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橋下「維新八策」は改訂版も未だ「?」

2012.7.29

 

<目次>

はじめに

第1章 「維新八策」改訂版はどうか

(1)「維新八策」改訂版の全文

(2)骨子版の欠点は大きく改善されず

(3)8つの方策はどう変化したか

第2章 「維新八策」各方策の検討

(1)統治機構の作り直し

(2)財政・行政改革

(3)公務員制度改革

(4)教育改革

(5)社会保障制度改革

(6)経済政策・雇用政策・税制

(7)外交・防衛

(8)憲法改正

結びに〜未だ国政を担うには不十分

 

 

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はじめに

 

 橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」は、平成24年(2012)7月5日次期衆院選の公約とする「維新版船中八策」の改訂版を公表した。

 私は、橋下徹氏と「大阪維新の会」について、今年(24年)5月に「橋下徹は国政を担い得る政治家か」をマイサイトに掲載した。以後も橋下氏の言動を観察してきたが、これまでのところ橋下氏の方に変化がなく、私の基本的な見方は変わっていない。

 橋下氏と「大阪維新の会」は、今年(24年)2月13日「維新八策」の骨子を発表した。それは骨子としても粗く、羅列的なものだった。また会の内部の議論が流動的なようで、骨格がよく見えず、私は上記の拙稿では細かい論評を控えた。約5か月を経て発表された改訂版は、それなりに議論が重ねられ、骨子は固まり、さらに肉づけがされたものなのだろうと思う。そこで、この機会に私見を述べることとした。

 

1章 「維新八策」改訂版はどうか

 

(1)「維新八策」改訂版の全文

 

 最初に「維新八策」の骨子版及び改訂版の全文を示し、次に、その内容について検討したい。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●「維新八策」骨子版

 

〈維新八策の目的〉

 

・決定でき、責任を負う民主主義

・決定でき、責任を負う統治機構

・自立する個人

・自立する地域

・自立する国家

・日本の一人勝ちの時代は終わった

・今の日本のレベルを維持するには国民総努力が必要

・国全体でのオペレーションから個々の創意工夫による活性化

・現役世代の活性化

 

(1)統治機構の作り直し

・国の仕事を絞り込む=国の政治力強化

・内政は地方に任せる=地方・都市の自律的経営に任せる

・被災地復興は、被災地によるマネジメントで→復興担当大臣などは被災地首長

・国家の面的全体運営から点と点を結ぶネットワーク運営

・中央集権型から地方分権型へ

・国と地方の融合型から分離型へ

・地方交付税の廃止

・自治体破綻制度

・税源の再配置

・国の仕事は国の財布で、地方の仕事は地方の財布で=権限と責任の一致

・地方間財政調整制度=地方共有税制度の創設

・地方間で調整がつかない場合に国が裁定

・都市間競争に対応できる多様な大都市制度=大阪都構想

・道州制

・首相公選制

・参議院改革→最終的には廃止も視野

 参議院議員と地方の首長の兼職=国と地方の協議の場の発展的昇華、衆議院の優越の強化

 

(2)財政・行政改革

・プライマリーバランス黒字化の目標設定

・国会議員の定数削減と歳費その他経費の削減

・国会改革=役人が普通のビジネス感覚で仕事ができる環境に

・首相が100日は海外へ行ける国会運営

・政党交付金の削減

・公務員人件費削減

・大阪方式の徹底した究極の行財政改革を断行

 

(3)公務員制度改革

・公務員を身分から職業へ

・価値観の転換

・安定を望むなら民間へ、厳しくとも公の仕事を望むなら公務員へ

・大阪式公務員制度改革を国に広げる

・外郭団体改革

・大阪職員基本条例をさらに発展、法制化

 

(4)教育改革

・格差を世代間で固定化させないために、最高の教育を限りなく無償で提供

・教育委員会制度の廃止論を含む抜本的改革

・首長に権限と責任を持たせ、第三者機関で監視

・教育行政制度について自治体の選択制

・学校を、校長を長とする普通の組織にする

・大学も含めた教育バウチャー(クーポン)制度の導入

・生徒・保護者による学校選択の保障

・大阪教育基本条例(教育関連条例)をさらに発展、法制化

 

(5)社会保障制度

・受益と負担の明確化(世代間格差の是正)

・年度毎のフローでの所得再分配だけでなく、一生を通じてのストックによる所得再分配

・一生涯使い切り型人生モデル

・現行の年金制度は一旦清算=リセット

・年金の積立方式への移行(最低ライン)

・さらに、資産のある人は、まずはその資産で老後の生活を賄ってもらう→掛け捨て方式(ストックでの所得再分配)

・何歳まで努力をしてもらうのか、老後いくらを保障するのかを設定=事前告知→それに合わせた保険料を設定

・保険料は強制徴収(税化)

・リバースモーケージ(所有不動産を担保に年金のような融資を受ける仕組み)の制度化

・持続可能な医療保険制度の確立=混合診療解禁による市場原理メカニズムの導入

・持続可能な生活保護制度の確立=就労義務の徹底

・ベーシックインカム(最低生活保障)制度の検討

 

(6)経済政策・雇用政策・税制

・新エネルギー、環境、医療、介護などの特定分野に補助金を入れて伸ばそうとするこれまでの成長戦略と一線を画する「既得権と闘う」成長戦略〜成長を阻害する要因を徹底して取り除く

・岩盤のように固まった既得権を崩す

・徹底した規制緩和による新規参入、イノペーション

・現在存在する社会インフラの徹底した選択と集中

・ストックの組み替え=高度成長時代に造られたストックを成熟した国家にふさわしい形へ

・経済活動コストを抑え、国際競争力を強化

・マーケットの拡大=自由貿易圏の拡大→TPP/FTA

・大きな流れ(円高、海外移転など)に沿った対策=大きな流れを人工的には変えられない

・労働集約型製造業の海外移転は止められない

・貿易収支から所得収支、サービス収支の黒字を狙う

・円高による輸入業の儲けを輸出業の損失へ=円高による為替差損益の調整制度(ソブリンデリバティブ)

・高付加価値製造業の国内拠点化

・サービス産業の拡大=ボリュームゾーンの雇用創出→IR型リゾートなど

・医療・介護・保育の分野では一方的な税投入による雇用創出をしない=ユーザーの選択に晒す

・産業の淘汰を邪魔しない=産業の過度な保護は禁物

・人は保護する=徹底した就労支援

・労働市場の流動化、自由化→衰退産業から成長産業へ、外国人人材の活用

・教育機関による人材養成=グローバル人材の養成

・女性労働力の徹底活用

・フローを制約しない税制=民間でお金を回す(使わせる)税制

・一生涯使い切り型人生モデル

・資産課税=固定資産税は現金化、死亡時に精算(フローを制約しない)

・使った分(設備投資、給料、消費)消費税以外非課税

・国民総背番号制によるフロー・ストックの完全把握

・(全商取引の把握=非課税となる要件)

・国民総確定申告制

・超簡素な税制=フラットタックス

・減免、特措法などは原則廃止

・夫婦、障害者、事業承継が課題(方策の一例〜一定規模の事業で雇用創出をしている場合のみ、事業承継を認める?それとも原則通り一代限り?資産の売却?)

・脱原発依存、新しいエネルギー供給革命

 

(7)外交・防衛

・自主独立の軍事力を持たない限り日米同盟を基軸

・加えてオーストラリアとの関係強化

・日米豪で太平洋を守る=日米豪での戦略的軍事再配置

・2006年在日米軍再編ロードマップの履行

・同時に日本全体で沖縄負担の軽減を図る更なるロードマップの作成着手

・日米地位協定の改定=対等

・国際標準の国際貢献の推進

・国際貢献する際の必要最低限の防衛措置

 

(8)憲法改正

・憲法改正要件(96条)を3分の2から2分の1に緩和する

・首相公選制

・参議院の廃止をも視野に入れた抜本的改革

・衆議院の優越性の強化

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 次に改訂版を示す。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

●「維新八策」改訂版

 

 ※産経新聞平成24年7月8日号に掲載されたものによる

http://sankei.jp.msn.com/west/west_life/news/120708/wlf12070813520007-n1.htm

 

(1)統治機構の作り直し

 

【理念・実現のための大きな枠組み】

○中央集権型国家から地方分権型国家へ

○自治体の自立・責任・切磋琢磨

○国の役割を強化し、人的物的資源を集中させるため、国の役割を絞り込む(国防、外交、通貨、マクロ経済政策など)

○内政は地方・都市の自立的経営に任せる

○国の仕事は国の財布で、地方の仕事は地方の財布で

○国と地方の融合型行政から分離型行政へ

○倒産のリスクを背負う自治体運営

 

【基本方針】

○首相公選制(人気投票的になることを防ぐ方法を措置)

○現在の参院廃止を視野に入れた衆院優位の強化

○首相公選制とバランスの取れた議会制度(は一院制か二院制か?)

○(二院制だとしても現在の参院は廃止)道州制を見据え、地方自治体の首長が議員を兼職する院を模索(国と地方の協議の場の昇華)

○条例の上書き権(憲法94条の改正)

○地方財政計画制度・地方交付税制度の廃止

○消費税の地方税化と地方間財政調整制度

○自治体破綻制度の創設

○都市間競争に対応できる多様な大都市制度=大阪都構想

○道州制が最終形

 

(2)財政・行政改革

 

【理念】

○役人が普通のビジネス感覚で仕事ができる環境の実現

○簡素、効果的な国会制度、政府組織

○首相が年に100日は海外に行ける国会運営

○持続可能な小さな政府

 

【実現のための大きな枠組み・基本方針】

○大阪府・市方式の徹底した行財政改革

○外郭団体、特別会計の徹底見直し

○行政のNPO化

○国会、政府組織の徹底したICT(情報通信技術)化

○国会意思決定プロセスの抜本的見直し

○プライマリーバランス黒字化の目標設定

○社会保障番号制の導入

○歳入庁の創設(税と社会保障の統合)

○国会議員の定数削減と歳費その他の経費の削減

○企業・団体献金の禁止を含む政治資金規正法の抜本改革

○政党交付金の抜本改革

○地域政党を認める法制度

○ICTを駆使した選挙制度

 

(3)公務員制度改革

 

【理念】

○公務員を身分から職業へ

○倒産のリスクがない以上、人材流動化制度の強化

○省益のためでなく、国民全体のために働く行政組織

○厳しくとも公の仕事を望むなら公務員に

 

【実現のための大きな枠組み・基本方針】

○大阪府・市の公務員制度改革(頑張った者は報われる、能力・実績主義、職位に見合った給料)を国に広げる

○官民給与比較手法(総額比較)の抜本的改正、人事院制度の廃止

○地方公務員も含めた公務員の総人件費削減(公務員共済への追加費用の見直し)

○大阪府・市職員基本条例をさらに発展、法制化

○公務員の強固な身分保障の廃止

○内閣による人事権の一元化

○内閣による公務員の一括採用。社会人中途採用を基本とする

○採用試験の抜本的見直し

○任期付きを原則とするなど、官民の人材流動化を強化

○大胆な政治任用制度

○任期付きの場合には民間に劣らない給与・処遇

○若手時代は官庁間移動を原則とする

○公務員労働組合の選挙活動の総点検

○国家公務員制度に合わせて地方公務員制度も抜本的改革

 

(4)教育改革

 

【理念】

○自立する国家、自立する地域を担う個人を育てる

○格差を世代間で固定化させないために、最高の教育を限りなく無償で提供する

○文部科学省を頂点とするピラミッド型教育行政から地方分権型教育行政へ

○教育行政機関主導から生徒・保護者主導へ

 

【実現のための大きな枠組み・基本方針】

○教育委員会制度の廃止論を含む抜本的改革(実例−首長に権限と責任を持たせ、第三者機関で監視する制度)

○教育行政制度について、自治体の選択制に

○大学、文科省を抜本的に見直し、世界最高水準の高等教育を目指す

○大学入試改革を通じた教育改革

○初等・中等教育環境も世界を見据えた世界標準へ(英語教育、ICT教育)

○大学も含めた「教育バウチャー(クーポン)制度」の導入=教育機関の切磋琢磨を促す

○生徒・保護者による公公間、公私間学校選択の保障

○選択のための学校情報開示の徹底

○初等・中等教育の学校を、校長を長とする普通の組織にする

○公立学校教員の非公務員化

○複線型の中等教育(職業教育の充実)

○障害者教育の充実

○海外留学の支援

○大阪府・市の教育関連条例をさらに発展、法制化

○教職員労働組合の活動の総点検

 

(5)社会保障制度改革

 

【理念】

○真の弱者を徹底的に支援

○自立する個人を増やすことにより、支える側を増やす

○個人のチャレンジを促進し、切磋琢磨をサポートする社会保障

○若年層を含む現役世代を活性化させる社会保障

○負の所得税(努力に応じた所得)・ベーシックインカム(最低生活保障)的な考え方を導入=課税後所得の一定額を最低生活保障とみなす=この部分は新たな財源による給付ではない

○持続可能な制度

○世代間・世代内不公平の解消

○受益と負担の明確化

○供給サイドへの税投入よりも、受益サイドへの直接の税投入を重視(社会保障のバウチャー化)→供給サイドを切磋琢磨させ、社会保障の充実を通じて新規事業・雇用を創出

 

【基本方針】

○自助、共助、公助の役割分担を明確化

○社会保障給付費の合理化・効率化

○(給付費の効率化には限界があるので)高負担社会に備えて(年金の)積み立て制度を導入

○失業対策、生活保護、年金などの社会保障を一元化=生活保護世帯と低所得世帯の不公平の是正

○(1)努力に応じた、(2)現物支給中心の、最低生活保障制度を創設

○所得と資産の合算で最低生活保障

○所得と資産のある個人への社会保障給付制限

○(受益と負担の関係を明らかにするため)提供サービスをフルコストで計算

○社会保険への過度な税投入を是正、保険料の減免で対応

 

【政策例】

<年金>

○年金一元化、賦課(ふか)方式から積み立て方式(+過去債務清算)に長期的に移行

○年金清算事業団方式による過去債務整理

○債務整理の償還財源は相続資産への課税と超長期の薄く広い税

○高齢者はフローの所得と資産でまずは生活維持(自助)

○ストックを流動化する方法として、リバースモーゲージ市場の確立、譲渡益課税の死亡時清算を制度化

○社会保障番号制で所得・資産(フロー・ストック)を完全把握

○歳入庁の創設(保険料の税化)

 

<生活保護>

○高齢者・障害者サポートと現役世代サポートの区分け

○現物支給中心の生活保護費

○支給基準の見直し

○現役世代は就労支援を含む自立支援策の実践の義務化

○有期性(一定期間で再審査)

○勤労収入の上積み制度

○医療扶助の自己負担制の導入

○被保護者を担当する登録医制度

 

<医療保険・介護保険>

○医療保険の一元化

○公的保険の範囲を見直し、混合診療を完全解禁

○高コスト体質、補助金依存体質の改善

 

(6)経済政策・雇用政策・税制

 

<経済政策>

 

【理念、基本方針】

○実経済政策・金融政策(マクロ経済政策)・社会保障改革・財政再建策のパッケージ

○実経済政策は競争力強化

○国・自治体・都市の競争力強化

○競争力を重視する自由経済

○競争力強化のためのインフラ整備

○産業の淘汰を真正面から受け止める産業構造の転換

○自由貿易圏の拡大

○国民利益のために既得権益と闘う成長戦略(成長を阻害する要因を徹底して取り除く)

○イノベーション促進のための徹底した規制改革

○付加価値創出による内需連関

○供給サイドの競争力強化による質的向上=額(量)だけでなく質の需給ギャップも埋める

○新エネルギー政策を含めた成熟した先進国経済モデルの構築

○TPP参加、FTA拡大

○為替レートに左右されない産業構造

○貿易収支の黒字重視一辺倒から、所得収支、サービス収支の黒字化重視戦略

○高付加価値製造業の国内拠点化

○先進国をリードする脱原発依存体制の構築

 

<雇用政策>

 

【理念、基本方針】

民民、官民人材流動化の強化

○徹底した就労支援と解雇規制の緩和を含む労働市場の流動化(衰退産業から成長産業への人材移動を支援)

○ニーズのない雇用を税で無理矢理創出しない

○社会保障のバウチャー化を通じた新規事業・雇用の創出(再掲)

○国内サービス産業の拡大(=ボリュームゾーンの雇用拡大)

○正規雇用、非正規雇用の格差是正(=同一労働、同一賃金の実現)

○グローバル人材の育成

○外国人人材、女性労働力(→保育政策の充実へ)の活用

 

<税制>

 

【理念、基本方針】

○「簡素、公平、中立」から「簡素、公平、活力」の税制へ

○少子高齢化に対応→フロー課税だけでなく資産課税も重視

○フローを制約しない税制(官がお金を集めて使うより、民間でお金を回す仕組み)

○グローバル経済に対応

○成長のための税制

○消費、投資を促す税制

○受益(総支出)と負担(総収入)のバランス

○負の所得税・ベーシックインカム的な考え方を導入(再掲)

○超簡素な税制=フラットタックス化

○所得課税、消費課税、資産課税のバランス

 

【政策例】

○資産課税(金融資産以外の資産にかかる税は、資産を現金化した場合または死亡時に清算)

○減免、租税特別措置などは原則廃止

○国民総確定申告制

○消費、投資分は最大限控除

○行政を切磋琢磨させるための寄付税制の拡大

○国民総背番号制で所得・資産(フロー・ストック)を完全把握(再掲)

○歳入庁の創設(保険料の税化、再掲)

 

(7)外交・防衛

 

【理念、実現のための大きな枠組み】

○世界の平和と繁栄に貢献する外交政策

○日本の主権と領土を自力で守る防衛力と政策の整備

○日米同盟を基軸とし、自由と民主主義を守る国々との連携を強化

○日本の生存に必要な資源を国際協調の下に確保

 

【政策例】

○日本全体で沖縄負担の軽減を図るさらなるロードマップの作成

○国連PKOなどの国際平和活動への参加を強化

○自由で開かれた経済ネットワークの構築

○豪州、韓国との関係強化

○平等互恵と法の支配を前提とする、中国、ロシアとの戦略的互恵関係の強化

○ロシアとの間で北方領土交渉を推進

○ODAの継続的低下に歯止めをかけ、積極的な対外支援策に転換

○外交安全保障の長期戦略を研究、立案、討議するための外交安全保障会議の創設

○学術や文化交流の積極化と人材育成、外国研究体制の拡充

○外国人への土地売却規制、その他安全保障上の視点からの外国人規制

 

(8)憲法改正

 

○憲法改正発議要件(96条)を3分の2から2分の1に

○首相公選制(再掲)

○首相公選制と親和性のある議院制=参院の廃止も視野に入れた抜本的改革・衆院の優位性の強化(再掲)

○地方の条例制定権の自立(上書き権)(「基本法」の範囲内で条例制定)。憲法94条の改正

○憲法9条を変えるか否かの国民投票

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(2)骨子版の欠点は大きく改善されず

 

 「大阪維新の会」の「維新八策」改訂版は、今年2月の骨子発表後、約5か月間の討議を経て、国民に発表されたものである。

 骨子版は、表題が「日本再生のためのグレートリセット」「これまでの社会システムをリセット、そして再構築」とされ、「給付型公約から改革型公約へ〜今の日本、皆さんにリンゴを与えることはできません。リンゴのなる木の土を耕し直します」と方向性が記されていた。そして、「維新八策の目的」として、次の箇条書きを骨子の冒頭に揚げた。

 

・決定でき、責任を負う民主主義

・決定でき、責任を負う統治機構

・自立する個人

・自立する地域

・自立する国家

・日本の一人勝ちの時代は終わった

・今の日本のレベルを維持するには国民総努力が必要

・国全体でのオペレーションから個々の創意工夫による活性化

・現役世代の活性化

 

 キーワードは、「決定」「責任」「自立」。基本的な姿勢は伝統尊重的ではなく経済優先的、依存従属的でなく自主独立的、自由主義的というより新自由主義的である。すなわち経済優先的、自主独立的、新自由主義的である。改訂版では、この部分に修正があったのかどうか、ネット上に資料が公開されていないため、私は確認できていない。おそらく主旨に大きな変更はないものと推察する。

 

 橋下氏は、「維新八策」の改訂版について、7月13日ツイッターに次のように書いた。

 「皆がどちらの方向性に行くのかを決めざるを得ない論点。国の進むべき方向性を導く論点。これが決まれば、あとの個別課題はその方向で動くだろうという論点。これをまとめているのが維新八策です。これまでのあれやります、これやりますという政策列挙のいわゆるマニフェストとは違います」と。

 果たして、「維新八策」は、こうした「方向性」に係る「論点」をまとめたものとなっているだろうか。

 骨子版では、先の「目的」の下に、(1)統治機構の作り直し(2)財政・行政改革(3)公務員制度改革(4)教育改革(5)社会保障制度(6)経済政策・雇用政策・税制(7)外交防衛(8)憲法改正の8つを挙げた。これらが方策なのか、課題なのか、分野なのか、明瞭でなかった。今回の改訂版でも、題名は同じである。改善はされていない。橋下氏は「方向性」に係る「論点」をまとめたものだというが、「八策」と称する以上、(1)〜(8)は目的達成のための方策でなければなるまい。本稿では方策と呼ぶことにする。

 骨子版は(1)〜(8)のもとに項目を列記していたが、それらが施策なのか、目標なのか、理念なのか、それらが混ざっている感じだった。改訂版は、この点、ある程度改善された。だが、(1)では「理念・実現のための大きな枠組み」「基本方針」と分けているのに、(2)〜(4)では「理念」「実現のための大きな枠組み・基本方針」と分け、(5)では「理念」「基本方針」「政策例」、(6)では「理念・基本方針」「政策例」、と分けるなど、雑然としている。最後の(8)はこうした小見出しがなく、全体に文書としての形が整っていない。また、橋下氏は、「これまでのあれやります、これやりますという政策列挙のいわゆるマニフェストとは違います」と言いながらが、方策によっては政策例を載せている。政策例と「論点」は違う。また政策例は「例」であって、こういう政策をやります、というような明確なものではない。

 骨子版は骨子としても粗く、羅列的だった。また会の内部の議論が流動的なようで、骨格がよく見えず、私は細かい論評を控えた。国政全体まで考えていなかった地域政党が、急に勢いを得て、国政を目指し、内政・外交に至るまで急ごしらえで一通りそろえようと背伸びしている感じがした。改訂版は約5か月の時間をかけており、骨子はほぼ固まり、多少肉づけがされているが、背伸びの上に背伸びをしたという感じが私にはする。

 なお、日本再建に関する私の意見は「日本再建をめざして〜実行すべき課題」としてマイサイトに掲示しているので、ご参照願いたい。

 「維新八策」骨子版について書いた時と同じ主旨の繰り返しになるが、敢えて言う。坂本龍馬は「船中八策」で、内政は大政奉還・議会開設・憲法制定等、外政は不平等条約の改正や海軍の増強等を挙げている。国家を再建し、積極外交・国防強化による国威発揚を目指したものである。これに比べ、橋下氏らの「維新八策」の骨子版は、内政に関することがほとんどで、外交・安全保障に関することは、全体の1割も分量がない。橋下氏自身が、過去に国家像や憲法・国防・国家経済等につき、どの程度考え、構想を練ってきたか疑わしい。改訂版でも大きな前進が見られないのは、もとになるものが乏しいからだろう。

 これも再度言う。中央進出をしようとする政党にまず必要なのは、マニフェストより綱領である。党の綱領の策定なく、選挙向けにマニフェストを出すという仕方は、民主党という前車の轍を踏むおそれがある。政権を取らんがための諸集団の寄せ集めと、大衆迎合的な選挙向けの政策の展示になると、いかなる政党も、日本を変える真の力には、成り得ない。

 

(3)8つの方策はどう変化したか

 

 私は骨子版と改訂版を、方策ごとに比較し、どこがどのように変わったか、整理してみた。骨子版では施策・目標・理念らしきものが混在していたが、改訂版では、ある程度は整理されている。だが、小見出しに使っている「理念」と「実現のための大きな枠組み」と「基本方針」は、理念・枠組み・方針の定義と相互関係の規定を欠いたまま、使っているように見える。そのためか、理念に入っているものが方針のようであったり、方針に入っているものが枠組みのようであったりしている。「維新八策」は選挙公約だというが、これでは何を目指して、何をどのように行いたいのか、明確には伝わってこない。

 骨子版と改訂版を方策ごとに比較し、どこがどのように変わったか、整理してみたと書いたが、具体的に言うと、例えば(1)「統治機構の作り直し」は、次のようになっている。

 

●骨子版

 便宜上アルファベットを振る。

 

A 国の仕事を絞り込む=国の政治力強化

B 内政は地方に任せる=地方・都市の自律的経営に任せる

C 被災地復興は、被災地によるマネジメントで→復興担当大臣などは被災地首長

D 国家の面的全体運営から点と点を結ぶネットワーク運営

E 中央集権型から地方分権型へ

F 国と地方の融合型から分離型へ

G 地方交付税の廃止

H 自治体破綻制度

I 税源の再配置

J 国の仕事は国の財布で、地方の仕事は地方の財布で=権限と責任の一致

K 地方間財政調整制度=地方共有税制度の創設

L 地方間で調整がつかない場合に国が裁定

M 都市間競争に対応できる多様な大都市制度=大阪都構想

N 道州制

O 首相公選制

P 参議院改革→最終的には廃止も視野

 参議院議員と地方の首長の兼職=国と地方の協議の場の発展的昇華、衆議院の優越の強化

 

●改訂版

 これも便宜上、番号を振る。

 

【理念・実現のための大きな枠組み】

1 中央集権型国家から地方分権型国家へ

2 自治体の自立・責任・切磋琢磨

3 国の役割を強化し、人的物的資源を集中させるため、国の役割を絞り込む(国防、外交、通貨、マクロ経済政策など)

4 内政は地方・都市の自立的経営に任せる

5 国の仕事は国の財布で、地方の仕事は地方の財布で

6 国と地方の融合型行政から分離型行政へ

7 倒産のリスクを背負う自治体運営

 

【基本方針】

8 首相公選制(人気投票的になることを防ぐ方法を措置)

9 現在の参院廃止を視野に入れた衆院優位の強化

10 首相公選制とバランスの取れた議会制度(は一院制か二院制か?)

11 (二院制だとしても現在の参院は廃止)道州制を見据え、地方自治体の首長が議員を兼職する院を模索(国と地方の協議の場の昇華)

12 条例の上書き権(憲法94条の改正)

13 地方財政計画制度・地方交付税制度の廃止

14 消費税の地方税化と地方間財政調整制度

15 自治体破綻制度の創設

16 都市間競争に対応できる多様な大都市制度=大阪都構想

17 道州制が最終形

 

●骨子版から改訂版への変化

 

 骨子版は施策・目標・理念らしきものが混在していたが、改訂版では「理念・実現のための大きな枠組み」と「基本方針」に二分され、骨子版の項目が加除訂正されたり、まったく違う順番に並べ替えられたり、削除されたりしている。私の理解では、次のように変化している。

 

 A→3、B→4、C→削除、D→削除、E→1、F→6、G→13、H→15、I→14(?)、J→5、K→14、L→14(?)、M→16、N→17、O→8、P→9

 2・7・10・11・12は新設

 

 なぜこのように修正したのか、具体的な説明はない。これらの全体で何を目指しているのか、主旨を書いた文章がないため、よく理解できないところがある。

 

 (1)「統治機構の作り直し」は、骨子版と改訂版の間で、項目数の変化の少ない方である。改訂版では、(5)「社会保障制度改革」、(6)「経済政策・雇用政策・税制」は、項目数が目立って増え、「政策例」も掲げている。これらの二つの方策が、「大阪維新の会」が最も力を入れているところなのだろう。骨子版にはなかったものが、多数書き込まれている。

 その一方、最も内容に乏しいのが、(8)「憲法改正」である。(5)が12項目から36項目へと3倍増、(6)が30項目から42項目へと1.4倍増したのに対し、(8)は4項目が5項目に増えただけ。他の(1)〜(7)と違って、「理念」「実現のための大きな枠組み」「基本方針」といった小見出しもついていない。「大阪維新の会」にとって、憲法改正は、日本再建のための中心的な課題ではなく、(1)〜(7)の方策を実行するために、最低限必要な範囲を改正するという補完的な方策のようである。 ージの頭へ

 

  

第2章 「維新八策」各方策の検討

 

(1)統治機構の作り直し

 

 「統治機構の作り直し」の理念として掲げた項目のうち、私は「国の役割を強化し、人的物的資源を集中させるため、国の役割を絞り込む」「内政は地方・都市の自立的経営に任せる」「国の仕事は国の財布で、地方の仕事は地方の財布で」「国と地方の融合型行政から分離型行政へ」には、賛成する。

 だが、これを目指すには、まず大東亜戦争の敗戦後、まだ回復できていない独立主権国家としてのあり様をしっかり回復し、国防、非常事態対応、国民教育(歴史・道徳)を整備することが先である。そのうえで、中央政府と地方自治体の役割・業務・財源を分けるべきである。道州制はさらにそのあとの課題と位置づけねばならない。順序を誤ると、主権が分散し、国家が分解してしまう。橋下氏は、このことがわかっていない。だから、八策には具体的な憲法改正の条文案がなく、非常事態対応がなく、歴史教育・道徳教育がない。

 (1)「統治機構の作り直し」の基本方針は、主な内容を整理すると、首相の選任方法を議院内閣制から首相公選制に変える。これに応じて、首相公選制とバランスの取れた議会制度に変える。地方自治体の首長が議員を兼職する院を作る。「地方分権型国家」に転換するため、消費税を地方税化し、地方交付税は廃止する。都市間競争に対応できる多様な大都市制度のモデルとして、大阪都を実現する、というものである。

 天皇を国家及び国民統合の象徴と仰ぐわが国では、首相公選制はなじまない。首相を公選にし「決められる政治」をめざすという意図があるのだろうが、わが国と同じ議院内閣制のイギリスで首相となったサッチャーは、強力な指導力を発揮して、大胆な改革を行った。必ずしも制度の問題ではない。橋下氏には、国会を一院制にという考えがあるようだが、大衆民主主義・マスメディア誘導の社会で一院制にすると、その時の大衆の関心や気分で大きく政治が揺れ動く。首相が公選でかつ国会が一院制というのは、もっとも愚民政治に陥りやすい仕組みになる。私は議院内閣制と二院制を維持しつつ、現在の政治の意思決定の仕組みを変え、また参議院のあり方を改革すべきであると思う。その際、地方首長の国政参与はよいと思うが、必要な政策課題について、限定した期間で行う仕組みにしないと、地方行政が滞ると思う。また参院は本来「良識の府」であるべきもので、各分野の有識者が国政に知恵を結集できる仕組みを保つ必要がある。

 次に、消費税を地方税化し、地方交付税は廃止するという提案は、検討に値するものだと思うが、本当にこれで中央集権の弊害を除き、地方を活性化できるかどうかは、十分議論する必要があると思う。広く有効な施策であれば、まず全国の地方首長が賛同するはずだが、地方首長のうち、橋下氏の提案に積極的に賛成している者はごく少ない。都道府県や市町村によっては、地方交付税を受けることで財政がなんとか成り立っているところもあり、今の制度には全国的な格差を是正している側面がある。消費税が地方税化され、かつそれ一本になれば、デフレ不況が続き、地域格差が拡大しているなか、経済力のない自治体は、財政危機に陥って破産するところが出る恐れがある。

 次に、大阪都については、私構想いいと思う。ただし、「都」という名称は再考を要する。東京市・東京府が東京都となってから、「都」は天皇が居住されているところという理解が定着している。大阪の場合、名称は「府」であっても、制度を改めれば、橋下氏の構想は実現できる。

 次に、「維新八策」は、東日本大震災からの復興を重要課題としていないことを指摘したい。大震災から1年以上たって、まだ復興は遅々として進んでいない。この分では5年どころか10年以上はかかるのではないかと案じられる状態である。私は、東北の復興が日本の立て直しにつながる、全国民が協力し東北から日本をよみがえらせねばならない、と考えている。だが、「維新八策」は、これを重要課題としていない。それでも骨子版には(1)に「被災地復興は、被災地によるマネジメントで→復興担当大臣などは被災地首長」という項目があることはあった。ところが、改訂版では、その項目が消えている。私は、この姿勢に疑問を覚える。

 また、東日本大震災からの復興という課題は、来るべき巨大地震への備えという課題に連続する。わが国は天変地異の時代に入っており、広域にわたる大規模災害の発生が予想される。首都直下型地震をはじめ、東海・東南海・南海の3地震が連動する南海トラフ巨大地震も想定されている。広域災害は、国家の存亡に係る事態となり得る。こうした時代にわが国が存亡をかけて対応するには、独立主権国家としての機能をしっかり回復し、中央政府が担う役割を明確にし、中長期的な国家政策を立てて防災を進め、また非常事態の際に首相が強力な指導力を発揮できる体制を整えることが必要である。また軍事力を増強し、尖閣諸島・沖縄を略取する意図を見せている中国や、核開発・ミサイル実験を続ける北朝鮮に対し、国家の独立と主権、国民の生命と財産、日本の伝統と精神を守っていける体制を強化することも必要である。統治機構の作り直しとは、こうした課題を実行する方策でなければならない。またこれは、日本人自身の手による新しい憲法の制定を必須とする。残念ながら、橋下氏と「大阪維新の会」の揚げる方策は、肝心要となるところを欠いている。国政を担おうとする政党の方策がこれでは、私は支持できない。根本的な再検討を求めたい。

 

(2)財政・行政改革

 

 「理念」として4項目、「実現のための大きな枠組み・基本方針」に13項目が掲載されている。全体として何をしたいのか主旨文がないので把握しにくいが、共通しているのは、理念としての「持続可能な小さな政府」、基本方針としての「大阪府・市方式の徹底した行財政改革」と整理できるだろう。

 「持続可能な小さな政府」の「持続可能な」は普通、経済成長と環境保全の両立に関して使われる語であり、この場合、何を意味するか不明である。私は、財政を維持できるという意味と推測する。「小さな政府」という発想は、新自由主義的である。わが国は、深刻なデフレに陥っており、デフレ脱却のためには、大規模な財政出動が必要である。国土強靭化など有意義な事業に公共投資を行い、経済成長を実現し、税収を増加させてこそ、財政の健全化ができる。橋下氏の財政改革策はデフレ脱却の経済政策になっていない。

 財政改革の基本方針のうち、「外郭団体、特別会計の徹底見直し」には賛成だが、「プライマリーバランス黒字化の目標設定」は、橋下氏が財政均衡主義に陥っていることを示している。この考え方を脱しないと、デフレは脱し得ない。

 行政改革については、理念に、国民のための行政改革という点がよく表現されていない。まずそれを書くべきで、「役人が普通のビジネス感覚で仕事ができる環境の実現」「簡素、効果的な国会制度、政府組織」「首相が年に100日は海外に行ける国会運営」だけでは、政府と役人のための改革のようである。その点を改めるならば、基本方針にはおおむね賛成できる。特にICT(情報通信技術)を駆使した選挙制度の導入は、是非実現したいものである。また、選挙期間中に候補者がホームページを更新できないとか、ブログやツイッター、フェイスブック等で候補者と有権者が対話できないとか、今の選挙制度はあまりに時代遅れである。

 

(3)公務員制度改革

 

 公務員制度改革は、(2)の行政改革の一環だと思う。ここでは、理念に、「省益のためでなく、国民全体のために働く行政組織」と書かれている。理念の「公務員を身分から職業へ」「倒産のリスクがない以上、人材流動化制度の強化」「厳しくとも公の仕事を望むなら公務員に」は賛成する。基本方針もおおむね賛成できる。特に「公務員労働組合の選挙活動の総点検」は大賛成である。

 

(4)教育改革

 

 教育改革は、理念に「自立する国家、自立する地域を担う個人を育てる」と掲げ、「自立」をキーワードにしている。国家の自立が、独立主権国家としての自立という意味なら、独立主権国家の国民としての自覚を持った国民を育成するという理念になる。だが、橋下氏の教育理念には、国家観を欠いている。学力・能力を中心とした人材育成に傾いている。

 理念のうち、「格差を世代間で固定化させないために、最高の教育を限りなく無償で提供する」とある中の「限りなく無償で」というのは、相当の財源がいる。「文部科学省を頂点とするピラミッド型教育行政から地方分権型教育行政へ」とあるが、国民教育では統一した国家観・歴史観・道徳観を教えるという背骨がなければ、いけない。基本方針にはおおむね賛成する。そのうち、「教育委員会制度の廃止論を含む抜本的改革」「初等・中等教育の学校を、校長を長とする普通の組織にする」「教職員労働組合の活動の総点検」には強く賛成する。

 

 ここまでのところ、私が思うに、「維新八策」には、個別的な政策については賛成できるものがあるが、本来、こういう文書で簡潔に示すべき、理念や大方針のレベルでは、何をめざし、どういう方向に進みたいのかが、よく練られていない。理念や大方針のほうに重点を置くなら、まず政党としての綱領を作り、それを打ち出したうえで、骨子となる方策を並べる方が良い。政策のほうに重点を置くなら、有権者にわかりやすく伝えるマニフェストにまで具体化した方が良い。「維新八策」は現段階では、そのどちらでもなく、中途半端なものとなっている。

 

(5)社会保障制度改革

 

 社会保障制度改革は、理念に9項目も並べているが、それらよりも基本方針にある「自助、共助、公助の役割分担を明確化」がまず理念の第一に掲げられるべきだろう。また、理念の9項目は、理念らしきものと方針らしきものが混在している。他の方策にもこうした傾向があるが、(5)では特にそれが目立つ。

 まず理念の中に「真の弱者を徹底的に支援」とある。この「真の弱者」は日本国民に限り、外国籍の者を除外すべきである。それを明記しなければならない。非国民に対する生活保護や医療費無料化等を点検せずに、現状のまま「徹底的に支援」すれば、国も自治体も蝕まれるだけである。生活保護の基本方針に、「現物支給中心の生活保護費」「支給基準の見直し」「有期性(一定期間で再審査)」を挙げているのはよいと思う。ただし、受給資格と審査の厳格化が必要である。

 次に、理念に「負の所得税(努力に応じた所得)・ベーシックインカム(最低生活保障)的な考え方を導入」という項目がある。ベーシックインカムは、膨大な支出になる。今年(24年)3月4日、フジテレビの番組で橋下氏が述べたところでは、国民に一律月7万円を支給するという。セイフティネットというより、社会民主主義的な政策である。「維新八策」の基調となっている自立、競争、自己責任とは正反対の考え方であるし、過度の再配分は国民の依存心を強め、青年層の勤労意欲を削ぎ、生活の縮小を招き、デフレを悪化させるだろう。しかも、ベーシックインカムの実施には、107兆円もの予算がいる。歳入の税収が40兆円を切るなかで、どうやって原資を確保するのか。橋下氏は、先の番組でこの点を問われたが、明確な回答がなかった。その程度の案を、また「維新八策」に揚げている。選挙で票を集めるための悪しきバラマキ政策ではないか、と私は疑う。

 次に、年金については、「年金一元化、賦課方式から積み立て方式(+過去債務清算)に長期的に移行」と掲げている。橋下氏は国の年金制度を「ねずみ講そのもの」と批判し、現在の賦課方式から積み立て方式に変える必要性を強調してきた。賦課方式とは、現役世代が高齢者に仕送りをするような方式、積み立て方式は自分が払い込んだお金を老後に受け取る積み立てのような方式である。橋下氏は、一定の資産がある人には支給しない「掛け捨て型」の年金制度の導入も提案してきた。橋下氏が年金制度の改革を訴えるのは、少子高齢化が進むと、現行の制度は破綻する、また若者世代に不公平感が募っていくという二つが主な理由のようである。だが、これが現在の年金制度の正しい理解に基づくものかどうか、疑問である。

 平成20年(2008)5月、政府の社会保障国民会議が年金制度についてのシミュレーションを発表した。その結果、未納者がいくら増えても年金制度は破綻しないことが具体的数字で示された。破綻しない理由は、基礎年金の財源の半分に税金が入っているからである。橋下氏と「大阪維新の会」は、現行制度をどのように理解して、改革案を出しているのか、見解を明らかにしてほしい。

 経済評論家の細野真宏氏によると、以前は現役世代が多く、年金の保険料を払う世代が多かったため、現在約200兆円の年金積立金がある。今後は少子高齢化に対応するため、この年金積立金が年金の支払いに使われていく。賦課方式の場合、少子高齢化で現役世代は負担が増える一方、自分の受け取りは少なくなっていくと考えられがちだが、年金は現役世代の保険料だけから支払われているのではない。例えば基礎年金は、平成21年度(2009年度)からは年金の支払いの半分は税金から支払われている。年金積立金による分も含めて、個人の保険料負担は半分で済む。年金の財源は安定しており、根本的に制度を変える必要はない。国民年金は国民の4割が未納という誤解があるが、実際の未納者は公的年金加入者の全体の5%にも満たない。問題があるとすれば、国民年金を納めないでいる人たちが、将来無年金者になることである、と細野氏は見ている。

 いまから積立方式に変えることは、相当年数がかかるだろう。移行は技術的にも複雑になる。そのことも含めて制度設計のシミュレーションをしっかりやってから判断しないと、方式変更に本当にメリットがあるかどうかの判断はできないと思う。将来の無年金者の問題は、自己責任と弱者救済の兼ね合いになる。若年層の失業者や低所得者の増加が原因となっている部分は、雇用を創出し、所得を上昇させるデフレ脱却の経済成長政策を実施しないと、根本的な解決にならない。さまざまな年金制度改革案について、私は、改革と称して、企業が厚生年金の企業負担分を減らそうとすること、また年金制度を単純化しかつ個人積立型なり完全税方式になりに変えることで外資が日本企業の買収をしやすくすることを警戒する。

 医療保険・介護保険について気になるのは、「公的保険の範囲を見直し、混合診療を完全解禁」と掲げていること。混合診療は、アメリカの医薬業界がこれをもって日本市場に進出しようとしているものの一つである。橋下氏はTPP賛成を明言しているが、混合診療解禁を始め、TPPによるわが国の経済社会への負の影響を理解していない。それは郵政改革をどうするか、「維新八策」は全く触れていないこととも関係している。TPPは郵政民営化の延長にあり、その徹底でもある。郵政民営化の反省と総括なく、TPP賛成を説く橋下氏には、1980年代からの日米の経済と外交の歴史を再勉強してもらいたいものである。

 

(6)経済政策・雇用政策・税制

 

 (6)は、「維新八策」の中で最も分量が多い。経済政策、雇用政策、税制の三つに分かれている。だが、それだけ、きちんと検討がされているかというとそうではない。理念と基本方針が分かれておらず、三つそれぞれが「理念、基本方針」を並べている。うち税制だけに、「政策例」を載せている。(6)についで分量の多い(5)は、年金、生活保護、医療保険・介護保険に「政策例」が載っていた。「維新八策」が、内政では税制、年金、生活保護、医療保険・介護保険に主に関心を向けたものであることが、ここに表れている。

 さて、経済政策には、新自由主義的な傾向が強く出ている。「理念、基本方針」に「競争力」という言葉が4回使われ、「自由貿易圏の拡大」「イノベーション促進のための徹底した規制改革」を掲げ、「TPP参加」を明記している。小泉=竹中構造改革を批判的せず、それを継承・徹底する姿勢である。私はこの根本的な姿勢に反対なので、部分的には「既得権益と闘う成長戦略」「付加価値創出による内需連関」「為替レートに左右されない産業構造」「所得収支、サービス収支の黒字化重視戦略」など賛成できる点はあるが、橋下氏らに日本の経済政策を委ねられない。

 エネルギー政策については、「新エネルギー政策を含めた成熟した先進国経済モデルの構築」「先進国をリードする脱原発依存体制の構築」と2項目あるが、脱原発依存でエネルギー政策をどうするのか、具体性がない。橋下氏は、関西電力大飯原発の再稼働に反対した。改訂版は「脱原発依存の構築」を掲げる一方、国内産業の育成も打ち出したが、電力が安定的に供給されなければ、産業も生活も行き詰まる。だが、橋下氏から具体策は出されていない。私は、将来的なビジョンとエネルギー戦略を持っていないためだろうと思う。

 雇用政策については、「徹底した就労支援と解雇規制の緩和を含む労働市場の流動化(衰退産業から成長産業への人材移動を支援)」という項目がある。前者は、労働者や学生・女性等の支援だろうが、後者の「解雇規制の緩和」はその一方で首切りをしやすくするという相反する内容となっている。衰退産業から成長産業への人材移動は重要だが、「解雇規制の緩和を含む」と敢えて書くところには賛成できない。

 税制については、「理念、基本方針」に「『簡素、公平、中立』から『簡素、公平、活力」の税制へ』と方向性を示し「超簡素な税制=フラットタックス化」を掲げている。フラット税制は、レーガン政権が行った新自由主義的な税制である。法人税と所得税を極端に低くし、一部の富裕層と株主や経営者の所得を最大にする政策だった。結果は当初の見込みに反して、大幅減税で税収が激減し、財政赤字が拡大した。橋下氏はそのことをよく理解しているのか疑問である。

 (6)には、消費税について書いていない。(1)に「消費税の地方税化と地方間財政調整制度」とあった。(6)では、経済成長戦略と消費増税の関係を書くべきと思うが、増税には何も触れていない。「大阪維新の会」が来る衆議院選挙に出るなら、消費増税に賛成か反対か、またその理由は何かを「維新八策」で国民に示すべきだろう。

 消費増税法案は、第18条に景気付帯条項を設けている。第1項で「消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施する」としている。具体的には、同項に、平成23年度から平成32年度までの10年間、平均で名目GDPの成長率3パーセント程度かつ実質GDPの成長率2パーセント程度を目指す経済成長政策を講ずること。また第2項に、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分すること、としている。

 「富国強靭」を国策に掲げる藤井聡京都大学大学院教授は、景気付帯条項の規定を踏まえ、「増税するか否かは、遅くとも来年夏に誕生する新政権の判断に全て委ねられているのだ。そうである以上、日本国民は今、次の総選挙に向けて世間に流布された数々の虚事に惑溺されず、正しき認識に基づいて、ウソに塗まみれた邪説と真っ当な真説とを『見抜く』力を身につけねばならない。そしてその正しき認識に基づく世論を形づくり、真っ当な政権の誕生を期さねばならない」と主張している。

 この「真っ当な政権」を担うのは、民主党ではありえない。そして、消費増税で民主党と連携した現在のままの自民党でもあり得ない。私は、財務省の増税・財政規律路線の呪縛を解き、デフレ脱却と「富国強靭」を実現し得る積極的経済成長政策を推進できる政治家が政界の表面に躍り出ることを期待している。橋下氏には今のところ、私の期待に応える堅固な姿勢と明確な展望、具体的な政策がない。橋下氏と「大阪維新の会」の場合は、消費税を地方税化し、地方交付税を廃止するという全く異なった政策を掲げているわけだが、そうであれば、その立場から、消費増税法案に関して、「維新八策」の中で、具体的な見解と対案を国民に提示しなければならないだろう。

 

(7)外交・防衛

 

 (1)〜(6)までは内政に関するもので、(7)は外交・防衛である。(7)は全体の1割も分量がない。項目の書き方は、「理念、実現のための大きな枠組み」と「政策例」となっており、「基本方針」がない。「理念」として掲げていることは、「世界の平和と繁栄に貢献する外交政策」「日本の主権と領土を自力で守る防衛力と政策の整備」「日米同盟を基軸とし、自由と民主主義を守る国々との連携を強化」「日本の生存に必要な資源を国際協調の下に確保」の4つ。外交の素人でも指折り上げられそうなものである。

 ただし、これでも橋下氏及び「大阪維新の会」としては、大きな前進である。というのは、「維新八策」の骨子版よりは良くなっているからである。骨子版では、最初に「自主独立の軍事力を持たない限り日米同盟を基軸」という項目があった。これでは「自主独立の軍事力」を持とうという考えか、そうでないのかが、分からない。橋下氏らは、こういう国家根幹をなす問題で、考えがまとまっていなかったのだろう。それが改訂版では「日本の主権と領土を自力で守る防衛力と政策の整備」と改まった。大きな前進である。大きな前進とはいっても、外交の素人でも思いつきそうなレベルである。そして、「日本の主権と領土を自力で守る防衛力」を持つために、どのようにするのかが、具体的でない。(8)の「憲法改正」に「憲法9条を変えるか否かの国民投票」という項目があり、どうするか国民に判断してもらおうという姿勢だからである。

 政策例の方は、骨子版の内容とかなり変化した。骨子版では、日米同盟を基軸とすることに「加えてオーストラリアとの関係強化」とあった。また「日米豪で太平洋を守る=日米豪での戦略的軍事再配置」となっていた。改訂版では、理念・枠組みで「日米同盟を基軸とし、自由と民主主義を守る国々との連携を強化」と挙げ、政策例で「豪州、韓国との関係強化」としている。韓国が加わったことと、「戦略的軍事再配置」が無くなったことが目につく。骨子版には「日米地位協定の改定=対等」があったが、改訂版ではなくなった。骨子版では「国際標準の国際貢献の推進」とあったのが、改訂版では「国連PKOなどの国際平和活動への参加を強化」が政策例に盛られ、骨子版にあった「国際貢献する際の必要最低限の防衛措置 」がなくなった。もともと思い付き的に並べたものだったのが、また思い付き的に変ったような印象を私は持つ。また、集団的自衛権の行使に踏み込んでいない。

 改訂版では、上記の他にも政策例が掲げられ、中国・ロシアとの戦略的互恵関係の強化、北方領土交渉、ODA、外交安全保障会議等が並ぶ。だが、ほとんど内容の無かった骨子版に、それまで意識もしていなかった外交・安全保障の政策課題を意識するようになって加えたような感じである。日本国民は、平成21年9月の政権交代で、外交・安全保障に方針も経験もない政党が国政を担うと、いかにまずいことになるかを経験した。今の「大阪維新の会」に国政を任せるなら、民主党政権の再現か、それ以下になる可能性が高い。

 ただ一つ、「維新八策」(7)で私が評価できるのは、「外国人への土地売却規制、その他安全保障上の視点からの外国人規制」を挙げたことである。現行法では外国人による土地所有に事実上、何の制約もない。大正14(1925)年制定の外国人土地法は、国防上重要な土地の取得制限を定めているが、戦後、規制対象を指定した政令が廃止され、実効性を失っている。外国人土地法の改正が必要である。一定面積以上の森林取得には届け出義務や罰則強化を盛り込んだ森林法の改正と、地下水を公共の資源ととらえて揚水可能な地域をあらかじめ指定し、水源を守る地下水利用法案の制定も急がれる。また、外資による取引を規制する外為法も、不動産業の合併・買収について事後届を義務づけているだけであり、見直しが必要である。

 なお、「維新八策」改訂版は、(6)の雇用政策で、「グローバル人材の育成」「外国人人材」の活用を挙げているが、日本の移民問題についてどのように対応するか、全く触れていない。この問題は中長期的な問題と思われがちだが、中国人移民労働者の急増によって、既に深刻な社会問題となっている。「安全保障上の視点からの外国人規制」を政策例に掲げるのであれば、中国人への規制を説かねばならないところである。

 

()憲法改正

 「維新八策」は、憲法改正を第8の方策としている。(1)〜(7)までの方策を本当に実行しようとするなら、戦後のわが国のあり方に立ち至り、国家の基本法である憲法から改正しなければならないと思い至るはずである。だが、「維新八策」は、方策の最後に憲法改正を挙げ、ごく簡単に項目を並べるだけである。
 具体的には骨子版では4項目しかなく、改訂版では5項目になっただけである。項目間は次のように変っている。

●骨子版
 便宜上、アルファベットを振る。

A
 憲法改正要件(96条)を3分の2から2分の1に緩和する
B
 首相公選制
C
 参議院の廃止をも視野に入れた抜本的改革
D
 衆議院の優越性の強化

●改訂版
 便宜上、番号を振る。

1 憲法改正発議要件(96条)を3分の2から2分の1に
2 首相公選制(再掲)
3 首相公選制と親和性のある議院制=参院の廃止も視野に入れた抜本的改革・衆院の優位性の強化(再掲)
4 地方の条例制定権の自立(上書き権)(「基本法」の範囲内で条例制定)。憲法94条の改正
5 憲法9条を変えるか否かの国民投票

 「大阪維新の会」が、「維新八策」の骨子を平成24年2月13日に発表した後、独立回復50年となった4月28日を中心に、自民党は憲法改正案を発表し、みんなの党、たちあがれ日本は憲法改正大綱を発表した。これに比し、「大阪維新の会」は、骨子発表以降約5か月を経過していながら、憲法改正については、ほとんど内容が前進していない。骨子版から改訂版への変化は、つぎのようになっている。

 A→1、B→2、CD→3
 4、5は新設

 道州制の導入も憲法改正を要する政策だが、(1)「統治機構の作り直し」には挙げてあるものの、憲法改正の課題には書いていない。その意図はわからないが、最大の問題はそもそも何のために憲法改正をするのかが説かれていないことである。「維新八策」の「目的」は「決定」「責任」「自立」をキーワードとしているから、私が慮るに、統治機構を作り直すために憲法を改正することになるだろうが、(8)には何も書かれていない。ただ、5項目が列記されているだけである。

 憲法改正に関し、特に重要なのは日本の安全保障をどう確保するかである。「維新八策」は、骨子版では肝心の憲法9条に触れていなかった。骨子版の発表後、憲法第9条をどう考えるのか、橋下氏にマスメディアが質問を向けた。橋下氏は2月24日、ツイッターで、憲法9条改正の是非について、意見を明らかにした。そして、9条について「決着をつけない限り、国家安全保障についての政策議論をしても何も決まらない」と指摘。9条改正の是非について2年間と期間を区切って徹底した国民的議論を行い、国民投票で方針を定めることを提案した。それが、改訂版では、「憲法9条を変えるか否かの国民投票」という項目となったわけである。
 橋下氏は、被災地のがれ処理の受け入れが各地で進まない現状について、ツイッターで「すべては憲法9条が原因だと思っている」と述べた。3月5日、発言の真意を報道陣に問われた橋下氏は、「平穏な生活を維持しようと思えば不断の努力が必要で、国民自身が相当な汗をかかないといけない。それを憲法9条はすっかり忘れさせる条文だ」と述べた。「9条がなかった時代には、皆が家族のため他人のために汗をかき、場合によっては命の危険があっても負担することをやっていた」「憲法9条は、自分が嫌なことはしないという価値観だ。自己犠牲しないのなら、僕は別の国に住もうかと思う」と語った。その一方、「平和を崩すことには絶対反対で、9条を変えて戦争ができるようになんて思ってない。9条の価値観が良いか悪いかを、国民の皆さんに判断してほしい」とも述べた。こうした一連の発言を見ると、橋下氏は憲法第9条の弊害を強く意識し、戦後の日本人が社会の中で進んで自分の役目を果たそうという姿勢や、互いに助け合い、支え合う生き方を失ってきているのは、第9条が原因だと考えているようである。
 だが、そこまで強く意識しているのであれば、国民に憲法第9条の改正を訴え、どのような条文としたいのか、どのように「日本の主権と領土を自力で守る防衛力」を持って国防を行うようにしたいのか、具体的に提示すべきだろう。それをせずに、橋下氏及び「大阪維新の会」は、具体的な政策を示すことなく、改訂版で「憲法9条を変えるか否かの国民投票」という項目を挙げた。これは、政治家としてなすべきことをせずに、国民に判断を委ねるという無責任は姿勢である。
 政治家がなすべきことは、国民に話し合いと判断を求める前に、自分はこうしたい、それはこういう理由・目的だからだ、と率直に語ることだろう。橋下氏は、それができていない。自分の国を自ら守るという国防の義務を訴えていないからである。この自主独立国家の根本的なあり方を取り戻さないと、日本は本当にはよくならない。そのようにはっきり言わないと、国民への呼び掛けにはならない。ただ「憲法9条を変えるか否かの国民投票」を提案するというのは、国政を担う政治家の姿勢ではない。
 橋下氏がそういう呼び掛けのできる指導者になるには、まず「自己犠牲しないのなら、僕は別の国に住もうかと思う」という自分の言葉を撤回することが必要である。他人が自己犠牲しないなら、自分が「別の国」に住もうと考えるのは、本当の愛国心ではない。他の誰も自己犠牲しなくとも、我一人でも国を守るという決意こそ、同胞の心を動かす。橋下氏は先の言葉を吐いたことを恥じ、まずそれ撤回したうえで、国防に関する考えを明らかにすべきである。

 

 次に、憲法改正に関し、「維新八策」は改訂版でも、非常事態規定について、何も述べていない。これも大きな欠陥である。私は、6年前に新憲法案を作って、マイサイトに公開している。その私案に非常事態条項を設け、折に触れて非常事態規定の必要性を説いてきた。特に独創的なことではなく、明治憲法には規定があり、世界各国の憲法は非常事態の対処を規定している。独立主権国家であれば、不可欠の規定である。昨年東日本大震災が発生し、原発事故が深刻化するなか、私は、この国家非常事態において、早急に憲法に非常事態条項を定め、対応を強化できるように訴えてきた。

 だが、橋下氏は、日本人が大地震・大津波・原発事故という手痛い経験をした後であるのに、憲法改正案に非常事態条項の新設を挙げていない。この点を見て、私は、橋下氏は、日本国民1億2千万を率いる真の指導者に成り得る人材なのか、大きな疑念を持っている。今回の改訂版を読んで、一層疑念が深まった。

橋下氏は、教育・財政・年金・社会保障・公務員制度等については、改革のできる能力を持っているかもしれない。しかし、一国の総理大臣たるべき人物は、他国からの侵攻、内乱、大規模自然災害等の国家国民の最大危機において、敢然と国民を指導し、国家機関を指揮できなければならない。

 橋下氏は、依然として安全保障と非常事態に関して、国家最高指導者に必要な気構えを持っていないように私には見える。近年の中国の軍拡や北朝鮮の核開発といった東アジアの厳しい国際環境、そして今後も巨大地震が首都や東海・東南海・南海が発生する可能性――こういう環境と時代を生きている日本人としては、橋下氏はまだ状況認識が浅く、感覚が鈍いと思う。意識と覚悟が変われば、国防の義務と非常事態規定は憲法改正における極めて重要なポイントであることを理解できるようになるだろう。ページの頭へ

 

 

結びに〜未だ国政を担うには不十分

私は、拙稿「橋下徹は国政を担い得る政治家か」で、題名通りの問いを立てた。

このたびの「維新八策」改訂版を読んで、現時点での判断を述べるならば、橋下徹氏は、未だ国政を担い得る政治家ではない。また「大阪維新の会」は国政を担う政党としては準備不十分である。

いま橋下氏がなすべきことは、視聴率稼ぎのマスメディアに乗せられることなく、一部国民の肥大する期待に浮つくことなく、まず大阪で府・市一体の改革に打ち込み、じっくり実績を上げることである。大阪を変えるのは、なま易しい課題ではないはずである。誰もが認めるだけの結果を出してから、国政に歩を進めるべきだろう。大阪改革をやる間に、歴史観、国家像、憲法、外交・安全保障、経済等につき、深く勉強し、国政の構想を練ることができるだろう。何より国政を目指すなら、これまでの自分の言動を反省し、時間をかけて徳を磨くことである。この点に、橋下氏が政治家として飛躍できるかどうかが大きくかかっていると思う。

大阪維新の会の今後は、橋下氏次第である。私は、「維新八策」改訂版の検討を通じて、橋下氏は現在の状態に止まり、また「維新八策」が大きな欠陥を是正できなければ、国政を担い得る政党には飛躍できないと思う。仮に現状打破を期待する大衆の支持によって、国政選挙で議席を獲得し、日本の政治のキャスティングボードを握ることになっても、わが国をふさわしい方向に進めることはできないと思う。

現在のところ、「大阪維新の会」は、関西を除くと組織化が進んでおらず、全国の各選挙区で支持団体の組織票がなく、無党派層の票が主になるだろう。それでも仮に国政初参入で一気に相当数の議席を取れば、台風の目になるだろう。関西では大多数の選挙区で議席を取ると予想されており、そうなれば一個の地域的なパワーとなる。全国的にはそれほど議席が伸びなくとも、関西という地域を席巻することで、議席数以上の影響力を国政において及ぼし得るだろう。また、今後、衆議院で第1党が過半数を取れず、3党以上の連立政権を組むことになった場合、橋下氏が国政に乗り換えていれば、橋下氏を総理大臣に擁立する動きがあるかもしれない。そうでなくとも、連立を組むために、多数党が「大阪維新の会」の主要政策を取り入れる可能性もある。それゆえに、橋下氏と「大阪維新の会」の動向は、ますます注目されるところであり、彼らが現在の欠陥を是正し、国政を担い得る水準に向上し得るかどうか、わが国の政治に一定の影響をもたらす要因となるだろう。また、有権者は、ムードに流されずに、彼らの理念・政策をよく検討し、国政を委ねられるかどうか見極めることが必要である。ページの頭へ

 

関連掲示

・拙稿「橋下徹は国政を担い得る政治家か

・拙稿「日本再建をめざして〜実行すべき課題

・拙稿「日本再建のための新憲法――ほそかわ私案

・拙稿「憲法第9条は改正すべし

・拙稿「アメリカに収奪される日本〜プラザ合意から郵政民営化への展開

・拙稿「経世済民のエコノミスト〜菊池英博氏

・拙稿「『救国の秘策』がある!〜丹羽春喜氏1

 

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