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アベノミクスに情報戦略の強靭化を〜宍戸駿太郎氏2

2013.10.7

 

<目次>

はじめに

1.第2次安倍内閣でアベノミクスが始動

2.既成の消費増税法という足かせ

3.安倍首相は消費増税を決断

4.宍戸氏は「まやかしの羅針盤」の取り換えを提言

結びに

 

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はじめに

 

平成24年(2012)12月、安倍内閣によってアベノミクスが始動した。デフレからの脱却と経済成長の実現が期待される。だが、安倍首相は25年10月1日、来年26年4月からの消費増税を表明した。

本稿は、この間の経緯を概観するとともに、アベノミクスを失敗させないために、情報戦略の強靭化を提案する宍戸駿太郎氏の提言を紹介するものである。

 宍戸氏は、計量経済学の世界的な権威であり、平成18年(2006)には国際レオンチェフ賞を受賞している。宍戸氏のプロフィールと基本的な見解は、拙稿日本経済復活のシナリオ〜宍戸駿太郎氏1」に書いたので、ご参照いただきたい。

 

 

1.第2次安倍内閣でアベノミクスが始動

 

平成23年(2011)3月11日東日本大震災が起こった。わが国は、平成10年(1998)から続くデフレ下で大震災による甚大な被害をこうむり、被災地の復興という重い課題に取り組まねばならなくなった。

平成24年(2012)2月、民主党の野田政権は、この状況で消費増税を進めようとしていた。しかし、当時、宍戸駿太郎氏らが開発したケインズ=レオンチェフ型の経済モデルDEMIOSで試算すると、消費税率を5%から10%に引き上げた場合、GDPが毎年10兆円ずつ減少するという結果だった。消費税率を毎年1%ずつ上げていく場合と初年度に7%に引き上げる場合の双方とも、名目GDPは縮小し、7年後以降は400兆円以下に落ち込む。税収は増えるどころか激減し、財政は破綻するという予測だった。

逆に宍戸氏がシミュレイトしたところ、大震災後、菊池英博氏が提唱した「3年間で100兆円の救国緊急補正予算」を投資項目に重点的に投資した場合、消費税率を引き上げることなく、わが国は経済成長できるという結果が出た。すなわち、3年後の名目GDP550兆円、税収55兆円を実現でき、40兆円のデフレギャップもかなり解消できる。また、2〜3年後に純債務の名目GDP比率が低下し始め、財政規律の確立に確実に役立つという結果が得られたのである。

だが、宍戸氏、菊池氏らの復興と経済成長のための積極的な経済政策は、当時の民主党政権では採用されることなく、日本経済は低迷を続けた。民主党政権は、震災への対応、中国・韓国への対応等で醜態をさらし、多くの国民は政権交代を熱望した。

平成24年(2012)12月その政権交代が起こった。衆議院総選挙で自民党が大勝し、安倍晋三氏が首班となった。平成18年(2006)以来の2度目の安倍内閣である。市場は敏感に反応した。安倍氏の経済政策への期待から、株価は8000円台から1万1千円台へ、上昇した。円高は80円台から90円台後半へと是正された。

安倍内閣の経済政策構想は、「アベノミクス」と呼ばれる。アベノミクスは「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」を3本の矢とする。わが国が取るべき経済政策を、3本の矢という非常にわかりやすく、また印象的な表現で提示したものである。

私はバブルの崩壊後、その原因を探る中で、日本は戦後、安全保障だけでなく、経済においても対米従属関係にあることを痛く認識した。わが国は戦後、自らの手で憲法の改正をすることができず、国家の根本的な再建をなし得ぬまま、虚栄の繁栄をしてきた。戦後50年となる平成7年(1995)から国家、社会、家庭等、様々な面で日本弱体化政策の影響が濃厚に表れてきた。それが経済面にも顕著になってきたのは、その2〜3年後からだった。平成9年(1997)橋本政権が消費増税を行い、翌年金融ビッグバンを行うと、その結果が当時予想されていた以上に、深刻なものとなり、自民党政権の経済政策が大蔵官僚に操縦されていることを私は懸念した。

日本の経済政策の問題点をさらに強く感じるようになったのは、平成13年(2001)頃からである。小泉=竹中政権の新自由主義的な構造改革への疑問による。バブル崩壊の時は日米の従属関係に主原因があったが、消費増税・金融ビッグバン等と続き、市場原理主義の横行に至って、いよいよわが国の政府や官僚・学者の考え方がおかしくなっていると感じた。以来、新自由主義的な経済学を批判的に検討する中で、日本経済の立て直しには財政政策と金融政策の一本化、政府と日銀の一体化、21世紀的な成長分野への戦略的投資が必要と私は考えるようになった。これらが有機的に実行されたときに、日本経済の再生が可能になるに違いない。だが、小泉=竹中政権以後も自民党政権は基本的に構造改革路線を継承し、そこから転換ができなかった。また財務省の主導する財政均衡主義にとらわれてきた。そのうえ、リーマン・ショック後、わが国はデフレ脱却を最優先すべきなのに、日銀は円の供給量を増やそうとせず、民主党政権は所得の再配分に重点を置いたバラマキ政策をやって、日本経済を悪化させた。特に東日本大震災後の政府の機能不全は、深刻を極めた。

わが国は、平成10年(1998)以降、戦後世界で先進国中唯一デフレに陥り、約15年これから抜け出せずに来た。この間に失った潜在的な富は計り知れない。「需要不足に起因する生産能力の余裕」をデフレ・ギャップという。単なる需要と供給の差ではなく、「潜在実質GDPと実質GDPの差」つまりGDPギャップが、デフレ・ギャップである。平成10年から24年までの間、毎年の潜在実質GDPと実際のGDPの差は、仮にごく低めに平均100兆円としても、15年間で1500兆円に上る。それだけの富の生産ができなかったということは、それだけの富を失ってきたことと同じことを意味する。当然雇用に影響し、若者は就職できず、将来に希望が持てず、結婚や出産に消極的になる。企業の経営不振や倒産によって働き盛りの年代の男性が多数自殺してきた。

こうした長い、長い混迷の後、日本の再建のため、ようやくまともな経済政策を打ち出したのが、現在の安倍政権である。遅きに失した感はあるが、わが国は巨大な潜在的成長力を秘めている。政治の強いリーダーシップで大胆な政策を断行すれば、必ず日本は復興できる。安倍氏は、これまであまり経済理論・経済政策に通じているとは見えなかったが、首相退任後の約5年間、じっくり掘り下げて経済への理解を深め、具体策を練り上げてきたのだろう。アベノミクスは、デフレ・超円高の危機を突破して経済成長を目指す政策体系として高く評価できるものである。
 安倍政権は、平成24年度補正予算と新年度予算で、1本目の矢「機動的な財政出動」に積極的な姿勢を提示した。次に日銀がインフレ目標2%の導入を決めたことで、2本目の矢「大胆な金融政策」が放たれた。金融市場はこれに好反応し、円安株高が続いた。
 デフレと円高には、金融政策が有効である。デフレ下の金融政策では、金融緩和が最も基本的な手段である。安倍氏は、こうした経済理論をよく理解し、日本経済が長期間、デフレから脱却できないのは、日銀の緊縮的な金融政策が原因であり、日銀改革を進めることが経済再生の近道と考えたのである。安倍氏は、昨年12月の衆議員総選挙で「中央銀行の金融政策」を争点に掲げた。日銀法改正も視野に入れた発言を行った。選挙後、安倍氏は、すぐさま日銀法の改正もちらつかせながら、日銀にインフレ目標を導入し、大胆な金融緩和をさせるための働きかけをした。約2ヶ月間、政府と日銀の攻防が続いた。これまで大胆な金融緩和をしようとせず、また政策結果に責任を取る姿勢のなかった日銀の白川方明総裁が変わった。日銀は概ね政府の要望を容れ、政府と日銀は合意に達した。
 政府・日銀は1月22日に共同声明を発表した。これは、画期的な声明だった。インフレ目標2%を掲げ、大胆な金融緩和が行われることが打ち出された。白川総裁は任期前の辞任を表明し、総裁・黒田東彦氏、副総裁・岩田規久男氏と中曽宏氏による日銀の新体制が、3月20日にスタートした。黒田総裁は「異次元の金融緩和」を行うとし、マネタリーベースを26年末までに2倍に増やすという方針を打ち出した。岩田規久男氏は、平成13年(2001)の時点でいち早くわが国がデフレに陥っていることを認識し、デフレ脱却の経済学を著し、誰より厳しく日銀を批判し、日銀法の改正を訴えてきた最もタフなデフレ・ファイターである。

日銀新体制は、政府と日銀が一体となって、デフレ脱却を成し遂げ、日本経済を力強く成長軌道に乗せることを期待できるものだった。消費や投資には、心の動きが顕著に反映する。内外の投資家の多くが、アベノミクスによって今後、景気が良くなると予想した。大胆な金融緩和は、顕著に効果を示し、6月には、円が100円前後、株は1万4千〜5千円になった。(ページの頭へ)

 

2.既成の消費増税法という足かせ

 

だが、こうした中で消費増税を実施しようとする動きが強くなった。24年8月、民主党政権下で社会保障と税の一体改革としての消費税増税法が、自民、公明両党も賛成して成立した。背後には、財務省が旧大蔵省時代からの自らの失敗を隠して無責任を貫くとともに、自らが自由になる税源を確保しようとする画策があった。同法は26年4月に8%に、27年10月に10%に上げるという内容になっている。ただし、条件付きの規定があり、経済状況を見て判断することになっている。
 15年間も続くわが国のデフレは、円安株高になったところで、急激に解消されるものではない。大胆な金融緩和の効果が、実体経済を活性化し、国民の所得が増えて消費が増え、また民間の投資が活発になるまでは、数年かかると見たほうがよいだろう。しっかりデフレを脱却しきって、適度なインフレのもとに力強く経済成長する軌道に乗るまで、消費増税をしてはならない。むしろ、経済成長が順調に進めば、自然に税収が増え、消費増税をする必要はなくなる。安倍首相には、日本経済のかじ取りを誤らぬよう、自信をもって、采配をふるってほしいと私は考えた。

平成28年(2016)の参院選まで、おそらくよほどのことがなければ国政選挙はない。この間、安倍政権はデフレ脱却、経済成長を中心に、わが国の活力の回復・強化を勧めていかねばならない。アベノミクスの成功が、国民の支持の維持・増大を左右する。ただし、経済は国際社会の動向と直結している。今後数年の間にアメリカのデフォルト危機、中国のバブル崩壊、ユーロ圏の債務危機のいずれかが破局的事態となれば、わが国も大きな影響を受ける。米・中・欧がそれぞれ経済危機にうまく対処して、世界経済が協調的に維持されることが、アベノミクス成功の必要条件である。また逆に、アベノミクスの成功が世界経済の危機回避のプラス要因となる。日本の役割は重要である。

 安倍政権で25年のGDPは1〜3月期、4〜6月期とも年率でそれぞれ4・1%と3・8%という高い伸びを示しはした。今はその勢いが持続・拡大するように、金融緩和の継続と成長政策の推進をすべき時であって、焦って消費増税をすべきではないと私は考えた。
 現在の日本は、15日も寝込んでいた病人が起き上がって、ようやく歩き出したというところである。ちょっと動けるようになったからといって、病み上がりで無理をさせたら、また寝込んでしまうだろう。増税は、マクロ的にはデフレ圧力になる。消費が縮小すれば、景気が後退し、税収も減る。増税と同時に経済成長政策を打つとしても、成長政策の効果が減少する。お湯を沸かしながら、水を足しているようなことになる。

しかし、確かな経済理論に基づいてデフレ下の消費増税に反対し、デフレ脱却を最優先とした経済成長政策を実施すべしと一貫して説く経済学者は少ない。そのうちの一人が、宍戸駿太郎氏である。

宍戸氏は、25年8月に政府が開催した消費税集中点検会合に、専門家として呼ばれ、増税反対を唱えた。その後、ザ・ファクトによるビデオ・インタビューに応えた。その録画が平成25年9月20日ネット上に公開された。

 

●宍戸駿太郎氏インタビュー「消費増税ではなく経済成長を!」(ザ・ファクト)

http://www.youtube.com/watch?v=aby8vaXWAZY

 

当時来年(26年)4月消費税8%へ増税という風潮がメディアによって作られつつある中で、宍戸氏は、敢然と消費増税に反対を表明し続けた。

このインタビューで、宍戸氏は、大意次のように語っている。

――― 消費増税をすれば5年目に名目GDPは−5%〜ー6%にまで落ち込み、アベノミクスはダメになる。

増税を延期して、取るべき具体策は、@国土強靭化のための公共投資、A法人税の減税(加速償却方式で)、B新エネルギーの開発等の政策金融で有効需要を拡大、C有給休暇の完全消化で消費拡大。

増税なしでこれらを実行すれば、2020年にはGDPは800兆円になる。政府の借金を返済でき、余った分でより強力な社会保障制度を実現できる。政治家・国民は、IMF・財務省の宣伝にだまされるなーーーーと。

安倍内閣では、イェール大学名誉教授の浜田宏一氏が内閣官房参与となり、安倍首相の金融政策の指南役となっている。浜田氏は、消費増税に反対であり、増税の機運が強くなると、基本的には反対だが、増税を1年見送る案や、一度に3%上げるのではなく、毎年1%ずつ上げる案等を提案したと伝えられる。

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3.安倍首相は消費増税を決断

 

 結局、安倍首相は消費増税を決断した。25年10月1日安倍首相は、記者会見で来年(26年)4月から消費税率を8%に引き上げることを表明した。
 首相は、増税の理由について「経済再生と財政健全化は両立し得る。これが熟慮した上での私の結論だ。同時に達成するほかに私たちに道はない」と説明した。「増税しながら他方で経済対策をするのには、批判もあるかもしれない」「最後の最後まで考え抜いた」と述べ、最後まで悩んだうえの苦渋の決断だったことがうかがわれる。
 首相は、決断の理由として各種の経済指標が改善したことを挙げた。また、「社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するため、財源確保は待ったなしだ」と述べ、「経済再生への自信を取り戻す。国の信認を維持し、社会保障制度を次世代にしっかりと引き渡す。これらを同時に進めるのが私の内閣に与えられた責任だ」と述べた。
 消費増税による税収は「社会保障に全額使う」と明言した。首相は、消費増税の反動による需要減を抑えるとともに、デフレ脱却と経済再生、財政再建を図るための方策を提示した。インフラ整備や雇用拡大策を含む5兆円規模の新たな経済対策を25年12月上旬に策定し、25年度補正予算と26年度予算で実行する。成長軌道を確保するため、企業向けに設備投資減税や賃上げを促す所得拡大促進税制など、1兆円規模の税制措置を実施する。
 復興特別法人税について、首相は「1年前倒しでの廃止を検討する」と表明した。「廃止が賃金上昇につながっていくことを踏まえ、12月中に結論を得たい」と述べた。法人税の実効税率引き下げには、「国際競争に打ち勝つため、真剣に検討を進めなければならない」と訴えた。
 私としては、残念な結論である。消費税を8%に上げる一方、5兆円規模の経済対策を打つというが、その程度で成長力を発揮できるのか、疑問である。設備投資減税と賃上げを促す所得拡大促進税制を実施する、復興特別法人税1年前倒しの廃止と法人税の実効税率引き下げを検討するというが、これらの政策を総合的に実施した場合の確かなシミュレーションがなされていない。三党合意で決めた消費増税が先にあり、それは実施せざるを得ない状況なので、増税によるマイナスをできるだけ打ち消すために、種々の政策を組み合わせている感じがする。安倍首相の増税決断の背後には、財務官僚の働きかけ、巨大国際金融資本の圧力等があったことと思うが、改めて私が強く感じたのは、内閣府による虚偽のシミュレーションの悪影響である。これをまともなシミュレーション・モデルに換えることが急務である。増税しながらデフレを脱却し、経済成長と財政再建を目指すという複雑な政策パッケージをこれから作り、それを実行するには、確かな予測のできるシステムが必要である。

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4.宍戸氏は「まやかしの羅針盤」の取り換えを提言


 内閣府のシミュレーション・モデルの問題点は、宍戸氏が早くから指摘してきている点である。宍戸氏はかつて経済企画庁の官僚として、政府のシミュレーション・モデルを作成した。25年(2013)7月刊の著書『奇跡を起こせアベノミクス』(あ・うん)によると、当時は経済学者・計量経済学者がチームに入っていた。ところが、その後、専門の学者抜きで官僚だけでシミュレーションを行っている。小泉政権時代に、それまでのモデルから、IMFによる発展途上国型のモデルに変更した。宍戸氏は、これが誰によって、なぜ行われたか不明だという。経済規模の小さな発展途上国の財政再建のためのモデルを、世界有数の経済規模を持つ日本に当てはめるのだから、おかしな結果が出る。
 これに対し、宍戸氏が開発に携わったDEMIOSは、わが国最高水準のものであり、日米間で共通のモデルとして使用されている。

DEMIOSは、発展途上国型の内閣府のモデルと違い、先進市場経済の変動を正確に予測できるモデルである。固定相場制時代のケインズのモデルを変動相場制に合わせたニューケインジアン・モデルであり、レオンチェフの産業連関分析を取り入れている。ケインズ=レオンチェフ・モデルとして、ケインズのK、レオンチェフのL、モデルのMをとって、KLM型とも呼ばれる。

DEMIOSは、鉄鋼、鉄道、航空機、化学、運輸等の部門が80部門に仕分けされている。産業別に生産と雇用、設備投資等が連動して動き、それが消費や設備投資にフィードバックするというシミュレーションを行う。方程式の数は約3500本もある。これに震災復興のための財政出動等も加え、アベノミクスの「異次元の金融緩和」の要素も加えてリニューアルした最新版になっているという。

このDEMIOSや日経NEEDS、電力経済研究所、東洋経済エコノメイト等の民間シンクタンクの予測と、内閣府の予測は、極端に違う。たとえば、5兆円の公共投資を継続的に行った場合の効果は、DEMIOSでは実質12兆円規模と予測されるのに対し、内閣府予測は実質2兆円弱の効果しかないとされている。これでは積極的な金融財政政策は出てこない。内閣府の虚偽のシミュレーションは、財務官僚の増税政策を裏付けるものとなっている。官僚間で連携プレーが行われている。民間シンクタンクと内閣府のシミュレーションの相違を示すグラフが、一般の新聞やテレビにはほとんど出ない。だから、多くの国民は騙され続けている。
 宍戸氏は、アベノミクスの第4の矢として、これまでの「まやかしの羅針盤」を正確な情報を政府に提供できるシミュレーション・モデルに付け替えることを提案する。情報戦略の強靭化である。DEMIOSを推奨するともに、民間シンクタンクのモデルを複数併用することを提案している。そして、この「新たな羅針盤」のもとに、共通の金融支援型財政政策を前提とし、民間投資への減税策と成長分野への政策金融を仮定した場合の7年計画の成長シナリオを提示している。

1.標準・成長型
2.余暇・成長型
3.消費増税・成長型

の3種である。
 消費増税・成長型シナリオでは、頭打ちになる。標準・成長型では、2020年までにGDP約800兆円を達成する。しかし余暇・成長型では、800兆円を大幅に超える。この余暇・成長型とは、オランダにならって、タイムシェアリング、ワークシェリングを導入するもので、有給休暇の完全消化が大きな消費刺激となるという。オランダ型の雇用改革は、私も少子高齢化・人口減少への方策として注目してきたものである。
 宍戸氏らのシナリオは実質政府投資20兆円を5年間継続し、累積100兆円を投資するというものだが、驚くべきことに2年目からプライマリーバランスが黒字になる。3、4年で安定成長の軌道に入り、2020年には名目GDP800兆円を達成することができる。
 だが、内閣府の発展途上国型のシミュレーション・モデルを使用し続ける限り、こうした日本の潜在的な成長力は決して発揮できない。
 宍戸氏は、先の著書で、アベノミクス強靭化のために、羅針盤の付け替え、オランダ型革命を含む8つの提案をしている。

1.完全雇用を2020年までに実現する誘導目標を明示し、これを実現するための財政、金融、産業、雇用の数値目標を掲げる
2.インフレ目標の達成プロセスを明確化
3.名目成長率と実質成長率――達成目標を数値目標で明示。
4.「オランダ革命」の労働時間改革で雇用の拡大、消費の拡大を
5.有給休暇完全消化法で消費拡大を
6.「まやかしの羅針盤」を「新たな羅針盤」に換えて、新たな航路に船出を
7.消費増税は、見送り、または延期し、「財政出動」による財政収入の強化を
8.エネルギー問題は柔軟に考慮し、危険な原発は再稼働しない

 上記のうち、7の消費増税は残念ながら実施されることになった。その誤りを明らかにするためにも、また積極的な金融財政政策を実施するためにも、まず6の内閣府のシミュレーション・モデルをまともなものに換えることを急ぎ実行しなければならない。ページの頭へ

 

結びに

 

本稿では宍戸氏の政策提言を紹介したが、宍戸氏の提言は様々な経済学者、エコノミストによる政策提言の一つであり、ほかにも優れたものはある。菊池英博、丹羽春喜、藤井聡、高橋洋一、本田悦朗、田村秀男、三橋貴明等の各氏のものである。私がここ約9か月のアベノミクスと消費増税に関する展開を見て残念に感じるのは、デフレ脱却を最優先する積極的な経済政策を説く優れた人々はいるのだが、その間で理論的政策的な合意がうまく進んでいないことである。わが国がデフレに陥って長年抜け出せなかった原因の把握にも違いがあり、ある人は財務省を批判するが、内閣府や日銀の批判はしない。ある人は日銀を批判するが、財務省や内閣府の批判はしない。ある人は国内の官僚や機関を批判するが、IMF等の国際的な勢力の批判はしない。経済政策においても、金融緩和と財政出動の一体的実行を説く考え方に対し、金融政策を重視し財政出動には慎重または否定的な考え方や財政出動を重視し金融政策の効果をあまり評価しない考え方がある。

学者・専門家によって理論や政策案が違うのは当然であり、だからこそ公の場における積極的な議論が求められるのだが、私の見るところ、その議論において実験による客観的な検証を可能にするシミュレーション・モデルが共有されていないことが、個々に優れた理論・政策は出されていても、総合化がうまく進んでいない原因ではないかと思う。その点で、宍戸氏の政策提言のうち、内閣府のモデルによる「まやかしの羅針盤」をやめ、DEMIOS等の「新しい羅針盤」に換えるという提案は、非常に重要なものだと思う。「新しい羅針盤」への取り換えを行ってこそ、財務省・内閣府の官僚の画策や日銀内部の守旧派の抵抗、巨大国際金融資本による圧力を跳ね返して、わが国の経済を再生させることが可能になると考える。ページの頭へ

 

参考資料

・宍戸駿太郎著『奇跡を起こせアベノミクス』(あ・うん)

・宍戸駿太郎氏インタビュー「消費増税ではなく経済成長を!」(ザ・ファクト)

http://www.youtube.com/watch?v=aby8vaXWAZY


関連掲示

・拙稿「日本経済復活のシナリオ〜宍戸駿太郎氏1

・拙稿「経世済民のエコノミスト〜菊池英博氏

補説「東日本大震災からの復興構想

・拙稿「デフレ脱却の経済学〜岩田規久男氏

・拙稿「アベノミクスの金融政策を指南〜浜田宏一氏

・拙稿「少子化・高齢化・人口減少の日本を建て直そう
 第12章 「学ぶべきオランダの事例」

 

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