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説明: 説明: 説明: ber117

 

■いわゆる「イスラーム国」の急発展と残虐テロへの対策

2015.3.2

 

<目次>

はじめに

第1章 「イスラーム国」を自称する過激組織の急発展

第2章 有志連合の空爆とそれに対抗するテロ活動

第3章 わが国政府の日本人人質事件への対応

第4章 深刻化する中東の事情

第5章 テロ対策のためのわが国の課題

 

補説 チュニジア博物館襲撃事件でテロ拡散の形勢

 

説明: 説明: 説明: ber117

 

はじめに

 

本年(2015年)1月7日フランスでイスラーム教過激派による風刺週刊紙銃撃事件が起こり、20日に「イスラーム国」を自称するイスラーム・スンナ派過激組織による日本人人質殺害事件が起こった。私は、この過激組織について、2014年(平成26年)7月に拙稿「イラクが過激派武装組織の進撃で内戦状態に」をマイサイトに掲示した。

本稿はその後の経緯とこのたびの一連の殺害事件を踏まえて、いわゆる「イスラーム国」の動向と一連のテロ事件を振り返り、わが国の政府が取った対応を評価し、テロから日本を守るための課題を確認して、その課題への取り組みを呼びかけるものである。

なお、この過激組織を「イスラーム国」と呼ぶと一個の国家と認めているという誤解を生じ、またイスラーム教諸国一般との混同を招くので、多くの国の政府はISILという呼び方をしている。わが国の政府も同様である。ISILは、Islamic State in Iraq and the Levant、「イラク・レバントのイスラーム国」の略称である。この例に倣い、本稿では、いわゆる「イスラーム国」について、ISIL(アイシル)を使用する。

 

第1章 「イスラーム国」を自称する過激組織の急発展

 

●イスラーム教過激組織の台頭

 

東京大学名誉教授で中東・イスラーム教地域事情の権威である山内昌之氏は、ISILの出現こそ「冷戦後の前提だった大国間の平和や国際秩序の枠組みを解体しかねない緊張を増大させ、『ポスト・冷戦期の終わり』を画する異次元の危機をもたらす」と述べている。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、かつてコミンテルンが全世界で共産主義革命を起こそうとしたように、ISILは「それぞれの国内でテロを起こさせ、世界イスラーム革命を起こすことが彼らの目的となっている」と述べている。ロシアによるクリミア併合で冷戦終結後、国際社会に最も緊張が高まっている中で、イスラーム教過激派のテロによってさらに大きな変動が引き起こされかねない事態になったということができるだろう。

ISILは、2014年(平成26年)6月カリフ制イスラーム教国家を宣言してから、わずか数か月の間に急発展し、世界的に脅威を与える存在となっている。なぜこれほど急発展したのか。その経緯を振り返ってみたい。

 9・11後、アメリカは、同時多発テロ事件を計画・実行したとして、アルカーイダの指導者オサマ・ビンラディンを主犯に名指した。米国は、アフガンでの戦いに関与しながら、オサマの追跡を続け、2011年(平成23年)5月米軍の軍事作戦によってオサマが死亡したという報道がなされた。
 アメリカは2003年(平成15年)3月19日、サッダーム・フセインを除いて民主化を進めるとしてイラク戦争を開始した。アメリカは、フセインはアルカーイダを支援しており、大量破壊兵器を渡すおそれがある。テロリストが核兵器を持てば、国家が相手と違って抑止力が働かず、防ぎようがない。だから、脅威が感じられる時点で先制攻撃をしなければならないーーこういう理屈で、自衛権の行使として先制攻撃を正当化した。
 侵攻の翌月には米英連合軍が首都バクダードを占領し、フセイン政権は打倒された。これで正規軍同士の戦闘は終了し、2003年5月ブッシュ子大統領は「大規模戦闘終結宣言」を出した。だが終戦宣言後も、イラクの治安は回復せず、内戦状態が続いた。アメリカ・NATO等の軍隊は、イラク駐留を継続した。2003年12月13日米軍はサッダーム・フセインを逮捕した。イラク特別法廷及びバグダードの高等法廷で裁判が行われ、フセインは「人道に対する罪」で死刑と判決され、2006年(平成18年)12月30日絞首刑が執行された。

 フセイン政権崩壊後、イラクでは、議会選挙、憲法制定等が行われ、2006年の選挙でマリーキーが首相に選ばれた。フセインは、アラブ諸国では8〜9割を占めるが、イラクでは2割という少数派のスンナ派だった。マリーキーはイラクで6割を占める多数派のシーア派で政府や軍の幹部を固めた。強権的な政権運営を行って、スンナ派や元フセイン政権関係者等の反発を買うことになった。そうした中で、オバマ大統領は、2010年(22年)8月に改めてイラクでの「戦闘終結宣言」を出し、軍の撤退を始め、2011年(23年)12月に完全撤収した。同月14日大統領はイラク戦争の終結を正式に宣言した。

米軍の撤退は、マリーキー政権が自力で治安維持できるかどうか、不透明な状況での実行だった。案の定、アメリカが去った後、イラクの内政は安定せず、マリーキー政権への反発が強まり、治安は再び悪化し、小規模な戦闘が続いている。オバマ政権は、イラクの政権が自らの手で民主化を進め、社会的な統合を行えるようにするという構想の実現に失敗した。

こうした9・11とその後のアメリカの行動、イラク戦争の結果、マリーキー政権の専制等という展開の中で、ISILの前身であるイラクのアルカーイダ系のスンナ派過激組織が成長した。その成長には、隣国シリアの内戦が関わっている。

シリアでは、シーア派系のアサド政権に対する反政府運動が高まり、内戦状態になっている。2013年(25年)8月末、米国政府は、アサド政権が化学兵器を使用したことに「強い確信がある」とし、少なくとも1429人が死亡したとする報告書を発表した。化学兵器による大規模攻撃は8月21日に首都ダマスカス郊外で起きたとされる。反体制派は政権側が攻撃したと非難、政権側は反体制派の仕業だと反論し、真相は解明されていない。化学兵器による大規模攻撃は、イラクのフセイン政権が1988年にクルド人反乱鎮圧のため行い数千人を殺害して以来だった。

 米英は、アサド政権に化学兵器を使わせない目的で軍司令部などを巡航ミサイルでたたく限定的介入を計画した。オバマ米大統領は2013年9月10日の演説で、シリアへの限定的な軍事行動と外交努力の双方を進める立場を訴えたが、議会と世論の支持は得られなかった。軍事介入には本来、国連安保理の武力行使容認決議が必要であり、シリアの後ろ盾ロシアとそれに同調する中国が決議採択に反対した。結局米国は、いったんは軍事攻撃の構えをみせたものの、消極的な姿勢になっていった。

 そこでロシアのプーチン大統領が、シリア内政問題に妥協案を示した。シリアが保有する化学兵器を国際的な管理下に置き、2014年半ばまでに完全廃棄するというもので、この枠組みにシリアを含む欧米諸国は賛同した。米国は、この提案に乗ることで、軍事介入をせず、外交による対応で済ませるという選択をした。プーチンは、シリアのアサド政権に化学兵器を放棄させる代わりに米国の武力行使を思いとどまらせるという、各国が飛びつくような提案をしたことで、国際舞台での重要なプレーヤーであるとのイメージ回復に成功した。だが、わずか半年後、26年3月のクリミア併合でそのイメージは吹き飛んだ。

 ロシアの提案に乗ったオバマ政権の米国は、アサド政権に有効な対応が出来ていない。シリアの内戦は泥沼化しており、死者は10万人を超え、国外に避難した難民は200万に上ると言われる。反アサド政権側には、各国からイスラーム教のジハード(聖戦)義勇兵が終結し、軍事訓練と実践で戦闘力を高めている。中東や東南アジア等のイスラーム教諸国や米国、西欧諸国からも多く参加している。なかでもISILは、シリアで戦闘力や資金力を増強し、イラク国内で反マリーキー政権の武装闘争を展開するようになった。

 

●グローバル・ジハード運動の危険性

 

 イスラーム教スンナ派過激組織ISILは、アルカーイダから派生した。アルカーイダ系勢力とISILは、ジハード(聖戦)を掲げる過激派集団である。

 わが国では、中東の専門家は少なく、またイスラーム教過激派に関しては直接収集した情報が少ない。そうした中で東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏は、貴重な存在である。池内氏は、2014年(平成26年)11月14〜15日産経新聞に寄稿記事を載せた。その中で、ジハードについて書いている。引用文は、「イスラム国」を使用しているので、原文のまま掲載する。

 池内氏は、「イスラム国の存立根拠はまずイラクとシリアのローカルな内政対立や内戦状況にあり、アラブ世界を通じて体制の腐敗や独裁による不正義の存在が広く認識されていることに根本原因がある。ここに、欧米社会での目的意識の喪失といった漠然とした不満から共感する勢力が加わってグローバル化している」という。

 池内氏によると、「イスラム国」はジハードの理念を掲げることで少数の強硬な信奉者を集め、その他の多数派のイスラーム教徒を威圧し黙認を得ている。本来のイスラーム法上のジハードとは、イスラーム教の支配を受け入れない異教徒に対して行うものである。しかし、「近代のアラブ世界には、名目上はイスラム教徒であっても実際には政治的・軍事的に欧米の異教徒と同盟を結んでいるアラブ世界の政治指導者をこそ、まずジハードの対象にすべきだとするジハード主義的な政治思想が根強くある」。その延長線上に発展したのが、「アラブ世界の不正な支配者・体制を支える欧米の中枢あるいは海外資産に攻撃を加えることを、重要な作戦とするグローバル・ジハードの思想」だと池内氏はいう。

 その思想に基づくグローバル・ジハード主義運動を推進しているのが、アルカーイダである。池内氏によると、アルカーイダは、2001年の米中枢同時テロをきっかけに始まった米国の世界規模の対テロ戦争で追い詰められた。アルカーイダは組織を分散化・非集権化し、「各地で諸勢力・個人が、インターネット上で拡散されるイデオロギーに感化されて自発的に行動を行うネットワーク型の運動」へと組織・戦略を変えた。「ローン・ウルフ」のテロを扇動して存在感を維持しつつ、アラブ世界で政権が揺らいで「開放された戦線」が生じてくれば、そこに世界各地からジハード戦士を集結させ、大規模に組織化・武装化するという展開を、グローバル・ジハード運動の共鳴者たちは待ち望んでいた。

 2011年の「アラブの春」により、「シリアやイエメンやリビアなどで中央政府が揺らぎ、周縁地域に統治されない領域が広がってグローバル・ジハード運動が活動の機会を得た」と池内氏は言う。ここで、アルカーイダ系組織は内戦を機にシリアで拠点を確保し、それを背景にイラクでの勢力拡大につなげた。池内氏によると、「イラクやシリアで周縁領域を実効支配する土着の政治勢力としての実態とともに、その掲げる理念や組織論により、世界規模でのジハードへの共鳴者を引きつけている」。ここで、台頭したのが、ISILである。

 池内氏は、次のように言う。「イスラム国はインターネット上で巧みな英語による情報発信を行っており、終末論的な破壊願望を持った若者を引きつけている。それをはやし立てる過激思想家が各国に必ずいることも問題を拡大している」と。また「イスラム国は欧米に明確な下部組織を持っていないが、共鳴者が一匹狼的なテロを自発的に行う可能性があり、それによって社会に反イスラム感情を引き起こして紛争を引き起こす危険性がある」と。

 

●いわゆる「イスラーム国」が急発展した理由

 

現在「イスラーム国」を自称しているISILは、驚くべき速さで急成長した。その理由の一つは、人員である。イラクでフセイン政権が崩壊すると、フセイン派の残党はシリア等に逃れた。ここでISILは、フセイン政権で行政・司法等を担っていた者を誘って、組織力を強めて急成長した。2014年(平成26年)6月中旬、ISILはイラク北西部各地を抑え、イラク第2の都市モスルを制圧した。同月29日、指導者のアブー・バクル・アル=バグダーディを、イスラーム共同体の指導者「カリフ(預言者ムハンマドの後継者)」として奉じるイスラーム教国家の樹立を宣言した。ISILは、シリア内戦でアサド政権の統治が及ばない北東部やイラクの北西部で活動し、少数派や他宗派の迫害等の残虐行為を続けた。この動きに、マリーキー政権だけでなく、イラン、シリア、トルコ、ヨルダン等の周辺諸国も対抗行動を取った。だが、ISILは、新自由主義・市場原理主義によって格差が拡大していることに不満を持つアラブ諸国や欧米・アジア等の若者を引き付け、約2万人の戦闘員が各国から集結していると見られる。ISILは、戦闘によって支配地域を拡大し、原油関連施設を奪取し、シリア、トルコ、イラン等への密売ルートを通じて原油を売って豊富な資金を獲得している。人質の身代金や寄付・寄進等もあり、管理する資金は20億ドルにも上ると推定される。ISILと戦うイラク政府軍は上層部が腐敗し、兵士は士気が低く、敗走を続けた。ISILは、イラク軍が残した武器を手に入れ、戦闘力を拡大してきた。現在、地対空スティンガー・ミサイル、中国製対戦車ミサイル、ロシア製戦車、ミグ型戦闘機約100機等を保有すると見られる。

このようにISILは、フセイン派残党の加入による組織力の強化、各国からの戦闘員の増加、原油の密売等による資金の獲得、イラク軍からの武器の奪取によって、わずかの期間のうちに急発展したと考えられる。ページの頭へ

 

第2章 有志連合の空爆とそれに対抗するテロ活動

 

●有志連合による空爆とそれに対抗するテロ活動

 

グローバル・ジハード過激組織ISILが勢力を増強するのに対し、オバマ大統領は、2014年8月米国を中心とする有志連合を形成し、ISILに対する限定的な空爆を開始した。空爆にはサウディアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦等の中東諸国も加わった。イラクではこの8月にマリーキー首相が内外の批判を浴びて退陣し、新首相のアバディーのもと挙国一致内閣が樹立された。新政権が内戦を終息し得るかどうか期待されているが、情勢は不透明である。

有志連合による空爆は2000回以上に及び、7000発以上のミサイルが撃ち込まれた。(2月6日現在) ISILは、拠点を攻撃され、戦闘員が数千名死亡したと見られる。戦闘員の士気が低下したり、残虐な行為に疑問を感じて離反する者が出たりしているものと見られる。空爆で原油関連施設が破壊されていることにより、資金源である原油の輸出量が減少している。石油市場で原油が値下がりしていることも、資金獲得にマイナスになっている。追い込まれたISIL指導層は、外国人を人質にとって脅迫したり、有志連合の結束を乱そうと揺さぶりをかけたりしているものと見られる。

そうした中で、本年(2015年)1月ISILに繋がりがあると思われる者によるテロ事件と、ISIL自体によるテロ事件が世界を震撼させた。最初は、1月7日フランスでの風刺週刊紙襲撃事件であり、次は1月20日日本人人質事件であり、さらにその後明らかになったヨルダン軍パイロット焼殺事件である。

 

●フランス風刺週刊紙襲撃事件の衝撃

 

 本年(2015年)1月7日フランスの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」のパリ市内の本社が銃撃され、同紙の編集者や風刺画家を含む12人が死亡、20人が負傷した。

 「シャルリー・エブド」は、たびたびイスラーム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載し、イスラーム教徒の反感をかっていた。事件当日発売された最新号は、イスラーム教の聖戦を風刺する漫画と記事を掲載していた。また襲撃を受ける直前には、ISILの指導者バグダーディを風刺する漫画をツイッターに掲載していた。

 私もその風刺漫画を見たが、挑発的かつイスラーム教徒にとっては冒涜的な表現となっている。もともと反感を持っている者が激怒し、凶行に及んだものと思われる。もちろんテロによって生命を奪うことは、許される行為ではない。だが、表現の自由は絶対的なものではない。他の自由権とのバランスが必要である。自由は「他者に危害を与えない限り」という原則にのっとったものでなければならず、またその行使には社会的な責任を伴う。

 仏紙銃撃テロの犯人らはフランス生まれのイスラーム教徒と見られる。事件には、平成21年(2009)にイエメンとサウディアラビアの武装組織が合併して成立したアルカーイダ系武装組織「アラビア半島のアルカーイダ(AQAP)」が関与している模様である。同時に、犯人らがISILへの忠誠を表明していることから、ISILとの関係もありそうである。フランスは、米国を中心とする有志連合の一員としてISILへの空爆に参加している国の一つである。アルカーイダ系勢力は、ISILとの間で、ジハード(聖戦)の主導権をめぐって競合している。だが、個々のテロリストは、組織の論理とは別に自己の信念で行動するだろう。

 風刺週刊紙銃撃事件によって、宗教への批判を含む表現の自由を重んじる欧米諸国の価値観と、神や預言者のあらゆるものへの優先性を認めるイスラーム教の価値観の対立が、改めて鮮明になった。事件によって、テロの連鎖的な発生、報復に継ぐ報復、キリスト教とイスラーム教との文化的摩擦等の増大、EU諸国における移民政策の見直し等が予想される。また、わが国にもイスラーム教過激派のテロが及ぶことが懸念される状況になった。

 さて、池内氏は、フランスでの週刊紙本社銃撃事件について、事件の2日後、「西洋近代社会とイスラーム教世界の間に横たわる根本的な理念の対立」を指摘し、次のように語った。

 「根本的な解決を求めれば結論は2つ。イスラーム教に関してはみなが口を閉ざすと合意するか、イスラーム世界が政教分離するかだが、いずれも近い将来に実現する可能性は低い。ただ現実的にはこうした暴力の結果として表立ったイスラーム批判は徐々に抑制されるだろうし、イスラーム教徒の間に暴力を否定する動きも出る。それによる均衡状態だけが長期的にあり得る沈静化の道筋だろう。西洋社会は、個々の人間は平等という理念に従い多くの移民を受け入れてきた。だが、こうしたテロにより、一定数のイスラーム教徒が掲げる優越主義への拒絶感が高まり、中東などからの移民受け入れが抑制される可能性もある」と。

 池内氏が示唆する「長期的にあり得る沈静化の道筋」は、欧米人の側でのイスラーム教批判への抑制とイスラーム教徒の側での過激派の暴力の否定による均衡状態が生まれることである。イスラーム教批判の抑制には、表現の自由を絶対化する欧米の価値観の見直しが必要だろう。過激派の暴力の否定には、イスラーム教内部での過激派への教化が必要だろう。どちらにしても、私は、ユダヤ=キリスト教文明とイスラーム文明というセム系一神教に基づく文明そのものが、新たな段階へと脱皮しなければならない時期にあるのだと思う。その脱皮に人類の運命がかかっていることは間違いない。

 人間が作り上げた一元的な価値観を絶対化し、それに反するものを否定・排除するという論理では、どこまでも対立・闘争が続く。果ては、共倒れによる滅亡が待っている。自然の世界に目を転じれば、そこでは様々な生命体が共存共栄の妙理を表している。人智の限界を知って、謙虚に地球上で人類が互いに、また動植物とも共存共栄できる理法を探求することが、人類の進むべき道である。宗教にあっても科学・政治・経済にあっても、指導者はその道を見出し、その道に則るための努力に献身するのでなければならない。私は、フランス風刺週刊紙襲撃事件後、このように書いた。

 

●日本人人質殺害事件

 

 フランス風刺週刊紙襲撃事件は、世界的に大きな衝撃を与えた。わが国でもイスラーム教過激派のテロが行われる可能性が懸念されるようになった。そうした中で、日本人人質事件が起こった。

 1月20日ISILのグループが日本人2人の殺害を警告するビデオ声明を発表した。人質の身代金として、3日間の期限で日本国政府に2億ドルを要求した。安倍首相は中東歴訪中であり、そのタイミングを図った脅迫だった。

 安倍首相は20日、イスラエルのエルサレムで記者会見し、「人命を盾にとって挑発するのは許し難い行為であり、強い憤りを覚える。直ちに解放するよう強く要求する」と批判し、「今後も国際社会の平和と安定のために一層貢献する。この方針に揺るぎはなく、変えることはない」と述べた。また、エジプトのカイロでISIL対策とし支援を表明した2億ドルについて、「この2億ドルの支援は、避難民が最も必要としている支援であり、命をつなぐための支援だ。しっかり支援を行う姿勢に変わりはない」と強調した。

 わが国政府は、2億ドルの支援が非軍事的な人道支援であることを明確に説明するとともに、人質の解放のため外交努力を行ってきた。だが、25日テロリストより、人質のうちの1名を殺害したとの画像が公開された。殺害されたと見られるのは、民間軍事会社を経営する湯川遥菜氏で、自ら男性性器を切り落とし、名前を女性名に変えたことで知られる。自ら死に場所を求めて紛争地帯に入り、過激派に拘束された。

 ISILがインターネット上に公開したのは、湯川氏を殺害したという写真をもう一人の人質である後藤健二氏に持たせた写真である。写真は、湯川氏を斬首し、頭部を遺体の背中に載せたものだった。

後藤氏は、フリージャーナリストで、湯川氏の救援のために自己責任を公言して危険地域に入った。プロテスタントの日本基督教団の信者といわれる。反日・左翼諸団体の巣窟となっている東京都新宿西早稲田2−3−18にある韓国系キリスト教団体の信者という情報もある。

 後藤氏の母親・石堂順子氏は、外国人特派員協会で記者会見し、息子の救命を懇願する一方で、息子家族と没交渉であることを明らかにした。原子力反対や地球の平和を唱えたり、満面の笑顔を見せるなど不可解な言動を行った。後藤氏を産んだ後、離婚し、別の男性と結婚した。自宅に北朝鮮指導者の写真を飾っているという。

 

ISILは身代金支払いの期限を変更した後、後藤氏解放の条件をヨルダンで収監されているサジダ・リシャウィ死刑囚との交換に替えた。事態は、わが国だけではなく、ISILへの空爆に参加しているヨルダンを当事者に巻き込むものとなった。日本人の人質については、人質のうち1人を殺害して別の要求を突きつけるということを、当初から計画していた可能性もある。複数の人質を取っている場合は、そのような利用の仕方が可能である。

リシャウィ死刑囚は2005年(平成17年)、夫とともにアンマン市内のホテルで自爆テロを図ったが、自分は爆弾が爆発せず、逮捕された。この事件では別の2つのホテル等も標的となり、少なくとも計60人が死亡した。

リシャウィ死刑囚は2006年、ヨルダンの裁判所で絞首刑を言い渡され、同国内に収監していた。ISILは、2014年(平成26年)12月にシリア北部でISILの捕虜となったヨルダン人操縦士の解放と引きかえに、同死刑囚の釈放を求めていたが、ヨルダン政府はこれを拒否したという経緯があった。

 本年(2015年)1月25日、日本エネルギー経済研究所中東研究センター副センター長・保坂修司氏は、「自爆テロを実行しようとしたリシャウィ死刑囚は、ISILにとって象徴的な存在ではあるが、組織にとってどの程度役割を果たすのか疑問だ。実利的な要求というよりも、彼らのイデオロギー上、ふさわしい人物を挙げたということだろう」とも述べた。

リシャウィ死刑囚は、ISILの前身である「イラクの聖戦アルカーイダ組織」を率いたザルカウィ容疑者の側近の親族とされ、ISILにとっては象徴的な意味を持つ女性ジハーディスト(聖戦主義者)と見られる。イスラーム教過激派とイスラーム教諸国との間で、人質を使った捕虜の交換はしばしば行われている。だが、リシャウィ死刑囚は自爆テロで死んでいたはずの人間であり、いわば捨て駒とも言える。そうした人間の釈放を要求するのは、象徴的な存在を奪還することで、組織の引き締めを図ったり、戦闘員の士気を維持したり、一部の派閥が存在感を示したりする目的があったとも考えられる。ISILは、空爆によって打撃を受けている。また残虐さに失望して逃亡を図る戦闘員が増えている。これに対する内部的な効果を狙ったのかもしれない。また、インターネットによるサイバー劇場空間で、自らの存在を誇示し、世界中に同調者を作り、組織外から戦闘員や資金を集めるという宣伝効果を狙ったものと考えられる。またISILに対抗する国々の政府間の結束を崩したり、それらの国民に恐怖を与えて国内を分裂させたりする狙いもあったとも考えられる。

 

 ISILがリシャウィ死刑囚の釈放を要求したのに対し、ヨルダン政府はISILの捕虜となっているヨルダン軍パイロット、モアズ・カサスベ中尉との交換を要求し、中尉の生存確認を求めた。わが国政府は、後藤氏の解放を目指して努力したが、2月1日ISILは後藤氏を斬首して殺害した映像を公開した。これも頭部を遺体の背中に載せた写真だった。

 残念な結果となったが、日本国政府はテロに屈しない姿勢を貫いた。身代金の要求を拒否し、友好諸国の協力を得ながら人質解放のために可能な限りの努力をしたと評価できる。

  湯川氏、後藤氏は政府職員ではなく、政府の委託を受けて公務のために紛争地域に行ったのでもない。湯川氏は民間軍事会社の経営者としてのビジネスの目的と、死に場所を求めてという自滅的な動機によって、その地に行き、テロリストに拘束された。後藤氏は、湯川氏を救出するために、ISILの中心都市ラッカに行ったと見られる。邦人救出であれば、後藤氏の立場ですべきことではない。また戦場カメラマンの渡部陽一氏が言うには、テロリストに捕まる時点で、ジャーナリスト失格である。湯川氏、後藤氏の二人の軽率な行動が、テロリストに利用された。そして政府及び日本国民また友好国に多大な迷惑をかけた。彼らの行動を許した家族も反省すべきである。

  安倍首相は、後藤氏の殺害が明らかになった後、「テロは絶対に許さない、強い憤りを感じる」とコメントした。政府には国民の生命と安全を守る義務がある。だが、個々の国民にも国法を遵守する義務と、自らの行動に対する責任があることを忘れてはならない。

 

 後藤氏の経歴には、表の顔とは全く違う一面が見られた。週刊文春27年2月5日号の記事から抜粋する。

 

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http://shukan.bunshun.jp/articles/-/4783

 

・法政大ではアメフト部、卒業後は日立子会社に就職

・ボディービルジムで500万円トラブル、「風俗店経営」証言も

 ・20代で通信社設立、「前妻とはイラク行きが原因で離婚」

・今の妻は東大卒、JICA職員、自宅は赤坂マンション

 ・兄が明かす反原発母と後藤家の複雑な"家庭の事情"

 

 後藤さんと面識のあるフリージャーナリストが言う。「後藤さんは昨年6月頃の段階では『イスラム国なんてどうでもいい』と言っていた。

  ただ、その後、イスラム国が大きなニュースになっていくのを見て、『でかいネタになる』と考えたのかもしれない。もし救出できれば世界的なニュースですし、映像が番組で流されれば、10分間で200万円から300万円ほどのギャラをもらえますから」

 

  後藤さんの実兄(55)はこう説明する。「はっきりとした時期は覚えていませんが、両親が離婚したのは20年程前です。母はそれより前、健二が高校生くらいの時に世田谷の家から引っ越しています。健二も母とはかなり長い間、連絡を取っていなかったと思います」

 

  大学卒業後、日立子会社→ボディビルジムに転職、恵比寿店の経営を任される。

 

  ジムのオーナーはこう振り返る「1年くらい経った頃、会員の入会金と月謝、合わせて500万円もの額が、帳簿と合わないことが判明したのです。(中略)彼を問い詰めましたが、無言を貫くばかり。結局、それが原因でジムを辞めてもらうことになりました」

  「彼は(ジムと平行して)風俗店をやっていたのです。家賃20数万円の南麻布の高級マンションを借りていて、近隣住民から不動産屋に苦情がきたと聞きました。彼の周囲に聞いてみると、うちのジムでも女性をスカウトしていたんです」

 

  当時のジムの同僚が語る。「確かに後藤さんは羽振りが良かった。2万円もするランチを食べたり、プジョーを乗り回していました」

 

  番組制作会社で経験を積み、96年に独立。フリージャーナリストとして中東等へ。

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 なお、テロリストの脅迫画像に「Kenji Goto Jogo」という氏名が記されていたが、Jogoは、2番目の妻・城後倫子氏の戸籍に入っているためと分かった。戸籍上は、城後健二氏だったわけである。城後倫子氏はJICAの職員と報じられている。

 

●日本国民へのテロ攻撃宣言とテロへの対応心得

 

2月1日の後藤氏殺害を公開した映像で、ISILのテロリストが、次のようなメッセージを発した。

「日本政府へ。おまえたちは、おろかで悪魔的な有志連合の同盟国のように、われわれがアラーのご加護をうけた権威と力を持ったイスラーム教カリフ国家であり、おまえたちの血に飢えている軍であることをまだ理解していない。アベよ、勝てない戦争に参加するというおまえの無謀な決断のせいで、このナイフはケンジを切り裂くだけでなく、どこであろうとおまえの国民が発見されれば殺戮を続けるだろう。日本にとっての悪夢の始まりだ」と。

日本国民は、ISILよりテロ攻撃宣言を受けたわけである。現在、海外で生活している長期滞在の邦人は約84万人、うち中東とアフリカ地域に滞在する邦人は約1万5千人いる。次のテロが、中東に限らず、海外の日本人のいるところで行われる可能性がある。また日本国内で行われる可能性もある。日本人は自らがこうした状況にあることを認識し、団結してテロへの対応を行わねばならない。

日本国民は、今回の日本人人質殺害事件を通して、テロへの対応心得を学ぶ必要がある。

 1月20日人質事件発生後、池内恵東京大学准教授がイスラーム教過激派のテロへの対応において、基本的な点を書いた。今後のテロへの対応に関して、基本となるものであると思うのでここに掲載する。

 

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●池内恵氏のブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」

 

http://ow.ly/HFqEJ

「イスラーム国」による日本人人質殺害予告について:メディアの皆様へ

2015/01/20 20:55

 

(略)

(3)日本社会の・言論人・メディアのありがちな反応

 「テロはやられる側が悪い」「政府の政策によってテロが起これば政府の責任だ」という、日本社会で生じてきがちな言論は、テロに加担するものであり、そのような社会の中の脆弱な部分を刺激することがテロの目的そのものです。また、イスラーム主義の理念を「欧米近代を超克する」といったものとして誤って理解する知識人の発言も、このような誤解を誘発します。(略)

 

なお、以下のことは最低限おさえておかねばなりません。箇条書きで記しておきます。

 

*今回の殺害予告・身代金要求では、日本の中東諸国への経済援助をもって十字軍の一部でありジハードの対象であると明確に主張し、行動に移している。これは従来からも潜在的にはそのようにみなされていたと考えられるが、今回のように日本の対中東経済支援のみを特定して問題視した事例は少なかった。

 

*2億ドルという巨額の身代金が実際に支払われると犯人側が考えているとは思えない。日本が中東諸国に経済支援した額をもって象徴的に掲げているだけだろう。

 

*アラブ諸国では日本は「金だけ」と見られており、法外な額を身代金として突きつけるのは、「日本から取れるものなど金以外にない」という侮りの感情を表している。これはアラブ諸国でしばしば政府側の人間すらも露骨に表出させる感情であるため、根が深い。

 

*「集団的自衛権」とは無関係である。そもそも集団的自衛権と個別的自衛権の区別が議論されるのは日本だけである。現在日本が行っており、今回の安倍首相の中東訪問で再確認された経済援助は、従来から行われてきた中東諸国の経済開発、安定化、テロ対策、難民支援への資金供与となんら変わりなく、もちろん集団的・個別的自衛権のいずれとも関係がなく、関係があると受け止められる報道は現地にも国際メディアにもない。今回の安倍首相の中東訪問によって日本側には従来からの対中東政策に変更はないし、変更がなされたとも現地で受け止められていない。

 

 そうであれば、従来から行われてきた経済支援そのものが、「イスラーム国」等のグローバル・ジハードのイデオロギーを護持する集団からは、「欧米の支配に与する」ものとみられており、潜在的にはジハードの対象となっていたのが、今回の首相歴訪というタイミングで政治的に提起されたと考えられる。

 

 安倍首相が中東歴訪をして政策変更をしたからテロが行われたのではなく、単に首相が訪問して注目を集めたタイミングを狙って、従来から拘束されていた人質の殺害が予告されたという事実関係を、疎かにして議論してはならない。

 

 「イスラーム国」側の宣伝に無意識に乗り、「安倍政権批判」という政治目的のために、あたかも日本が政策変更を行っているかのように論じ、それが故にテロを誘発したと主張して、結果的にテロを正当化する議論が日本側に出てくるならば、少なくともそれがテロの暴力を政治目的に利用した議論だということは周知されなければならない。

 

 「特定の勢力の気分を害する政策をやればテロが起こるからやめろ」という議論が成り立つなら、民主政治も主権国家も成り立たない。ただ剥き出しの暴力を行使するものの意が通る社会になる。今回の件で、「イスラーム国を刺激した」ことを非難する論調を提示する者が出てきた場合、そのような暴力が勝つ社会にしたいのですかと問いたい。

 

*テロに怯えて「政策を変更した」「政策を変更したと思われる行動を行った」「政策を変更しようと主張する勢力が社会の中に多くいたと認識された」事実があれば、次のテロを誘発する。日本は軍事的な報復を行わないことが明白な国であるため、テロリストにとっては、テロを行うことへの閾値は低いが、テロを行なって得られる軍事的効果がないためメリットも薄い国だった。つまりテロリストにとって日本は標的としてロー・リスクではあるがロー・リターンの国だった。

 

 しかしテロリスト側が中東諸国への経済支援まで正当なテロの対象であると主張しているのが今回の殺害予告の特徴であり、重大な要素である。それが日本国民に広く受け入れられるか、日本の政策になんらかの影響を与えたとみなされた場合は、今後テロの危険性は極めて高くなる。日本をテロの対象とすることがロー・リスクであるとともに、経済的に、あるいは外交姿勢を変えさせて欧米側陣営に象徴的な足並みの乱れを生じさせる、ハイ・リターンの国であることが明白になるからだ。

 

*「イスラエルに行ったからテロの対象になった」といった、日本社会に無自覚に存在する「村八分」の感覚とないまぜになった反ユダヤ主義の発言が、もし国際的に伝われば、先進国の一員としての日本の地位が疑われるとともに、揺さぶりに負けて原則を曲げる、先進国の中の最も脆弱な鎖と認識され、度重なるテロとその脅迫に怯えることになるだろう。

 

 特に従来からの政策に変更を加えていない今回の訪問を理由に、「中東を訪問して各国政権と友好関係を結んだ」「イスラエル訪問をした」というだけをもって「テロの対象になって当然、責任はアベにある」という言論がもし出てくれば、それはテロの暴力の威嚇を背にして自らの政治的立場を通そうとする、極めて悪質なものであることを、理解しなければならない。

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●ヨルダン軍パイロット焼殺事件

 

2月1日の後藤氏の殺害映像の公開後、2月3日ヨルダン軍パイロット、カサスベ中尉が生きたまま火を付けられて殺害された映像が公開された。分析の結果、殺害されたのは約1か月前の1月3日と判明した。ISILは既に殺害した中尉を以て、リシャウィ死刑囚との交換を要求していたわけである。ヨルダン政府は、中尉の生存確認を求めていたのは、適切な対応だった。

カサスベ中尉焼殺とそれを含む映像は、それまでの映像が英語で世界に発信されたのに対し、アラビア語によるもので、アラブ諸国へのメッセージだった。中尉は米軍主導の空爆に参加し、アラブの同胞を殺害した裏切り者として扱われた。中尉の殺害は、欧米や日本等の異教徒ではなく、敬虔なムスリムを処刑するものであり、イスラーム教徒の反発を招く。また生きたまま焼殺するという方法は、アッラー以外に火あぶりの刑を認めないイスラーム法に反する。今回の殺害と映像の公開は、アラブ諸国を敵に回すことになり、逆効果となるだろう。ISILの内部でも反発が出て意見対立が起こるだろう。

エジプトにあるイスラーム教スンナ派の最高権威機関アズハルのタイイブ総長は、ISILが中尉殺害の映像を公開したことを受けて声明を出し、ISILの行為は「アラー(神)や預言者ムハンマドへの宣戦布告」と指摘し、「殺害、はりつけ、手足切断に値する」と訴えた。アズハルはイスラーム穏健派を代表する機関として知られ、イスラーム教徒に大きな影響力を持つという。これまでイスラーム教の宗教指導者は、ISILを非難する声明をあまり出してこなかった。最高権威機関が強い調子の非難声明を出したことで、世界各国に広がるISILへの同調者が考えを改めたり、ISILの構成員に動揺が広がったりすると予想される。

今回の映像を機に、これまでのアラブ対欧米の構図から、アラブ対アラブの構図へと変化する可能性がある。ISILとしては戦略的な誤りを犯したのであり、これが戦争の分岐点になるかもしれない。

ヨルダン政府は、カサスベ中尉殺害への対抗として、リシャウィ死刑囚の死刑を執行した。またISILへの報復を行うことを発表した。アブドゥッラー国王が自ら空爆に参加すると発表された。国王はヨルダン軍の特殊部隊のコマンダーの経験もあり、また攻撃ヘリのパイロットでもあるという。ヨルダン空軍は、2月5日から3日間集中的に空爆を行い、「復讐」を実行した。

ところで、イスラーム教の預言者ムハンマドが約1400年前、ISILの出現を予言していたとして、アラブ系の大衆メディアで話題になっていると伝えられる。それによるとムハンマドは「終末の日が近くなると、東から黒い旗を掲げた者たちがやってきて、“救世主”を名乗るだろう。しかし、彼らは救世主ではない。彼らは消滅する」との内容の予言を残したという。イスラーム教徒の有識者たちは大衆メディア上で、この「黒い旗を掲げた者たち」をISILと見立てた上で「悪魔だ」とし、預言者の伝承には「それを追う者たちは地獄に落ちる」とされていると強調して、ISILと距離を置くよう呼びかけているとのことである。

イスラーム教の内部での宗教的な権威の働きによって、ISILへの誤った賛同・協力を絶ち、またISILに終結したムスリムを悔悛させることが期待される。その一方、今後、ISILにとって形勢が悪化すると、行動が一層過激化する可能性がある。また、ISILを支持し、これに呼応する者が各国で行動を起こす可能性もある。報道によると、米国のテロ情報分析会社インテルセンターの調査では、ISILにつながる過激派のネットワークは少なくとも15カ国29組織に達しており、ISILに呼応したテロの危険性が高まっているという。ISIL系の過激派組織は、中東・北アフリカ各地のほか、南アジアのインドやパキスタン、アフガニスタン、東南アジアのフィリピンやインドネシアにも存在する。それぞれの組織がどの程度、ISILとのつながりを持つかは不明だというが、こうした傘下組織はISILに参加する戦闘員の供給源にもなっていると見られる。
 ISILは、欧米主導の国際社会における国境を否定し、自分たちに従属する者が活動する土地を「領土」と宣言している。ISILは、各国における傘下組織の存在を理由に、過激派武装組織が支配する地域を自称「イスラーム国」の「州」と勝手に主張し始めている。
 ISILは、自称「イスラーム国」であるが、独立主権国家ではないから、仮に有志連合の攻撃によって弱体化しても、政府が国家として降伏することはない。仮に空爆で最高指導者のバグダーディを殺害または致命傷を与えたとしても、別の指導者が継続して報復戦を行うだろう。本質は過激派の組織ゆえ、根拠地が縮小してもテロを続けるだろう。これに、各国のISIL系の過激派組織が連携してテロを起こす。それが広がれば、世界各地でテロが頻発し、地上のいたるところが修羅場のようになっていく恐れがある。これは、人類にとって平和と繁栄を脅かされる事態である。国際社会は固く協力して、国際秩序の維持に努めなければならない。
 2月1日ISILが日本国民に対して発したテロ攻撃宣言は、極めて独善的かつ激しく狂信的である。破壊衝動、殺戮願望に取り憑かれた異常な集団心理の表現と思われる。わが国は、仏教やヒンズー教の教えと全くかけ離れた思想でテロを正当化したオウム真理教の事件を経験している。宗教的な文言によって破壊・殺戮を説く指導者と、それに同調して集合し、サリンを撒くなどして無差別大量殺人を行う者たち。私はISILにオウム真理教と同じ異常心理を感じる。人間の心の中に潜む悪魔性が活動しているとも言える。オウム真理教は、核兵器の開発をも策謀していたようである。今後、ISILが核兵器、生物兵器、化学兵器を入手し、無差別大量殺人テロを行うことを警戒する必要がある。ページの頭へ


関連掲示
・拙稿「日本赤軍の重信房子・よど号犯とオウム真理教の危険なつながり

第3章 わが国政府の日本人人質事件への対応

 

●わが国の政府の対応への評価

 

1月20日ISILのテロリストが日本人を人質にし、日本国政府に脅迫を行ったのは、日本人に恐怖を与えて国内を分裂させたりする狙いがあったものと考えられる。わが国の国民は、おそらく彼らが狙った以上に分裂の相を呈した。国民が一致団結してテロに立ち向かわねばならない状況において、一部の政治家は政府の対応を批判し、政争の具としようとした。テロリストを利するような情報を流した政治家もいる。一部のメディアは、ISILよりも自国政府を批判し、テロリストに同調するような報道をした。現行憲法は、GHQが日本人の団結力を弱め、国内が分裂するように目論んだものだが、その効果が今回ほどあからさまに現れたことは珍しい。

安倍首相が1月17日エジプトでの演説で用いたISILと戦う周辺諸国への人道的な援助をめぐる表現がテロを誘発したという批判が起こった。だが、そもそも中東周辺で日本人がテロリストに誘拐されたり、人質にされたり、殺害されたりすることは、今回が初めてではない。11年ほど前から繰り返し起こっている。2004年(平成16年)4月、イラク戦争で治安が悪化していたイラクでフリーライターの今井紀明氏ら3人がバグダードで誘拐され、武装勢力はサマワに駐留していた自衛隊の撤退を要求した。現地の宗教者らが武装勢力側に働きかけて、3人は8日後に解放された。同年10月、バグダードで旅行中の香田証生氏が誘拐され、アルカーイダ系とみられる犯行グループが自衛隊の撤退を要求し、香田氏は殺害された。2010年(平成22年)4月、アフガニスタンで、ジャーナリストの常岡浩介氏は武装集団に誘拐され、約5カ月後に解放された。2013年(平成25年)1月、アルジェリアの天然ガス施設をアルカーイダ系とみられる武装組織が襲撃し、多数の外国人を人質にとり、仲間の釈放などを要求した。アルジェリア軍が制圧作戦を強行し、プラント大手「日揮」の日本人10人を含む人質40人が死亡した。安倍首相の演説の文言が、初めて日本人を人質にする事件を引き起こしたのではない。

また今回の事件で日本人2名は、安倍首相が中東を歴訪している間に人質になったのではない。湯川氏は昨年(2014年)8月に拘束されており、後藤氏はその救出としてISILの勢力圏に入った。そして後藤氏も昨年10月に拘束されたものと見られる。ISILは彼ら2名を利用するタイミングを図っていたのだろう。安倍首相が中東歴訪をして政策変更をしたからテロが行われたのではなく、首相が訪問して注目を集めているタイミングを狙って、人質を利用して宣伝工作を行ったのである。

 人質事件で国内の意見が分裂するなか、元外交官で中東情勢に詳しい宮家邦彦氏は、本年2月2日の産経新聞の記事で国民を啓発する、次のような発言をした。

「今回の事件は、湯川遥菜さん、後藤健二さん2人だけに向けられたものでなく、日本人、日本国全体に対する挑戦だ。日本が好むと好まざるとにかかわらず、『イスラーム国』は、日本を敵と思っている。善意や誠意が通じるような相手ではないことがよく分かったはずだ。

 今回の事件を安倍晋三首相の中東での演説と結びつけ、『演説がなければ、2人に危害が加えられるようなことにはならなかった』と主張している人がいるが、事件と演説は関係がない。人質はすでに昨年の時点でとられていたのであり、演説をきっかけに日本人がターゲットになったのではない。だから日本は内輪もめなどをしている段階ではない。

 今こそ一致団結して次のテロ行為を防ぐために根本から考え方を変えなければならない。

 現在、ISILは収入源の原油が売れなくなり、有志連合による空爆を受け、イラク正規軍から反撃をされ、追い詰められてもいる。だからこそ何でもやってくる恐れがある。

つまるところ、彼らの最大の目的は、戦闘を続けることだ。身代金や女性死刑囚らの釈放要求は、その手段にすぎない。

 戦闘にはメディアを使った戦争も含まれる。残忍な動画を使って、敵に最大限の衝撃と動揺を与え、対イスラーム国の連携を間接的に分断させようとする。力のデモンストレーションでダメージを与え、米国に協力させないようにするのだ。しかし、ここで屈したら相手の思うつぼだ。

 最近、東南アジアの国を訪れる機会があったが、要所要所での車両チェックなど、日本より対テロのセキュリティーがしっかりしていた。日本もこれを機にグローバルスタンダードのセキュリティーを考えていく必要がある」と。

宮家氏は安倍晋三首相の中東歴訪の際の演説は人質事件とは関係がないと断言している。この点は、中東問題の専門家、池内恵(さとし)・東京大学准教授が、厳密な検証を行った。池内氏は、安倍首相が演説で用いた表現が適切であったか否かにつき、ISILがどう受け止めたかという点に絞って検証している。

池内氏は、ISILが安倍首相の発表した中東諸国支援、特にISIL周辺諸国への支援が非軍事的であることを認識していることは、1月20日の第1回の脅迫ビデオで明瞭にされているという。

池内氏は、そのビデオの冒頭の部分について、「きちんと脅迫ビデオを見れば、アラビア語と英語がある程度できれば、問題は簡単過ぎるほど簡単に解ける。最初の10数秒で答えは出てしまうのである」と言う。具体的には、次のように述べている。「右上の記事タイトルはアラビア語で『安倍が“イスラーム国”との戦いを非軍事的支援で支える』となっています」「重要なのは、『イスラーム国』が意識的に付けた英訳で『Non-Military(非軍事的な)』と明記されていることです。『イスラーム国』が情報収集に使うアラビア語や英語のメディアからの情報を正確に受け止め、安倍首相が発表した支援策が『非軍事的な』ものであることを認識していることが明瞭になっています。安倍首相が『イスラーム国』周辺諸国に2億ドルの軍事援助を行うと誤解されたからテロの対象になったのではなく、2億ドルが非軍事的援助であることを『イスラーム国』が明確に認識していながら、なおも日本・日本人をジハードによる武力討伐の対象としたと宣言した、ということがここから明らかです。そうであるがゆえに事態は深刻なのです」と池内氏は言う。

すなわち、ISILは日本の2億ドル援助は「非軍事的」であると認めており、日本が軍事的になったからISILに狙われたとする批判は、根拠がない。非軍事な支援であっても日本をジハードの対象とする、というのが脅迫の趣旨なのである。

 

 安倍晋三首相の中東歴訪の際の演説は、人質事件を惹起したのではない。この点について、在京アラブ外交団代表のシアム在京パレスチナ常駐総代表は、安倍首相の支援表明について「まったく挑発したとは思わない」と擁護し、ISILのテロは安倍首相が原因ではないと述べている。

 ヨルダン政府は、日本人人質の解放のため、様々な努力をしてくれた。2月3日の産経新聞の記事は、アンマンで同紙の取材に応じたヨルダン下院のバッサム・マナシール外交委員長とハビス・シャビス議員の発言を伝えた。マナシール委員長は、ISILが後藤さんの解放条件を身代金要求からヨルダンで収監中のサジダ・リシャウィ死刑囚の釈放に切り替えた理由については、その数日前にISILがイラクで拘束されている幹部らの奪還作戦に失敗していたと指摘した上で、「求心力を取り戻そうと、関係のない日本人の人質と死刑囚の交換を思いついた。論理破綻しており、本気ではない。信用に値しなかった」とした。また、「周辺地域の中では民主的で安定しているヨルダンに混乱を起こし、つけいる機会を狙われた」と分析し、安倍晋三首相の訪問に際して「親密な両国の分断を狙ったゲームをしかけられた」と訴えた。

 また「ISIL側の窓口が一定せず、交渉がまとまらなかった」とし、「日本には本当に申し訳ない」と謝罪した。その上で、「ISILに金も何も渡さなかった日本の決断を尊敬する。渡しても奪われるだけで、交換はなかった。安倍首相は賢い」と述べ、「日本とヨルダンの友好関係はむしろ強まった。日本は今回の悲劇にめげず、一緒に立ち向かい続けてほしい」と述べた。

シャビス議員は「私たちは下院議員として、エンスール首相出席の下、ISILとの間で行われた解放交渉についてヨルダン政府から説明を受けた」とし、「政府が可能なかぎり、すべてのルートを駆使してできることはすべて行ったと、私は確信している」と述べた。

 しかし、「交渉先のISILは国連に加盟した正式な国家ではない。従って、国際法など法規を順守するとは考えられない。もし、法規違反があっても、われわれは彼らを罰することができない」と説明した。また、「日本は常にヨルダンの親友だ。緊密な経済的、政治的結びつきがあり、日本はインフラ整備などあらゆる機会に、ヨルダンを支援してくれてきた」とし、「ISILは日本とヨルダンの信頼関係を破壊することで、両国民に圧力をかけ、世論を使ってそれぞれの政府にISILを攻撃する有志国やその支持国(という立場)から引き揚げさせようとしている。しかし、それはうまくはいかない。日本とヨルダンは常に親友だからだ」と強調した、と報じられた。

 わが国には、後藤健二氏がISILの支配地域に行き、拘束され人質になったことについて、政府が後藤氏のシリア渡航を留めなかったとして非難する意見もある。この点については、外務職員が後藤氏に対し、昨年(2014年)3回にわたってシリアへの渡航を見合わせるよう直接要請したが、翻意させるには至らなかったことが分った。

 外務省は2011年(平成23年)4月にシリア全土に「退避勧告」を発出した。後藤氏の渡航計画を把握した同省は昨年9月26日に後藤氏に電話し渡航中止を要請した。10月3日にも後藤氏の入国を知って電話で即時退避を求めた。また帰国後の同月14日には職員が面会して再び渡航しないよう注意喚起した。だが、11月1日に後藤氏の家族から、連絡が取れなくなったと通報があったという。

政府による退避勧告に強制力を持たせるべきだとの意見も一部にあるが、憲法22条が保障する「居住、移転の自由」との兼ね合いがあり、渡航を禁止することはできない。最終的に政府から退避勧告を受けながら、なお危険地域に行くのは、本人の自己責任である。そのような個人の行動によって、国家が振り回される脆弱な日本の体質を変える必要がある。

 振り返ると、わが国は、テロリストに譲歩し、誤った対応を繰り返した時期があった。欧米諸国が毅然とした対応をし、武力による人質奪還を実行するのに対し、わが国は極めて弱腰の態度を示し、それがさらなるテロを招くという失敗をした。

初代内閣安全保障室長・佐々淳行氏は、過去のわが国の失敗について、次のように書いている。

「日本赤軍による一連の事件(よど号、ドバイ、シンガポール、スキポール、クアラルンプール、ダッカなど)のうち、ダッカ(バングラデシュ)を除く事件を警察庁警備局外事課長として事件処理にあたった。よど号事件からスキポール事件までの間、身代金を支払ったことは一度たりともなかったし、獄中の赤軍派などのテロリストらをひとりも釈放していない。しかし、クアラルンプール事件とダッカ・ハイジャック事件では、三木武夫・福田赳夫2人の自民党の首相や自民党の閣僚によって、国家レベルの人質誘拐身代金事件において独立主権国家にあるまじきテロリストへの妥協と屈辱的な譲歩がなされた。一つは、獄中の赤軍同志である政治犯釈放(あさま山荘・三菱重工爆破事件)であり、もう一つは思想政治犯でない殺人犯の釈放であった。

『人命は地球より重い』という誤れる政治理念で11人を超法規的措置で釈放し、凶悪なテロリストを解き放ち、国際社会の信頼を著しく失った。加えて、ダッカ事件では犯人の600万ドルという巨額な身代金要求に対して、当時、日本国内には米ドル紙幣が200万ドル分しかなかったのに、相手の要求通り600万ドルにするために不足分の400万ドルをアメリカから緊急空輸した。そして、バングラデシュ国民の目の前で、600万ドルのキャッシュを赤軍に渡してしまったのだ。

 その結果、バングラデシュ国民の激しい批判を浴びて、軍によるクーデタを起こされてしまった。空軍司令官は空港管制塔で反乱軍によって暗殺された。

釈放時に日本はパスポートを発給し、勾留中の作業手当まで支払ったという。まさに盗人に追い銭であった」と。

今回の人質殺害事件における安倍内閣の対応は、過去の政権の失敗を教訓とした毅然としたものだった。そのことが高く評価されるべきである。

 

●ISILに関するわが国の国会決議と国連安保理決議

 

わが国の一部には、ISILに対するわが国政府の対応を批判し、人質2名が殺害されたことを安倍首相の責任だとまで非難する者がいるが、まったく間違った見方である。そうした政府批判は、逆にISILの蛮行を免責し、テロリズムを助長することになる。

 2月5日衆院本会議はISILの日本人人質殺害事件について「非道、卑劣極まりないテロ行為」で「断固として非難する」との内容の決議案を全会一致で採択した。決議は「テロはいかなる理由や目的によっても正当化されない」として「わが国と国民は決してテロを許さない姿勢を堅持する」と強調し、政府に対し、中東・アフリカ諸国への人道支援の拡充や、邦人の安全確保対策の充実を求めるとともに、国際社会との連携強化を要請。「ヨルダンをはじめとする関係各国がわが国に対して強い連帯を示し、解放に向けて協力してくれたことに深く感謝の意を表明する」とした。

 同決議案は、6日参院でも採択された。その際、「生活の党と山本太郎となかまたち」の山本太郎共同代表は、決議の採択を欠席した。山本氏はこれまでツイッターで人道支援の中止を求め、記者会見では事件の原因を「安倍晋三政権の外交政策の失敗」と述べていた。「生活の党と山本太郎となかまたち」は、小沢一郎氏と山本氏が合体して作った政党である。山本氏、小沢氏は日本の国会議員として極めて問題のある政治家である。別の拙稿に詳しく書いた。

 国際社会では、国連加盟国を中心として、ISILに対して厳しい対応をしている。国連安全保障理事会では、常任理事国の米国とロシアがそれぞれ働きかけて、ISILへの資金流入阻止に向け、人質の身代金支払いを拒絶するとともに、イスラーム国支配地域の原油や古美術品を購入しないよう各国に求める国連安全保障理事会決議案を2月13日に全会一致で採択した。

身代金支払いについては、昨年(2014年)1月の安保理決議で禁じられているが、順守されていないのが実情だった。今回の決議は、改めて各国に支払い拒絶を徹底させる内容となっている。原油については、昨年7月の安保理議長声明で不法購入しないよう各国政府に促していた。今回の決議で購入禁止を正式に義務付けた。シリアのアサド政権やトルコの一部勢力等がこれまで、原油を不法に購入していたと伝えられる。

こうした決議を国連加盟国が一致して実行することで、ISILを経済的に追い詰めていくことが期待される。ページの頭へ

 

関連掲示

・拙稿「参議院議員・山本太郎氏の黒い背後関係

・拙稿「闇の財テク王・小沢一郎の不正・不敬・横暴

 

第4章 深刻化する中東の事情

 

●日本人人質事件で日本に協力したヨルダンの事情

 

ISILからテロ攻撃宣言を受けた日本国民は、ISILを取り巻く中東諸国の事情について、知識を深める必要がある。ISILが勢力を広げる当事国のイラク、シリアについては、別に書いたので、ここでは他の国と民族について書く。

わが国は、ISILによる日本人人質殺害事件で、ヨルダンの協力を得た。ヨルダンについて、中東現代史が専門の臼杵陽(うすき・あきら)・日本女子大教授は、2月4日カサスベ中尉が焼殺された映像が公開された後、次のように述べている。

 「イスラム国が、中尉の拘束をもとに本格的な攻撃対象にした穏健親米国のヨルダンが崩れれば、次にイスラム国はイスラエルへの攻勢を強めるはずだ。イスラエルまで巻き込まれる事態に陥ると、中東地域の更なる混乱、長期にわたる不安定化につながる。ヨルダンは、イスラム国の攻勢を食い止める『最後の砦』であり、国際社会は支援を強化する必要がある」と。

ISILにとって、彼らの戦いは米欧の西洋文明に対する戦いとして、アラブ諸国をはじめ世界各国のイスラーム教徒の一部に共感を呼んできた点がある。だが、今やアラブ諸国の多くが米国をはじめとする有志連合に加わり、ISILは劣勢に陥っている。カサスベ中尉の焼殺は、多くのイスラーム教徒の反感を買った。こうした状況でISILがもう一度イスラーム教徒の共感を起こし得るとすれば、イスラエルへの反感を呼び起こすことだろう。そのために、今後、ISILがイスラエルへの攻撃を行い、イスラエルを挑発して、アラブ対イスラエルという対立構図を生み出そうとする可能性はあると思う。

米国の中央情報局(CIA)及び国家安全保障局(NSA)の職員だったエドワード・スノーデンは、2013年NSAによるインターネットと電話回線の国際的な傍受を暴露したことで知られる。スノーデンは、ISILは米国・英国・イスラエルの諜報機関が作って、支援しているという説を唱えている。発言の真偽は不明だが、反政府運動を育成・支援することはアングロ=サクソン・ユダヤ勢力の常套手段である。その育てた組織が独自の意思で動くようになり、コントロールできなくなることもまたしばしば起こることである。

ISILと周辺諸国の関係で現在、注目されるのが、ここで注目されるのが、臼杵氏のいうところのヨルダンの重要性である。ヨルダンは、イスラエル、パレスチナ暫定自治区、サウディアラビア、イラク、シリアと隣接しており、中東の心臓部ともいえる地政学的位置にある。首都はアンマンである。中東の国ではあるが、石油は少量しか産出していない。経済は、リン鉱石やカリ鉱石の輸出、海外からの送金等に多くを負っており、米国・日本・EU等の財政支援なしには、国力を維持できない。最大の援助国である米国の意向を無視することはできない。

 山之内昌之氏によると、ヨルダン国家の住民は、4つの要素から成っている。第1は、ハーシム家の伝統的な藩屏たるヒジャーズ出身のアラブ人とチェルケス人などカフカース出身者。第2は、ヨルダン王国の建設以来、ハーシム家に忠実なヨルダン川東岸の部族に由来する住民。第3は、人口の7割に近いパレスチナ人。第4は、イラク人難民40万に加え70万のシリア人難民である。

「特にパレスチナ人と難民の存在が、人口630万の国に相当数の難民が流入し、王国の設立に利益のなかったパレスチナ人が多数を占める国家統合の難しさは、アブドゥッラー国王ならずとも想像を超えるものだ。死活なのは、国内で民主化要求を強めるパレスチナ人の圧力を宥めながら、『次はリヤド』と呼号していたISの戦略的目標を『次はアンマン』と言わせないために内政を安定させることだ」と山之内氏は言う。

リヤドは、サウディアラビアの首都である。ISILは内政不安定な国を狙って戦略的にテロを行っている。ヨルダンの首都アンマンはISILの戦略的目標とされかねない。こうした事情にある国、ヨルダンがISILへの空爆に参加し、空爆への報復としてカサスベ中尉を焼殺され、これに対して復讐の空爆を行うという深刻な関係になっているのである。

 

●地上戦で活躍するクルド人の独立への動き

 

イラクでの掃討作戦は、米軍などの有志連合軍が空爆や情報収集、イラク軍への作戦計画支援などを担い、地上戦をイラク政府軍とクルド自治政府(KRG)の民兵組織「ペシュメルガ」が遂行している。有志連合にとって、高い士気を保つKRGの地上部隊は必要不可欠な戦力となっている。

ISILに対する戦いにおいて、オバマ大統領は空爆開始時点から地上戦闘部隊を派遣しない方針を繰り返し表明してきたが、いまだかつて空爆だけで、国際テロリスト組織を殲滅できたことはない。地上部隊投入は時間の問題と見られたが、本年(2015年)2月11日オバマ大統領は、ISILの壊滅に向け、武力行使に関する大統領権限を容認する決議案を米議会に送った。米軍や有志連合の兵士の捜索・救難作戦、ISIL指導者に対する特殊作戦、空爆目標を選定して精度を上げるための情報収集などを目的に、限定的な地上部隊の派遣に道を開く内容である。ただし、長期にわたる大規模な地上戦力は投入しないことを明言している。

今後も地上戦で重要な役割を果たすクルド人は、イラクの人口の約15%を占め、独自の宗教を持つ。クルド人は「国家を持たない世界最大の民族」といわれる。イラク、トルコ、イラン、シリアにまたがって居住し、民族全体では2000万人以上いるとされる。

米国は長くイラクの一体性を主張してきたが、オバマ大統領はISILに対抗するクルド支援の必要性に寄せて、イラクと別にクルドの名を明示的に挙げるようになった。有志連合による空爆は、不活発なイラク政府のためよりも、クルド人地上部隊のためとなっている。

KRGは、イラク軍とISILの戦いの合間を突いて、勢力圏を広げている。KRGは、ISILとの戦いへの貢献をもとに、今後独立を宣言する機会をうかがっていると見られる。現在のところは自治区からの石油輸出を開始するなど、財政的な自立を大きな目標としているものの、歳入の大部分はイラク中央政府からの予算配分に頼っており、経済的な基盤が弱い。

だが、条件が整ってKRGがイラクからの独立を宣言すれば、各国のクルド人がこれに呼応するだろう。すでに2012年(平成25年)夏に、シリアのクルド人地域(ロジャヴァ)は事実上の自治を獲得している。ISILがKRGとロジャヴァを攻撃したことにより、対立していたシリアとイラクのクルド人は共通の敵と対決する必要性を感じるようになった。この機運は、イラン、トルコのクルド人に広がった。イランのクルド民主党の部隊は、KRG国防省の指揮下にあるアルビルの南西地域に派遣され、トルコのクルド労働者党とそのロジャヴァの直系組織たる人民保護軍は女性も含めてシリアとイラクでISILと戦っているという。

こうした展開がされてきている中で、KRGがイラクで独立を宣言すれば、その動きは、シリア、イラン、トルコのクルド人地域に及び、中東情勢は一段と複雑化するだろう。

 

●ISIL支配地域と隣接し、国内にクルド人を抱えるトルコの立場

 

 トルコは、ISILの支配地域に隣接する国であり、イラク、シリア等と国境を接している。トルコは中東で最も親日的な国である。1890年(明治23年)9月16日和歌山県串本町沖で遭難した軍艦エルトゥールル号の乗組員を住民たちが救出した。トルコではこのことが語り継がれ、教科書に掲載されて教えられている。1985年(昭和60年)イラン・イラク戦争においてイラクのサッダーム・フセインが、イラン上空の航空機に対する期限を定めた無差別攻撃宣言を行った際、トルコは特別機を出して、テヘラン空港から日本人を救出してくれた。エルトゥールル号の遭難の際に受けた恩義への恩返しとしての行動だった。このようなつながりにより、わが国はトルコと厚い友情で結ばれている。

 さて、現在トルコのエルドアン政権は、ISILへの対応と対ISIL戦で存在感を増すクルド勢力への対応に苦慮している模様である。トルコ政府としては、ISILとの全面対決は避けたい。有志連合に加わっているが、軍事面では関与しないとし、ISILとの全面対決は避けている。900キロに及ぶトルコ南部の国境から過激派が侵入するのを阻止するのは困難であり、強硬措置を取ればテロによる報復を受け、治安が悪化する恐れがあるという事情がある。

この一方、イラクやシリアでクルド人が勢力を伸長することは、国内に多くのクルド人がいるトルコにとっては、別の懸念材料である。シリアのクルド人が、イラク北部のクルド人のように独立国家に近い自治区を作れば、トルコ南部に多いクルド人の分離独立機運が高まる可能性がある。トルコでは、非合法組織のクルド労働者党が分離独立を求めてテロを展開してきた歴史がある。また、トルコではクルド人は「山岳トルコ人」と呼ばれ、アイデンティティーを否定する政策がとられてきたので、潜在的に深い対立感情がある。

エルドアン大統領は、強権的な指導力を背景にクルド勢力との和解を進めているが、ISILに対する立場の違いから、いずれ衝突に至る危険性がある。イラクでのクルド自治政府による独立への動きが活発化すれば、トルコ国内のクルド人がこれに呼応し、それによって、トルコ政府とクルド人独立派の対立が、中東に新たな不安定要因を加えることが予想される。

トルコは1923年のトルコ革命以後、政教分離がされ、世俗化と近代化が進められてきた国である。EUはトルコの加盟申請を検討しているが、トルコの南方にはイラクがあり、シリアがある。そこではISILが勢力を広げており、トルコからその周辺諸国にはクルド人が居住する。EUがもしトルコの加盟を許可すれば、中東のイスラーム教内の対立・抗争、アラブ民族と他民族の対立・抗争を、ヨーロッパ大陸に呼び込むことになるだろう。

 

●サウディアラビアの王位交代とイエメンのクーデタの関係

 

日本人人質事件が起こった3日後の1月23日、親米的なサウディアラビアでアブドゥッラー国王が死去し、サルマーン新国王が就任した。池内恵氏によると、サウディでは初代国王の息子(第二世代)が王位を継いできたが、ムクリン新皇太子で第ニ世代は終わる。その後、初代国王の孫の世代にどう引き継ぐかが過去10年以上問題になり続けてきており、答えは出ていない。サルマーン国王は就任早々、息子を国防相に任命、甥のナーイフ内相を次期皇太子に任命した。これに他の系統の王子が納得しているのかはかなり疑問とされる。「波乱の始まりとする見方は否定できない」と池内氏は言う。

サウディアラビアは、隣国イエメンの民主化過程の後ろ盾になってきた。サウディにおける王位交代はイエメンに影響を与えている。イエメンでは、2011年1月「アラブの春」と呼ばれるチュニジアでのジャスミン革命エジプトでの民衆革命等に影響を受けて、市民による反政府デモが発生した。この結果、サーレハ大統領が退陣し、ハディ副大統領が翌年2月の暫定大統領選挙で当選した。しかし、昨年(2014年)9月シーア派の過激派フーシー派が首都サヌアを占領し、本年(2015年)1月22日にはクーデタを起こし、ハディ暫定大統領とバハーハ首相を辞めさせ、政権が崩壊した。2月6日にはフーシ派が議会を強制的に解散し、暫定統治機構として大統領評議会を開設し、「憲法宣言」を発表した。これによって、2011年以来の移行期プロセスが崩壊し、国家そのものも崩壊の危機にある。イエメンのクーデタは、サウディにおける王位交代の隙を突いたものだろう。池内氏は「サウジの内憂と裏庭のイエメンの外患は連動している。そして、サウジが揺らげば、中東の混乱は極まる」と述べている。

サウディはスンナ派アラブの盟主を自任する。イエメンのフーシー派はシーア派の一派、ザイド派を信奉する。シーア派大国のイランはザイド派を支援している。サウディは、イエメンでイランが影響力を増すことを警戒するだろう。

2月15日国連安保理は、全会一致で、政府施設を制圧しているフーシー派に即座・無条件で権限を大統領・首相に戻すように要求する決議をした。ただし、決議を主導した湾岸協力理事会(GCC)の求めていた国連憲章第7章の軍事的強制力は盛り込まれなかったため、実力行使でフーシー派を排除する手段がない。これでは、犬の遠吠えである。

仮にイエメンに続いてサウディアラビアが揺らぐと、エジプト、チュニジア等にも、波紋が広がるだろう。この変動の中で、各国にいるISILの「下部組織」や同調するグループが過激な行動を広げていく恐れがある。中でも現在注目されるのが、リビアの動向である。

 

●リビアでのエジプト人殺害とエジプト介入の可能性

 

北アフリカでエジプトに隣接するリビアでは、2011年(平成23年)の「アラブの春」で内戦となり、NATO等の軍事介入で、カダフィー政権が崩壊した。その後、制憲議会が民選され、新たな議会が創設されて、シンニー首相が政権に就いたが、これに反発するアルカーイダ系組織を含む「リビアの夜明け」連合が独自に首相を擁立し、事実上の内戦状態にある。昨年(2014年)以降、イスラーム教勢力を中心とする軍閥とこれに対抗する勢力との戦闘が激化している。その中でISIL系の武装組織が勢力を拡大している。ISILは、イラクやシリアで国家権力の機能していない地域に狙いを定めて浸透してきており、リビアでも同様の動きを進めている。

ISILは、世界中のジハード戦士たちにリビアに集まるように呼びかけている。リビアには石油資源があり、ここを拠点とすることを狙っている。ISILは、既にリビアの首都トリポリからスィルトを含む広範なエリアを「タラーブルス州」と勝手に宣言している。

リビアには、経済状況の悪いエジプトからの出稼ぎ労働者が多い。2月15日ISILに忠誠を誓うリビアの武装組織が、昨年から人質にしていた出稼ぎエジプト人のコプト教徒21人を大量殺害する映像をネット上に公開した。人質は黒ずくめの戦闘員に首を切断された。コプト教はキリスト教の一派で、エジプトの人口の約1割を占める。エジプトのシーシー大統領は「適切な時期と方法で殺人者を罰する」と報復の意思を表明し、16日リビア東部のデルナ付近のISILの軍事拠点を空爆した。

エジプト人人質殺害は、エジプトへの挑戦であり、また少数派のコプト教徒を殺害することで、エジプト社会を分裂させる狙いがあると見られる。エジプトでは、2011年の「アラブの春」で独裁者ムバーラク大統領が辞任し、民主的な選挙でスンナ派のイスラーム教原理主義組織「ムスリム同胞団」を出身母体とするムルスィーが大統領になった。だが、2013年(平成25年)に軍事クーデタが起こり、ムルスィーは辞任に追い込まれた。大統領になった元国防相シーシーは、「ムスリム同胞団」のメンバー188人を死刑に処した。民主的に選挙された前大統領を辞任させ、「ムスリム同胞団」を弾圧する現政権への反発は根強い。

池内恵氏は、「最終的にリビアの安定を左右する力のある地域大国エジプトを標的にしていることの表れでしょう。『イスラーム国』は同時に、シナイ半島の『聖地エルサレムの護持者たち』を傘下に収めて、シナイ半島でのテロを活発化させています。両方からエジプトのスィースィー政権を揺さぶっているところが危険です」と述べている。

 池内氏は、また次のように述べている。「イエメンとリビアの無政府化が現在の中東情勢の焦点である。シリアとイラクは混乱しているが国際社会が取り組んでかろうじて封じ込めている。しかしここでリビアとイエメンが崩壊すると、対処する主体がほとんど無い。あるいは、サウジやエジプトなどが本格的に介入することを余儀無くされるかもしれない。その意味で中東全体のどうしようもなく不安定な積み木の最後の土台が引っこ抜かれるかもしれない、というところで注目を集めている」と。

中東のイスラーム教諸国が大きく動揺し、無政府状態に近い国や果てしない内戦の続く国が増えると、それによってさらにISILが勢力を伸ばすだろう。各国にまだら的にISILが支配する地域が広がり、各国政府軍、反政府軍、過激組織等が入り乱れて戦闘する。そうした状況において、過激なイスラーム教徒の一部がイスラエルへのテロ攻撃を活発化すると、ユダヤ教国対イスラーム教諸国という最大最凶の対立が再び現実になるかもしれない。

 

以上、ヨルダン、クルド自治政府、トルコ、イエメン、サウディアラビア、リビア、エジプトを主に書いたが、日本にとって、もはや中東情勢は遥か遠くにある別世界の事柄ではない。日本国民は、中東の動向は日本の平和と安全に直結している事柄であることを認識しなければならない状況に立たされているのである。ページの頭へ

 

関連掲示

・拙稿「アフリカと中東諸アラブ

  

5.テロ対応のためのわが国の課題

 

●テロに対応するための課題〜有識者の意見

 

日本国民はテロへの対応心得を学び、また深刻さを増しつつある中東情勢を踏まえつつ、1月20日のISILによるテロ攻撃宣言に対し、早急に具体的な対応課題への取り組みを進めなければならない。

 最初に有識者の意見を紹介し、その後、私見を書く。

元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、日本国民に対し、ISILとの戦いに勝たなければならないと説いている。

 「かつてソ連共産党が結成したコミンテルンは世界中の共産党を支部と位置づけ、全世界で共産主義革命を起こそうとしていた。イスラム国も同じだ。日本にもドイツにも、フランスにもイスラム国の支持者がいる。それが緩やかなネットワークでつながり、それぞれの国内でテロを起こさせ、世界イスラム革命を起こすことが彼らの目的となっている。

 日本とイスラム国との戦争はすでに始まっており、敵は日本国内にもいる。昨年にはイスラム国の戦闘員に加わろうとシリア渡航を企てたとして、北海道大学の男子学生らが家宅捜索を受けた。こうした法規違反に関し、日本政府は厳正に対処していくべきだ。

 日本国民は勝つか、消し去られるかという戦争をしている。この戦争には勝たないといけない。今回の事件にひるむことなく、中東支援を続け、イスラム国の壊滅に向けた行動を続けていくべきだろう」と。

 佐藤氏は「戦争」という語で何を意味しているか不明である。現在、わが国はISILと武力行使による国家間の闘争という狭義の戦争を行っていない。また、現代世界におけるテロとの戦いを広義の戦争と呼ぶとしても、それを「勝つか、消し去られるかという戦争」ととらえるのは、過剰反応だろう。私は、過剰反応に陥ることなく、世界的なテロの横行の時代における安全保障体制の強化を図るべきだと思う。

 そうした方向での意見として、まず初代内閣安全保障室長・佐々淳行氏は、首相直属の内閣情報宣伝局(仮称)の創設が必要だと説いている。

 「安倍晋三首相のテロへの際立って毅然とした陣頭指揮は高く評価される。オバマ米大統領をはじめとする先進諸国首脳との電話会談など、危機管理宰相として頼もしい限りだ。『極めて卑劣な行為であり、強い憤りを覚える』と怒りを露わにし、テロに屈しない国家であることを強く主張してきた」。

「『飛耳長目』とは、松下村塾の吉田松陰が大切にしていた言葉と聞く。山口は安倍首相の故郷である。遠く離れた地の情報を見聞きして収集するという意味の言葉で、内外の情報を収集する機関を表現するのにぴったりの言葉だ。

 しかし現実の日本には、首相直属の積極的情報機関がない。高度な情報能力を有する米CIAや英MI6、独BND、仏DGSE、イスラエル・モサドなどの情報機関に全面的にいつまでも頼っていてはいけない。今回の事件とアルジェリア事件で、首相直属の内閣情報宣伝局(仮称)の創設の必要性を思い知らされた」と。

 次に、元外交官で現在キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏は、セキュリティの強化、国際レベルの情報分析能力を備えた対外情報機関の創設、国家安全保障会議(NSC)と危機管理の分業体制の構築を提案する。

「今、日本人が考えるべきことは、この事件を政争の具とするのではなく、事件から正しい教訓を汲み取り、さらなる人質事件発生を未然に防ぐためにも、長年の懸案であった“宿題”を処理することではないか」

「第1は、先に述べたテロのグローバル化現象を踏まえ、日本内外の日本人・日本企業の安全確保について今一度再点検することだろう。今回の事件はシリア国内で起きたが、将来、これが東南アジアや日本国内で起きないとはもはや言えなくなったからだ。

 第2は、国際レベルの情報分析能力を備えた対外情報機関を、既存の官僚組織の枠の外に、早急に設置することだ。現在の外務・警察の官僚的発想だけでは、国際的に通用するインテリジェンス・サービスなど到底作れないと思う。

 第3は、国家安全保障会議(NSC)と危機管理の分業体制を改めて構築することではないか。今回のように邦人保護・危機管理と、国家安全保障が幾層にも交錯する事件こそ、オペレーションと政策立案実施を分けて立体的に実務を処理すべきだからだ」と。

次に、帝京大学教授・志方俊之氏は、安全保障法制の整備を提案する。

 「国家としての危機管理事案は、個人の拉致・監禁だけではない。集団として拘束され、関係国が軍事的に協力して救出する事案も考えておかなければならない」「自衛隊法には「在外邦人等の輸送(84条3)」という任務がある。輸送の任務に限って自衛隊の艦艇、輸送機、ヘリコプター、車両を派遣することができる」「現地には日本人だけで構成されている企業体などほとんどない。緊急退去を要するのは多くの国籍を持つ人たちである。港湾地区へ通ずる経路が3本あったとして、自衛隊がその1本の経路を警護して輸送し、他の経路を2つの関係国の軍隊が警護するケースは十分に起こり得る。集団的自衛権の行使が限定的にすら許されていない現行の法解釈では、自衛隊員の武器使用の『行動基準(ROE)』は極めて限られている。現場の自衛隊員は入隊時に宣誓した日本国憲法第9条を反芻しながら銃の引き金を引くことになる。国連平和維持活動(PKO)における『駆け付け警護』も同質の問題が起きる。二言目には『文民統制』と言う日本の政治は、今回の事件を機に明確な安全保障法制の整備をすべきだ」と。

 以上の各氏の意見に私は賛成である。

 

●テロに対応するための課題〜ほそかわの意見

 

私は、今回のISILの日本人人質殺害事件及びテロ攻撃宣言を機に、わが国は、世界的なテロの横行の時代における安全保障体制の強化を図るべきだと思う。

そのためのポイントは、先に引いた有識者の意見に述べられているが、私は情報の収集・分析の能力の整備、安全保障法制の整備、根本的な国家再建のための憲法改正、移民政策の見直しが重要だと思う。

 

まずテロとの戦いにおいては、情報の収集・分析が極めて重要である。わが国の情報の収集・分析の能力の整備については、まず各国大使館に派遣する防衛駐在官を増やして配置する国を増やす動きがある。これは即実行すべきである。防衛駐在官は自衛官であり、各国の軍人とその立場で交際し、情報を収集することができる。ただし、専門の外交官ではない。幅広く情報を集めるには、語学、知識、技術等に限界がある。

海外の情報の収集・分析には、専門の機関を作る必要がある。わが国は国家安全保障会議(NSC)を作り、その事務局はあるが、NSCが政策判断できるような情報を自前で得られるような体制になっていない。専門の対外情報機関がないためである。国家間にいて、情報は情報との交換で得るものと聞く。その情報を収集する専門家が必要であり、またその情報を分析する専門家が必要である。情報部門と分析部門は車の両輪となる。これらを合わせ持つ海外情報局または対外情報庁の創設が急務である。

 

 次に、安全保障法制の整備を行う必要がある。国民の生命と安全を守るために、安全保障関連法を全体的に整備することである。昨年(2014年)7月1日政府は、従来の憲法解釈を改め、集団的自衛権の限定的行使容認を閣議決定した。現在会期中の通常国会で、安全保障関連法である自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態対処法等の9つの法案が審議される予定である。

法制整備では、集団的自衛権を行使すべき事態の具体化、武力攻撃に至らない侵害である「グレーゾーン」事態への対処能力の強化等が目指されている。その中に、イスラーム教過激派組織等によるテロへの防衛能力を上げるための改正を加えるべきである。

今後、ISILのテロリストが、中東等の海外にいる日本人を誘拐・拘束することが考えられる。だが、現在の法制では、海外にいる日本人を自衛隊が救出することができない。また国内でもテロが行われる可能性があるが、自衛隊は外国の武装集団に対抗する際、防衛出動以外では国際法や慣習に基づく軍隊としての実力行使を行えない。武器使用は、警察官職務執行法が準用され、正当防衛や緊急避難などに限られる。相手から攻撃を受けた後でなければ武器使用を許されないのでは、重武装のテロリストに立ち向かえない。武器使用基準を改善すべきである。また、防衛出動の発令は、「わが国に対する武力攻撃が発生した場合」かつ「他国による計画的、組織的な武力攻撃」という条件が付いている。国家ではない過激組織のテロには、防衛出動ができない。これも改める必要がある。また、普通の国では、軍隊が国民を守り、不法な主権侵害行為を排除する「平時の自衛権」を持っているが、日本はこの国際標準の権限を行使できない。「平時の自衛権」を行使できるように、自衛隊法に領域警備と排除規定を盛り込めばよい。テロから日本及び日本人を守るため、安全保障法制の整備が急務である。

 

 次に、根本的な国家再建のために、憲法を改正する必要がある。この点については、様々機会に書いてきたので、ここでは簡単に書くが、そもそも独立主権国家として存立するためには、自分の国は自分で守るという体制が不可欠である。現行憲法は、その国防に規制を書ける内容となっている。これを改正しなければ、国家の独立と主権、国民の生命と財産を守ることができない。憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあるが、わが国を取り巻く中国・北朝鮮・ロシア等の国々を「平和を愛する諸国民」ということはできない。

そのうえ、現行憲法が制定された時には想定されていなかった国際的なテロリズムが横行しているのが、今日の世界である。ISILのテロリストは、「どこであろうとおまえの国民が発見されれば殺戮を続けるだろう」と日本国民にテロ宣言をしている。テロから日本及び日本人を守るためには、憲法の前文を書き直し、第9条に自衛権は自然権であり、その行使のための自衛隊を軍隊として位置付けることが必要である。またテロによる非常事態の発生、例えば原子力発電所の占拠、化学兵器の散布等も想定して、緊急事態条項の新設が必要である。

 

 次に、移民政策の見直しを行うべきである。私は、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」に、次のように書いた。

 「移民の隔離や排除でムスリムが原理主義化し、イスラーム教原理主義がヨーロッパ内部で活発化・増大化すれば、文明の『衝突』が各地で起こる。ハンチントンのいう地理的な文明の断層線(フォルトライン)ではなく、各地の都市の街頭や学校や住区で、「衝突」が起こる。集団と集団の接するところ、交わるところで起こる。こうして、ヨーロッパは混迷に陥るという将来像が浮かんでくる」「わが国には、少子高齢化、それによる人口減少への対応のために、移民を1000万人受け入れるべきだという主張がある。それをやったら悲惨な結果になることは、ドイツの例を見れば、明らかである。まして、地方参政権を与えれば、オランダの悲劇以上のことが起こるだろう。移民の多くが共産中国から流入し、移民の行動を中国共産党が指示するだろうからである。国家とは何か、国民とはどうあるべきものか、わが国はどういう外国人なら受け入れ、また国籍を与えるべきなのか。こうした問題を掘り下げて考えることなく、生産年齢人口、特に労働力人口の減少を、外国人労働者で埋め合わせようという発想は、安易かつ危険である」

 詳しくは、上記の拙稿をご参照願いたい。

 

以上、テロに対応するための課題として、情報の収集・分析の能力の整備、安全保障法制の整備、根本的な国家再建のための憲法改正、移民政策の見直しの4点を書いた。一刻も早くこれらの課題を実行することが、国民の生命と安全を守ることになると思う。国民が安心して日々生活でき、また海外でも日本人が活躍できるようにするには、日本人自身が問題意識を高め、協力してテロに対応することが必要である。ページの頭へ

 

■追記

2015.3.26

テロ対策においては、国民が精神をしっかり持つことが最も重要である。この点は補説の「今後の予測と対策」に書いた。

 

関連掲示

・拙稿「イラクが過激派武装組織の進撃で内戦状態に

・拙稿「憲法第9条は改正すべし

・拙稿「集団的自衛権は行使すべし

・拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題

 

補説 チュニジア博物館襲撃事件でテロ拡散の形勢

2015.3.26

 

●チュニスの博物館で外国人観光客が襲撃される

 

 本年(2015年)3月19日北アフリカの地中海岸にあるチュニジアの首都チュニスで、武装したイスラーム教過激派集団が国立バルドー博物館を訪れた外国人観光客を襲撃し、観光客21人が死亡した。うち日本人は3人が犠牲になり、他に3人が負傷した。

 この事件は、中東から北アフリカに広がるイスラーム教過激派の脅威を改めて突きつけた。わが国にとっても、本年1月20日のISILによる日本人2名殺害事件以後、いつどこでまた日本人がイスラーム教過激派テロリストによって襲われるかわからないという危険性が、早くも現実化した。ここまでの各種報道をまとめ、今後の予測と対策について書く。

 

 チュニジアはヨーロッパとアフリカの中継地点として栄えた歴史を持つ。温暖な気候でリゾート地としても人気を集めている。カルタゴ遺跡やエルジェムの円形闘技場などの世界遺産があるだけでなく、トズールなど南部の各地が映画「スター・ウォーズ」シリーズのロケ地となったこともあり、多くの観光客が訪れる。武装集団は、古代ローマ文明の遺物等で知られる同国随一の博物館を訪れた外国人観光客を襲撃した。

 実行犯は3人、うち2人は射殺され、1人は逃走中である。チュニジア政府は、「アンサール・シャリーア」による犯行という見方を発表した。アンサール・シャリーアは、厳格なイスラーム法解釈による原理主義的な統治を目指す過激派組織で、アラビア語で「イスラーム法の支援者」を意味する。チュニジアやリビア、イエメンなどに同名を名乗る組織があり、イスラーム教スンナ派過激組織ISIL(自称「イスラーム国」)やアルカーイダに忠誠を誓うグループもあるという。チュニジアでは2011年の「アラブの春」による独裁政権崩壊後に勢力を伸ばし、野党指導者暗殺などに関与したとされる。同国などからテロ組織として認定されている。

 ISILは、3月19日、インターネット上で音声による犯行声明を公表した。声明は、「十字軍と背教者どもを多数殺傷した」とテロの成果を誇示しつつ、「今日目の当たりにしたことは、最初の雨粒に過ぎない」として、新たなテロを予告した。アーネスト米大統領報道官は同日の記者会見で、犯行声明の真偽は「未確認」とした上で、事件が「罪のない市民に対する蛮行に及ぶISILの過去の手口と完全に一致している」と指摘し、警戒感を表明した。米CNNテレビは同日、チュニジアの過激派組織がISILに「忠誠」を誓うタイミングに合わせ、実行された可能性があるとの見方を伝えた。この一方、襲撃したグループは特定の組織のメンバーではなく、「ローンウルフ(一匹狼)」の寄せ集めではないかという見方もある。

 チュニジアの治安当局者の発表によると、実行犯2人が隣国リビアで軍事訓練を受けていた。リビアは内戦状態で政府が機能しておらず、多くの組織の武器調達ルートとなっている。ISIL系組織も存在する。

 

●チュニジアの政情と襲撃テロの狙い

 

 チュニジアでは、「アラブの春」の先鞭をつけて、2011年1月、民衆デモが高揚し、長年独裁政治を行っていたベンアリ政権が崩壊した。「ジャスミン革命」という。その後の議会選ではイスラーム教原理主義組織ムスリム同胞団系の政党アンナハダ(ナフダ党とも訳す)が躍進して、暫定政府の主導権を掌握した。だが、フランス統治時代の影響から世俗主義が根強いエリート層は、アンナハダと激しく対立し、2014年の大統領選で世俗派エリートの代表格であるカイドセブシが当選した。これによって、アンナハダの求心力は低下した。ただし、政権は大連立政権であり、イスラーム主義のアンナハダも与党の一角を占めている。

 政権移行は、選挙という民主的な方法で行われたが、現在の国家体制を支える世俗派とイスラーム教勢力の権力闘争が行われており、それが過激派の動向にも影響を与えていると見られる。民主化によって、独裁政権時代には厳しく監視されていた過激なイスラーム教勢力も活動の自由を得た。彼らは、アンサール・シャリーアなどの組織を結成し、国内外の組織と連携を深めてきたと伝えられる。こうした中で、今回の外国人観光客襲撃事件は起こった。

 イスラーム教過激派は、西欧発の現代国家を非イスラーム教的なものであり、破壊対象とする。今回のテロは、チュニジアの民主化を進める世俗派主導の政権への敵対心の表れとみられる。

 外国人観光客が襲撃されたのは、政権に経済的打撃を与える狙いからと見られる。外国人殺害は、国内権力の不安定化を達成するための手段だろう。外国人観光客の足が遠のくことは、外貨収入の大幅な減少に直結する。それによって政権を揺さぶることができる。

 チュニジアには観光以外に目立った産業がない。観光はかつてGDPの約7%を占めた経済の柱である。観光関連分野は約40万人の雇用を生み、同国全体の10分の1に達する。だが「ジャスミン革命」以降、外国人観光客数は減ったままである。革命前、人口約1000万人に対し観光客約700万人という水準を回復できていない。今回の事件は、そこに大きな打撃を与えるものとなるだろう。

 イスラーム教過激派の論理では、非イスラーム教的な政府を支える外国人観光客を殺害することは、ジハード(聖戦)として正当化される。同様の戦術は、イスラーム教過激派のテロが頻発した1990年代のエジプトでもみられ、97年にはルクソールで日本人10人を含む外国人60人以上が死亡した。

 国立博物館を訪れた多数の国々からの外国人観光客を無差別に射殺すれば、世界各国に事件が報道され、過激組織が注目を浴びる。それによって、過激派内での評価や地位を高めたり、戦士や資金を多く集められるという効果をもたらす。

 こうした狙いをもって、襲撃事件は行われたと考えられる。

 

●中東専門家の見方

 

 日本エネルギー経済研空所中東研究センター副センター長の保坂修司氏は、事件について次のように語っている。

 「チュニジア国内では過去1年余りをみてもテロ事件やテロリストの逮捕が頻繁にあった。日本人や欧米人が犠牲になっていなかったため注目されることが少なかったが、治安状況は安定からほど遠い。

 犯人がジハード(聖戦)を唱えるようなグループだとすると、何らかの形で混乱を起こそうと考えても不思議ではない。彼らは基本的に民主主義そのものを嫌悪し、選挙を経た民主的な体制がつくられることに反対しているからだ。

 外国人を標的にすることで西側メディアの注目を集め、自らの存在を内外に示したり、基幹産業である観光を標的にして政権や体制に打撃を与えたりする狙いがあったのかもしれない。

 一方、犯行にかかわった人物のなかにはリビアから入国した者がいるとの情報もあるが、そうであれば、より大きな中東全体の不安定化を背景に引き起こされたともいえる。

 チュニジアで最も強力なイスラーム教過激派組織とされるアンサール・シャリーアによる犯行であるならば、国内の反体制武装闘争から「イスラーム国」やアルカーイダのように欧米を標的とする活動に大きく戦術転換した可能性がある。その場合、いわゆるグローバルジハードの枠組みの中で捉える必要がある。今後、リビアからの勢力流入でチュニジア全体が混乱したり、さらには欧州に波及したりする恐れもある。特に北アフリカ出身の移民が多いフランス語圏に影響が出るだろう」と。

http://www.sankei.com/world/news/150319/wor1503190068-n1.html

 東京大学准教授の池内恵氏は、フェイスブックに次のように書いている。

 チュニジアでは「イスラーム主義を含む大連立で組閣している」「イスラーム主義のナハダ党は大統領選挙でも議会選挙でも次点(といっても大統領選挙では世俗主義・共和主義のマルズーキー候補を推して活発な選挙活動を繰り広げた)だったが、与党ニダー・トゥーニスの大連立内閣に入っている。イスラーム主義が排除されているわけでもなんでもない」

 「つけ込まれる隙がないように考えて必死にやっているチュニジアになおも絡んできているのが『イスラーム国』その他の武装集団」「『イスラーム国』はイラクとシリアで地歩を失いかけてから北アフリカ系の指揮官をリビアに戻し、拠点にしてチュニジアやエジプトに浸透しようとしている。アンサール・シャリーアの一部はそれに乗っかろうとしている」

 「チュニジア人で同名のアンサール・シャリーアをリビアで指揮している連中は『イスラーム国』との連携を狙っているようで、チュニジアで何か事件を起こして存在感を示そうとした可能性はある」

 「『イスラーム国』がチュニジアのテロで犯行声明。チュニジアのアンサール・シャリーアの少なくとも一部は『イスラーム国』の傘下入りしたと言うことなのではないかと推測される。これが正しければ、まだら状に、呼応、自発的参加によるフランチャイズ的な「イスラーム国」が広がっていくという現象かと思います」と。

https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi?fref=ts

 

●今後の予測と対策

 

 チュニジアからは約3000人がシリアに渡り、そのうちの多数がISILに参加している。3000人のうち500人ほどがすでに帰国したとされる。地元メディアでは1年以上前から帰還者のテロを警戒する声が高まっていたという。東側に隣接するリビアが内戦状態にあることなどから、戦士や武器の流入を防ぐことは難しい。カイドセブシ政権は今後、強権的な手法も含めたテロ対策に乗り出すだろうが、それによって追い詰められれば、過激派がさらなるテロ闘争に出る恐れもあると見られる。

 今回の襲撃事件は、欧米諸国に衝撃を与えている。米国にとっては、「アラブの春」による民主化が唯一成功しているチュニジアが不安定化することは、中東・アフリカ政策に大きな痛手である。東欧での民主化は、ロシアのクリミア併合でウクライナが内戦状態になっていることで、巻き返しに合っているが、これと合わせて、世界戦略に狂いをもたらす。また、欧州は1月のフランス風刺紙襲撃事件後、同月にフランス、2月にデンマークで連続テロが起きており、域内の対策強化に努めてきた。今回の襲撃事件では、域外で多くの出身者が犠牲となった欧州連合(EU)は、中東などの戦闘に参加した欧州出身の若者が帰国後にテロを起こすことへの警戒を高め、これへの対処のため、中東や北アフリカ諸国との協力を強化する方針を決めている。だが、地中海の対岸にある北アフリカが不安定化すると、その波は地中海からアルプスを越えて、ヨーロッパを浸食する恐れがある。特に内戦状態のリビアでは、ISIL系武装組織が台頭しており、混乱が続けば、同国が欧米に対するテロの「拠点」となり、地中海を渡る避難民に過激派が紛れ込んで欧州に侵入する恐れもあると見られる。

 世界的には、2000年代以降、活発を増すグローバル化は、ヒト、モノ、カネ、情報の流れを加速させているが、その動きはテロ組織をも利している。米国家情報長官室によると、世界で昨年(1〜9月まで)に起こったテロの件数は1万3000件、それによる死者数は3万1000人と、過去45年間で最悪となっている。この傾向に歯止めがかからない状態であり、「ホームグロウン」(自国育ち)のテロリストを含め、イスラーム教過激思想と過激派ネットワークの拡散、テロのリスクが増大している。

 わが国は、今回のチュニジア外国人観光客襲撃事件で、3人の死者と3人の負傷者という被害をこうむった。世界の現状を見れば、こうした事件が今後も続くこと、むしろ増加すること、その中で日本人の新たな犠牲者が出ることが避けられないだろうことは、火を見るより明らかである。

 テロ対策については、本稿の「5.テロ対策のためのわが国の課題」に書いた。そこに書いた対策を、国家の総力を挙げて実行すべきである。対策が遅れれば遅れるほど、また対策が甘ければ甘いほど、日本人の犠牲者は増加するだろう。

 1月20日のISILによる日本人殺害事件に関して、国会では野党からテロリストの身代金要求に応じようとしたり、事件を政権批判の道具にしたり、テロリストを擁護するような発言があったりした。マスメディアの多くも、これを煽るかのような報道を行った。国民にはメディアの報道によって、右往左往する様子が見られた。青少年の一部には、テロリストの残虐な殺害方法を真似して、殺人を犯したり、いじめを行う者も出た。テロリストは、人々を恐怖によって動揺させ、彼らの意思に従わせようとする。国家指導者をはじめ国民みなが自らの精神をしっかり持つことが、最も重要な対策となる。そのためにも、日本人は、自己本来の日本精神を取り戻すことが必要である。私は、日本の現状においては、とりわけ日本文明が生んだ独自の文化である武士道に現れた精神を学ぶことが強く求められていると思う。

 その理由は、現在の日本人は、敗戦後占領下で強行された日本弱体化政策の効果及び70年に渡って平和が続いてきたことによって、国防の意識が極端に下がり、自ら身を守るという意識と技術を書いているからである。敗戦後、米国は日本が再び米国および世界の脅威にならないようにすることを占領目的とした。日本弱体化は、軍事的弱体化だけでなく、精神的弱体化を行うものでもあった。精神的弱体化とは、日本人から日本精神を骨抜きにすることである。GHQは軍事的な武装解除だけでなく、精神的な武装解除を行った。日本人は精神的に骨抜きにされたことにより、日本人自ら日本を守るという国防意識を失い、押し付けられた憲法の改正も行えず、今日中国による侵攻やイスラーム教過激派のテロ等の危機に直面している。それゆえ、まず弱体化された精神の立て直しが必要である。それには、単に日本の伝統・文化・国柄という「文」の文化の復興だけでなく、日本精神の中にある「武」の文化の復興が行われねばならない。その「武」の文化の精髄が、武士道である。武士道の究極は、その文字が表すように「矛を止める」ことにあり、戦わずして勝つことである。

 日本の伝統に基づいて文武の両道を整えることは、軍国主義の復活を意味するものでは全くない。自衛権は自然権であり、どこの国でも国民は自ら国を守るのが当然の義務である。他国の侵攻を目的とする武力を持つ必要はないが、他国に侵されないだけの防備を持つことは、独立主権国家としての存立に不可欠の要件だからである。

 

関連掲示

・日本弱体化政策については、下記の拙稿をご参照下さい。

 拙稿「日本弱体化政策の検証

・武士道については、項目「武士道」の拙稿をご参照下さい。

 

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