する。外交においては、現実主義的な手法を重視し、国益のためには独裁国家とも同盟を結ぶ。この伝統的な保守の考え方を持った政党が、もともとの共和党である。これに比べ、異なる傾向の考え方が強いのが、民主党である。民主党には、アメリカ一国で自立するのではなく、積極的に海外の問題に関与しようとする世界志向の傾向が見られる。
 換言すれば、共和党にはアイソレーショニズム(isolationism)、民主党にはグローバリズム(globalism)の傾向がある。アイソレーショナリズムは、アメリカは他国・他地域のことに干渉しないという不干渉主義であり、グローバリズムは、アメリカは世界政策を行い、世界統一の中心となるべきだという地球覇権主義である。だが、共和党の思想傾向には、近年明らかな変化が見られる。アイソレーショニズムではなくグローバリズムを志向する勢力が目立つようになっているのである。それが、新保守主義(neo-conservatism)である。
 オバマとロムニーを比較すると、オバマはかなり積極的な修正的自由主義で柔軟なグローバリズム、ロムニーは古典的自由主義でややネオコン的なグローバリズムが立ち位置と見える。

関連掲示
・日本と欧米の保守・リベラルについては、下記をご参照下さい。
 拙稿「日本的な保守の役割と課題〜右翼・左翼・リベラル等との対比を踏まえて

(3)共和党を変えたネオコン

 共和党には近年明らかな変化が見られ、グローバリズムを志向する勢力が目立つようになっている。この変化のきっかけは、民主党から共和党に移籍したグループによる。新保守主義者(ネオ・コンサーバティスト)、略称ネオコンという。
 ネオコンの源流は、1930年代に反スターリン主義の左翼として活動したトロツキストである。彼らは「ニューヨーク知識人」と呼ばれるユダヤ人の集団だった。そのうちの一部が、第二次世界大戦後、民主党に入党し、最左派グループとなった。
 彼らは、民主党カーター大統領の人権外交に不満を持った。そして、共和党のレーガン大統領がソ連に対抗して軍拡を進め、共産主義を力で克服しようとしたことに共感し、1980年代に共和党に移った。反スターリン主義が反共産主義へと徹底されたわけである。彼らは、もともと共和党を支持していた伝統的な保守とは違うので、ネオコンという。
 ネオコンは、自由とデモクラシーを人類普遍の価値であるとし、その啓蒙と拡大に努める。近代西洋的な価値観を、西洋文明以外の文明に、力で押し付けるところに、闘争性がある。その点では、戦闘的な自由民主主義と言えるが、そこにユダヤ=キリスト教の世界観が結びつき、イスラエルを擁護するところに、顕著な特徴がある。
 ネオコンは、ブッシュ子政権において、政権の中枢に多く参入した。そして、グローバリズムの思想に基づいて、力による覇権を目指す世界戦略を展開した。ネオコンには、ユダヤ系の知識人が多く、アメリカ=イスラエル連合というべき関係を強固なものとした。
 共和党のブッシュ子から民主党のオバマに大統領が変わった後、ネオコンの勢力は大きく後退したように見える。来る大統領選挙の共和党候補者ロムニーは、中道派・穏健派と呼ばれるが、外交・安全保障のブレーンやスタッフにはネオコンの戦略家や実務家がいる。そして、重要なのは、グループとしてのネオコンより、その背後にある勢力である。すなわち、イスラエル・ロビーと呼ばれる勢力であり、また彼らを支える巨大国際金融資本である。

(4)両党を動かすイスラエル・ロビー

 今日、アメリカでは、イスラエル・ロビーが最大のロビー団体となり、アメリカの外交政策に強い影響を与えている。アメリカ合衆国は、世界最大のユダヤ系人口を持つ国家であり、ユダヤ系米国人の多くが、親イスラエルの思想・感情を持つ。またユダヤ系米国人には、政治・経済・科学・文化・芸術・教育等で活躍している知識人や有力者が多い。ユダヤ系米国人やイスラエルを宗教的な信仰によって擁護するキリスト教右派等を中心に、イスラエルを支持・擁護し、米国の政治・外交をイスラエルに有利なものにしようと政治家や議会に働きかける団体が、イスラエル・ロビーである。
 イスラエル・ロビーは政府・議会・政治家に積極的に働きかけ、アメリカの政策をイスラエルに有利なものに誘導している。彼らの活動の目的は、アメリカの政治・外交をイスラエルに有利なものに導くことである。そして、イスラエル・ロビーはアメリカ=イスラエル連合を絶ち難いまでに確固としたものすることに成功している。
 こうした状態を危惧するアメリカ国民の中から、合衆国政府はアメリカの国益よりもイスラエルの国益を優先しているという批判が上がっている。高名な国際政治学者ジョン・ミアシャイマーとステファン・ウォルトによる『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』(講談社、2007年)は、言論界に一石を投じた。著者たちは、イスラエル・ロビーの強い影響力により、アメリカの政策論議は合衆国の長期的安全保障を損なう方向に向かっていると主張する。イスラエル・ロビーの団体は、極右政党リクードに近い団体・個人で構成されていると指摘。他の団体・個人との境界線は曖昧で、多くの学者、シンクタンク、政治活動委員会、ネオコン・グループ、キリスト教団体等がロビー活動を支援しているという。
 具体的には、アメリカ政府は政権が共和党・民主党の違いに関わらず、イスラエルに大規模な無償の軍事援助を行っている。2007年から10年間、毎年30億ドル、合計300億ドルの援助を行う予定である。また、国連安全保障理事会でイスラエルに不利な提案が出されると、アメリカは必ず拒否権を発動している。イスラエル・パレスチナ問題においては、イスラエル側に立って関与しており、アラブ諸国の批判を受けている。
 イスラエル・ロビーは、ロックフェラー家やロスチャイルド家、ユダヤ系金融資本家等を資金源とし、潤沢な資金を持つ。また、そこにはユダヤ人の優秀な頭脳が集まっている。彼らによってイスラエルを批判しているとみなされた者は、選挙で落とされる。そのため、いまやアメリカのほとんどの政治家は、共和党・民主党にかかわらず、イスラエル・ロビーの主張に同調したり、イスラエルの外交政策を支持したりするようになっている。
 2008年(平成20年)の大統領選挙において、有力候補者たちは、早々にイスラエル支持を表明した。共和党のジョン・マケイン、ルドルフ・ジュリアーニ、ミット・ロムニーら、民主党のバラク・オバマ、ヒラリー・クリントン、ジョン・エドワーズら、みなそうだった。選挙は彼らのうちマケインとオバマの戦いになり、オバマが勝った。今度の2012年の選挙はオバマとロムニーの戦いになる。だが、二人のうちどちらが勝っても、イスラエル支持という点では変わらない。

(5)背後にいる巨大国際金融資本

 アメリカは、実質的な二大政党制である。国民は二つの大政党が立てる候補のどちらかを選ぶ。片方が駄目だと思えば、もう片方を選ぶ。そういう二者択一の自由はある。しかし、アメリカでは、大統領が共和党か民主党かということは、決定的な違いとなっていない。表向きの「顔」である大統領が赤であれ青であれ、支配的な力を持つ集団は外交・国防・財務等を自分たちの意思に沿うように動かすことができる。アメリカの二大政党の後には、巨大国際金融資本が存在する。共和党・民主党という政党はあるが、実態は政党の違いを越えた「財閥党」が後ろから政権を維持・管理していると考えられる。
 アメリカの連邦政府は、大統領を中心とした行政組織というより、財界を基盤とした行政組織と見たほうがよい。国民が選んだ大統領が自由に組閣するというより、むしろ財界人やその代理人が政府の要所を占める。政治の実権を握っているのは財閥であって、大統領は表向きの「顔」のような存在となっている。国民が選んだ「顔」を掲げてあれば、政府は機能する。だから、誰が大統領になっても、支配的な集団は自分たちの利益のために、国家の外交や内政を動かすことができる。このようになっているのが、アメリカの政治構造である。
 大統領には、もちろん独自の意思があり、政策や判断がある。単なるロボットや操り人形ではない。だから、大統領と財界人グループとのぶつかり合いはある。しかし、大統領には大きな枠がはめられている。権限のうち最も強い権限は人事権だが、人事権を実質的に限られていれば、大統領の出来ることは、かなり制約される。なぜ人事権を握られているかというと、アメリカの大統領選挙には、莫大な費用がかかる。資金を提供してくれるスポンサーに対して、大統領はその意思を受け容れ、応えざるを得ない。

 覇権国家アメリカの政策は、巨大国際金融資本家や石油や軍事等の多国籍企業の経営者たちによって、ほとんど決められている。これらの所有者・経営者の集団が、支配的な集団をなしている。彼らは、アメリカの大統領を選ぶだけではなく、大統領顧問団や政策までも決定する力を持っている。そして、誰が大統領かに関係なく、大統領を管理し、アメリカという国家を実質的に支配し続けている。彼らは、しばしば直接政府の要職に就いて、政府を動かしてもいる。彼らの多くは、自らが外交問題評議会(CFR)、ビルダーバーグ・クラブ(BC)、三極委員会(TC)という世界の政治・経済に需要な影響を及ぼす組織の会員であり、また彼らの意思を理解する優秀な人材をこれらの組織に参加させ、政府に送り出している。
 外交問題評議会(CFR)は、外交問題・世界情勢を分析・研究する非営利の会員制組織である。アメリカの政治、特に外交政策の決定に対し、著しい影響力を振るっている全米最大のシンクタンクである。共和党・民主党に関わらず、歴代大統領の多くがその会員であり、政府高官も多く輩出している。
 ビルダーバーグ・クラブ(BC)は、西欧の王族・貴族、欧米各国の現職閣僚や有力政治家、NATO等の軍事関係者、中央銀行総裁、投資銀行家、国際的大企業の経営者、マスメディアの代表者等が参加する欧米白人種中心の世界支配体制を維持するための最高戦略会議と見ることが出来る組織である。
 三極委員会(TC)は、日本・北米・ヨーロッパなどからの参加者が会談する私的組織であり、民間における非営利の政策協議グループである。目的は、先進国共通の国内・国際問題等について共同研究及び討議を行い、政府及び民間の指導者に政策提言を行うことである。
 ちなみにオバマは、2008年大統領選において、自分はCFRの会員ではないと公言したが、CFRの機関誌「フォーリン・アフェアーズ」に論文を寄せており、CFRと無関係ではありえない。2008年選挙でオバマに敗れたマケインはCFRの会員である。今度、オバマに挑戦するロムニーも、CFRの会員である。過去に大統領選挙の有力候補として名前が上がった政治家のほとんどは、CFRの会員かCFRに近い位置にいる。また、ビルダーバーグ・クラブの参加者である者も多い。
 オバマ政権の国務長官ヒラリー・クリントンは、ビルダーバーグ・クラブの会議参加者で、CFR、TCの会員。財務長官ティモシー・ガイトナーは、ビルダーバーグ・クラブの会議参加者で、CFRの会員。経済回復諮問委員会委員長だったポール・ヴォルカーはCFRとTCの会員、前国防長官ロバート・ゲイツはCFRの会員である。

 オバマは「Change(変革)」をスローガンに掲げて、大統領の座に就いた。だが、オバマのいう「Change(変革)」は政策のレベルのものであって、アメリカという国家の真の変革を進めるものではないことは、就任後、数か月の間に明らかになった。だが、誰であれ今後、アメリカの大統領が米国を真に変革しようとするならば、その挑戦はアメリカの政治構造の変革へと進まざるを得ない。そして、もし本気で挑戦しようとすれば、戦後アメリカの権力構造に深く関わるケネディ大統領暗殺事件に始まる多くの事件の真相を究明することなくして、変革を成し遂げることはできないだろう。特に9・11の解明が必要である。9・11とは、平成13年(2001)9月11日、ブッシュ子政権の時に起こったアメリカ同時多発テロ事件の通称である。私は、アメリカ政府はこの事件に何らかの形で関与したという疑いを持っている。9・11の真相究明は、アメリカの変革のために、極めて重要な課題である。オバマは、こうした根本的な問題の解明は、何もやっていない。今後も期待できない。
 仮にロムニーがオバマに勝って、次の大統領になった場合、ロムニーがアメリカの根本的な問題の解明に向かう可能性はない。特に9・11については、全くない。というのは、ロムニーの外交・安全保障政策を立案するブレーンやスタッフには、ブッシュ子政権の枢要なポストに就いていた者たちがいるからである。彼らは、ネオコンの理論家や活動家であり、9・11の真相を隠蔽する側の人間である。それゆえ、ロムニーには、問題解明を全く期待できない。

関連掲示
・拙稿「現代世界の支配構造とアメリカの衰退

第2章 アメリカを動かす外交問題評議会

第3章 ビルダーバーグ・クラブ

第5章 ロックフェラーのグローバリズム

第7章 9・11とアメリカの挫折

 

(6)二大政党の政策の違い

 共和党・民主党の比較に話を戻す。アメリカの価値の中心は、自由である。その自由を中心として、共和党は古典的自由主義である保守、民主党は修正的自由主義であるリベラルに分類できる。
 アメリカの政治思想には、自由を中心として、特徴的な対立項がある。すなわち、自由競争/社会的公正、小さな政府/大きな政府、自立自助/公的扶助、一国志向(アイソレーショニズム)/世界志向(グローバリズム)、西洋中心主義/多文化主義等が挙げられる。これらの対立項のうち、共和党は自由競争、小さな政府、一国志向の傾向があり、民主党には社会的公正、大きな政府、世界志向の傾向がある。こうした思想傾向の違いが、2大政党それぞれの政策の傾向となって表れている。
 経済政策の基本的な考え方では、共和党は自由競争を説き、政府の介入を排除しようとするのに対し、民主党は自由競争の弊害に対応するため、政府の関与が必要とする傾向がある。「小さな政府」と「大きな政府」と対比される。共和党は大企業の利益実現に積極的で、民主党は中小企業・消費者・社会的少数者の保護に積極的である。また、共和党は自由競争の原理に立って自由貿易主義を主張し、民主党は国内産業の保護のため保護貿易主義を取る傾向がある。だが、民主党は、ロックフェラー家やユダヤ系金融資本の支持を受け、彼らのグローバルな利益に応えてもいる。
 歴史的に見ると、実際の政策決定においては、共和党・民主党に関わらず、その時の大統領・議会・経済状況・国際情勢等によって、現実的な選択がなされている。むしろ、財政政策・金融政策とも、共和党と民主党で考え方や政策に根本的な差異はないと見たほうがよいだろう。これは、アメリカには、連邦政府の他に、連邦準備制度理事会(FRB)という中央銀行に当たる組織があり、ここで巨大国際金融資本の意思によって重要な方針が決められ、連邦政府はその方針に応えて行政を行っているという権力構造があるからである。
 アメリカでは通貨発行権は政府にはない。FRBという民間組織が通貨発行権を握っている。FRBは、基軸通貨ドルの発行権を持つことにより、アメリカだけでなく世界の通貨供給の中心となっており、各国の中央銀行がこれと連携している。FRBは税金申告・会計報告を免除されており、監査を受けたことがない。連邦議会の管理が効かない存在となっている。巨大国際金融資本による経済的な政府が、大統領を中心とする連邦政府を、背後から操作しているようなものである。二大政党の背後に巨大国際金融資本があると書いたが、その背後とつながる重要組織がFRBである。アラン・グリーンスパンは、所有者集団に仕える経営者として、1987年から2006年まで18年間、レーガン・クリントン・ブッシュ子と共和・民主・共和と政権が変わってもFRB議長を務めた。2006年にブッシュ子政権で議長職を継いだベン・バーナンキは、オバマ政権でも同職を務めている。
 税制及び社会政策について、民主党は富裕層・大企業への増税とそれによる中間層・貧困層への所得再分配に積極的だが、共和党は消極的である。共和党は自由を最高価値とし、個人の自立自助を原理とし、民主党は自由を基本的な価値としつつも社会的な公正を追求する傾向がある。公正は社会主義的な平等とは異なる概念で、機会の平等と自由競争に不正がないことを含意し、経済的な格差の是正を図ろうとする。だが、医療保険、公的年金等の社会保障制度は、アメリカはわが国に比べて、よく発達しておらず、民主党でも多数派はその実現・拡大に消極的な傾向があった。
 環境問題への取り組みについては、アメリカは先進国の中で最も消極的だが、二大政党の中では、民主党には積極的な議員・政治家がいる。
 文化政策について、アメリカでは同性愛、同性婚、人工妊娠中絶、人工出産等をめぐって論争があり、道徳的な価値観の対立が見られる。共和党はキリスト教の保守的・伝統的な規範を守ろうとし、民主党はリベラルで個人の選好に寛容な傾向がある。

 外交及び安全保障政策では、共和党は圧力による外交を重視し、自国本位の傾向がある。民主党は対話による外交を重視し、国際協調を図る傾向がある。また共和党はアイソレーショナリズム、民主党はグローバリズムと大まかに分類される。アイソレーショ二ズムは、アメリカは他国・他地域のことに干渉しないという不干渉主義であり、グローバリズムは、アメリカは世界統一の中心となるべきだという地球覇権主義である。
 ただし、実際の外交・安全保障政策では、圧力による外交か対話による外交か、自国本位か国際協調か、戦争の推進に積極的か消極的か、軍事費を増加か削減か、軍事力を拡大か縮小か等については、大統領が共和党か民主党か、議会の多数派が共和党か民主党かによって根本的な違いはないと見たほうがよい。その時の国際情勢によって、国益追求のために現実的な選択がなされてきている。
 民主党は、ベトナム戦争のころから反戦リベラルが増えたり、カーターが人権外交を行ったりしたので、わが国では民主党はハト派、共和党はタカ派というイメージを持っている人が多いが、アメリカでは民主党には「戦争党」と呼ばれている一面がある。第1次世界大戦、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争は、民主党政権のもとで、アメリカは海外の戦争に参戦したからである。だが、湾岸戦争、アフガン戦争及びイラク戦争は、共和党政権が始めている。
 共産中国に対しては、共和党は外交姿勢が強硬的、民主党は融和的な傾向がある。だが、共和党政権下でも中国とのビジネスは活発に行われている。民主党は保護貿易主義の傾向が強く、対中貿易赤字には敏感である。また中国の人権問題やチベット問題を非難する議員が多く、近年党内で対中強硬派が台頭している。
 わが国に対しては、共和党と民主党で、どちらが親日的・反日的とは言えない。アメリカは一貫して自国の国益の実現のため、日本に強力な圧力をかけてきている。日米外交で決定的な文書である「年次改革要望書」は、1994年民主党ビル・クリントン政権から提出されるようになったが、共和党に政権が移っても、アメリカの日本に対する要望はより強くなっており、政権がどの党かはあまり関係ない。その要望の集大成が、オバマ政権が強引に進めているTPPである。
 先に覇権国家アメリカの政策は、巨大国際金融資本家や石油や軍事等の多国籍企業の経営者たちによって、ほとんど決められていると書いた。彼らは、しばしば直接政府の要職に就いて、政府を動かしてもいる。彼らの多くは、自らが外交問題評議会(CFR)、ビルダーバーグ・クラブ(BC)、三極委員会(TC)の会員であり、また彼らの意思を理解する優秀な人材をこれらの組織に参加させ、政府に送り出している。それゆえ、連邦政府の外交・安全保障政策は、大統領を中心としたスタッフの背後で働く巨大金融資本の意思によって相当、方向づけがされていると見たほうがよい。その意思は、共和党・民主党の政策の違いを超えた形で、しばしば政策決定に作用すると思われる。それが、共和党政権で一見共和党らしくない政策が施行され、民主党政権で一見民主党らしくない政策が施行されることのある事情だろう、と私は考えている。
 ところで、わが国では保守を自認する人は米国の共和党寄り、リベラルを自認する人は民主党寄りという傾向がある。だが、自民党は、米国の共和党の中道派あたりから民主党の左派まで覆い、さらに社会民主主義に近い考えの政治家まで見られる。
 アメリカでは、オバマが公正を理念とし、富裕層に増税をして、中間層・貧困層に所得を再配分しようとすると、共和党から資本主義の否定であり社会主義だという批判が起こる。米国的な保守の価値観から見ると、わが国の自民党などは、米国の民主党よりリベラルで社会主義的な政党ということになるだろう。当然、わが国の民主党は、もっと左でアメリカの二大政党の価値観では理解できない政党となるだろう。価値観だけでなく、政策も言動も理解できないだろうが。
 以上で、共和党・民主党という二大政党とアメリカの政治構造についての記述を終える。後半ではそれを踏まえてオバマとロムニーの政治信条と政策を検討し、今後の選挙戦の行方について述べる。ページの頭へ

                                                       
関連掲示
・連邦準備制度理事会(FRB)については、下記をご参照下さい。
 拙稿「現代の眺望と人類の課題
  第3章 新しい国際経済体制

 

 

第2章 オバマとロムニーの政治信条・政策の違い

 

(1)現職大統領対挑戦者

 今年11月6日の米国大統領選挙は、民主党の現職オバマと共和党のロムニーの間で戦われる。オバマとロムニーは、政治信条が異なる。オバマは「社会に公正を」と訴え、ロムニーは「米国を信じよう」と訴える。選挙スローガンはオバマが「中間層の将来を決する選択の選挙だ」と呼びかけるのに対し、ロムニーは「オバマ大統領に不信任投票を」と呼びかける。
 経済政策では、オバマは「格差是正のための政府介入」を行うとし、ロムニーは「徹底した自由競争」を追及する。オバマは「大幅な歳出削減は景気回復後に行う」とし、ロムニーは「歳出削減を直ちに実施する」と公約する。オバマは「富裕層に増税」を掲げるが、ロムニー「富裕層増税に反対」を表明する。社会政策では、オバマが「国民に医療保険加入を義務付ける」とするのに対し、ロムニーは「個人の自由を謳う憲法違反だ。廃止する」と反論する。
 外交政策では、イランに対して、オバマは「核開発疑惑へは経済制裁で対処する」と言うが、ロムニーは「経済制裁を強化し、軍事的選択肢も排除しない」として、力の行使を辞さない姿勢を示す。中国に対して、オバマは、柔軟な対話路線を取り、軍拡・海洋問題では牽制しながら、対北朝鮮・対イランでは協力を要請する。一方、ロムニーは、オバマの対中外交を融和的と非難し、中国を為替操作国に指定し、貿易での制裁を強化し、人権抑圧を糾弾するなど、強硬な姿勢である。日本に対しては、オバマが同盟国として外交政策の「コーナーストーン(礎石)」だと重視するのに比べ、ロムニーは日本への関心が低めで、むしろ批判的な態度がうかがわれる。
 後により詳しく比較・検討するが、オバマとロムニーは、このように政治信条や政策が異なっている。米国の有権者は、二人の候補者のどちらかを選択し、米国の政治を託すことになる。
 今回の選挙は、現職大統領が再選を狙う選挙となる。過去に米国大統領選挙で、現職が敗れたのは、4度のみ。1932年フーバーがFDRに、1976年フォードがカーター、1980年カーターがレーガン、1992年にブッシュ父がビル・クリントンに敗れた。これら4例である。現職によほど大きな失政・失敗がなければ、また挑戦者に大衆を引き付ける大きな魅力がなければ、現職再選に有利な傾向がある。
 今回はどうか。オバマは「Change(変革)」を訴え、2008年の選挙戦を制した。その年、9月15日にリ−マン・ショックが起こり、金融危機の只中での選挙だった。オバマは米国史上、黒人初の大統領となった。世界大恐慌以来の経済危機への対処のため、オバマは、多額の財政支出を伴う景気対策や金融への規制の強化を通じて、経済の立て直しに取り組んできた。最大の眼目だった雇用の創出は、公約ほどの成果を上げていないものの、9%以上だった失業率は8.2%と若干改善されつつあるなど、経済状況は、ゆっくりではあるが、回復傾向にある。だが、依然として景気は低迷し、格差は縮小せず、労働者や貧困層の不満が増大している。また、4年連続で1兆ドルを超える深刻な財政赤字が続いている。
 このような状態であるので、今回の大統領選挙における最大の争点は、経済再建や雇用と景気の回復の方法にある。再選を狙うオバマは、富裕層への増税、格差是正のための政府介入、大幅な歳出削減は景気回復後等の政策を訴えて、経済の回復を進めようとしている。だが、オバマに対し、過去3年半で成し遂げられなかったことが、もう一期続ければできるという期待は、大きく膨らんでいっていない。
 アメリカ経済が目立って好転していない一つの原因は、リーマン・ショックの根の深さにある。リ−マン・ショックは、ヨーロッパ諸国にアメリカ以上の大きな打撃を与えた。平成22年(2010)初め、ギリシャが膨大な政府債務を隠していたことが露見し、欧州債務危機が深刻化した。ギリシャに続いて、アイルランド、ポルトガル、イタリア、スペイン等にも債務危機が広がっている。リーマン・ショックから回復しかけたアメリカ経済は、欧州諸国での危機のたびに株価が下落し、消費意欲が低下するなど、足を引っ張られている。これから、大統領選挙までの期間、ユーロ圏の弱体国の危機が連鎖的に拡大し、その影響が波及すると、オバマの座は危くなるだろう。

(2)経済政策の違い

 オバマは「大幅な歳出削減は景気回復後に行う」とし、ロムニーは「歳出削減を直ちに実施する」と公約する。オバマは「富裕層に増税」を掲げるが、ロムニー「富裕層増税に反対」を表明する。
 経済政策では、オバマは、一定の公的ルールに基づく「公正な社会」を主張し、節度を保つ規制によって格差のない、平等な社会を作ろうと主張する。「格差是正のための政府介入」を説き、「大幅な歳出削減は景気回復後に行う」とし、「富裕層に増税」を掲げる。オバマは年収100万ドル(約8000万円)を超える富裕層を対象に増税する「バフェット・ルール」の正当性を強調する。また「共和党は教育や医療という基本的な必要経費まで削って富裕層減税を行おうとしていると批判する。そして、中間層の保護を掲げ、格差是正を積極的に図ることを約束し、「中間層の将来を決する選択の選挙だ」と支持を訴える。
 一方のロムニーは、「徹底した自由競争」を追及する。「歳出削減を直ちに実施する」と公約し、「富裕層への増税に反対」を表明する。ロムニーは投資ファンド会社へ入って重役をつとめ、その後独立して莫大な資産を築いた実業家である。マサチューセッツ州知事としてハイテク企業を誘致するなどし、州財政を立て直したという手腕の持ち主である。自由競争の徹底によって企業活動を強化し、アメリカの活力の回復を目指す。徹底した規制緩和と富裕層を含む減税を行い、「民間主導によるチャンスに満ちた米国社会をつくる」と訴えている。
 ロムニーは、共和党の中では穏健派とされる。その柔軟さが中道派にもアピールして、オバマに対抗できる唯一の候補と見られてきた。だが、ロムニーに現職大統領を敗れるほどの大衆的な訴求力があるか、というと疑わしい。選挙スローガンが、「オバマ大統領への不信任投票を」というのも、訴求力の弱さの表れだろう。
 ロムニーは、当選すればオバマが1期目の最大の成果としている医療保険改革と金融規制改を、すべて廃止すると公約している。医療保険については、別項で述べることとし、ここでは金融規制改革について書く。
 アメリカでは1929年の大恐慌後、議会上院に銀行通貨委員会が設置された。この通称「ペコラ委員会」は、金融危機の原因と背景を解明するとともに、再発防止のための金融制度改革に取り組んだ。ペコラ委員会は、1929年の株価大暴落前後のウォール街の不正行為を暴き、銀行家が証券子会社を通じた銀行業務と一体的な業務展開をすることによって、巨額の利益を得ていたことなどの実態を明らかにした。その調査結果に基づき、1933年に銀行業務と証券業務の分離を定めたグラス・スティーガル法(銀行法)と証券法が成立した。また、翌34年には証券取引所法が成立し、ウォール街の活動を監視する証券取引委員会(SEC)が設立された。
 大恐慌後に設けられた規制は、1970年代までは、巨大国際金融資本の活動を抑えるのに有効だった。しかし、1980年代、レーガン政権の時代から徐々に規制が緩和され、1999年にクリントン政権下でグラム・ビーチ・ブライリー法が成立した。同法によって、銀行・証券・保険の分離が廃止された。その結果、金融機関は、持ち株会社を創ることで、金融に関するあらゆる業務を一つの母体で運営することが可能になった。
 「自由」の名の下、アメリカの金融制度は大恐慌以前に戻ってしまった。ウォール街は、さまざまな金融派生商品(デリバティブ)を開発し、サブプライム・ローン、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)等を生み出し、世界中を狂乱のマネー・ゲームに巻き込んだ。そして、平成20年(2008)9月15日、リーマン・ブラザーズの倒産によって、猛威を振るった強欲資本主義は破綻した。
 オバマ政権は、この反省から金融に一定の規制をかける改革を進めた。ロムニーは、これに反対し、オバマが行った金融規制改革をすべて廃止すると公言している。その根底にあるのは、徹底した自由競争を説く経済思想である。だが、その自由を至上のものとする経済思想こそが、カジノ資本主義を生み出し、借金依存型経済を生み出し、その破綻によって、世界経済危機をもたらしたのである。また、欧州債務危機の遠因ともなって、今もアメリカ経済に影響を与えている。
 アメリカは巨額の債務を抱える債務国だが、リーマン・ショック後、基軸通貨ドルの強みを生かしてドルを刷りまくって、世界中からドルを還流させて、アメリカ経済を動かしてきた。そのモデルそのものが破綻しつつある。そういう時に、その構造のまま自由競争を説く経済政策で、アメリカを健全な形で再建できるだろうか。また、世界経済を健全な方向に進めることができるだろうか。決してできない。
 徹底した自由競争を説く経済思想は、フリードマン、ルーカスらの新自由主義・新古典派経済学を理論的な道具としている。私は、これに対し、強欲資本主義の復活による世界の破滅を避けるために、ケインズの再評価と継承・発展が必要と考える者である。その観点から言うと、ロムニーの経済政策は、リーマン・ショックを体験しても、なお懲りない強欲資本主義を復活・助長することになるだろう。

関連掲示
・拙稿「日本復活へのケインズ再考
・拙稿「救国の経済学〜丹羽春喜氏2
 第1章(4)「フリードリッヒ・ハイエクの不作為」、(5)「ミルトン・フリードマンの詭弁」、(6)「ロバート・ルーカスの欺瞞」

 

(3)社会政策の違い

 社会政策では、オバマが「国民に医療保険加入を義務付ける」とするのに対し、ロムニーは「個人の自由を謳う憲法違反だ。廃止する」と反論する。
 アメリカでは、共和党・民主党の二大政党のもとで、社会保障制度がほとんど発達してこなかった国である。わが国のような国民全員参加の公的医療保険制度がなく、高齢者・障害者向けのメディケアと低所得者向けのメディケードがあるのみだった。一般の国民は民間の医療保険に加入するのだが、保険料が高額なため国民の6人に1人が無保険者である。その数、約5,000万人に上る。そのため、病気になって病院にかかると、医療費が払えず、破産する人が増え、深刻な社会問題となっている。
 オバマ政権は医療保険制度改革を内政の最重要課題に位置づけ、平成22年(2010)年3月、医療保険制度改革法を成立させた。それによる公的医療保険制度は、「オバマケア」と呼ばれる。国民に保険加入を義務付け、保険料の支払いが困難な中・低所得者には補助金を支給し、保険加入率を94%程度まで高めようとするものである。
 再選を目指すオバマは、「オバマケア」の定着・拡大を図ろうとしているが、ロムニーは、医療保険制度改革法は「個人の自由を謳う憲法違反だ」とし、大統領に就任したらこの制度を廃止すると公約している。
 だが、ロムニーは、マサチューセッツ州知事時代、平成18年(2006)に皆保険制度を導入した。全米では事実上初めての公的制度だった。保険加入を全住民に求め、無保険者は順調に減少している。これが、オバマによる国民皆保険制度の導入につながったと見られている。ところが、ロムニーは、州知事時代の皆保険制度導入について、共和党内で右派から強い批判を浴びてきた。自立自助を原理とし、公的扶助であれ政府の介入を排除しようとするアメリカの伝統的な考え方に立てば、認めがたい制度なのだろう。26の州で医療保険制度改革法は憲法違反だという訴訟が起こされた。6月30日連邦最高裁で合憲の判断が示された。5対4の僅差だった。

 このたびの大統領選において、ロムニーは共和党の候補者として指名を受けるため、右派に配慮したのだろう。オバマが導入した公的医療保険制度をすべて廃止すると公約している。私は、この点、ロムニーという政治家に疑問を持つ。自分が州知事時代に皆保険制度を導入したのであれば、全国民の保険加入を実現する制度を肯定するのでなければ、一貫性を欠く。
 わが国のように、近代化が進んでも社会の共同性を維持し、優れた公的扶助の制度を発達させてきた国から見ると、21世紀になって初めて国民皆保険制度を導入したアメリカとは、価値観に大きな違いがあると感じる。国民皆保険制度は憲法違反だという意見が多くあり、一度導入した制度であるにもかかわらず、次の大統領候補がこれを廃止すると公約し、大統領選挙の争点になることには理解しがたいものがある。
 公的医療保険の導入という政策だけ見れば、オバマはアメリカで画期的な取り組みをしている。ただし、リーマン・ショックの影響への対応で、オバマは特定企業を救済するなど、労働者や貧困層より、財界を優先する姿勢を取った。その基本姿勢のもとでの若干の是正である。優れた公的扶助の制度を持つ日本から見ると、オバマも自由を優先し、競争と自助を強調する点で、アメリカ的価値観を堅持し、そのもとで若干の格差拡大、弱者救済を図っているものである。
 アメリカの経済政策は世界に影響を及ぼすが、社会政策の場合は、アメリカ国内の問題という性格が強い。米国民ではない日本人にとっては、オバマの社会政策かロムニーの社会政策かの選択は、米国民のなすところであり、行動を見守るばかりである。

(4)外交・安全保障の基本姿勢

 アメリカの外交・安全保障政策は、世界の針路を左右する。経済政策とともに、影響はすこぶる大きい。
 オバマは、多国間協議や対話を重視する姿勢だが、ロムニーは、力の行使も辞さないと主張する。ロムニーはイラン、アフガニスタン、シリア、ロシア、中国、北朝鮮等に対する政策でオバマ政権の姿勢を非難しており、米国の価値観を対外的に強く押し出し、強硬な姿勢を取ることでオバマとの違いを明確にしようとしている。オバマは巨額債務問題で国防費を大幅削減したが、ロムニーは国防予算の300億ドル増や現役兵士の10万人増を外交方針に掲げている。
 オバマとロムニーの外交・安全保障政策について、中東、アジア太平洋、中国、日本の順に見ていきたい。

(5)対中東政策は?

 ブッシュ子政権は、平成13年(2001)の9・11以後、アフガニスタン、イラクに侵攻し、力による対決と管理の政策を行った。オバマ政権は、9・11の真相解明を行うことなく、ブッシュ政権の中東政策を引き継ぎ、若干の政策変更は行いつつも、基本的な方針は変えることなく、進んできている。
 9・11は謎の多い事件で、アメリカ同時多発テロの主犯とされたオサマ・ビンラディンについても、不可解な点がいろいろある。オバマ政権は、このアルカーイダの指導者の追跡を続けた。オサマ・ビンラディンは、23年(2011)年5月2日、米国海軍特殊部隊が行った軍事作戦によって死亡したと報道された。
 イラクでは、ブッシュ子政権下にイラク戦争の大規模戦闘終結宣言が出たが、治安の悪化が問題となり戦闘が続いた。オバマ政権に替わり、ようやく平成23年(2011)12月、米軍が完全撤収し、大統領がイラク戦争の終結を正式に宣言した。だが、イラクにはスンニ派とシーア派の対立等があり、単独で治安維持ができるかどうか、まだ不透明なところがある。
 アフガニスタンについて、オバマは米軍の完全撤退を平成26年(2014)中と発表した。ロムニーは「絶対に期限はつけない」とし、スケジュール目標を示していない。アフガニスタンは、ユーラシアにおける地政学的な要所であり、中東にまさるほどの石油が埋蔵されているというカスピ海沿岸地方から石油を搬送する通路である。また世界最大のアヘンの生産地でもある。アメリカはここに重大な利権を持っている。
 現在、中東で最もアメリカが関心を寄せているのは、イランである。オバマは「核開発疑惑へは経済制裁で対処する」と言うが、ロムニーはオバマ政権の対応が甘いと批判する。そして、「経済制裁を強化し、軍事的選択肢も排除しない」として、力の行使を辞さない姿勢を示す。ただし、経済制裁や軍事力行使をどのように行うかについては具体的に述べていない。
 アメリカ、EU諸国、日本等がイランへの経済制裁を行っているが、もしイランが譲歩せず、ホルムズ海峡を封鎖した場合、アメリカとイランの戦争となる。軍事的には、アメリカが海軍力で優勢ゆえ、比較的短期間で鎮圧される可能性が高い。だが、イランが米軍基地への報復、イスラエル本土へのミサイル攻撃、湾岸諸国の油田や製油所の爆撃・爆破等へとエスカレートすると、新たな中東戦争に発展する恐れがある。また、イスラエルがイランに攻撃を仕掛ける可能性もある。イランの核開発に最も脅威を感じているのはイスラエルだからである。イランが核開発を大きく進める前に叩こうとイスラエルが動くかもしれない。
 アメリカにとって、中東で最も重要な国は、イスラエルである。イスラエルについては、オバマもロムニーも、イスラエル支持で共通している。ブッシュ子政権のネオコンは、イスラエルを支持し、アラブ諸国を軍事力で押さえ込み、石油・資源を掌中にし、自由とデモクラシーを移植する戦略を推進した。オバマは、この点でブッシュ子=ネオコン政権の中東政策を、概ね継承している。ロムニーは、外交・安全保障のブレーンやスタッフに、ブッシュ子政権の要員を多く持つから、オバマよりネオコン寄りの政策を行うだろう。
 今日、イスラエルが核兵器を保有していることは半公然の事実である。イスラエルは、約200発の核兵器を持つと見られており、中東諸国の中では、圧倒的な軍事力を誇っている。アメリカは、イスラエルの核保有を追認しており、イスラエルに対しては、制裁を行なおうとはしない。その一方、イラクやイランの核開発は、認めない。明らかにダブル・スタンダードを使っている。イスラエルが自由とデモクラシーの国であり、アメリカと価値観を共有しているというのが、その理由だろうが、核の問題は別である。アラブ諸国の核開発は認めないが、イスラエルの保有は擁護するというのでは、ムスリム(イスラム教徒)が反発するのは、当然である。

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・拙稿「9・11〜欺かれた世界、日本の活路

(6)対アジア太平洋政策は?

 オバマとロムニーについて、私は対日政策、対アジア太平洋政策の違いを重視する。単に自国と米国の関係ゆえ関心が強いだけでなく、アジア太平洋地域は、21世紀の世界で最も重要な地域になっているからである。人口、生産力、消費力、発展可能性、政治的・軍事的緊張関係等、アジア太平洋地域の動向は、世界の将来を左右する。米国の指導者がアジア太平洋地域でどういう政策を選ぶかは、この地域の安全と世界の平和に極めて大きな影響を与える。
オバマが日本及びアジア太平洋重視の方針を続けることは明白である。オバマは、日本について、「同盟国として外交政策のコーナーストーン(礎石)」だと述べている。これに対し、ロムニーは日本に関する見解がはっきりしない。これまで報道される限り、日本への関心は薄く、否定的な文脈でしか日本に触れていない。前回の大統領選挙で共和党候補だったマケインとは対照的である。
 2008年の選挙でマケインは日本を重視し、オバマは日本を軽視する姿勢だった。勝利したオバマは当初、中国を重視する一方、日本については、ほとんど意識さえしていないようだった。私はその点が不満だったが、21年(2009)9月政権に就いた民主党・鳩山首相が沖縄の普天間基地移転問題で、日米合意と異なる動きを示すと、オバマは、日本の重要性に気付いたのだろう。同年11月のアジア歴訪の際、最初にわが国を訪れ、鳩山と会談して、共同声明を発表した。首脳会談において、オバマは「最初のアジア訪問に日本を選んだことは米国の日米同盟重視を表すものだ」「米国と日本の同盟関係は両国だけでなく、アジア・太平洋地域の安定と繁栄の基軸だ」と語った。またアジア太平洋地域に関して、「アジアに積極的に関与していく。米国はこの地域における重要なプレイヤーだ」と述べた。
 オバマは11月14日に行った東京演説でも、「日米同盟が発展し未来に適応する中で、対等かつ相互理解のパートナーシップの精神を維持するよう常に努力していく」「米軍が世界で二つの戦争に従事している中にあっても、日本とアジアの安全保障へのわれわれの肩入れは揺るぎない」と強調した。その後、シンガポールで米・ASEAN首脳会議に参加したオバマは、経済成長を続けるASEANの重視と連携強化の姿勢を明確にした。以後、基本的にオバマは、アジア太平洋重視の方針を取っている。
 一方、ロムニーは、外交・安全保障政策の詳細がまだ明確ではない。基本的には、日本が米国の同盟国であるとの認識に立ち、日本、オーストラリア、韓国という民主国家を北大西洋条約機構(NATO)のパートナーに加え、地球規模の安全保障の枠組みをつくるべきだと提唱してはいる。しかし、オバマがアジア太平洋地域を最重視する戦略を打ち出し、対中シフトを強めつつあるのに対し、ロムニーのアジア太平洋地域における具体的な戦略はまだ明らかではない。

(7)対中国・対北朝鮮政策は?

 オバマは、始めのうち中国にひどく低姿勢だった。中国が米国債の最大の保有者となり、ドルの価値を中国に大きく依存する関係となり、また中国が軍事力を増強し、ますます侮れなくなっていることが原因だった。
 平成21年(2009)11月のオバマのアジア歴訪の時点では、中国封じ込めの放棄と軍事交流の推進が示された。歴代の米政権は中国に対して接触と封じ込めを併用してきたが、オバマ氏は東京演説で「中国を封じ込める意図はない」と述べ、封じ込めの放棄を宣言した。また米中首脳会談では、米中は軍事交流を推進し、軍指導者の相互訪問の日程を決めた。この時期のアメリカは、共産中国に対して非常に低姿勢だった。
 だが、その後、中国との外交を続ける中で、オバマは中国に対する姿勢を改めた。そして、23年(2011)秋には、「アジア太平洋シフト」外交に転じ、在日米軍再編など日米同盟を通じた対中抑止強化に踏み出した。ただし、柔軟な対話路線を取り、軍拡・海洋問題では牽制しながら、対北朝鮮・対イランでは協力を要請するという複雑な外交を展開している。
 一方、ロムニーは、オバマの対中外交を融和的と非難し、大統領に就任すれば即日、人民元問題で中国を制裁対象の「為替操作国」と認定すると公言している。また、貿易での制裁を強化したり、人権抑圧や知的財産権の侵犯等には厳しい姿勢を取ろうとしている。わが国との共同によるミサイル防衛の強化、台湾への武器輸出の拡大、米海軍の建艦能力拡大を訴えており、海洋覇権を目指す中国に対抗する方針を示している。北朝鮮に対して、ロムニーは、中国への圧力を増し、核開発を停止させる考えを述べ、食糧支援は現状では行わないことを明言している。

 

(8)対日本政策は?

 平成23年(2011)3月11日、東日本大震災が起こると、オバマ政権はトモダチ作戦で、積極的な救助・支援をしてくれた。同盟国だからこその行動である。日本国民は深く感謝している。福島原発事故でも米国は積極的に危機対処に協力を申し出た。わが国政府がそれを受け入れていれば、事故の対応はかなり変わっていただろう。だが、菅直人首相は米国の申し出を断った。
 その約1か月後、何があったかわからないが、菅首相は、突然TPPに参加すると発表した。何か米国と交換条件があったのではないかと推測される。アメリカはしたたかである。日本をTPPに参加させ、一層従属的な関係に進め、日本の富を奪い取り、それで米国の繁栄を維持しようとする目論見は、露骨なほどである。友情と国益は別である。
 オバマが日本を重視するのに対し、ロムニーは日本への関心が低く、むしろ批判的な態度がうかがわれる。ロムニーの公式ウェブサイトで、外交・安全保障政策について日本への言及は3カ所しかない。それは「中国・東アジア」という項目においてで、内容のほとんどは中国に関する論述。その中で日本への言及は、「30年間で中国は目覚ましい成長を遂げ、日本を追い越して世界第2の経済大国になった」という部分。次いで、対北朝鮮政策に関して「われわれの緊密な同盟国である韓国と日本」「韓国と日本との関係を活性化させるには」と韓国の次に国名を並べただけ。日本そのものについては、具体的に書いていない。こうしたロムニーの日本に対する姿勢を、ウォールストリート・ジャーナル紙は「穏やかに軽視」と書いた。
 ロムニーは平成22年(2010)に『ノー・アポロジー(謝罪せず)』という直を出しており、そこには、「米国がアジアへの関与を弱めると日本が信じるなら、米国との距離を遠ざけるものであり、中国と同盟せざるを得なくなるだろう」「(日本は)1970年代に米国の自動車メーカーと性能や低価格で競争をしておいしい思いをした」「2005年型の赤いマスタングのオープンカーの格好よさとうなるようなエンジン音に匹敵するものは、日本から生まれていない」などと書いているという。
 こうした文章から受ける印象は、ロムニーは、日本についてほとんど知識がなく、日本をビジネスの競争相手としていう意識があるだけで、アジア太平洋における重要な同盟国という理解を持っていないのではないか、という疑問である。
 だが、アジア太平洋では、中国がアメリカに対抗して西太平洋の海洋覇権を目指している。中国とベトナム・フィリピン等の東南アジア諸国との海洋権益をめぐる緊張が強まっている。ロシアは、中国と合同軍事演習を行うなどアメリカに対抗するため、関係を深めている。北朝鮮は核・ミサイル開発を進め、イラン等との連携を保っている。こうしたなか、アメリカにとっても日米の同盟関係はますます重要になっているところである。もしロムニーが次期大統領になった場合、日本への理解を深め、日米関係の重要性に目覚めないと、日本にとってもアメリカにとってもマイナスの事態を生じるだろう。そして、それこそ中国を利することになるだろう。特に尖閣諸島の戦略的重要性を理解することが重要である。

 

(9)外交・安全保障のブレーンとスタッフ

 オバマ政権の外交・安全保障政策は、民主党の特徴である多国間協議を重視し、対話を優先する点に特徴がある。現在どの程度関わりがあるか分からないが、政権のスタート時には、ズビグニュー・ブレジンスキーが最高顧問だった。ブレジンスキーは、カーター政権以降、民主党の外交に大きな影響を与えてきた。冷戦終結後のアメリカ外交の基本方針を作ったとも言える戦略家である。視野狭窄で武力偏重のネオコンと違い、長期的な展望のもとに、グローバル時代のアメリカの覇権維持と、アメリカを基盤とした世界政府の樹立を志向している。影響力の大きさでは、ネオコン化する前の共和党の外交に長く関わったヘンリー・キッシンジャーと双璧である。
 オバマは、ヒラリー・クリントンをわが国の外務大臣に当たる国務長官とし、またビル・クリントン政権の時の外交スタッフを枢要なポストの多くに配している。国防長官は当初、ブッシュ子政権の同職だったロバート・ゲイツを継続起用し、その後、レオン・パネッタに変えた。パネッタはクリントン政権の大統領首席補佐官で、オバマ政権ではCIA長官から横滑りした。うちヒラリー・クリントンは、ビルダーバーグ・クラブの会議参加者で、CFR、TCの会員でもあり、ゲイツはCFRの会員である。
 対するロムニーの方は、ブッシュ子政権やブッシュ父政権で重要ポストにあった者を、外交・安全保障に関するブレーンや政策立案スタッフに多く持っているようである。彼らは、米国の国益や価値観を積極的に国外に押し出す姿勢であり、オバマ政権の多国間協議や対話を重んじる外交に反対している。現実主義的な外交を行うキッシンジャーが指南していた時代と違い、ブッシュ子以後の共和党の外交政策には、ネオコンの色彩が目立つ。ロムニーの周辺にもネオコンの戦略家や実務家がいる。私の目を引くのは、エリオット・コーエン元国務省顧問、マイケル・ヘイデン元CIA長官、ジョン・ボルトン元国連大使である。
 エリオット・コーエンは、戦略学の大家でジョン・ホプキンス大学の教授。ブッシュ子政権では国務省顧問を務め、中東問題でコンドリーザ・ライス国務長官に直接助言した。イラク戦争を支持したネオコンの理論家である。邦訳もある著書「戦争と政治とリーダーシップ」は、ブッシュ子が熟読したという。CFRの機関誌「フォーリン・アフェアーズ」日本版2004年12月号に掲載された論文「アメリカの覇権と世界」では、大意次のように書いた。「アメリカ覇権の時代が始まった。帝国あるいは帝国に似た存在であれば、妬まれ、憤慨され、疑われ、信頼されず、往々にして憎しみの対象とされるのは避けられない。現在の国際政治は、アメリカの優位とそれに対する反発で規定されている。勢力均衡が復活することはあり得ず、国連もうまく世界の問題を解決できてはいない。覇権国アメリカは、ローマ帝国の歴史が教える叡智に学びながら、混沌を回避するために世界に介入せざるを得ない」と。
 マイケル・ヘイデンは、空軍の諜報機関出身で、スパイ中のスパイと呼ばれる。空軍大将だったが、2006年ブッシュ子政権でCIA長官を務めた。CFRの会員である。ブッシュ子政権におけるネオコンの総帥で副大統領のディック・チェイニー、国防長官ドナルド・ラムズフェルド、国務副長官ジョン・ネグロポンテにつながる人物である。ヘイデンのCIA長官就任によって、ラムズフェルドが率いる国防総省が諜報活動を完全に掌握したと見られた。米国議会の承認公聴会でこのことが問題になり、軍人がCIA長官になることを懸念する声もあった。私は、9・11すなわち平成13年(2001)9月11日におこったアメリカ同時多発テロ事件は、アメリカ政府が何らかの形で関与する形で発生したという疑いを持っている。詳しくは、拙稿「9・11〜欺かれた世界、日本の活路」に書いたが、事件において重要な役割を果たした疑いがあるのが、チェイニーとラムズフェルドである。ヘイデンは、彼らと一体となって米国内外の諜報活動を統括したと考えられる。
 ジョン・ボルトンは、ブッシュ子政権で、平成13年(2001)国務次官、17年(2005)国連大使を歴任した。ネオコンの実務家の一人で、シオニストとしても知られる。ビルダーバーグ・クラブの会議参加者である。ボルトンが国連大使を退任したのは、ブッシュ子政権の外交姿勢が生ぬるいという不満によるもので、退任後、同政権の北朝鮮への融和路線を激しく批判した。元国連大使でありながら、「国連などというものはない。あるのは国際社会だけで、国際社会は唯一の超大国アメリカが率いる」などと発言している。ブッシュ子政権に入る前は、ネオコンのシンクタンク「アメリカ新世紀プロジェクト(PNAC)に関与した。PNACには、ブッシュ子政権に参画したチェイニー、ラムズフェルド、ポール・ウォルフォウイッツ、ルイス・リビーらが集結していた。9・11の1年前に『アメリカ防衛の再建』を刊行した。この文書に「ニュー・パールハーバー」という表現があり、9・11の計画性を思わせる言葉となっている。
 もしロムニーが大統領となって、コーエン、ヘイデン、ボルトンが政権に関われば、ロムニー政権の外交・安全保障政策は、ネオコン路線に傾くだろう。ネオコンの背後には、軍需産業や石油産業が存在する。それらの産業に資金を供給し、利益を吸収する巨大国際金融資本が存在する。衰退する帝国アメリカが、戦争による利権の確保・拡大のために、再び冒険主義的な軍事行動に走らないことを願いたい。ページの頭へ

 

 

結びに〜選挙戦を左右する無党派層と欧州債務危機

 

 本年(24年)4月、キニピアック大学(米国コネティカット州)が発表した世論調査の結果では、オバマの支持率が46%、ロムニーが42%だった。だが、景気回復への期待ではロムニー47%、オバマ43%、雇用創出への期待ではロムニー45%、オバマ42%とロムニーが上回った。無党派層だと、ロムニーの支持率は46%、オバマは39%だった。無党派層の選挙行動は、大統領選挙の行方を左右する。ロムニーが共和党でオバマに勝てる候補とされた大きな理由は、穏健派で無党派層を取り込むことができると見られているからで、オバマはもう嫌だという有権者が増えれば、ロムニーに票が流れる可能性がある。現状への不満は、残されたもう一つの選択肢への期待に転じる。
 平成20年(2008)の大統領選挙で、オバマはマケインを破った。選挙戦の中盤までは、両候補のどちらが勝つか予断を許さなかった。しかし、同年9月、リーマン・ブラザーズの倒産に始まる世界的な経済危機が起こると、「Change(変革)」をスローガンに掲げるオバマを支持する国民が急速に増えた。その結果、オバマは黒人初の大統領になった。
 米国民の多くは、自国外のことにはあまり関心がなく、選挙で最も関心が高まるのは、生活に直結する景気や雇用である。この点、オバマ政権の一つの悩みの種は、ガソリン価格の上昇である。政権発足時に比べて約2倍の1ガロン3・9ドルに上がっている。ABCテレビの世論調査では、オバマ政権のガソリン価格対策への不支持率は62%に達している。これから夏・秋にかけての 景気の動きが、有権者の心理に影響するだろう。
 とりわけ今度の大統領選挙は、欧州債務危機が拡大しつつあるなかでの選挙となる。11月6日に全米で有権者が投票を行う時点で、欧州債務危機がどの程度深刻化し、アメリカ経済に影響を与えているかが、選挙の結果を左右するだろう。先に触れた無党派層の行動と欧州債務危機の影響が、今回の米国大統領選挙の行方を決める主要要因となると思う。
 最後に、アメリカの政治は、共和党・民主党の二大政党によるリベラル・デモクラシーのように見えるが、ロックフェラー家をはじめとする巨大国際金融資本が背後にあって、連邦政府の政治を操っている。またイスラエル・ロビーが米国の政治・外交に強い影響を与えている。
 本稿で書いたことの繰り返しになるが、アメリカでは、大統領が共和党か民主党かということは、決定的な違いとなっていない。表向きの「顔」である大統領が赤であれ青であれ、所有者集団は外交・国防・財務等を自分たちの意思に沿うように動かすことができる。アメリカの二大政党の後には、巨大国際金融資本が存在する。共和党・民主党という政党はあるが、実態は政党の違いを越えた「財閥党」が後ろから政権を維持・管理していると考えられる。
 アメリカの連邦政府は、大統領を中心とした行政組織というより、財界を基盤とした行政組織と見たほうがよい。国民が選んだ大統領が自由に組閣するというより、むしろ財界人やその代理人が政府の要所を占める。政治の実権を握っているのは財閥であって、大統領は表向きの「顔」のような存在となっている。国民が選んだ「顔」を掲げてあれば、政府は機能する。だから、誰が大統領になっても、所有者集団は自分たちの利益のために、国家の外交や内政を動かすことができる。このようになっているのが、アメリカの政治構造である。 オバマとロムニーのどちらが勝っても、この構造は変わらないと見るべきである。
 わが国に対しては、オバマとロムニーで政策が一定程度変わるだろうが、TPPを中心とした外交政策では、米国と米国資本の利益を徹底的に追及してくることは変わらないだろう。最も重要な課題は、彼の国の指導者が誰になるかということより、わが国が自国の再建を進め、アメリカという強大でしたたかな国家にしっかりと対応していけるような国家になっていくことにある。

なお、本稿で触れたグローバリズムについて、私は、アメリカ主導でアングロ=サクソン・ユダヤ的価値観によるグローバリズム、すなわち地球統一主義または地球覇権主義に対して、日本精神に基づく共存共栄の道こそ、21世紀の日本及び米国を含む世界人類が進むべき道と考えている。日本及び米国が今後どのように進むかに、人類の将来が大きくかかっていると思う。ページの頭へ

                                          

関連掲示

・拙稿「欧州債務危機とフランスの動向

 

補説 結果はオバマの再選に

2012.11.8

 

米国大統領選は、オバマが再選された。史上まれに見る接戦と伝えられ、選挙人数が同数になる可能性も予想されたほどだった。最終的にはオバマがロムニーにかなりの差をつけて勝利したものの、全米の総得票数は両者ほぼ互角であり、今後の政権運営は厳しいものとなるだろう。
 4年前、黒人初の大統領ということもあり、米国民多数がオバマに寄せる希望は膨らんだ。だが今、その希望はしぼんでいる。
 私自身は、ロムニーよりオバマがましと考えてきた。ロムニーが大統領になれば、再び新自由主義・市場原理主義の経済政策が行われ、その弊害は世界に広がることが明らかだったからである。またロムニーは日本を良く知らず、日本軽視の姿勢が懸念された。台頭する中国に対抗するため、日米の連携の重要性が強まっているときに、こういうタイプの米国指導者はアジア全体にマイナスになる。
 一方、オバマにも、多くを期待できない。リーマンショック後の米国経済は再生が進んでいない。失業率は8%近くが続いている。昨年(2011)8月連邦債務の上限引き上げ法案が成立し、かろうじてデフォルト(国家債務不履行)を回避したものの、欧州債務危機が悪化すれば、米国財政に飛び火する可能性がある。来年(2013)初め、米国は減税打ち切りと歳出の強制的削減による「財政の崖」に直面する。欧州よりも米国が世界的な経済の混乱の発信源になりかねない。
 私はこうした状態が従来の経済政策で大きく好転できると思えない。米国は製造業を軽視し、金融主導の経済になっている。カネがカネを生むカジノ型資本主義は、国民経済を破壊し、社会の格差を拡大する。米国のGDPに占める家計消費額は71%だが、その消費は海外からの借金で欲望を刺激して生み出しているものである。こうした価値観を改め、生き方を変えないと、いずれ米国は腐敗・倒壊する。オバマには、米国を根本的に再生しようとする理念も意思も見られない。
 オバマについて私が最も評価できるのは、アジア重視の外交である。4年前の政権当初には、中国を2大パートナーとして過大評価する傾向があったが、途中でこの姿勢を改め、中国の危険性を意識した政策を行っている。私は、世界の平和と安定にはアジアの平和と安定が不可欠だと考える。そのためには、日米が連携し、アジア太平洋における中国の覇権主義を抑える必要がある。オバマは、東南アジアに積極的に働きかけ、対中国外交を展開している。わが国は、米国とともに、東アジアから東南アジア、オーストラリア、インドへと連携の輪を広げ、強化する外交を推進すべきである。この点では、オバマ政権が継続することになったことは、日本にとってもアジア太平洋にとっても歓迎すべきである。ただし、今後の米国政府スタッフの陣容によって、政策に変化が出る可能性がある。どういう人選がされるか注目したい。

 

 

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